目玉である花火大会は昨日終わりを告げた。
だが、別に納涼祭その物が終わったわけでは無い。
二日目は近所の子供たちが練習したダンスや近所の人たちを集めたオリエンテーション―――という名のカラオケ大会も開催される。
そうしたイベントに惹かれてかまだ出店も出ている。
花火こそ上がらないが、それでも浴衣を着るには申し分ないだろう。
ちなみに浴衣を着たウィンは浴衣を着たヒータとアウスに手を取られて先に行ってしまった。
ライナとダルクは先に家を出ている。もちろん彼らも浴衣に着替えている。ちなみに浴衣のデザインに関しては全員同じだ。
ちなみにだが、クルヌギアスとマスカレーナ、それにハスキーに至ってはここで小銭稼ぎという名の出店を行っているらしい。
それが何なのかよく分からないが、あまりいい気がしないのは気のせいだろうか。
なにはともあれ、浴衣姿のエリアと二人きりになったのだが、霊使はとくにやることもなく、エリアと二人で祭りをぶらついていた。
「…やっぱ混んでいるね。」
「やっぱそう?」
二日目であるがやはり人は多い。
思わずエリアがそう漏らす。確かに二日目の祭りとしては非常に人数が多い。
『―――これ、ミ――スとかも―――のか!?』
「ん…?この声…。」
そんな中、エリアは目ざとく―――というか耳聡く一つの店を見つけた。
どうやらそこではちょっとした口論が起きているようだ。
「だーかーらー!その伏せカードは"ミラフォ"だっつってんだろ!?」
「伏せカードが変わっていないか確かめただけだもん!」
どうやらライナとダルクが何かしらのゲームに参加しているようだ。
話の内容から察するに伏せカードに"ミラフォ"―――もとい"聖なるバリア ミラーフォース"があり、それをいかにして突破するかという内容の詰め
「やあ。二人ともなにやってるのー?」
「うおっ、びっくりしたー…エリアさんか。これは―――」
「詰め決闘!」
エリアはふむ、と顎に手を当てて考える。
自分の盤面には伏せカードが二枚―――、"レッド・リブート"。そして"神の警告"。手札には"ツインツイスター"と"ブラッド・ヴォルス"の二枚。場には"青眼の白龍"がいる。
そして、相手フィールドには"白金の城のラビュリンス"と""に伏せカードが三枚。その内一枚ははっきりと判明している"ミラーフォース"。もう二枚は謎のカード。
「…うーん。取り敢えず二人はあれかな?"ミラフォ"を破壊できなかったのかな?」
(割と簡単だと思うんだけどなぁ…。)
「はい…。」
「うん…。」
どうやらデュエルモンスターズの精霊と言ってもデュエルタクティクスが高いわけでは無いらしい。
そんな事を思いながら霊使は答えが分かっているであろうエリア目配せした。
エリアは不敵な笑みを浮かべると100円の挑戦料を支払いテーブルの前の椅子に座った。
「じゃあ、やってみますか!」
「お、挑戦するのかい?」
ちょっとした人だかりに見守られる中、この詰め
「っかぁ~!完敗だァ…!」
「もう少し難しくても良かったかなぁ…。」
物の数分で全ての賭け決闘を解いてしまった。
普段がおっさん臭いエリアなだけに正直に言って予想外だった。
霊使は少しエリアの事を見くびっていたのかもしれない。
自分の相棒の意外な一面に驚きつつ、霊使とエリアはその場を発った。
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「なんだあそこ…」
「凄い人だかり…。」
エリアと霊使は既にちょっとした人だかりができている所へと向かった。
そこでは射的が行われているようだったが―――
「ウィンちゃん、何やってるのさ…。」
「1000円で景品をなるべく落とすチャレンジ。」
「何やってんだぁぁぁああぁぁあ!?」
どうやらウィンが風の力を悪用して射的で荒稼ぎしているらしい。
その行為には思わず霊使も突っ込まざるを得なかった。
「ウィンさぁ…あのさぁ…。」
「だって店主がどんな手段でも使っていいっていうからさぁ」
「だからって精霊の力は不味いだろ…?」
「…そう…、なのかな…?」
「そうだよ。」
「うん、マスターの言う通りだね。残当。」
エリアでさえ額に手を当てて首を振る始末。
ウィンは割とフリーダムだという事を改めて知った。
「そういえば…ヒータとアウスは…?」
「射的で真っ白に燃え尽きた。」
そう思って周囲を見渡してみれば縁石に座って項垂れている二人の姿が。
お小遣いとして3000円ほど渡したがまさか全部使い果たした―――なんてことはないはずだ。きっとショックを受けているだけ。そう思って二人に近づいてみると―――
「最悪だ…。」
「まさか射的で全額使っちゃうなんて…。」
ウィンの言う通り、意気消沈していた。
ヒータに至っては完全に表情が死んでいる。
その姿を見て、思わず吹き出しそうになってしまったのは内緒だ。
「…何をしたんだ、二人とも?」
ちょっとしたいたずら心が霊使に芽生えて、つい怒っているような声を出してしまった。
思わずエリアは吹き出しそうになってしまう。
「射的で全額使いこみました…。」
「原因は…?」
「熱くなりすぎたからです…。」
「景品はどれだけ取った?」
「カード一枚ずつ…。」
「ちなみに景品のカードは?」
「ボクはモリンフェン…。」
「私はシーホースでした…。」
あっちゃー、と頭を抱える霊使。
モリンフェンやシーホース。これらはデュエルモンスターズの初期中の初期に作られたカードなため余りにも性能が低い。そのせいで若干ネタにされがちな不遇で不運なカードたちである。
しかも霊使は30枚ほどこのカードたちを持っているわけで。
しかもそのことはヒータもアウスもよく知っているため、ここまで凹んでいるというわけだ。別にカードそのものを否定するわけでは無いが、今の霊使達にとっては持っていても困るカードたち。それがモリンフェンとシーホースである。
(まぁ、シーホース使ってスタダ破壊して墓地封じからのダイレクトアタックはさすがに吹いたけど。)
(!!??)
(嘘でしょう…?)
「…元気出たか?」
「勿論。」
「はい。」
霊使の言葉に思わず吹き出しそうになってしまった二人。
気づけばヒータもアウスもすっかり元通り。
「ほれ、2000円。次は無駄遣いすんなよなー。」
「ええ。」
「取り敢えずボク達はウィンを止めてから行くよ。―――珍しい二人だ。楽しんできてね。」
そう言ってヒータ達は射的の屋台で大暴れするウィンを捕まえに行った。
「行こっか。」
「…そうだな。」
そう笑顔で語り掛けて来るエリア。
だが、月明かりに照らされたエリアの顔は何処か翳っているようにも見えた。
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「あそこに居るのは…。」
「三人だな。クルヌギアスと、ハスキーさんとマスカレーナ。そもそも屋台でコスプレってどういうことだってばよ。」
「そうやって聞くと訳が分からないよね…。」
どうやらあそこではマスカレーナたちがコスプレという名のメイド屋台を行っているらしい。ほとんどが男性客だがごくまれに女性客も訪れるようだ。
その客たちはとろんとした目で「お姉さま」と口に出している。
「大丈夫なのか…、この国は…。」
「何処をどうしたらそんな感じになるの!?」
心配する規模が違いすぎるんじゃないかなぁと苦笑しながら突っ込むエリア。
確かにハスキーやクルヌギアスは素で良い性格しているし、マスカレーナなら仕事上そういう性格の人物を演じることだってあるだろう。だからというか、なんというか。
彼女たちのファンになる女性たちが多いのも仕方ない事なのだろう。
「さて、と。たよりになるお姉さまたち、稼ぎはどうだい?」
「
基本的には外では名前呼びになる二人。
ある意味では友人としてこれ以上ない距離感なのかもしれない。
「ぼちぼち…ねぇ。」
「…ま、ある程度のもうけは食事代として露に消えるからな。」
「その割には金庫から売上が溢れだしているようだけれど?」
「む。流石エリアだ。…だがなぁあれは売り上げというよりかは―――」
クルヌギアスは複雑そうな顔をして屋台の方を見る。
そこには執事服を纏ったマスカレーナと、黄色い歓声を上げる女性たちが居た。
「ああいう者たちがな。ここを
「言い方は悪いけれど―――貢いでくれてるってこと?」
「…訳が分からない、とはまさにこの事。さすがの
「誰だってそーなるでしょ、それは。」
とまぁおそらくだがとんでもない額を稼いでいるクルヌギアス達。
割と問題行動ばかり起こしているフリーダムな精霊たちの様子を眺めながらエリアと共に祭りの会場を去るのだった。
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「楽しかったねー…。」
「ああ。」
二人で並んで河川敷を歩く。
そういえば今日、エリアと二人っきりになったが他の子達とはこういう時間を過ごせていただろうか。
「今日は付き合ってくれてありがとね、マスター。」
「ま、成り行きだし―――余り、エリア達と二人きりで行動してこなかったしな。」
「自覚はあったんだ。」
「恥ずかしいことに。」
その問の答えは否だ。
もしかしたら自分がウィンばかりにかまけていたせいで彼女たちが寂しい思いをしているかもしれない。
そう考えると何か不甲斐なくなった。
「…ね、マスター…いや、霊使。少し話そ?」
「ん?ああ。そうだな。」
そう言って霊使は河川敷に寝転がる。
その隣にエリアは腰を下ろした。
月明かりに照らされたエリアの顔にはやはり少し翳りと―――ほんの少しの迷いがあった。
「本当にこういう機会は初めてだね。二人っきりになるなんてさ。」
「確かに。いつもは大体誰かがいるもんな。」
「特に、霊使とウィンちゃんはべったりだしね。」
「そんなべったりしているかな…?」
「してるよ。」
「そっかー…。」
その言葉を聞いて口元をほころばせるエリア。
彼女の青い髪は月の光によく映えた。
思ってみればエリアも相当な美少女の部類に入るのだろう。
そんな彼女の顔は気が付けば何かを覚悟した顔に変わった。心なしか顔も赤い気がする。
「私ね。実は―――霊使の事、好きになっちゃったみたい。」
「…へー…。…え?ワンモアプリーズ?」
「だから霊使の事が好きなんだって。」
「ホワイ?」
なんというか今まで生きてきた中で一番の衝撃だ。
いや、本当にどうしてか。
彼女たちに好かれるようなことをした覚えは一切ないのだが。
「…なんでって顔してるね。正直ね。
「な、なんでぇ?」
「…私達ってさ。カードパワー低いじゃん。」
ぼそりとエリアは呟いた。
カードパワーが低いという事を自覚している事。それはつまり自分達が弱いという事を自分達で認めてしまっているという事を示す。
「だから前の持ち主には捨てられた訳で。」
「…俺がそうするって思わなかったのか?」
「うん、思わなかった。最初、ウィンちゃんが外道に口では言えないような事をやられそうになってたでしょ?」
あのとき、外道がウィンに向けていた視線。
それはエリアの言う通り欲望を満たすための道具としてしか見て無かった。
それで、自分は心の底から怒ったのだ。
「私達はね。そう言う風に見られてきた。自分で言うのもなんだけど結構かわいい方だし。というか
「でも、それだけじゃないんだろ。」
霊使はこの発言の裏にあるエリアの本心を分かっていた。
だからその続きを言うようにエリアに促す。
「うん。貴方はどんな時でも私達を見捨てなかった。私達の事を忘れてしまっても。また戻ってきてくれた。どんな時でも私達に力をくれた。」
エリアは語る。
これまでの霊使の戦いを間近でみていたからこそ。
これまでの苦難や苦悩、挫折を知っているからこそ。
それらを乗り越えて前に進んだ姿を最も近くで見て来たからこそ。
「そんなの―――好きになっちゃうじゃん。」
だから好きになった。
別にウィンや霊使の思いを踏みにじりたいわけじゃない。
でも、それでも。
この一言を霊使に伝えたかった。
「この恋は叶わないし、二人の間に気持ちには敵わないかもしれなけど、でも、伝えたかったんだ。」
「…そうか。エリアがそういうふうに思ってくれているんなら俺は嬉しい。でも―――」
霊使にとってエリアが自分に対して好意を抱いているという事実は喜ばしい物だった。
それでもエリアの気持ちに霊使は応える術を持たない。
それに、もう心に決まっている相手がいるからこそ、二人に対して誠実でなければならないと霊使は考える。
だからエリアの気持ちには自分の気持ちで答えていかなければならない。
「やっぱりエリアの気持ちには答えられないかな。」
「だよね。理由を聞いても?」
そう言いながらエリアは苦笑した。
エリア自身この結末を予想していたから、そんなに衝撃は無かった。
応えてくれたら応えてくれたで喜ばしい物ではあったが。
「俺は、エリア達と会う前からウィンと一緒に居たんだ。家庭環境はお世辞にも良いとは言えない―――むしろ最悪な方だったと思うけれど。それでもウィンが居てくれたから今の俺があると信じてるんだ。それに何よりも。俺はエリアのことをどっちかって言うと親妹っぽく思ってたんだよな。」
「い、妹…。」
「だから、ウィンとはまた違った感情を抱いているんだと思う。これは、親愛みたいな恋愛感情じゃなくて、なんていうの?友愛みたいな―――悪友じゃなくて。親友って感じなのかなぁ。」
霊使はエリアに対する感情を上手く言葉に言い表すことができないようで言葉に詰まっている。
でも大体の理由はエリアは察した。
つまるところ、霊使はエリア達と友人みたいな感覚で接していたのである。
なんというか、霊使らしいというか。
でもそんなところも愛おしい。
きっとこういう所を含めて「四遊霊使」という人間を好きになったから。
「帰ろうか、霊使。」
「…そうだな。エリア。」
二人の隣でこれからも歩んでいきたい。
そんな願いを込めてエリアは霊使の隣を歩く。
きっと二人の間には霊使とウィンの間にあるものとはまた違う何かがあるのだろう。
エリアと霊使の奇妙な関係はこれからもきっと続いていく。
二人の道のりはこの月明かりがてらす道のように明るい物になる。
そう確信して、エリアは霊使の手を取った。
「大好き、だよ。霊使。」
その声は夏にしては少し冷たい風にさらわれて、星空へと消えていった。
登場人物紹介
・四遊霊使
ウィン一筋。
何があってもウィン一筋
・エリア
実は霊使ガチ恋勢。
でも霊使の気持ちも分かっているから無理強いはしない。
「前回、この話で夏休み編が終わるといったな。」
「あれは嘘だ。」
といってもこの話がやりたくて夏休み編を始めたようなものなんですよ。
というわけで後はダイジェストですかね。夏。
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