九条克喜が外道洛斗を制したのとほぼ同時刻。
四道咲姫は一人の修道女と向き合っていた。
その目には明らかに生気がなくもうずいぶん前に自我を喪失していることが見て取れた。
「…貴方は…四道咲姫…。創星神様に歯向かった大罪人…。」
「創星神を信仰する修道女―――四道の手先!」
その修道女は明らかに咲姫に対する敵意を向けていた。
だが、その中には羨望や嫉妬が混ざっている。
どうやら四道という存在でありながら創星神に逆らった咲姫に対して複雑な感情を抱いているようであった。
それはもしかしたら「自分もああなっていれば」という感情が彼女の何処かにあったのかもしれない。
だが、咲姫はどうしてそんな視線が向けられるかなんて理解していなかった。
理解する気もさらさらないが。
何故なら彼女は咲姫にとっての敵であるからだ。
「…四遊霊使捕獲の任の障害となると判断…。ここで、排除します。」
修道女は敵である咲姫を自らの使命の下に排除しようとする。
そんな修道女を見て咲姫は哀れとしか思えなかった。
信仰に殉ずるのは結構だ。
だがそれが原因で目の前の修道女は自分を見失っている。
それはとても辛いことである、という事を理解しているのだろうか。
だが、それはそれ、これはこれだ。
機械的に淡々と咲姫を処理しようとする哀れな存在が目の前にいる。
さらに自分にとって最も大切な人物の一人である兄を害そうというのだ。
「…あったま来た…!クーリア、目の前の哀れな神の奴隷を潰すよ。」
「ええ、そうね。―――クソみたいな呪縛から解放してさっさと楽にしてあげましょう。今の貴女ならできるはずよ。だから―――」
故に咲姫に手加減する理由などなく。
目の前の哀れな存在を排除―――もとい救済するのが自身の役目だと思えた。
「―――さあ、
「それに関しては同意します―――では、大罪人の処刑を開始しましょう。」
修道女 LP8000
「先攻は私が頂きますよ…。カードを一枚伏せ、魔法カード"おろかな埋葬"を発動。デッキから"ワルキューレ・セクスト"を墓地に。そのまま1000LPを払い墓地の"セクスト"を対象として魔法カード"終幕の光"を発動。墓地の"セクスト"を守備表示で特殊召喚します。…本来なら貴女も墓地から攻撃力2000以下のモンスターを特殊召喚できますが…。」
「…無意味ってわけね」
先攻一ターン目では墓地にカードなど溜まっているはずもなく。
結果的には目の前の修道女のみが得をした形だ。
「このカードが特殊召喚に成功したとき、"セクスト"の効果発動。"セクスト"以外のワルキューレモンスター一体をデッキから特殊召喚します。私はデッキから"ワルキューレ・シグルーン"を特殊召喚。さらに"シグルーン"の効果で手札から"ワルキューレ・エルダ"を特殊召喚します。」
たった一枚のカードから三枚もの
本来の彼女たちは戦士の魂を神の住まう世界へと連れて帰るのが目的だという。が、今の彼女たちにそんな考えは残っているのだろうか。
「…"エルダ"が私のフィールド上に居る限り、貴女のモンスターの攻撃力は1000ダウンします。さらに手札から"ワルキューレ・フィアット"を召喚しターンエンド。」
修道女 LP7000
フィールド ワルキューレ・エルダ
ワルキューレ・シグルーン
ワルキューレ・セクスト
ワルキューレ・フィアット
魔法・罠 伏せ×1
「……一気に盤面を整えられちゃったか…。」
「これで戦況は大分不利になってしまいましたね。咲姫、どうしますか?」
ワルキューレは一旦動き出すと一気に制圧してくるデッキだ。ワルキューレ・エルダの効果で攻撃力が1000減少する。
それに加えて永続罠"ローゲの焔"で攻撃力2000以下のモンスターは攻撃できなくしてくるのだ。
それこそ"溶岩魔神ラヴァ・ゴーレム"や各種"壊獣"、霊使がもつ"
「そんな都合のいいカードなんて無いよ…!」
生憎、咲姫はそれらのカードを所持していなかった。
つまり咲姫はこの後発動してくるであろう"ローゲの焔"を処理しながら"ワルキューレ・エルダ"を破壊し、かつ、新たなエルダが召喚される前か、新たな"ローゲの焔"を発動される前にに相手のライフポイントを削り切らなければならない。
「ああもう…!厄介すぎる!私のターン…ドロー!取り敢えず私は手札の"覇王門零"と"ドドレミコード・キューティア"の二体をペンデュラムスケールにセッティング!そして、自分
「…わざわざモンスターを一体出して…罠発動!"ローゲの焔"!これより先、この炎の先を通ることはできません。―――ただ、渦に呑まれて消えていくのみですから」
相手の伏せは予想通り"ローゲの焔"。
これより先は攻撃力2000以下のモンスターは攻撃できない。
さらにエルダが行使する力によって攻撃力も大幅に減少。
結果、ドリーミアは完全に無力化され地面に這いつくばってしまっている。
「…さて、と。ドリーミア。もう少し頑張ってもらうよ。」
「うへぇ…。」
明らかに気の抜けた声がするが大丈夫だろうか。
決闘とというのは往々にしてブラックなモノなのだ。
「…私は手札の"ファンシア"を通常召喚。効果でデッキから"ドドレミコード・クーリア"を表向きでEXデッキに加えるわ。…フィールド魔法"ドレミコード・ハルモニア"を発動。この効果で私は"キューティア"のペンデュラムスケールをレベル分だけ上昇させて、9にする。さらに"ファンシア"と"ドリーミア"で"グランドレミコード・ミューゼシア"をリンク召喚。」
だが、今は思い切り彼女たちに動いてもらわねばならない。
だるそうに体を引き摺るファンシアとドリーミアは全ての力を振り絞ってミューゼシアを呼び出した。
ミューゼシアの素材となった彼女たちはEXデッキに帰っていく。
だが、彼女たちは自身が何を行うべきかを理解しているのだ。
文句を言わずに大人しく待機している様は信頼されているような気がして少しだけ嬉しかった。
「私は、永続魔法"魂のペンデュラム"を発動。…さらに、"強欲で貪欲な壺"発動。デッキの上から10枚を除外して二枚ドロー。」
これで取り敢えずの準備は整った。
今、この場で手札がゼロ枚になろうとこのターンで決着をつけてしまえば何一つ問題は無い。
決着はつかなくとも相手フィールドを壊滅に追い込めるのならまだいいほうだろう。
だが、賭けに出ないで勝てるほど甘くない相手であることも咲姫は理解していた。
「…私は魔法カード"カップ・オブ・エーズ"を発動。このカードはコイントスをして表が出たら私が、裏が出たら貴女がデッキから二枚ドロー出来る。」
故に咲姫は自身の運を信じることにした。
「運命の時間ですね…。さぁ、そのコインをトスしなさい。」
「もちろん。…いくよ。」
咲姫はデュエルディスクから排出されたコインを修道女に差し出す。
差し出されたコインにイカサマが仕掛けられていないことを確認した二人。
修道女は咲姫の拳にコインを乗せる。
「分かっていると思いますが…赤い方が表ですよ。」
「うん…。分かってるよ。」
咲姫は親指でコインをはじく。
弾いたコインは空を舞い、地面に落ちた。
結果は――――
「よし…!」
赤。
これにより、咲姫は二枚ドローする権利を得た。
デッキの上から二枚を手札に加える。
「カードを一枚伏せるわ。」
さらに自分フィールド上にカードを一枚伏せた咲姫。
これにて全ては完了した。
後は展開するだけである。
咲姫は右手を天に掲げると大きな声で叫んだ。
「描け!旋律のアーク!揺れて!音階のペンデュラム!」
「…!ペンデュラム召喚…!」
「私は手札から"シドレミコード・ビューティア"を、EXデッキから"ドドレミコード・クーリア"と"ファドレミコード・ファンシア"を召喚!そして、
これで咲姫のフィールド上にも四体の天使が並ぶこととなった。
後は力押しで押しとおるだけ。
「…クーリアの効果発動!相手フィールド上の表側表示のカード一枚を対象として、そのカードの効果を無効にする。―――この効果は自分
「貴方のPスケールは…!いや、まさか…"ハルモニア"の効果…!」
「そう、今のPスケールにある"キューティア"のスケールは9!流石に9が奇数か偶数かくらいは分かるよね?」
そして、厄介な後続展開効果と2000以下の攻撃を封じた今、もはや、怖いものは何もない。
更に畳みかける咲姫。
「さらに、"ハルモニア"の効果発動!自分フィールド上の
「しまっ―――!」
唯一の守備表示モンスターを破壊されてしまった。
だが、どうやって"ワルキューレ・エルダ"を破壊するつもりなのだろうか。
「貴方には"エルダ"を破壊できない…!」
「それはどうかな、ってね。私は"シドレミコード・ビューティア"で"ワルキューレ・エルダ"を攻撃!」
今のビューティアの攻撃力は、"魂のペンデュラム"の効果込みで1800。
それに対してエルダの攻撃力は2000。
僅かにだがエルダには届かない。
「自分の最小のP《ペンデュラム》スケール×300以上の攻撃力を持つモンスターとのダメージステップ開始時に"ビューティア"の効果発動。―――そのモンスターを破壊する。」
「―――な!?」
しかしながら、エルダは戦闘を行う前に破壊された。
一体何が起こったというのだ。
「"シグルーン"に"クーリア"で攻撃。」
修道女には目の前の光景が理解できなかった。
ほぼ完ぺきに動いたはずなのに気づけばフィールドを壊滅状態にさせられている。
修道女 LP7000→6200
「次は"フィアット"に"ファンシア"で攻撃。」
修道女 LP6200→5900
次々と撃破される自分のワルキューレ達。
一体どこでここまでの差が生まれたのか。
「"ミューゼシア"でプレイヤーに直接攻撃。」
修道女 LP5900→4000
何故ここまで相手は強いのか。
体の全てが恐怖を訴える。
―――今自分が行っているのは本当に
「削り切れなかったか…。ターンエンド。」
咲姫 LP8000
フィールド ドドレミコード・クーリア
シドレミコード・ビューティア
ファドレミコード・ファンシア
グランドレミコード・ミューゼシア
フィールド魔法 ドレミコード・ハルモニア
魔法・罠ゾーン 伏せ×1
ペンデュラムゾーン(ドドレミコード・キューティア)
(覇王門零)
修道女は既にこの決闘に勝ち目がないことを悟っていた。
が、それはこの決闘を投げ出す理由にはならないことを理解していた。
(勝たなければ…!)
生への執着にも似た歪んだ勝利への執着が彼女をその場に縛り続けていた。
いつか勝ち続ければ自由になると思っていたから。
「私のターン…ドロー。」
だが、すでにそのドローに意味は無い。
今、どのようなカードを出しても返しのターンで葬られる。
しかも今引いたカードは"フライアのリンゴ"。
最早どうしようもない手札にターンエンドを宣言するしかなかった。
「じゃあ、私のターンだね。ドロー。…バトル。」
そして、このターンを凌げるはずもなく。
ドレミコードの一斉攻撃で修道女のライフポイントはいともあっさり吹き飛んでいった。
修道女 LP0
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「危なかった…。」
咲姫は何とか勝てたことを幸運だと感じた。
まず、自手の素のステータスが低かったことが幸運だった。
さらに相手に自身の効果を無効にするカードが無かったことも幸運の一つであったといえよう。
綱渡りの上で成り立った勝利だったことに咲姫は余り驚いてはいなかった。
これで兄を守ることができた。
今の咲姫にはその気持ちの方が大きかったからだ。
「良かった。何とかなった―――。」
「…一つ聞かせてください。何故、貴女は四道家を離反したのですか…?」
どうやら修道女は決闘に負けたことで色々と思う事があったらしい。
だから、まず一番の疑問を解消しにかかってきたようだった。
「そんなの簡単だよ。―――私が
「そうしたかったから―――!?」
そうしたかったから。
何でと言われればこう答えるしかない。
そう、本当に「そうしたかったから」そうしただけなのだ。
「…あの家に居たら―――改ざんされた記憶に気づいていなかったら。きっと私もあなたのように盲目的に四道に従っていた。でもね、それは"私"じゃない。―――貴方だって誰かに決められただけの人生は嫌でしょ?」
そう。咲姫は誰かに決められたレールの上を歩くのではなく、自分の足で歩きたいと願っていた。
ゆっくりでもいい。
それがきっと人生を面白くする魔法なのだから。
「私は、ドレミコードの皆が居るからここに居る。兄さんたちを守りたいから四道と戦う。―――ただそれだけなんだよ。貴女にはないの?大切なモノとか…さ。」
「大切な…モノ。」
その言葉を反芻した修道女は何かを分かった感じがして、ようやく前を向いた。
体ではなく、心が前を向いたのだ。
「…私は。」
「…うん。」
修道女の目には涙。
どうやらすこしずつ洗脳が解けてきているらしい。
「私はあなたと一緒に―――!」
咲姫と相対してから初めて発せられた修道女の望み。
その言葉は最後まで発せられることは無かった。
「…処理だな。」
乾いた声が微かに咲姫の耳に届いたとき。
目の前の修道女のペンダントが激しく明滅し始めた。
「咲姫ッ!」
迷わずクーリアが先を抱きかかえてその場を離れる。
その瞬間―――。
轟音と爆炎が空間を揺らした。
「…え?」
「…爆…弾…。」
恐らくあの爆風では彼女はもう助からないだろう。
始めて目の当たりにした人の死は余りにも凄惨で残酷で、あんまりなものだった。
「救いがない、なんて話じゃないじゃん…!」
一瞬人影が見えた気がしたが恐らくは間に合わなかった。
決闘した距離からあと一歩進んでいれば助けられたかもしれない。
だが、彼女はもう助けられないのだ。
「ごめんなさい…。―――貴方の仇は、必ず。」
咲姫は今日この日を忘れることはもうないだろう。
復讐なんてガラじゃないし、多くの物は望まない。
ただ、この背後に居る連中は一発ぶん殴ってやらないと気が済まない。
咲姫はこの日、新たな誓いを立てた。
名も知らぬ修道女の命を奪った非道な連中の罪を白日の下に晒すと。
「…行こう、クーリア。」
「ええ…。」
少女たちの足取りは重く、だが、確かな意思がそこにあった。
登場人物紹介
・四道咲姫
四道の非人道的な行為を改めて認識。
不破さん状態になった。
・修道女
爆発の後、彼女の痕跡は何処にもなかった。
咲姫がとうとう四道にキレました。
水樹君のデッキ強化
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ネクロス
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リチュア