「…うわっとぉ!」
霊使はただひたすらに攻撃を避け続けていた。
ウィン達の魔力のお陰か身体能力が大幅に上昇しているためか簡単に避けられる。
ただ、それでも体力切れという辛い現実が襲い掛かるのだ。
既に息は絶え絶えであり、思考もままならない。
滴る汗は地面を濡らし、両手両足の先の感覚が少しずつ消失していく。
視界は色を失い、耳は自分の息の音すらまともに聞き取れない。
「…やけに粘りますね。…そんなに、私達の踏み台になるのが嫌なのですか…」
「俺は…誰かを踏み台にするつもりはねぇよ。…もちろん、誰かの踏み台になる気もねぇ…。それくらい分かってるだろ…?」
「…どこまで強情なのやら…!」
再び繰り出される蹴撃を受け止めると大きく後ろへと飛び、息を整える。
飛び道具は互いに所持せず、近接攻撃のみで戦闘が行われていた。
「全く…普通怪盗なら何かしらの飛び道具を持ってるんじゃないのか!?」
「それは…いわゆる先入観というやつではないのでしょうか?それより…もッ!」
霊使にはない体のしなやかさを用いられ、霊使の攻撃を避けられると同時に足払いを喰らってしまった。
バランスを崩し、その場に倒れこんでしまう霊使。
今まで戦っていた相手は冷めた目で霊使を見下ろすと足を大きく振り上げた。
このまま全力のスタンピングを受ければただで済まないだろう。
「…ルーナ、ストップ。」
「…サニー…」
だが、覚悟していた衝撃は来ることはなかった。
「…少しやりすぎよ。それにこっちの事情を話さないってのもなんかおかしい気がしてきたわ。」
「…それは。」
サニーと呼ばれた少女は自分の相方であるルーナと呼ばれる女性を押しとどめる。
「…どういう風の吹き回しだ?」
「貴方はさ、キスキル達を倒したのよね?」
「…?うん。
「…やっぱり。あんたがあいつ等を倒すなんてそっち方面じゃないと無理でしょ。お世辞にも肉弾戦が得意ってわけじゃないし、そもそもの話人間だし。」
サニーはルーナの行動に思う所があったのかルーナを制止させる。
「…そう、ですね。」
「…そういうわけで、アンタもう帰っていいわよ。…マスターも居ないから決闘しようにもできないし。」
「…いや、俺を攫った意味ないじゃん。」
「なら、おとなしく負けを認めてくれるわけ?」
「それもなんか嫌だな…。」
「でしょ?だからもう帰っていいわよ。」
「うーん、理不尽ッ!」
おまけにここが何処だか分らないため、帰ろうにも帰れない。
「…まぁ、その内
「アンタを攫った理由について、でいいのかしら?」
「まぁね。…まぁ大方アレだろ?コメントで"キスキル達"のパクリやらなんやら言われたんやろ?…で、キスキル達よりも上になれば言われなくなるんじゃないかと。」
「…なんで、そこまで知ってるのよ…」
「まぁ色々と見てきたからな。」
だから、ウィンが来るまで待つことにする。
その間に霊使を襲った理由をを確認しておくことにする。
まず、この二人はキスキル達の次に人気がある動画配信者だ。
活動期間はほぼ同じで内容もゲーム実況だったり、デュエルモンスターズ以外のトレーティングカードゲームの実況をしたりと割と豊富である。
ただ、先にキスキル達のほうが有名になってしまったためか荒らしコメも多い。
それが彼女たちの動画配信チャンネルである。
言葉遣いは少し乱暴な面も出てくることがあるが、そこまで過激な発言は無く特にゲームのプレイスタイルも堅実に一つ一つ進めていくスタイルである。
まぁその分予測できない展開に関しては実況が止まることも多い。
それこそ、とあるゲームの序盤でヒロインが刺殺された(のちに生還)ときなんかは驚きの余りに声どころかムービーが終了しても一分くらいは呆けていた動画は、「まぁ、そうなるな」という反応が多かった。
と、このように実況に関しては特に何もない。
また、カードゲームにおいても、既に生活の一部となったデュエルモンスターズ以外の実況をやることが多く彼女達の実況で人気に火が付いたカードゲームも多い。
総じてキスキル達と似たようなスタイルながらどこか違う。
だが、そんなスタイルだからこそ、「キスキル達の真似事」だと叩かれてしまったのだろう。
所で、何故こんなことを霊使が知っているか。
それは勿論彼女たちの動画も見てたからである。
キスキル達の手がかりを探していた時に偶然見つけたチャンネルだったが、今ではキスキル達の動画と並んで毎日、新規投稿がないかチェックしているくらいには嵌っている。
勿論、ウィン達もド嵌っているのでいるためか、特に何か恨み言を言われるでもない。
「…アンタの予想通りよ。…ハァ。何やってもパクリだのなんだのって言われて、ホントイヤになる…。そもそもゲーム実況だって話題になるゲームとかやるんだから内容だって被るっちゅーに…!」
「ああもう、思い出しただけで嫌になりますね…!」
サニーとルーナから漏れる怒気は相当なものだった。
一体どれだけの心無いコメントが彼女達に寄せられただろうか。
今回の場合は一体どうすればいいのだろうか。
皆目見当がつかない。
暫く考え込んでいるといきなりの爆音で思考が途切れる。
「霊使…!大丈夫…そう、だね。」
「ウィン、相変わらずド派手な登場な事で…。」
そして、天上をぶち破ってウィンが登場した。
「迎えがきたから帰るわ。…ま、あまり動画の事は気にしなさんな。」
「…そうさせてもらうわ。…はぁ。それにしてもマスターがいなけりゃこっちに残れないってのもあれだしなぁ…」
「…ま、それは、こっちで何とかしてやるよ。」
そういうとヒラヒラと手を振って霊使はウィンと帰っていく。
最後ウィンがにサニー達に何かを聞いていたが我関せずといった感じに帰っていく。
(まぁ、SANチェックのお時間だろうなぁ…)
そう思った霊使の後ろでは不定の発狂を起こしたのか、完全にフリーズする二人を後ろに帰還することとなった。
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「霊使…?」
ウィンが家に帰った時そこに霊使の姿は無かった。
何処かに連れ去られてしまったのか、それとも霊使が何処かで始末されてしまったのか。
とにもかくにも既に家にいてもいいはずの霊使の姿が見当たらない。
その事実はウィンを恐慌させるのには十分すぎた。
「…まずは、安否を確かめなきゃ…」
まずは霊使から流れてくる力を感知してみる。
微弱ながらも霊使から流れている力は感じることはできた。
少なくとも今は生きている。その事実が分かっただけで少しは安心できるというものだ。
ただ、力のパスが弱くなった以上、霊使との念話は不可能だ。
ならばまずは何処に居るかを探るべきだろう。
しかし、どこかで大きな力が渦巻いているせいで上手く感知することができない。
「はぁ、しょうがないな…。まぁ、一番潜んでそうなのはあそこかなぁ…?」
霊使の居場所についてウィンは思い当たる節がある。
旧市街と呼ばれる今ではさび付いた高層ビルだけがある、端河原松市の未開発地域だ。
マスカレーナと出会った場所でもある。
あの場所は一時期は多数の本社が置かれていたが、最終的に全部倒産し、寂れたビル群のみが残っている。
あそこならだれも寄付かない。
身を隠すには十分な土地だと言えるだろう。
というか身を隠すにはその場所でなければならない。
「…待ってて。」
ウィンはランリュウを呼び出すと、その背に騎乗。
大急ぎで旧市街地に向かう。
手遅れになる前に。
最高で最愛の人を失わないようにするために。
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「ここらへん…かな。」
少しずつ霊使の力のパスが強くなっていく。
そして、とあるビルの上で、ウィンは飛び降りた。
風を逆噴射することで勢いを殺しつつそのビルの上に降り立った。
「…さて、と行きますか。」
霊使は恐らくこのビルの何処かに居る。
しかし、わざわざ階段を使うのは非常に面倒で効率も悪い。
「…
ウィンは上空に待機させていたランリュウにさらに力を与え、ラセンリュウにまで成長させる。
そして、ウィンはラセンリュウに騎乗すると大きく空へと飛翔した。
「行くよ…ラセンリュウ!」
ウィンの掛け声とともにビル群目掛けて高速落下を開始。
そして、ラセンリュウは風のブレスを吐きながらビルへと突進。
天井と床、合わせて60枚ほどをぶち抜き、霊使の下へと駆け付けた。
が。
霊使はぴんぴんしており、恐らくの主犯格は何が起こったのかさっぱりわかっていない様子だった。
霊使の様子からそこまで重大なけがを負ったわけではないと判断する。
(…ピンピンしてるね。良かった。)
後は、霊使に帰るのを促すのと、あともう一つ。
「…何も手だししてない、よね?」
主犯格への確認だ。
勿論、嘘を吐いているかどうかは近距離にいる霊使の怪我の具合から分かる。
だが、彼女たちは何かを答える前に気絶してしまった。
どうやら何故かSANチェックが入ったらしい。
自分は邪神やその眷族でないのだから普通に考えてSANチェックなど入るわけないのだが。
「そんなに私怖い顔してたかなー…」
「ウィン、笑顔ってのは元々攻撃的な意味を持つらしいぞ」
「何それ…って、私の笑顔が怖いってこと!?」
「…そうとは言ってない。」
「じゃあ、なんで目を逸らすんですかー?」
何はともあれ、霊使は無事だったのだ。
これにて一件落着である―――。
・サニーとルーナ
相も変わらず根は善人。今回はどうしようもなくアンチコメに追い詰められてしまった結果である。特にルーナはサニーが苦しんでいたことを誰よりも知っているので誰よりも今回の事に必死になってしまっていた。
キスキル達の事は尊敬「していた」。
今は愛憎ひっくり返ってしまっているが、それに気づくことはない。
次回もどうかよろしくお願いします。
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