「相棒」   作:ダンちゃん1号

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四遊霊使捕獲作戦 その⑥:FAILED AND...

「―――ッ!」

 

覚醒した九条克喜の目に入り込んできたのは知らない天井。

どうにも記憶が曖昧で意識がはっきりとしない。

が、自分だけがここに居るという事は恐らくはあの時、自分は負けたのだろう。

 

「俺は…負けたのか。」

「…うん。おはよう、克喜君。一週間ぶり。」

「―――ウィン。」

 

気づけば克喜の傍にはすっかりやつれてしまったウィンが居た。

それも仕方ないと思う。

今までずっと一緒に居た霊使が居なくなってしまったのだから。

そんなことになってしまえばウィンが意気消沈する事なんて初めから分かっていたはずだ。

もちろんあの霊使が自分の意志で四道側に付いたとは考えていない。

あれだけ四道を避けていた男が自分の意志で入り込むなんてありえない。

 

「…霊使は私の声にも答えなかった。―――皆の声にも。それどころか容赦なく、皆に襲い掛かって―――。霊使は、どうなっちゃったの…?」

「…分からねー…。ただあいつが正気を失っているのは事実だ。」

「そう、なんだね…。」

 

この言葉は気休めにしかならないだろう。

もしかしたら人格をまるっと書き換えられてしまったのかもしれない。

そうなってしまえば元の霊使を取り戻す術などどこにもないだろう

だが、克喜にはあれが四遊霊使()()()()だとは微塵も思えなかった。

身もふたもない言い方をすれば「洗脳」である。

それはそれとしてどうして自分は病院に寝かしつけられているのだろうか。

それを考えると同時に朧気だった記憶が蘇る。

 

「そうだ。俺は確か―――」

 

 

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【インフェルニティ】。

それは常に満足を追い求める者達が使うデッキとして有名である。

相性が良いカードが出ればループに組み込み、常に環境に食い込んできたデッキだ。

恐ろしいのは【インフェルニティ】に関連するカードはほぼ全て手札が0枚の時にとんでもない爆発力を産むという事。

本来、デュエルモンスターズというものは手札が多い方が有利だ。

それだけ"アドバンテージ"が存在するから、手札というのは非常に重要な要素なのだ。

だが【インフェルニティ】は自分からそのアドバンテージをかなぐり捨てて満足を追い求めるデッキ。

だからこそ、恐ろしい。

 

霊使 LP3400

フィールド   インフェルニティ・デス・ドラゴン

        ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン

        氷結界の龍トリシューラ

魔法・罠ゾーン インフェルニティガン

        伏せ×2

 

人はここまで圧倒的な盤面制圧を行えるのか。

最早軽い恐怖すら感じてしまう。

霊使の盤面は凄まじい

一方の克喜の盤面。

そもそも【ウィッチクラフト】というテーマ自体が防御寄りのデッキだ。

モンスターの殴り合いにはめっぽう強いがそれ以外に対する力は良くて平凡と言ったところだった。

確かにバイストリートの効果によってターン1で破壊されずにすむが、除外やバウンスには弱い。

トリシューラによって完全に盤面を壊滅させられた克喜は三体の竜を見上げ、ため息を吐いた。

 

―――自分では勝てない。

 

それが今の克喜が下した結論だった。

この結論を聞いたのならば霊使は何と言うのだろうか。

恐らくは怒鳴られるんだろうなぁ、と苦笑交じりにため息を吐く。

そんな結論を言ったところで目の前の霊使は怒ろうともしないし、なんなら「敗北が確定したならとっとと降参しろ」とでも言いたげな目をしていた。

 

「お前は…なんだ?」

 

その目を見てぼそり、と呟いた言葉。

それは心の何処かにあった目の前の存在が四遊霊使ではないという疑念が現れたせいかもしれない。

その疑念は呟いた直後に最悪の形で当たることになるのだが。

 

「私の名は()()霊使。父上の剣であり―――盾。」

「ああ。お前の名前はよく覚えた。―――ぜってー倒す。」

 

もちろん、今ではないが。

だが。

今の状態の霊使とはそう遠くない未来で相見えることになるだろう。

 

「"インフェルニティ・デス・ドラゴン"で攻撃―――!」

 

 

克喜 LP2300→0

 

インフェルニティの一撃を受けて意識が吹き飛んだ。

 

 

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自分がここに居る理由は霊使に負けたから。

それは疑いようのない事実。

そして、それは四遊霊使という人間が居なくなってしまった事を意味していた。

快活に笑う霊使の顔が浮かんでは消える。

 

「ああくそッ…!」

 

不甲斐なさが悔しさを上回る。

それはきっとウィンも同じだろう。

彼女は誰よりも深く霊使の事を愛していたし、それはきっと霊使も同じだった。

なんやかんやあったが、それでも霊使は友人だ。

最高の、友人、なのだ。

だから()()()()

記憶を失ってしまったのならその記憶を、熱い思いが消えてしまったのなら熱い思いを。

それは一つの決意だ。

四遊霊使を救うための決意。

 

例えこの身が滅びようとも絶対に為さなければならない事。

 

「…取り戻す。絶対に。―――ウィン。お前はどうするんだ?」

「…私は…。」

 

この選択はウィンにとっては酷なものだろう。

結局の所変わり果ててしまったであろう霊使と戦い、あまつさえ倒さなければならないのだから。

 

「ごめん、克喜君。少し…考えさせて。」

「分かった。―――でも、決断は早い方がいい。」

 

今のウィンに何を語った所できっと彼女は迷い続ける。

なら、ある程度一人で考えさせた方がいいだろう。

そう考え、退室するウィンに対して何も言葉を掛けずに見送る。

 

「―――ハイネ。一応彼女の事を見といてくれ。」

「ええ。」

 

 

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人の気配のない、ある病院の屋上。

ウィンは転落防止用のフェンスに背中を預けて俯いていた。

霊使が四道の手に堕ちた。

それは紛れもなく自分を庇ったから。

 

「私…は…。」

 

霊使が居なくなって改めて実感する。

本当に彼の事が好きでたまらなかったんだと実感する。

現に霊使が居なくなった今、思考もままなければ何かをすることさえ鬱陶しい。

 

「あー。…何もやってないや…。」

 

現実が認められずぼうっとしていたところをキスキル達に助けられ、何とか事なきを得た。

それでもこの不調が急に治るわけじゃない。

自分でもあほらしくなる。

 

「は…はは…。何やってんだろ、私。」

 

霊使が豹変して、特に戦えたわけでも無く、ただの足手纏いになってしまった。

他の霊使いの皆は既に霊使を救うための行動を起こしているというのに、自分は未だここで踏みとどまっている。

本当に何をやっているのだろうか。

馬鹿らしくて笑いがこみあげて来る。

 

「おかしくなっちゃったのかな…。もう何も出ないや。」

 

既に涙は枯れ果てた。

乾いた笑いしか出ない自分に嫌気が差す。

ふと、空を見上げれば今の自分の心境をこの上なく現している曇天だった。

風の流れに交じって雨音が聞こえてくる。

 

「…降って来た…。」

 

気づけば大粒の雨がウィンの体を濡らしていた。

 

「まぁ、もう…どうでもいいや…。」

 

だがそんな事はもはやどうでもいい。

霊使を失った彼女の心はそれほどまでに荒んでしまっていた。

 

 

だが、もちろんそんな彼女を放っておくわけにはいかない。

 

「何が…どうでもいいって?」

 

ウィンの耳には今、一番会いたくなかったであろう存在―――ウィンダの声が聞こえていた。

 

 

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克喜達の無事を確認した颯人達。

そのときヒータに今のウィンの状態を聞いた。

 

「颯人。ウィンと話してきていいかな?」

「ああ。」

 

ヒータに聞いたところによるとウィンは無気力な状態らしい

何をやっても無反応に近く、ずっと部屋に引き籠っているという。

見舞いとかはふつうに行くらしいがあまり顔色はよくなく、むしろ入院を勧められるほどなのだそうだ。

事のあらましは聞いた。

その上で最終的な判断はウィン自身が下すという事も。

それでも今のウィンには正常な判断は出来ない。

 

そして、屋上に着いたときウィンダの耳に届いた言葉はウィンダの堪忍袋の緒を断ち切った。

 

「何が…どうでもいいって?」

「ウィンダ…。」

 

ウィンは生気のなくなった声を上げるばかりでウィンダの方を見ようともしない。

結果、ウィンはウィンダがどのような距離にいるのかさえ、気づくことは無かった。

だが、それと同じようにウィンはウィンダの声にすら耳を傾けない。

 

「ウィン。立って。」

「…もういいよ。私は―――」

「立ちなさい。ウィン!」

 

それでも、少し語気を強めれば顔を向けるくらいはした。

今の自分はウィンの瞳にどのように映っているのか分からない。

それでも、言わなければならないことがある。

やらなければならないことがある。

 

「本当に、そのままでいいの?」

「何を言って―――?」

「―――本当にレイジ君をあのままにしといていいの?」

「…元の霊使に戻るか分からないのに…?」

 

ウィンが言うこともわかる。

彼を助けたところでウィン達との記憶が戻るかは別なのだ。

 

「ウィンは卑屈に考え過ぎ。…ちょうどいいや。このまま少し話そうか。」

「話すって…何を?」

()()()()()()()()()()。」

 

その言葉はほんの少しだけウィンの興味を引いたようだった。

霊使という精神的支柱を失ってしまったウィンにとって「何をするか」というのは非常に大事な事だった。

 

「…私は、何をすればいいのか分からない。」

「レイジ君の事はどうでもいいの?」

「どうでもいいわけない!」

 

ウィンは久しぶりに大声を出した気がした。

だがそれよりも。ウィンは今、猛烈にイラついていた。

ウィンダの事は憎からず思っているがそれでも、霊使の事を言われて冷静でいられるほど安定してはいない。

 

「でも…どうしようもない。…私じゃなんにもできない…。」

「ウィン。―――ウィンは一人で戦ってるの?」

「それは―――。」

 

ウィンは私じゃと言った。

ウィンはもとからこの一件は一人で解決するつもりだったのだろう。

否。

霊使の下へ向かうつもりだったというのが正しいか。

 

「―――私一人犠牲になれば霊使を助けられるって思ったから。狙いは私なんだよ。だからきっと―――」

「それは多分違うよ。ウィンには酷だけど"用済み"になるんじゃないかな…。」

「そ、れは―――。」

 

ウィンはこの身との交換条件で霊使いの開放を考えていた。

自分の力が狙いなのだから、それを対価に交渉すれば救うことができるのではないかと考えていたのだ。

 

だが、それは甘いとしか言いようがない。

確かに霊使の開放は出来るかもしれないがその後に霊使を害されないとは考えられないのだ。

 

「…ウィン。これはアドバイス。―――もっと周りをちゃんと見て。アタシが言えたことじゃないのかもしれないけどさ。」

「周りを―――」

 

思い返してみればここのところずっと霊使の事しか考えて無かった気がする。

一つの事を考えればそれ以外の事への視界が小さくなる自分の悪い癖だ。

 

「…そう、だね。ねぇ、ウィンダ。―――ウィンダは私を使()()()?」

「ふふん!そこはこのおねーちゃんにまっかせなっさーい!」

「ふふっ…。」

 

フンと胸を逸らすウィンダを見て、口元がほころんだ。

こんなふうに自然に笑えたのは一週間ぶりだろうか。

その目は光りを取り戻し、霊使を取り戻す算段を立て始めた。

もうこれでウィンの方は大丈夫だろう。

 

「さて、と。行こうかウィン。」

「ん。分かった。」

 

こうして始まりを告げるのは霊使を取り戻すための戦い。

それぞれの思いを胸に今、新たな戦いの幕が開く。




登場人物紹介

・ウィン
主人公交代。
霊使への愛情が深い。
その分沈んでいたせいで周りが見えなくなっていた。

・ウィンダ
珍しく姉貴ムーブ
どうやら一時的にウィンを使う模様


これで第二章は完結です。
全然精霊探してないじゃんって…?
それは…うん。
ごめんなさい。

水樹君のデッキ強化

  • ネクロス
  • リチュア
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