「相棒」   作:ダンちゃん1号

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星神奈楽:リスタート

「…だって私達は貴方の事が―――好き、ですから。」

「―――え?」

 

星神奈楽という人間は、誰かに親愛の情や、恋愛感情を向けられるのことに余り慣れてはいない。常に人間関係は父に監視され、「相応しくない」といった理由で、一体どれだけの人と遠ざけられてきただろうか。

友人たちとは今でも一歩おいた関係性であるし、正直に言って父親の支配から解放されるのなら世界が崩壊しようとかまわないという感情はいまだに燻っている。

 

「…僕は…。」

 

今、この場で答えを出してもいいものなのか。

奈楽は少しだけ硬直してしまう。

そして、彼が出した結論は―――。

 

「…自分の中にある感情が未だによくわからないんだ。」

「…それは…どういう…?」

「好きだとか、嫌いだとか、さ。そう言った感情なんて今まで持ったことが無かったから。…皆。つまらないガキの話を聞いてくれるかい?」

 

全てを話す事だった。

恋愛感情の一つも抱いたことが無いことも。

誰かを愛おしいと思ったことが無いことも。

だから、今、自分の中にある感情がどんなものかすら分からないということも。

 

「…ええ。まだ、時間はあることですしね。」

「ありがとう―――。」

 

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かつて、星神奈楽が少年だったころ。

奈楽はずっと一人だった。

別に家族が居ないとか、苛められていただとかそういった話ではない。

それでも友人付き合いは父親に許される事無く、学校が終われば直ぐに大量の習い事がやってきた。

これも全て「俺の後を継がせるため」というがそれにしても余りにも量があった。

余りの忙しさに、気づけば、自分の意思を殺すことが当たり前になっていて。

いつの間にか父親に言われたことだけを淡々と行う肉人形のようになっていた。

子供の頃からずっと自分の意思を殺し続けてきたせいなのか、未だに自分から行動するということができない。

その経験が奈楽の心を壊してしまったのだ。

心が壊れるほどの量の課題に奈楽は一度だけ逃げてしまったことがある。

何処でもいいからあの地獄から逃れられる場所を探して、家を飛び出したのだ。

この頃奈楽は既に社会の常識をある程度弁えていた。

だから、町ではなく山へと逃げ込んだ。

ある程度なら食べられる野草も知っているし、何故か幼い頃から叩き込まれ続けてきたサバイバルの技術がある。

だから山中でも一月くらいなら生き延びる自信があった。

だが、そんな強がりはすぐに打ち砕かれることになる。

確かに最初の数日は順調だった。

しかし、突然の雷雨により、生活していた木が倒壊。その倒壊に巻き込まれけがを負ってしまったのだ。

そのまま動けるわけでもなく数日が過ぎた。

なんとか身近にあった野草を食って命をつないでいたが、もはや少年の体は限界をとうに超えていた。

 

動いたほうがいいと思ったのはたまたまのことだったのだろう。

このままでは父の反省した顔を見る事無く死んでしまうという少年に微かに残った「嫌なこと」が少年の体を突き動かしたのだ。

 

「…おなか、へったな…。」

 

だが、空腹には抗えない。

そんな少年の目の前にいきなり、大きな、だが未成熟なウツボカズラが現れたのだ。

ウツボカズラの中には先日の雷雨の雨水が大量にたまっていて、上澄みをろ過して飲むくらいならどうにかなりそうだった。

 

「…一応…持ってるんだよね…。ろ過装置…。」

 

そう言いながら、奈楽はウツボカズラの中に手を入れようとして―――――

 

「…あなた、死にたいのかしら?」

 

唐突に後ろから声を掛けられた。

肩を跳ね上げる余裕もなく、また、振り返る余裕もなく。

向けられた視線に込められた感情など、知る由もなく。

気づけば、視界が横倒しになっていった。

 

「…へ?ちょっ…まだ何もしてないって…!?」

 

最後にそんな声を聴きながら、少年は意識を手放した。

 

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―――なつかしいなぁ。そういや、家出して、倒れて、カズーラに助けられて…皆に出会ったんだよね。」

「全く…あの時はさすがのアタシもどうしようか考えたわよ…。」

 

過去の事を思い返してみても、まだ、奈楽の胸の中で蟠る気持ちが何なのか、その正体すら分からない。

だが、必ず、どこかでこの感情を経験しているはずなのだ。

 

「…なつかしいですね。あの時にはどうしたものかと蟲惑魔総出で考えたものなんですよ。…如何せん子供なんて誘惑できず力尽くで餌にするか何もせず帰すかの二択ですからね。」

 

なんかサラリと怖いこと言ってた気がするが気にしていたら多分始まらない。

蟲惑魔とは他の生物を誘惑し、そのまま堕として糧とするのだ。

誘惑なぞに引っかかる純粋じゃない子供は容赦なく喰らってたのだろう。

流石に迷子の子供とかは喰らっていない…はずだ。

 

「まぁいいか。…話を戻そう。僕はどうなってもいい覚悟でこの森に来て、"衰弱"してたから皆に保護された…でいいんだよね?フレシア?」

「…ええ。そうですね。そこから、貴方と私達の物語は始まったんですよ?」

「…そうだね。あれは――――」

 

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「う…ううん…」

 

少年は目を覚ます。

体にこびりついていた倦怠感が少し薄れている。

その分多くの好奇の視線が少年を貫いているがそんなこと少年には関係ない。

自分はこの者たちに命を救われたという事実があれば十分だった。

 

「…助けてくれてありがとうございます。…余りご迷惑をかけるのも忍びないので…」

「…別にいいですよ。私達だって打算の下で貴方を助けたわけですし…。今はゆっくりと体を労わってあげて下さいね。」

「…すいません。ご厚意に甘えさせてもらいます…」

「はい。分かりました。…しばらくの間ですがよろしくお願いしますね?」

 

自分の命を救ってくれた集団は全員が女性だった。

何故か異性に囲まれていると妙に緊張してしまう。

だが。

それ以上に気の置けない関係を得られたということが奈楽にとっての一番の嬉しいことであったのだ。今まで、父親によっていつも引きはがされ、孤独を味わっていた奈楽にとって、今、この時間が最も楽しいひと時だった。

ここで、ずっと暮らしていたい。

それだけの多くの物を彼女たちは自分に与えてくれたのだから。

 

「うわっ…!?」

「ちょっ…アンタねぇ!私の巣にわざわざ引っかからないでよ!」

「ごめんなさーい!」

 

時には誰かに迷惑をかけて怒られるのも。

 

「くぅ…くぅ…」

 

日向で太陽の光を浴びながら横になるのも。

 

「うわぁああああぁぁぁ!?」

「あっははは!どうびっくりした――――」

「きゅう…」

「って気絶してる!?」

 

誰かに驚かされるのも。

彼女達とこの場所で過ごした数日間は余りにも楽しくて。

本当に多くの物をこの場所から学び、得て、気づくことができた。

本当はできる事なら帰りたくない。

父や、周りの人間から過度な期待を負わされることのない自由な世界。

ここで暮らせるのなら―――あの地獄から解放されるのなら。

この命を彼女たちに捧げることだって厭わない。

だが。

だからこそ、自分は帰らなければならないのだろう。

例え、それがどれだけ辛いことだったとしても。

かつての自分は「嫌である」ということを告げずに逃げていただけで。

まだ自分は何一つ、立ち向かっていなかったのだと。

たとえそれが余りにも見当違いの物だったとしても。

奈楽は決めたのだ。

だから、彼女たちにお礼を言ってここからもう一度始めよう。

今度は誰のものでもない、自分の足で未来を歩んでいくために。

 

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「―――で。結局。」

「そこでフレシアさんが付いていくと言い出して」

「あれよあれよという間に森の外まで付いてきて、そのまま父さんを怒鳴りつけて。」

「…いやあ…お恥ずかしい…。…そんな昔の事を掘り返さなくたって…」

 

結局あの地獄のような日々からは解放された。

それと同時にフレシア達との共同生活が始まったのだ。

そして色々とあり、たくさんの出会いがあって今、ここに立っている。

その中には形容しがたいギャグ時空の人間もいるけれど。

でもたくさんの出会いの中で、フレシア達に抱いたような感情を持つことは決してなかった。

霊使達に抱いている友情とはまた別物の、何とも言えないような感情―――。

 

「ああ…そうか。そういう…ことだったんだ…」

 

ただ、見ようとせずに、気づかないふりをしていたそれは、一度認めてしまえばもう止まることは無い。

彼女たちが居なくなってしまえば、自分の半身が消えてしまいそうな予感がして。

その感情を人は"恋"だったり"好き"と言った言葉で表すのだろう。

始めて彼女たちに会ったその時からずっと―――彼女たちに、彼女に恋をしていたのだと。

気づいてしまえば簡単で。

でも何故か言葉にしようとしたら急に恥ずかしくなって。

だから、さっき後ろから抱き留められたように今度は自分がフレシアを後ろから抱きしめる。

その周りではなんとなく()()を察した蟲惑魔達が優しい顔でその光景を見つめていた。

 

「…これが、答えでいいんですね?」

「…そう、だね。不器用だから…これくらいでしか伝えられないけれど…。」

 

二人は、静かに、互いの思いを確認するように。

優しい口づけを交わした。




登場人物紹介
・星神奈楽
ようやく恋心を自覚した恋愛漫画の主人公。
黒髪でいつも優しそうな笑みを浮かべている少年の心の中は空虚だった。
けれど、今はもう違う。
キレると一人称が「俺」になる。
この作品のシリアス担当の一人。
彼がギャグ堕ちしたらこの作品は「ゼンカイ脳」という単語が一番しっくりくるものになってしまう。
・フレシアの蟲惑魔
食欲が恋愛感情に変化した奈楽のヒロイン。
今回めでたくゴールインした。
この後の予定は?と聞かれたら「近くのホテルで一晩これからについて語り合う」と答える。
・その他の蟲惑魔
負けヒロイン。
恋愛感情を一番最初に自覚したのは以外にもジーナだったりする。
・星神創
多分存在すら忘れられているであろう奈楽の父親。
今でこそある程度の干渉こそすれ息子の思うがままにさせているが、最も多忙だった時期は父親としては最低最悪だった。
現在の親子仲は普通。



…あれ?主人公達(ギャグ担当)よりまともな恋愛をしてるのは俺の気のせい…?
評価・感想をお待ちしています。
次回からは今回の章きってのカオスです。お楽しみに!

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