ロイと別れてから早一週間。
納涼祭の目玉である花火大会が改めて行われる日がやって来た。
「じゃ、ハスキーさん、霊使と二人で花火見て来るから―――そこで伸びてるエリアちゃんの事よろしくお願いしますね。」
「…はい。」
何故か伸びているエリアを横目にウィンは家を出る。
霊使も何があったかは把握しているので何も言わない。
言ってしまえばただの不幸な事故だ。
たまたま階段を歩いていたエリアの前にたまたま生きたゴキブリが現れてたまたま飛翔した。
ただそれだけ。
だが、ヒータ曰く「すっげぇキモいデザイン」のそれはエリアの精神に多大なダメージを与えるには十分だった。
いきなり目の前で虫が飛翔し始めたら誰だって驚くように。
死んでいると思われる蝉に近づいてみたらいきなり鳴きながら暴れだした時の衝撃が大きいように。
それと同じように目の前にいきなり現れたゴキブリがゴキブリが苦手な人物の前で飛翔したらどうなるか。
答えは簡単だ。
―――誰であろうと驚くだろう。
たとえそれが閃刀の使い手だろうと、魔女の工房の長だろうとも、風に関わる一族の長であろうとも、きっとこの世界を作った神様であろうとも。
驚いてひっくり返ってしまうに違いない。
つまりは、だ。
色々と理由を付けて考えてみたがどうやらエリアはゴキブリに奇襲されて階段からずっこけたという事だ。
エリアには合掌するとともに少しエリアが被害者で良かったとも感じている。
怪我をしたことに関しては心配なのだが、よっぽどの事じゃなければ死ぬことは無いらしい。
そう言っていたのはウィン自身だったのでエリアもそういう認識なのだろう。
「マスター…私は大丈夫だから、ウィンちゃんと花火大会に行ってあげて。」
「…大丈夫なんだな?」
「うん。ちょっと横になっていればすぐに良くなると思う。」
「…分かった。じゃあ、行ってくるよ。」
「楽しんできてね。」
「エリアはボク達が見張って―――じゃないや。看とくからさ。」
サラリと不穏な単語が聞こえたがそこはヒータ達を信じるとしよう。
ちなみにだがエリアがウィンとのデートとかにこっそり付いてきているのは把握している。
それに気づかなかったときは一晩中エリアにネタにされたものだ。
「…だけど本当にいいのか?今日の花火は皆楽しみにしていただろ?」
「あー…それは、だね。…二階のベランダから見えるんだな、これが。」
「えっ…。」
サラリとヒータが言ってのけるとんでもない現実。
言われてみれば、だが、ここは郊外で視界を遮るような大きな建物もない。
「というわけで、行ってきなよ。ウィンとイチャイチャしてきなって。」
「~~~~~ッ!!!???」
ヒータからの不意打ちに思わず息が詰まってしまう。
なんというか、こうはっきりと言われると恥ずかしくなってしまう。
霊使は逃げるようにして玄関から飛び出していった。
「ようやく行ったみたいだね…。」
「うん。では、私達も花火見物兼出歯亀しようか!」
「…ウィン達には悪いけどね。マスカレーナさんに頼んで
「よし、行こ―!」
そうして三人はライナとダルク、それにクルヌギアス、マスカレーナ、そしてハスキーの待つベランダへと向かったのであった。
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「熱いね、霊使。…エリアちゃんは大丈夫そうだった?」
「ああ。」
なんとなくだが感じた「何かを企んでいる」雰囲気の事は黙っておこうと霊使は思った。
そんな事を言ったら多分ウィンが大急ぎで家に戻って家を更地にすることだろう。
「急がないと始まっちゃうよ!」
「一番近い場所は―――あそこの高台か―――。」
「ああ。街を一望できるあそこかぁ。」
「ごった返していなきゃいいんだけど。」
霊使の家の近くにはちょっとした丘がある。
河原で打ち上げられる花火はその丘から見ると遮るものがないためとてもきれいに見えるのだ。
しかも、打ち上げ場所から少し離れているためそんなに人もいない。
花火を見るという事に関しては恐らく最も適した場所であるということは疑いようが無かった。
「…ついたな。」
「うん。」
しかもその場所はおあつらえ向きにベンチがある。
いかにも座ってくださいと言わんばかりの丁度二人で座れるようなベンチだ。
「…失礼して、と。」
霊使はベンチにゆっくりと腰を下ろす。
その膝の上にちょこんと、ウィンが腰かけた。
「ッ!?」
ウィンの思いがけない行動で霊使の思考回路はショート寸前に。
服越しとはいえウィンの柔らかい感触が霊使の理性をを少しずつとろかしていく。
このままでは非常に不味いことになりそうな霊使は思わず顔を真っ赤にして叫んだ。
「な、ななななッ…何をやってるんだウィン!?」
「…霊使は嫌なの?」
これが惚れた弱みというやつなのだろうか。
ぶっちゃけ嫌かどうかと言われれば嫌ではない。
むしろもっとやってほしい。
だが。同時にこの行為はすさまじく恥ずかしい物だと理性が叫ぶ。
もしこれを誰かに見られたら恥ずかしさで首を斬る自信が霊使にはある。
それでも、ウィンの温もりを全身で感じられるこの距離感を霊使は嫌ってはいなかった。
「…嫌じゃないけどさ。」
「…それは良かった。続けてもいいってことだもんね。」
「…好きにしてくれ。」
だから、ウィンのこの行為を霊使は黙認するしかない。
ただ―――
「花火が見えないからちょっとだけ体を動かしてくれ。」
「ん。」
ウィンの髪の匂いを嗅ぎそうになってウィンに体の位置をずらしてもらったのは霊使だけの秘密だ。
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ウィンは霊使がベンチに座ったのを見計らって霊使の膝の上に座った。
別に深いわけがあったわけでは無い。
ただ誰よりも霊使の近くに居たかっただけ。
そして、霊使の温もりを独り占めしたかっただけなのだ。
だから、その行為は、ウィンにとっては至極当然の行動だった。
その行動がどれだけ霊使にダメージを与えるかを知らずに。
だがどうやら花火が見えなくなっていたようで霊使の願いに従って体を少しずらした。正直に言うと霊使には自分だけを見ていて欲しかったのでウィンは少し切ない気分になったのだが。
そんなことを考えていると少し空気が振るえるような感じと共に空に炎の華が咲いた。
「綺麗だね。」
「…そうだな。」
二人は夜空に咲く華を見ながらそう呟く。
花火というのは儚い物だと霊使は言っていた。
空に咲く花その命を一瞬で燃やし尽くす。
それが花開く一瞬が花火の最盛期なのだ、と。
だが、ウィンはそうは思わない。
何故なら、この花火はウィンの中に強烈な思い出として残ったから。
確かに、花火はその命を一瞬で燃やし尽くすのだろう。別にそこに異論を挟む理由はない。
だが。
ウィンの記憶の中に思い出として残った花火は思い出す度にその命を燃やすのだ。
真に人が死ぬのはその人が忘れ去られた時のように。
花開いては消えていく花火もまたウィンの思い出の中でいつでも花開く。
きっとそれは霊使や皆と過ごした今までの日々が輝いているように。
「この花火のように…」
「…?どうした、ウィン?」
「何でもないよ。」
どうやら思いが口から飛び出してしまったようだ。
ウィンは霊使の胸に手を当てた。
(―――暖かい。)
この温もりを忘れぬようにもう一度空を見上げる。
空には今も大輪の花が咲いている。
願わくはこれから霊使や皆と作る思い出がこの花火のように思い出の中でも輝けるようなもにになれますように。
空に咲く花火を見上げてウィンはそう願った。
登場人物紹介
・霊使とウィン
花火を見上げていた。
という訳で後一話で夏休み編終わります
水樹君のデッキ強化
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