「相棒」   作:ダンちゃん1号

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三章:四遊霊使奪還作戦
親子、姉妹、家族


四遊霊使が四道の手に堕ちた。

その知らせはウィンダールの耳にも届いていた。

始めは切り捨てたと怒り狂ったらしいがどうやら話が違うらしい。

 

「それは本気で言っているのか…?ウィンダ。」

「うん。話を聞いた限りでは多分―――洗脳されてる。だから、霊使君はウィンの事が分からなくなっているの。」

「…知らんな。そんなことは。」

 

だが、ウィンには悪いがこれでちょうどいい。

これを盾にしてウィンとの関係を断つことができる。

ガスタには他の誰でもないウィンが必要なのだから。

もはや、父とは呼ばれないかもしれない。

それでもいい。

族長として、冷徹にならなければならない。

今のウィンダールにとってはガスタの民全てが家族なのだ。

その思いがウィンをガスタに縛り付ける事を納得させようとしている。

 

(これしかないのだ。)

 

そう、ガスタがこれからも生き残るためにはウィンダでは力不足。

それがウィンダールの見ていたウィンダとウィンの力関係だ。

ガスタの里を纏めるのならば娘に対しても冷徹でなければならない。

それが正しいはずだ。

 

(だが…。それでこの先ウィンは笑っていられるのか?)

 

それなのに、どうしてこうも引っかかってしまうのだろうか。

もしかしたら自分はウィンの幸せの邪魔をしているのではないか。

そんな思いもウィンダールの中にあった。

 

一人の父親として娘の幸せを願うか。

一人の長として小娘の幸せを奪うか。

 

今、ウィンダールに突き付けられているのはそういう選択だ。

どちらかを選べばどちらかは立ち行かなくなる。

ウィンダールは今、大きな分かれ道に立っていた。

 

 

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「ねぇ、ウィン。少しガスタと協力しない?」

「―――そうなる、よね。」

 

時は少し戻り克喜達が入院している病院の屋上。

ウィンのウィンダに対する「自分を使えるか?」という質問をウィンダは肯定した。

故にウィンとウィンダは霊使を救うために手を組むことにした。

確かにウィンはガスタの一族から逃げ出した。

それでも霊使の隣の場所以外で帰るとするならばガスタしかない。

 

「―――問題は父さんなんだけどね!」

「あっ…」

 

しかしながらウィンが霊使を救うためにガスタに戻る際、一つの問題があった。

そう、ウィンダール(子煩悩な父親)である。

さらにウィンダールはウィンの幸せはガスタを継ぐことだと考えているので、霊使を取り戻した後はそのまま引き剝がされそうな気がするのだ。

 

「まぁ、そこは…。」

「説得しかないよね…。」

 

果たしてあの堅物を説得できるのか。

霊使を救うためにまずは一つ大きな戦いを乗り越えななければならない。

それを思うと憂鬱にならずにはいられないウィンであった。

そもそもあの父親のような何かが凝り固まった価値観の中、自分の話を聞いてくれるかどうか。

 

「ガスタとの協力における最大の障害が父さんだなんて…。ハァ…。」

 

いざとなったらウィンダールを脅してでも協力()()を勝ち取らなければならない。

ウィンはそれほどまでに霊使の事を深く愛しているのだから。

 

「はぁ…穏やかじゃないなぁ…」

 

ウィンはその一言に全ての憂いを詰め込んて吐き出した。

 

 

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そして、時はウィンダとウィンダールの会話に戻る。

霊使の事など関係ないと切ったウィンダールをウィンダは厳しい目で見ていた。

 

「…本当に関係ないと思ってる?」

「何?」

「現にウィンは物凄く落ち込んでた。その意味、分からないほど馬鹿じゃないよね?」

 

ウィンダの追及にウィンダールは大きなため息を一つつく。

ウィンの気持ちを理解していないほど自分は愚かではないつもりだ。

認めよう。

確かにウィンは四遊霊使に恋慕の情を抱いている。

それは確かな事実だ。

四遊霊使という男がウィンを縛り付けているわけではなく、ウィンは自分の意志であの男の傍にいる。

悔しいがそれはもはや覆しようのない事実だろう。

 

「……そうか。だからなんだ?俺にどうしろと?」

「―――だから、霊使を取り返すのに協力して。」

 

その先の行動を問うウィンダールに返って来た回答はある意味、予想通りだといえるだろう。

そしてその返答をした者もまた、ウィンダールの予想通りであった。

 

「それに何のメリットがある?―――ウィンよ。」

「あるわけないじゃん。精々向こうの世界の危機が遠ざかる位だよ。」

 

メリットなど無い。

損得勘定を抜きにして霊使を救いたいというウィンの強い思いが伝わってくる。

だが、それに納得するわけにはいかない。

納得してしまえばウィンを、ウィンダを、ガスタの民を危険にさらしてしまう事になるから。

 

それほどまでにウィンダールはガスタの事を考えていた。

だからこそ、ウィンからの申し出を断るつもりだったし、受けるにしてもウィンをガスタへと戻らせるという条件の下のつもりだった。

 

「悪いが、それは聞けない相談だな。そもそも何故、俺があいつを救う事に協力せねばならん。」

「まあ、そうだよね。」

 

だから、ウィンダールはウィンの次の言葉を予測できなかったのだ。

 

「―――よく分かったよ。今の父さんの視界がどれだけ狭まっているか。」

「何?」

「あっちの世界が滅べばこっちの世界も連鎖的に滅ぶってこと、忘れちゃった?」

「―――!」

 

そう、ウィンは「精々向こうの世界(人間界)の危機が遠ざかる位」と言った。

この精霊界は人間界と密接に結びついている。

だからこそ精霊がカードを通して、二つの世界に存在できるのだ。

だが、この世界はあくまで人間界の()()―――人の世界の可能性の一つでしかない。

いくらこの世界が可能性の塊だといっても、大元の世界が消滅すれば、精霊界も消滅する。

それは自明の理だった。

そのことはこの世界に生きる者なら誰でも知っていることだ。

それなのに、ウィンの発言からその事を思い出すことができなかった。

 

「それが?なんだというのだ?」

「もし、霊使から私の力が抜かれて創星神が復活したら?最悪の場合世界が崩壊するよ?」

「それ、は―――」

 

ウィンダールとて、創星神の復活に必要なものを知らないわけではない。

ガスタの巫女かそれに相当する力を持つ者。

霊使からガスタの巫女に相当するウィンの力を引っ張り出されれば復活の条件を満たしてしまう。

何はどうあれ、悪意を持った者が創星神を復活させればろくでもないことになるのは確かだ。

要するにウィンは()()()使()()()()()()()()()()()()()()()と言っている。

確かにそれはウィンダールだけのメリットではないし、だが、ここでこの提案を蹴れば世界を見捨てるという事と同義になるかもしれないのだ。

 

「…選択肢はあるようでないようなものか。」

 

恐らく、霊使を使ってウィンから力を引っ張り出すまでには幾ばくかの時間がある。

そう簡単に人の意思は折れるものではないからだ。

四遊霊使が自らウィンの力を差し出すまでが猶予。

聞いた話で推測すれば四遊霊使の意思はまだ折れていないだろう。

だが、それも時間の問題だ。

そして、それはウィンを苦しめる事にもつながる。

一体どこでこんな駆け引きを覚えてきたのやら。

どんどん悪童と化していく娘に末恐ろしい物を感じるウィンダール。

少なくとも今回の議論は自分の負けだ。

これ以上はガスタの族長としてではなく、娘を思う親心が御しきれない。

 

「じゃあ、改めて依頼します。ガスタの賢者ウィンダール。この私、ウィンと一時的に協力してもらいたいです。」

 

ウィンは今までの言葉遣いから一転。

敬語を混ぜて誠心誠意の申し出を行った。

ならば一人の人間として、それに応えるのが、ウィンダールの行わなければならない事。

 

「分かった。協力の期間は?」

「私の思い人―――四遊霊使を取り戻すまで。それまで私はガスタに今一度戻りましょう。」

「…その条件、飲もう。」

 

こうして今ここに契約は結ばれた。

ウィンは自身の思い人を取り返すために、ガスタに力を貸すことを約束したのである。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「―――という事があってな。」

「何故それを私に話すのだ…?」

 

ガスタ、リチュア間の戦争が終わってからというもの、ウィンダールはよく、ノエリアと酒を飲むようになっていた。

確かにノエリアはガスタ・リチュア間の戦争を引き起こした張本人だったがどうにも悪意に心を囚われ、争いを強要されていたらしい。

悪意ごときに負けるかとも思ったが、それは氷結界という部族が滅亡したほぼ同時期に心に宿ったのだという。

そんな二人は今、族長としての辛苦を二人で酒を呷ることで分かち合っていた。

思い返せばリチュアと戦闘していた時は余り他部族の話を聞かなかった。

が、こうして平和に酒が飲めるようになれば対話が足りなかったのかと気づく。

 

「お前の所の娘の一人―――ウィンだったか。…まさか戻ってくるとはな。」

「ああ。俺も一番驚いている。」

 

ウィンダールは木製のコップに注がれた酒を一息に呷ると勢いよく、木の樽を改造したテーブルに叩きつけた。

納得いかない。

なんで、あんな男にウィンを取られなければならないのだ。

 

「なんで、あの男を助けるために一生懸命になれる…?」

 

ぼそりとウィンダールが呟いた言葉。

それはノエリアの耳に届くには十分で、それでも周囲に届かせるには不十分だった。

 

「はあ…。お前はいい加減に娘離れをしろ。そもそもウィンがガスタを飛び出したのはお前の所為みたいなものだぞ?」

「なん…だと…?」

 

ノエリアが言った娘離れをしろという言葉。

それは確かに正しいのだろう。

だが、自分が理由でウィンが家を飛び出したとはどういう意味か。

 

「ウィンダール…お前…よくそれでウィンダに愛想尽かされなかったな!?」

「期待をかけるという事はそこまで追い詰めるものなのか!?」

「…だめだ…こいつ、自分の娘の事を何にも分かってない…。」

 

ノエリアは頭を抱えた。

なんなのだこの目の前の男は。

一体どうすればいいというのか。

実の娘まで巻き込んで戦争をおっぱじめた自分が言えたものではないがこの男は親としての自覚が無いのか?

それとも親の大前提をはき違えているのか?

 

「―――本題に入る前に一つ聞かせろ。―――お前にとって親とはなんだ?」

「子供を守り進むべき道を示す存在ではないのか?」

「…いや理解してんじゃねぇぇぇかぁぁぁぁ!」

 

ノエリアの思う親とは力を持たぬ子供を守り、そして子供に道を示す者の事だ。

ウィンダールもその事を理解しているのに自分のどこが親としてダメなのかがまるで理解できていない。

なんなのだ、この男は。

思わずジャーマンスープレックスを仕掛けてしまったがこれに関しては謝罪するつもりは全くない。

 

「貴様なぁ!?親が子供に()()()()()()()()どうするんだ!?」

「何!?道を示すとはあらかじめ子供が歩く道を作っておくという事ではないのか!?」

「んなわけあるか!?貴様の脳内はどうなっているのだ!?ババロアか?それでもパパイヤでも詰まっているのか!?このクサレ脳味噌は!?」

「そんなものは詰まっておらんわ!それよりも俺が未来を押し付けているとはどういうことだ!?」

「子供の人生をアンタの都合で捻じ曲げるんじゃないって話だ!」

 

それを聞いたウィンダールは初めて衝撃を受けた。

自分はそれほどまでに未来を押し付けていたのだろうかと。

ただ、思い返してみれば――――

 

『お前には期待している』だとかそんな感じの事ばかり言っていた気がする。

 

「俺は…間違っていたというのか…?」

「そりゃもう、大いに間違っているとしか言いようがないな。分かったらこんな所でグダを巻いてないでさっさと行け、このバカ親ァ!」

 

ウィンダールはノエリアの一喝で相当数の過ちに気づいたようだ。

後はもうウィンダール自身が語るしかない。

 

「エミリア…エリアル…私は二人の母としてどうだったのかねぇ…。」

 

その言葉は誰の耳に届くことなく酒場の喧騒の中に溶けていった。




登場人物紹介

・ウィンダール
割と毒親っぽい人。
手とかは上げていないがウィンに対する愛と期待が重すぎた人
最近ノエリアと吞むようになった。

・ウィン
期待が辛くて家出。
強かな一面を持つ。

・ウィンダ
家出したウィンの事を最優先に考えていた。

・ノエリア
本来ならインヴェルズのせいで大惨事を引き起こすはずだった人。
今回は割と早い段階でインヴェルズの思念が取り除かれたために正気に。
今ではガスタの里で色々と手伝いを行っている。
家族に対する愛情はある方だし、多分狂気に走らなければこうなってたであろう人。

・インヴェルズ・ヴェルズ
結や、ノエリアに取りついていた全ての元凶の根源。
戦場に立っていたノエリアはともかく、まだ精神的に成熟しきっていない結にはきつい物がある。

というわけで第三章開始ですが。まだ章タイトル決まってないんですよね…。
どうしようかなと考えながら文章を書いている次第でございます。
というわけで仮タイトルとして四遊霊使奪還作戦とでもしておきましょうか。

水樹君のデッキ強化

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