空から黒い髪を持つメイド服姿の女性が降って来た。
今、この状況を言い表すならばその一言しかありえない。
訳が分からないが、「そう」としか言いようがないのだ。
あり得ない状況であるはずなのに、その状況を飲み込めている自分が居る。
どうやらこういう非常識が当たり前になってしまったらしい。
「霊使!空からメイド服の女の子が!」
「まるで意味が分からんぞ!?」
「でも助けねーとマズイって!」
「そうだな…!ウィン!克喜!手伝ってくれ!」
とりあえず、地面に落下しては確実にヤバいことになるのでその前に空から降ってくるメイド服姿の女性を回収する。色々とうわさになっるかもしれないが人命救助が最優先だ。
「やぁッ!」
ウィンが風を巻き起こし、空から落ちて来る女性を霊使達の方に流す。
このままでは落下死という結末は変わらないので霊使と克喜は二人で受け止める準備をする。
もちろん、彼女の頭が当たっても即死しかねないので方向はウィンに調節してもらうしかないが。
「チェストォォ!」
妙な掛け声とともに二人がかりで女性を受け止める。
女性は長身で危うくバランスが崩れそうになってしまった。
が、それは気合で引き留める。
妙に現実感のある体重は彼女が今、その場にいるという事を如実に示していた。
空から落下しているときは気づかなかったが彼女には角と尻尾が生えていた。
しかも尻尾は硬い鱗に覆われていることから、それが龍の類の尻尾であるということが分かった。
「うう…。」
「…これ、明らかに訳アリですよね…?」
克喜に合流したハイネが地雷を見つけたかのような顔をしている。
ハイネが言ったとおりだ。
空から人が降ってくるなんて尋常ではない。
だから、彼女にこの世界の戸籍があるかどうかも謎だし、そもそもこの世界の存在なのかという事についても謎だ。
「…ここからなら、俺の家が近いから。…いったん戻ろうか。」
「俺達もついてくぜ。いいよな、ハイネ?」
巻き込まれ体質の霊使達と出会った彼女には何かしらの事情がある。
今までの付き合いの中で嫌というほど霊使の巻き込まれ体質を体験していたウィンにその事を何となくだが理解して、それを口に出すのはやめた。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
いつの間にか知らない場所で、知らない人たちに囲まれていた。
何を言ってるが分からないが、彼女にとってはそれが唯一の事実だった。
敵意のあるなしではなく、何処か分からない場所に連れ込まれた。
彼女にとってそれだけのことが警戒するにあたる行為なのだ。
「あ、気づいたみたいだよ、霊使。」
「あ、えーと…。俺は四遊霊使。貴方の名前は…?」
自分の名前。
そういわれて、思い返してみる。
「私は…、誰、ですか…?」
「…え?記憶喪失…?」
「…ええ、そうですね。貴方の言う記憶喪失なんでしょう、私は。」
自分が何者なのか、何一つ思い出せない。
そもそも自分に何があったのか、自分が何だったのかさえ覚えていない。
たくさんのどうしてが頭の中で渦を巻く。
思考の渦に嵌ってしまいそうになった時、大きな音が鳴って意識が現実へと引き戻された。
「…じゃ、ここで会ったのも何かの縁だ。何か分かるまで家にいると良い。」
「いいんですか?」
「ああ。何か分かったら教えてくれればそれでいい。もしかしたら記憶の手がかりになるかもしれないしね。」
「そう、ですか…。」
彼は自分の素性が一切分からない自分にも優しく接してくれる。
その立ち居振る舞いや言動からか今の彼が素なのだということは分かる。
だから、おとなしくその好意に身を委ねることにした。
「…それでは、よろしくお願いします。えーと…。」
「ああ。自己紹介がまだだったか…。えーと、俺は四遊霊使。君は…。」
「…お好きなようにお呼びください。」
「…メイドラさんでいい?」
安直な名前ではあるがなんとなくこの名前があっている気がした。
本名は違うだろうし、そもそも見た目の要素―――メイド服といかにもドラゴンな角と尻尾だけで決めたので本当に仮の名前なのだが。
「…分かりました。では、これから私の事は"メイドラ"とお呼びください。」
「よろしく、メイドラさん。」
ウィンはメイドラが握手するときに少し目を細めたのを見逃さなかった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
(さて…困りましたね。)
この家の住人と、霊使の友人と顔合わせをして、そのまま寝床へと通された。
与えられた部屋は掃除の行き届いている―――というか霊使の寝室その場所だった。
これは流石に不味いと申し出たのだが彼自身がリビングにベッドがあるからいいとそのまま彼女の部屋としたのだ。
これでは流石に頭が上がらない。
閑話休題
与えられた寝室でメイドラはこの先どうしようかと頭を悩ませていた。
それ以上に困ったことに視界のピントが合わない。
世界が霞んで見えてしまって不便なことこの上ない。
「メイドラさん…ちゃんと見えてますか?」
「いえ…って気づいていらしたのですか?ウィンさん。」
「うん。メイドラさん霊使と握手した時目を細めてたでしょ。何か視界が見えにくいのかなって思いまして。」
これは、驚いた。
まさか目があまりよくない事をあの一瞬で判別するとは。
この家にいる人たちは割と観察眼が鋭いようだ。
「というわけで、霊使に相談しましょう!」
「そこまで迷惑を掛けるわけには…。」
「…迷惑の一つや二つ掛けられなれてるから大丈夫ですって。」
ただでさえ、居候という形でこの家での霊使の寝床を奪ってしまったというのに。
更にその上に視界の相談などできるわけが無い。
「話は聞かせてもらった!」
「霊使さん!?」
だが、全ての会話を霊使に聞かれてしまっていた。
というかやけに行動が速いのはどうしてなのだろうか。
「というわけで眼鏡を買いにイクゾー!」
「なんで後半だけ微妙な活舌になっているんですか…?」
「まぁ、そういう反応しますよね…。一体どこで覚えてくるのやら…。」
とにもかくにもメイドラはウィンと霊使に引きずられるようにして何故か克喜の眼前に連れ出された。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「克喜、金払うから眼鏡をくれ。」
「よし来た。取り敢えず俺の家に行こうか、お客様。」
「え…?一体どういう…?」
「克喜の家さ、眼鏡屋なんだ。」
「え、そうだったの!?」
「なんで皆知らないんだよ!?」
「克喜の家に行ったことが無いから分からないよー!」
急にコントめいたやり取りが行われ混乱するばかりのメイドラ。
取りあえず激流に身を任せ、あれよあれよという間に克喜の家という場所までやって来た。
「…すごく…高級そうな眼鏡店なんですが…。」
「ああ、大丈夫大丈夫。支払いは全部
「ポイントでなぁ!」
「でも…。」
だが、どうしてもメイドラは眼鏡まで買ってもらおうとはしなかった。
しかし、霊使としても生活に不自由があっては困る。
ならば、と霊使はメイドラに交換条件を突きつけた。
「メイドラさんは何が出来そう?」
「教えていただければ…家事は一通り。」
「…分かった。じゃあ、交換条件だ。眼鏡買うから家事手伝って!」
「…分かりました。」
なんか長期的に見ればメイドラが非常に損しそうな取引。
だがメイドラにとってこの申し出は非常にありがたい物だった。
命を救われ、尚且つ目の不自由もある程度は緩和されるのだから。
「よし、とりあえず…予算はどれくらいだ?」
「これ位で。」
霊使、克喜に5枚の諭吉を渡す。
「分かった。さて、メイドラさんで良かったかな?」
その5枚の諭吉を握り、克喜はメイドラを眼鏡店の中へと引き入れていった。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
「おお。似合っているねぇ。」
彼女が選んだのはシンプルな黒いフレームの眼鏡。
克喜の家の眼鏡店にはある程度の度に対応したレンズなら置いてあるので、既製品で良いのなら即日に渡すこともできる。
今回はたまたま彼女の視力に合ったレンズがあったようだ。
「…良かった。よく見えます。」
「ソレは良かった。」
「ええ。」
鮮明になった世界をメイドラは見渡す。
これから先、ここで彼女は生きていく。
ここで一つでも多くの事を知れたら、きっと自分の正体も分かると信じて。
「改めて、よろしくお願いしますね、ご主人様?」
「え?」
「その呼び方だけはやめよう!?なっ?」
「でもご主人様はご主人様ですし…。」
「ああ、ダメだ!この呼び方が染みついちゃってる!?」
霊使宅に新しい同居人が増えた。
これから先、メイドラを含めた10人で過ごすことになる夏。
それはより混沌とした、でもとても楽しい夏になることだけは確かだった。
登場人物紹介
・四遊霊使
親方、空から女の子が!な場面に遭遇した。
人目が無いところかつ目立たない場所限定でウィンのランリュウの力を借りる。
・ウィン
風の操作ならお手の物。
目立たないところならランリュウに乗っていた
・九条克喜
親方空から女の子が!な場面に遭遇した。
彼の視力は1.8と超人レベル
・ハイネ
手芸店に布を買いに行ったところ、3人が付いてきた。
メイドラさんの事には完全に巻き込まれた形になった。
・メイドラ(仮名)
通称メイドラさん。
空から降って来た竜の角と尻尾らしきものを持つメイド服姿の女性。
記憶喪失になっている。
目が悪く、克喜の家で眼鏡を作ってもらった。
長身黒髪のメイド服…一体何キーなんだ…?
というわけでなんやかんやで一番票が多くなったドラゴンメイドと霊使達の物語が始まります。
ちなみに唯一のシリアスがバスター・ブレイダーなあたり私もギャグに飢えてるんですかねぇ…。
感想などお待ちしています。
それではまた次回!
水樹君のデッキ強化
-
ネクロス
-
リチュア