「相棒」   作:ダンちゃん1号

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3.5章:騒がしい夏
四遊霊使と夏休みその①:海と誘拐と精霊使い


「前が見れねぇ。」

 

四遊霊使は今、自らの本能と戦っていた。

どうしようもなく、まっすぐに芽生えた下種な欲望を抑え込んでいた。

 

「そんなに…似合ってない?」

「むしろ、逆だよッ…!」

 

それが霊使の脳天を揺さぶるレベルで似合っているからこそ、見れないのだ。

しかもそれが4人ともなれば脳が焼き切れそうになるのも当然だった。

 

「水着が似合っているから…!見れないんだよッ…!」

「ふぇ!?」

 

そんな声を聞きながら霊使は頭をより深く砂の底へ埋める。

絶対に傷つけまいと誓ったのだ。

流石に公衆の面前でそれはマズイ。

更に言うならばここは海。

そして霊使の水着は単純なパンツタイプ。

つまりは、そういう事である。

 

「…せっかく霊使に見てもらおうと思ってたのに…。」

「…俺は、ウィンの水着を見て、冷静でいられる気がしないんだ。」

「えぇ…?今までも何度も見てるのに。」

「その、なんていうか、こう、意識しちゃう…。」

 

今までの関係性が変わった今年、霊使はウィンの可愛さに改めて打ちひしがれていた。

少しあどけなさが残ったその顔も、ぬくもりを感じるその手も。

 

「…まーた惚気てるよ。」

「それがあの二人の日常、ですからね。」

「…なんていうか、そういう雰囲気にしたくなっちゃうね…。」

 

その様子を遠巻きに眺めるエリア、ヒータ、アウス。

もちろん、霊使が頭をうずめている理由に彼女達も含まれているのだが。三人がそれを知る事はない。

 

「うぅ…覚悟を決めるわ…。」

「なぁんで水着一つに覚悟なんて必要なのかなぁ…。」

「俺知ってるよ!?最近新しい水着買ったって知ってるよ!?」

「あ、キスキルさん情報流したな!?」

「だから覚悟が必要なんだよ!」

 

迂闊に見れば尊死しかねないのは霊使が一番分かっていた。

だから、見れないのだ。

だが、それももう覚悟した。

どのような形の水着であれ、海辺で戯れるということくらいは出来そうだった。

 

ゆっくりと振り向いた先には―――

 

ラッシュガードを着用したウィンが立っていた。

だが、ファスナー式のラッシュガードを着用しているようだったが、ウィンはファスナーを使用していなかった。ラッシュガードを羽織っている状態だ。

緑色のラッシュガードの下には白を基調とした水着を着ている。いつもポニーテールにしている緑色の髪は下ろしてあった。

白い水着にかかる緑色の髪は何処か扇情的な雰囲気を纏っていた。

 

「わが生涯に、一片の悔いなし…!」

「あ、霊使が死んだ!?」

 

霊使が余りの尊さに浄化され、そして意識が天まで上ったことは言うまでもないことだった。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「海に、行きたい。」

 

夏休み初日。エリアは唐突にそう切り出した。

その手には紙を一枚持っている。

どうやら電車で揺られること10分程度の場所に海水浴場が開くとのことだった。

今までは端河原松市郊外にある市民プールでしか泳ぐことの無かったエリアは目ざとく海水浴場のチラシを入手してきたのだ。

 

「…行くとしたら明後日だな。明日は俺が死ぬ。」

「じゃあ、明日、水着とか買いに行こうよ。」

 

明後日に海に行くことになった霊使御一行。

霊使は明日やるべき課題を見繕っておく。

なんなら、明後日海で行える課題の事も考えなければならない。

高校生の夏休みは自由期間ではないのだ。

 

「ま、皆がどんな水着を買ってくるかっていうのはお楽しみってわけだな。」

「そうだね!」

 

そんな会話をしていると申し訳なさそうにダルクが手を上げる。

その隣には少し顔色が悪いライナが居た。

 

「あはは…。ライナはパス。…海にはあまりいい思いが無いから。」

「…あの時は本当に危なかったもんな、ライナは。」

 

話を聞くに前のマスターに海辺で性的な事を強要されたのだとか。

確かに前のマスターから離れてそこまで時間は経過していない。

だから海に行くとそういうトラウマが抉られてしまうのも仕方が無いように思えた。

 

「分かった。行きたくないのなら無理強いはしないさ。」

「ありがとう、マスター。」

 

ダルクやライナはほっとしたように胸を撫で下ろす。

どうやらその出来事は二人の心に大きな影を落としたらしい。

 

「というわけで、二人は留守番として。」

「私達もパス。」

「クルヌギアスはすぐばてるから知ってた。マスカレーナはなんで?」

「お守り。」

「ああ…。」

 

サラリと言ってしまっているがこの「お守り」は色々と常識はずれなクルヌギアスのお守りという事だ。

彼女はまぁ、色々とやらかしてしまっているため、つまりは、そういうことである。

細菌は大分この世界の常識に馴染んできたのだが、それはそうとして新興宗教を勝手に起こそうとするのは勘弁していただきたいところだ。

 

そんなこんなで、海に行くメンバーが決まったのだった。

 

 

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「…八ッ!?」

「あ、起きた。」

 

そんなこんなでウィンの水着を見て尊死した後、ようやく意識が覚醒した。

 

「大丈夫?取り敢えず、もう少し日陰で休もっか。」

「俺は、確か―――。」

「熱中症で倒れたって事になってるよ。」

「…そうか…。ありがと、ウィン。」

 

頭が少しくらくらしている。

どうやら熱砂に頭を突っ込んでいた結果熱中症になってしまったようだ。

 

「全く、もう…。」

「悪かったって。」

 

既に日は高く昇っている。

どうやら、二時間ほど気を失っていたようだ。

 

「ところで、アウス達は…?」

「なんか"知り合い"っていう人たちが声を掛けてたけど…。」

「…それ、ナンパじゃね?しかも相当悪質な。」

「…え?」

 

互いに顔を見合わせるウィンと霊使。

二人の顔には明らかに焦りが生まれていた。

 

「…アウス達の居場所は分かるけど…!車でドナドナされてるぞコレェ!」

「急ごう、霊使!」

 

二人は人目の付かないへ行くと大急ぎでランリュウの背に跨る。

 

「去勢しないと…!」

 

霊使の静かなつぶやきは風に乗って消えていくのであった。

 

 

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「ねぇ俺らと一緒に遊ばない?」

 

霊使が熱中症で倒れた後の事、ウィンが霊使の看病に付きっ切りになっているときだった。

そんな声と共に、明らかにガラの悪そうな男たちが現れた。

今日が平日なせいか海で遊ぶには少し早い時間のせいか、近くに人はいない。

しかも、今のヒータ達は霊使が気絶中であるために精霊としての力をほとんど持たない。

 

「ほら、行こうよ!あっちでもっと楽しい事しようよ、な?」

 

故に、ヒータ達は抵抗すら許されず、複数人の男に連れ去られてしまった。

そしていま、猿轡をされた上で、海から遠くない廃ホテルの一室で縛られている。

既に日は赤色に染まっている。

どうやらここに連れ込まれられてからしばらくの間眠らされていたようだ。

目の前には下卑た笑みを浮かべる男が十数人いる事から自分達が眠らされている間に呼びに行ったであろうことは容易に予想できた。

 

「君たちはこれから俺達の相手をしてもらうわけだけど、いいよね?」

 

そう言いながらナイフ片手に男たちが近づいてくる。

そのナイフ先端がヒータ達の水着に触れた瞬間―――

 

「お前らァ!こんな所で何をしようとしている!?この場で死ぬか、ブタ箱に放り込まれるか、どちらか選べぇぇぇい!」

 

空から二人の鬼神が降って来た。

二人はナイフを持った男達を踏みつけてすぐに三人のもとに駆け付ける。

 

「ごめん!」

 

開口一番そういうあたり、相当自分たちの身を案じてくれていたのだろう。

そう思うとヒータは少しうれしくなる。

それはきっと、アウスもエリアも同じなはずだ。

 

「…誰、アンタ?」

「この子たちの連れだよ。」

「へぇ…?で、この子たちをどうするの?俺としては遊んでないおもちゃを返すみたいでいやだなぁ。」

「あ゛?」

 

おもちゃ。

今、目の前の男は自分達の事をおもちゃといったのか。

その事に対して、ヒータの怒りは一瞬で頂点を突き抜けた。

しかもその言葉に対して全員が怒りを抱いている。

 

「…テメェに朝日は拝ませねぇ。」

「…同じく。」

「面白いこと言うねぇ。でも俺達はナイフやスタンガンを持ってるんだ。二人で勝てるとでも?」

「二人じゃない。」

 

そういった瞬間固く閉ざしてあったはずの扉が蹴破られた。

 

「警察だ!」

「S-Forceです!」

「貴様らを!誘拐及び強姦未遂の現行犯で!」

「逮捕します!」

 

そこから現れる警官隊と何故かいる小夜丸含むS-Forceの面々。

彼らは警官でもある自らのマスターの指示で今、この場に立っている。

この町限定で警察と同様の権限を持つ精霊がS-Forceなのだ。

 

「…どうしてくれるんだよ。お楽しみはこれからだったってのに。」

 

警官隊によってヒータ達は保護されウィンをかこっていた男たちは瞬く間に手錠がかけられていく。

しかしながら少人数でしか部屋に入れなかったのか何人かはナイフやスタンガンで警官たちと戦闘を起こしていた。

そして目の前に居るのは誘拐の実行犯にしてヒータ達を攫った集団のリーダーらしき男。

男は霊使に対してナイフを突き出してくる。

 

「っと、危ない…!」

 

二度、三度と顔面目掛けて突き出されるナイフを体をひねらせることによって避けていく。

五突き目あたりでナイフを持つ手をはじき、男の体勢を崩すと、霊使は全力のとび膝蹴りをを放った。

その一撃は吸い込まれるようにして男の顔面に直撃する。

 

「あぐ…!」

 

最終的にバランスを崩した一瞬を付き、小夜丸が男を確保した。

しかし男は力いっぱい暴れ、抵抗を試みる。

しかし、その抵抗は小夜丸の腹パンにより、いとも容易く終わらせられた。

 

「小夜丸って強かったんだなぁ。」

「強くなかったらやっていけませんから。」

 

その言葉の端々が何処か死んでいて、彼女も相当苦労しているんだなと思ったのはまた別の話である。

 

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 

「息子が貴方の従妹に対して大変申し訳ないことをしました。」

「いいですよ、別に。出るとこ出てもいいんですね?」

「はい。あの子の罪は既に庇いきれるものじゃありません。」

 

その晩、警察に連行されたリーダーの親が家に謝罪にやって来た。

一瞬息子の刑を軽くしてくれなんて言われるかと思ったがそんな事はなかった。

むしろちゃんとした刑罰をかけて欲しいと懇願されてしまった。

 

その後リーダーの両親が帰ったところで、霊使い達全員に詰め寄られる。

 

「ありがとう、霊使。」

「大丈夫だったか?」

 

その言葉にこくりと頷くヒータ達。

その目は「不完全燃焼」であるということを如実に示していた。

 

「…また来週行くか?」

「いいの!?」

 

ヒータの弾けるような声に笑いが巻き起こる。

確かに今日の事はヒータにとってとても恐ろしい出来事だった。

しかし、霊使は自分達を見捨てることはなかった。

 

「でも、今はゆっくりと心を落ち着けるんだ。」

 

ここが自分達の居場所。

心地がいい。

そんな居場所を守るために、ヒータ達は新たな日々を過ごしていくのだった。




登場人物紹介

・四遊霊使
ウィンの水着を見て尊死

・ウィン
完全に霊使を悩殺しにかかってた。

・ヒータ、エリア、アウス
霊使が居なかったら多分ヤバいことになってた

・男


設定補足:精霊
決闘者と契約した精霊はマスターの許可がないと精霊としての力を行使できない。
これは誤ってマスターを傷つけないようにするためである。
ただし、契約を精霊側から打ち切ることは可能でこれが俗にいう「見限られる」世いうものである。

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