ウィンが飛び込んできたその日の深夜。
ウィンの掴んだ情報をもとに早速、四遊霊使達はウィンダ達が囚われている場所に殴り込んでいた。
そこはぱっと見ただの建設現場のようだが、あからさまに怪しい地下への入り口もあった。
と言ってもこの工事現場で働いている大概の人は今回の件に何一つかかわっていない。故に工事現場、ひいてはその地下空間への潜入は誰にも気づかれないようにしなければならない。
正直に言ってしまえばそれは大した難易度ではないのだ。
だって、エリアルの術があれば存在感など簡単に消せるからだ。本人曰く
「―――長続きはしないけど。」
というようにどうやら持続性はないらしい。
この術は持って五分。その後はもうどうしようもない。
正面から乗り込んで速攻で制圧するしかない。
そうエリアルは言っていた。
だからとっとと乗り込んで制圧しなければならない。
「…地下か…。あまりいい思い出は無いんだよね。」
地下に向かうにあたって霊使は思わずぼやいていた。
そのボヤキを弱音と受け取ったかどうかは分からないがエリアルは少し顔を歪めて聞いてきた。
「何があったの?」
「いや、俺さ。四道の出身なんだよ。―――で、あそこって決闘至上主義だもんでさ。俺、大した成績残せずに―――」
「地下牢か何かににぶち込まれてた?」
「…思い出したくはないけどな。」
エリアルの問に間髪置かずにはきはきと答える霊使。それが真実であると知っているウィンは思い当たる節があるかのように頷き、奈楽、フレシア、水樹の三人はそのえげつなさに思わず顔を逸らした。
エリアルはというと――――
「一時期の―――ガスタと戦争をやってた頃のリチュアよりも酷いね…。」
「エリアルはぶち込まれたことが?」
「あるわけないじゃん。僕は一応ガスタ侵攻の主力メンバーだったわけだしさ。」
苦い顔をしながらエリアルはそうぶっちゃけた。
エリアルの言葉がどれだけ重い物であるかを知らない人間はここに居ない。
何故なら知っているからだ。エリアル属するリチュアと―――ウィンダ属するガスタの間で起こった戦争を。
その戦争の中で、彼女は多分、多くのガスタの戦士の命を奪った。それはきっと殺し殺されの戦場の中で彼女が生き残るためにとった行動だったのかもしれない。だが、それはウィンダにとって到底許しがたい行為だったはずだ。でもそれはウィンダも同じ事。ウィンダだって元々が少数とはいえ多くのリチュアの民を傷つけた。
それでもエリアルはウィンダのことを「トモダチ」と呼んだ。
その言葉にどんな思いが込められているか―――それを分からないほど、ここに居る全員は馬鹿ではない。だから、彼女の言葉に何も返す事が出来なかった。
「…ま、僕は地下牢なんかに入ったことは無いよ。でも―――」
「僕はぶち込まれたよね。エミリアと―――アバンスに。」
重い雰囲気になってしまった話を強引に軌道修正したエリアル。
だが、ある意味ではそれは不正解な行動だったともいえるだろう。
何故ならとんでもない発言が水樹から飛び出したからである。
「どういうことですか!?」
思わずそれに突っ込みを入れてしまったフレシアは何一つ悪くないと思う。
まるで意味が分からないのはここに居るほとんどの人間がそうだっただろうから。
地下に降りていく階段を下りながら水樹はぼやく。
「僕はさ、エリアルが『試したいことがある』って言われてリチュアの里に無理矢理連行されたんですよ。で、戦争真っ只中なわけじゃない?」
「あっ…。」
奈楽は全てを察したように声を漏らした。流石に戦争中に外から人を連れてきたらどうなるのか―――。
その事をすっかり忘れていたエリアルはリチュアの里に水樹を案内してしまったのだ。
エリアル曰くただでさえ戦争中のリチュアは排他的かつ利己的な所があった。
そんなところによそ者を突っ込むとどうなるかなどは火を見るよりも明らかだ。
「僕さ、スパイかなんかに間違えられて地下牢に『シュゥゥゥッ!超エキサイティン!』くらいの勢いでぶち込まれたんだよね。」
「また古いネタを…。」
「何かとんでもない勢いで突っ込まれたんですね…。」
「…その件に関しては完全に僕が悪いから何も言えないんだけどね。」
『シュゥゥゥッ!超エキサイティン!』くらいの勢いとは一体どれくらいの勢いだったのだろうか。フレシアは激しく気になってしまう。一方のウィンはエリアルの擁護できないレベルのやらかしに思わず頭を抱えていた。おまけに水樹が使うネタが余りにも古くて奈楽あたりに伝わっているのかさえも怪しいことも理解している。
「いやー大変だったよ。最終的には戦争を止めるための協力者という口実で出してもらえるまでずっとエリアルに謝られっぱなしだったし。」
「流石に僕のミスなんだから謝るよ。」
どうやその大ポカは未だにエリアルの中で尾を引いているらしい。
知的なエリアルがそんな予想外の所でポンコツだったとは思いもせずに、少しだけ衝撃を受けた。
と、エリアルがそんな大ポカをやってしまったと知ると、とたんに一つ、不安になるものが出て来る。
そう、今現在使用しているエリアル謹製の隠形術の効果だ。
もしかしたら見えているのかもしれない―――なんてことを考えつつ振り向けば、そこには入った時と何も変わらない月が浮かんでいた。地上の様子から察するに何一つばれていないようだ。
「ま、行くしかないよな。」
「そうだね…。気楽に行こうか。」
「僕は水樹のその暢気さが少し羨ましいよ。」
突入前とは思えない緩さで進んでいく霊使達。
階段を下り終えると、大広間と、その先にある三つの扉を見つけた。
大広間にはモニターがある。
そのモニターが光を発して映像と音声を流し始めた。
『やあ。四遊霊使君と二重原水樹君だね。私は星神創。多分君達と一緒に乗り込んできたであろう奈楽の父親さ。モニター越しで悪いけれど、私の所に用があるんだろう?ならその扉に入ってくれたまえ。ちょうど三人だからね、一人一つってことで頼むよ。あ、この映像はこちらから流しているけど、君たちの声は聞こえない仕様になっているんだ。―――でも、一応。君たちのご友人は無事だと伝えておくよ。一息に喋ってしまってすまないね。来るがいい、若人よ。君たちの輝きを見せてもらうよ。』
一方的にしゃべり倒して、創は通信を切ってしまう。
その場には沈黙だけが残った。
「行こう。」
そう切り出したのは誰だったか。それでもその言葉に込められた強い思いは感じ取れた。
「大丈夫。この扉の先は繋がってる。そこで落ち合おう。」
ウィンのその言葉で三人全員が扉の前に立つ。
右の扉には水樹が。左の扉には奈楽が。そして中央の扉には霊使が。これから始まるのは友人を救うための蹂躙劇だ。立ち塞がるものは、穴に落ちて、膾斬りにされて、最終的は消滅してしまうだろう。
「…いざ。やらいでか!」
「台無しィ!」
霊使のなんとも気の抜ける掛け声にエリアルがツッコミを入れて、本格的な救出作戦が始まった。
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話は少し巻き戻る。
霊使達が突入したその時、星神創と風見颯人は対峙していた。
が、互いの間に流れる空気は争いとはまた違ったもの。それは恐らく颯人の困惑の物なのだろう。
「新しい世界…だと?」
「ああ。」
それはどんなものか―――搾れるだけ情報を搾っておきたい。そう結論付けた颯人は警戒しながらも話を聞く姿勢を見せた。それはある意味で正解だったのだろう。創は満足気に頷くと手で視線を誘導する。そこにはいかにも高級そうなソファが二つ、向かい合うように置いてあった。その間にはちょっとしたテーブルが置かれている。
「ガスタの巫女様もどうぞ?」
「…怪しい物はないみたいだね。それにやっぱりワタシの事―――。」
「それくらいは調べてあるさ。」
そう言いながら颯人、ウィンダ両名は創と向かい合うように座る。
ソファに腰掛けたウィンダは目線で創に話の続きを促した。それに気づいたのか彼はコーヒーを淹れている手を止めてこちらを見た。
「話の続きはゆっくりとしよう。」
「…ま、いいだろう。」
彼がコーヒーを淹れたマグカップを差し出す。そして彼自身がコーヒーを飲んで毒が入っていない事を示して見せた。
「…流石に客人に毒を差し出すわけにはいかないだろう?」
「ほとんど拉致同然の荒いご招待のされ方だったがな。」
「それは失礼した。」
空気が重い。
空間にひびが入っているように見紛うが、それはあくまでそんな感覚でしかない。
「改めて聞いて欲しい。―――私はこの世からデュエルモンスターズを消し去るべきではないかと考えている。」
「何?」
「え…?」
そんな中、創の発した言葉が、辺り一帯を重々しく支配した。
ウィンダの思考の混乱は加速するばかりだ。今、何と言ったのだろうか。デュエルモンスターズを―――自分達の存在意義を消すといったのか。
気付けばウィンダは無意識的に創を押し倒していた。
「風見君、君は気づいているんだろう?この世界の歪みに。」
それでもかまわず、創は話を続ける、少しづつ思考も冷えてきた今となっても目の前の男が何を言っているのかウィンダにはさっぱり理解できない。
「この世界の歪みか。―――とっくに気づいているさ。」
「颯人!?何を言ってるの!?歪みなんて―――」
デュエルモンスターズの精霊であるウィンダには絶対に気づけなかったであろうその歪み。だが、颯人は―――ただの人間である颯人にはその歪みが嫌というほど分かっていた。
きっと他の皆もその歪みに気づいてはいるのだろうが―――見てみぬふりをしているのだと思う。何故なら、その歪みは、余りにも当然のように社会に溶け込んでいて、今ではすっかり社会が容認してしまっているから。
だからウィンダには、その考えに至るようになった経緯を踏まえながら説明するように、創の問に答えた。
「俺達はみんなできることが違う。特異な事もな。―――それでも、俺達の社会の中心は頭がいい奴でも運動が出来る奴でもない。会社だって仕事が上手い奴が出世できるわけじゃない。もちろん給料だってそうだ。全てが
「え―――?」
ここまで来て、ウィンダもその歪みに気づき始める。
ウィンダは族長であるウィンダールから「上下関係の構築には信賞必罰が必要」であることを教わった。仕事が出来るものにはそれなりの報酬を与え、逆に失敗した者には罰を与える。
そうすることで他人との信頼関係を築けるのだと。
「勿論、汚職だって決闘が強ければ無かったことになるし、どんな犯罪も看守を決闘で倒してしまえば実質無罪。―――この世界は決闘が強い奴だけが全てを手に入れられるんだ。」
「そんなのって―――。」
いくら精霊であるウィンダでもその答えは想像したくないものだった。それは力あるものが力なきものから搾取する―――ディストピア。
そんな歪んだ世界の中心にあるもの―――それが
「この世界の歪みは―――
ウィンダはその事実に何も答える事が出来なかった。
登場人物紹介
・四遊霊使
地下牢にぶち込まれてた人。全部四道が悪い
・星神奈落
「超エキサイティン?なにそれ?」
・二重原水樹
地下牢にぶち込まれてた人。これも全部エミリアとアバンスが悪い
・エリアル
同僚がごめんね…。
・星神創
この世界の歪みを消そうとしている。
・風見颯人
歪みには気づいていた
・ウィンダ
人並みの思考能力に加え価値観が人間よりだったために完全にこの世界の歪みを理解してしまった
後半に衝撃の真実をぶっこみました。
アンチ・ヘイトタグ付けた方がいいのかな…。
感想、評価お待ちしています。
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