豪風と共に吹き飛んだ霊使。
ウィンはその体が地面に叩きつけられる前に抱き留めた。
呼吸はある。
だが、すでにその意識は無く、規則的な呼吸音が聞こえてくるだけだった。
「霊使ッ!しっかり!みんな待ってるから!」
「…ウィン。」
いくらウィンが呼び掛けても霊使が目覚めることはない。
それはある意味では当然だ。
「落ち着いて…死んだわけじゃない。…精神が摩耗してたんだろ。…今のボク達にはそれを確かめる術はないけどな。」
「ヒータちゃん…。」
死んだわけじゃない。
確かにそうだ。
だがウィンはあの地獄のような一月を過ごすのはもう勘弁だった。
だから泣くし、こんなにも必死になるのだ。
大切だから。―――もう失いたくないから。
「…霊使…。」
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「こうして直接面と向き合って話すのはこれが初めてだな。」
「…ええ。そうですね。」
霊使の意識の奥底で二人の霊使は向き合っていた。
一人は反逆し、もう一人は従順する道を選んだ。
そんな二人の霊使は多くを語ろうとしない。これまでの決闘でたくさんの共通点を見出していたから。
決闘へ賭ける情熱も。
一度決めたら成し遂げる精神も。
全てが同じだった。
本当に"四道から離反したかそうでないか"の違いだけ。
その違いが二人の"霊使"を象っていた。
「…あまり時間はありませんね。」
「…そう、みたいだな。」
二人が居る空間には少しずつ白い光が漏れ出している。
目が覚めるのはどちらなのか分からないがそれでもタイムリミットはそんなにないように感じた。
「ですので、簡潔に話しましょうか。」
「…何を?」
「私と貴方の関係性についてですよ。」
「そんなの俺が簒奪者―――。」
四遊霊使は自身がこの体を奪った簒奪者だと考えている。
いくら考えてもその考えだけが揺らぐことはなかった。
だがその考えを読んでいたかのように四道霊使は発言する。
「一つ言っておきますが…この体は貴方の体です。…私は貴方の
「…どういう事だ?」
「私はあの時自分から"風霊使いウィン"という存在を切り捨てて四道に残ることになっていたら―――という"if"―――
四道霊使はきっぱりとそう言った。
その言葉に嘘はないようで、四遊霊使は四道霊使の言葉を反芻するようにつぶやく。
「お前が…俺の"もしも"…。」
「そうです。」
「…じゃあ、お前が消えるのか…。」
「そうなりますね。」
「…満足は出来たのか?」
その言葉を待っていた。
四道霊使はその回答は既に得ている。
その答えは至って簡単だ。
短い間だが心を持てた。ほんの少しの間だったが心が震える決闘を行えた。
少なくとも自分という存在が存在しないはずの世界で、たくさんの経験を得ることができた。
だから。
「もちろん。満足しましたよ。」
「…そっか。じゃあ、お別れだな。」
「そうですね。貴方の覚醒と同時に私は消えるでしょう。…でも貴方が気に病む必要はない。ああ、でも一つだけ、お願いがあります。」
四道霊使は四遊霊使の目を直視する。
その虹彩には
今、彼の目に自分がどう映っているのかは分からない。
でも、彼はこのお願いだけはきちんと聞いてくれる気がした。
「むしのいい話ですが…どうか、私を忘れないで。この世界に仮初とはいえ生を受けて、でも何も残せなかった私ですが、それでもどうか、忘れないで欲しい。」
何も残せなかった男が、最後に願ったのは存在の証明。
その切実な願いに霊使は何一つ迷うことなくその手を取った。
「…お前という誇り高い決闘者の事は俺達が伝え続けるよ。」
「そうですか、それは良かった。…もう、時間ですね。最後にプレゼントを―――。」
周囲がまばゆい光に包まれる。
もう、四遊霊使は目覚めなければいけない時間だ。
「では、良い人生を。」
「じ―――いや、
その言葉を最後に四道霊使という存在はこの世界から塵も残さず、消滅した。
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「どう転んでも使えん奴だな。」
霊使を抱きかかえるウィンの耳にふと底冷えするような声が聞こえた。
ウィンはその声に聞き覚えがある。
「まさか言われたこともできず消えていくとは。本当に同じ人間なのか分からんわい。」
そのしわがれた声を一度たりとも忘れたことはない。
そしてその声はこの場に居る霊使を救いに来たもの全員の記憶に強く焼き付いている。
「…つかえん奴は廃棄処分だ。―――
「なっ…!?」
その言葉は余りにも冷たい物だった。
しかもそれは嘗ての家族だったはずの咲姫や霊使も殺すと言っているような物だ。
その言葉は今、その場にいる全員をキレさせるのには十分な悪意を含んでいた。
「…赦さない…。」
しかしその男以外はある一人の少女から発せられる怒気の前にその怒りを萎めざるを得なかった。
その少女の周りには風が渦巻き、今にも竜巻のような旋風が吹き荒れそうな予感を漂わせる。
そう、その男は自らウィンの地雷を踏み抜いた。
「…絶対に、赦さない…。」
風がウィンに呼応するように巻き上がる。
この距離ではいくら相手が強力な精霊を使役していようと防ぎようはない。
何故なら、ウィンが操るのが風だから。
風は任意の強さで引き起こせるし、時間をかけたり、感情が昂ったりすれば大規模な物も用意できないわけではない。
だから、竜巻であの男を巻き込む、なんてことも簡単だろう。
その間にいる克喜達が今のウィンの視界に入っているかどうかは分からないが。
ゆっくりとウィンが視線を男に向ける。
「それは…ダメ、だ。…それじゃ…
「え…?」
怒りに染まったウィンの思考を冷やしたのは一人の男の声だった。
その声音に、ウィンは聞き覚えがあった。
その声音は、ここに居るほぼ全ての存在が待ちわびていたものだった。
「…れ…霊使…?どっち…?」
「ウィン、エリア、ヒータ、アウス、ライナ、ダルク…皆。ありがとう。…そして、待たせたな。糞爺ッ!」
「…貴様ッ…!」
「さあ、俺達を…殺すんだろ?やってみろよ!」
彼はその男に向かって吼えるように叫んだ。
その脇にはマスカレーナとクルヌギアスが立つ。
位置関係としては丁度、ウィンと男の間に"彼"は居る。
「行くぜ、ウィン、皆!
暗い意識の底からついに四遊霊使は帰還した。
「くっ…。流石に冥界の神相手では分が悪い、か…。帰るぞ、空也。襤褸切れ二人をきちんと回収しておけ。」
「分かりましたよ。…余り俺に手を掛けさせるな。」
だがしかし、彼を取り巻く因縁全てに決着がついたわけでは無い。
それはまだ、新たな戦いの序章に過ぎないのだ。
だから霊使は大声で因縁に向かって叫ぶ。
「逃げるのかー!?」
その一言は彼らのプライドを大きく傷つけたに違いないだろう。
今まで見下していた相手から煽られるのだから。
「…しばらくは作戦を練る必要がありそうだな。」
ぼそりと呟いた男―――四道安雁は恨めし気に霊使を見た。
その視線に気が付いたのか中指を立てる霊使を直視する。
腸が10個あっても足りないくらい、煮えくり返った。
「殺す…。次は確実に殺してやるぞ、四遊霊使ィィィィッ!」
四遊霊使の復活というイレギュラーを予測できなかった時点で負けは決まっていたのかもしれない。
だが、それを考える余裕すら四道安雁には存在しなかった。
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「で、だ。」
と改めて霊使は皆に向き直る。
そして頭を仲間たちへと下げた。
「すまなかった。…そして、ありがとう。」
その言葉をただ伝えたかった。
四道霊使はまさか"インフェルニティ"が負けるだなんて予測していなかったのだろう。
だから全員を負かした後の事しか考えて無かった。
そのおかげで今、ここに全員で立つことができる。
そんな危険だらけのゲームに勝って、彼らは自分を救ってくれた。
だから頭を下げた。
「良いってことよ、霊使。」
「そうだね。」
ウィンと克喜が頭を下げている霊使の腕を取って、皆の待つ方へと引っ張る。
もうすっかり夜も更けてしまった。
でも、明日も休日だ。
「なぁ、皆、今から決闘しようぜ。皆の決闘を見てたら俺もやりたくなっちゃったよ。」
「今からかぁ…?そうだな…。やろうぜ!」
その反応を待っていたといわんばかりに皆が決闘盤を取り出した。
誰も咎める者のいない旧市街。
霊使は皆と久しぶりの決闘を心行くまで楽しむだろう。
今、この時だけは霊使達は全てから解放されていた。
柵からも、そしていつかは牙を剥くであろう因縁からも。
この時だけは心の底から少年たちは自由を得たのだった。
登場人物紹介
・四遊霊使
復活ッ!四遊霊使復活ッ!
闇落ちしたのが56話なので本編10話ぶりに復活ッ!
リアルでは三か月と少し経っているけど復活ッ!
・四道霊使
「これで、満足したぜ…」
・四道の屑共
見下してた奴に煽られて恥ずかしくないんですか?
我らがシリアスブレイカーが復活しました。
というわけで次回、後日譚やってこの章は終了!
3.5章としてなんかのカテゴリと絡めた章を作りたいと思います。
というわけでアンケートです。
どのカテゴリとの絡みを見たいかの回答をお願いします。
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