「…すまない。四遊。危険な目に合わせてしまった。」
目が覚めた霊使に対して真木は最初に謝罪した。
危険な目…というか一度死んでいるとは口が割けても言えなかったが。
「…大丈夫ですよ。少なくとも俺達は。」
「強いな、お前は。」
「…こんなんでへこたれてたら、後ろにいる奴らを止められないですから。…後、盗難事件は終結しました。」
「…だな。あの二人、マスターの命を握られていたと言っていたな。」
「ああ。」
「…そのマスターなんだがな、無事に快復したそうだ。今はあの二人を説教中だと。」
「だろうなぁ…。」
全くと真木は頭を抱える。
二人は治療費を稼ぐために怪盗として暗躍していたのだ。マスターが快復した今となっては協力──とまでは行かないが、犯行を行うつもりはないだろう。
「…さて、と。これからお前はどうするんだ?」
「…ぶちのめしますよ。アイツを。」
「お前らしいが…。死ぬかも知れないんだぞ?」
「…俺は死なないですよ。…ウィンのためにも。皆の為にも。」
「…そうか。…ん?待て。アイツとは…?」
「…多分。キスキル達の雇い主に近しい者じゃないかと…。」
真木はキスキル達二人を捕らえた時点で解決したと思っていた。
否。
思い込もうとしていたのだ。
一体誰が二人の事を利用していた。
一体誰が二人のマスターが病気だと知れた。
「…何か裏があるな」
「でしょうね。恐らくはその情報を知るだけの情報網がある。」
「…分かった。警戒するように伝えておこう。出来ればその情報網を探っておいてくれ。こっちでも探ってみるが、現場の方がそういう相手と会いやすいだろうからな。後は…新入部員の紹介か。」
「どういうことですか?」
「…あの二人のマスターが家の学校の奴でな。本来なら今、二年なんだが入院で仕方なしに留年していた。原因も取り除かれた以上、その恩返しも兼ねて協力したいんだそうだ。」
真木は少し困ったように笑うと、ドアを開ける。
その瞬間、聞こえてきたのは少しばかり気の強そうな、だが確かに優しさが含まれた声。
「四遊霊使君…。ほんっとに申し訳ありませんでしたぁぁぁ!」
そして―――
綺麗にスライディング土下座を披露する一人の少女だった。
いきなりの土下座に反応する間もなく、畳みかけられる謝罪の声。
「…申し訳…ありませんでした…」
「…申し訳…ありませんでした…」
「いや、ちょッ…ええ?」
見知った二人は病室に入室すると流れるように土下座をかます。
その美しさは先のスライディング土下座に勝るとも劣らない完成度だった。
余りの状況に最早、困惑の声しか上げることができない霊使とウィン。
「…いや、取り敢えず顔を上げてくれ三人とも!このままじゃ俺の社会的生命が今!ここで!完全に!終わるから!終了処置にされちゃうから!」
「それは、失礼…。っと。」
ゆっくりと少女は顔を上げる。
その顔はどこまでも整っていて、一瞬「男」と言われても気づかれないような顔をしていた。そんな顔をして、出ている所はしっかりと強調しているものだから、目のやり場に困るというものだ。
「改めて、私は
「…ごめんなさい。」
「…ごめん」
「…いや、こっちもある程度の事情は聴いてたから怒ってないけど。」
スライディング土下座をかました少女―――結はただひたすらに謝ってきた。
怪我を負わせてしまったことや、本当にたくさんの人に迷惑をかけてしまったことを謝ってきた。
真木曰く目が覚めてからというものの今回の騒動で迷惑をかけた全ての人に謝罪をしにいったらしい。そして霊使で最後だということも。
さらに霊使がキスキル達を庇って死にかける(本当は死んだ)大けがを負ったものだからそれはもう烈火の如く怒り狂ったそうだ。
本人たちも罪の意識はあったし、キスキル達を庇った…というよりかは完全に自分を殺しに来ていたので謝られても困るというのが霊使が思っていたことだが。それを正直に伝えるとキスキルはボソッと呟いた。
「…あれ、これって謝りぞ―――」
「キスキル?ちょっと説教が足りなかったかなぁ?」
「あ、いや、そういうわけじゃ―――」
どうやらキスキルとリィラは結に頭が上がらないらしい。
「そ、そんなわけないだろ?」
「ふーん。…まぁ、患者の前で騒がないほうが良いのは確かだね。…じゃあ、私はもう行くよ。…そうそう。キスキルを介して情報屋を雇っといたから。この一月で何が起きたかは彼女から聞いてね。それじゃっ!」
そういうと、彼女はキスキルを引っ張っていった。
どうやら、「頭が上がらない」のではなく完全な上下関係が出来上がってしまっているらしい。
「…私も帰るわ。…あと…」
唯一取り残されたリィラはこっそりウィンに近づいて一言、二言耳元で呟くと帰っていった。
「一体何言われたんだ…?」
霊使はウィンに何を言われたか聞くが、帰ってくるのは赤い顔ばかり。
「いや、本当に何言われたんだ…?」
霊使はそのことがとても気になって、しばらくは呆けていたという。
その状態は見舞いに来た特捜部の面々に呼ばれるまで続いていたと後に克喜は語った。
『ぼさっとしてると彼の事…私達がいただいちゃうわよ?』
『!?』
リィラからの最後の一言。
それはウィンに対する戦線布告だった。
ぼさっとしていると本当に霊使の恋心を盗まれるかもしれない。
だが、盗まれないかもしれない。
だからといって、霊使が他の人物に取られてもいいとは言えない。
霊使と付き合うようになってから、少し独占欲が強くなっただろうか。
だが別にそんなことはどうだっていい。
霊使は、霊使いの相棒で、そして、ウィンの恋人。
そこに間違いはない。
なら、多少大胆に動いてもいいのだろうか。
例えば、もっとキスをせがんだり。
例えば、一晩かけてベッドの上で語り合ったり。
ただ、ウィンは霊使の最高の相棒として、一つだけ決めていることがある。
「誰にも渡さない」
それは、恋人として至って普通の思いであった。
今ここに、霊使が全く知らないウィンとリィラの戦いが始まったのである―――。
一方リィラはというと―――
「ああもう、早くあの二人くっつきなさいよ!」
二人が付き合っているということを知らずに、ウィンを只々煽っただけという。
だからリィラは知らない。
ウィンがリィラに対抗意識を燃やし始めているということに。
その勘違いが解けるのはもう少し先の話である。
キスキル達のマスター登場回。
後一話で新章突入します。
水樹君のデッキ強化
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リチュア