「相棒」   作:ダンちゃん1号

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(ゆが)みと(ひず)

 

「この世界の歪みは―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

「―――え?」

 

淡々と颯人が告げる事実を聞いて思考が固まってしまうウィンダ。それだけ、颯人が何を言っているか分からなかった。否、分かっていたけれど脳が理解を拒んでいるような感じだ。取り敢えず理解できない―――を通り越している気がする。それでも自身の存在意義である()()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()。―――その事実が重くのしかかってしまう。

ウィンはその事を分かっていてなお、霊使の傍にいる事を選んだのだろうか。もし、そうならばウィンは強い。物凄く強い。だって、自分では同じ事に気づいて―――それで、颯人の隣に立てる自信なんて無い。それでもウィンは霊使の隣に立っている。自分はその答えですらまともに出せないというのに。

 

「そう。この世界は全てを決闘で決めている。霊使君や―――ウィンダ君と出会う前の君がそうだっただろう?」

「ああ。この世界では弱者は虐げられて搾取されるしかない。」

「そしてそれは―――人間らしい生活を送ることができなくなるという事でもある。」

 

決闘だけで社会が動くのなら苦労はしない。

決闘だけで納得できる世の中ならだれも苦しまない。

だが、現にこの社会では弱者であるがゆえに藻掻き足掻く者がいる。搾取される側に回るまいと周囲の人間を蹴落とす人間たちがいる。だから、この世界は歪んでいて、この世界の中心がデュエルモンスターズであるからこそ、この世界の歪みはデュエルモンスターズとそれをプレイする人々―――決闘者(デュエリスト)そのものなのだ。

では、世界の歪みを消すにはどうしたらいいのだろうか。

それも簡単だ。それこそ星神創が言っていたように、この世から歪みを―――デュエルモンスターズを消してしまえばいい。

 

「だから、か。この世界の歪みを消すために―――」

「ああ。創星神の力を欲した。」

 

そう宣言する創は、この世から歪みを消すという義憤に燃えている目を向けて、再度颯人に同じ問いかけをした。

「新しい世界を作らないか」と―――。

 

「…少し待て。創星神の復活にはガスタの巫女が必要なはずだ。―――それはつまり、創星神の影響を真っ先に受けるという事になる。」

「…そうなるね。でも、それは避けようのない犠牲なんだよね。」

「つまり、ウィンダに()()()()()()()()()()()と?」

「…そう受け取ってもらって構わない。」

 

それは暗にウィンダに犠牲になれと言っているのと同じだ。

確かに今の社会構造には問題しかないのは事実だろう。現に霊使みたいにどん底から這い上がった人間を見たことはほとんどない。

霊使だってウィン達との出会いが無ければ堕ちる所まで堕ちてしまっていたはずだ。逆に今、彼が人並みの生活を送っていられるのは霊使い達との出会いがあったからだともいえる。

それは()()()()()()()()()()()でなければどん底から這い上がり―――人間らしい生活を送れるようになることができないというのと同義だ。

だから、そんな歪みを取り除くために―――ウィンダに犠牲になれと目の前の男は言っている。

 

「―――ふざけるなよ。」

「それが、君の答えか。―――残念だよ。」

「別に『歪みを消す』ことを否定したわけじゃない。『歪みを消すための犠牲』にイラついただけだ。―――本当にウィンダを犠牲にするしか方法はないのか?それこそ政府のお偉い方に言うとか―――」

「そのお偉い方は全員決闘だけで選ばれたようなものなのさ…。だから消すしかないんだ。」

「だからって犠牲を払えるか!全員で生きて!そしてこの問題に立ち向かわないと意味がないだろうが!」

 

気付けば颯人は叫んでいた。

創にマウントをとっているウィンダが仰け反る位の大声を上げていた。

 

「そんな事が出来たらとっくにやっている。」

「―――ッ!」

「でも、お上は聞く耳持たず。そしていつの間にか決闘が強い人物だけが力を持つ社会が出来上がっていた。言うだろう?バカは死ななきゃ治らないって。―――今の世界は馬鹿が動かしているから馬鹿なんだ。」

「だからってウィンダに犠牲になれと!?」

「…そうだ。この世界の歪みをただすにはそれしかない。もしくは彼女の妹の―――」

 

「妹」

その言葉を創が発した時反射的にウィンダの体は動いていた。

ウィンダは創の体の上に乗ったままだ。その状態から護身用の短剣を抜くが早いか創の喉元に突き付けていた。そして今までにない怒気を孕んだ声で創に忠告を行う。

 

「ウィンに手を出したら許さない。」

 

それは颯人が聞いたこともないような声だった。余りにも低く、感情が無く、何処までも冷たい声。それがウィンダという存在の本気の怒り。―――精霊の怒りが今、星神創という男に突き付けられていた。

 

「今から言う事を覚えておきなさい。―――ウィンは勿論の事、颯人や霊使君、そして、二人の友人たちに手を出すな。もちろんこの言いつけを破ったらそれ相応の苦痛を与えるから。」

「おお、怖い怖い。―――でも君自身は含めないんだね。」

「…黙りなさい。」

 

ウィンダから発せられる濃密な殺気が当たりに充満する。

それは颯人でさえ感じたことの無いような―――それでも霊使が誰かにいつも向けられている物。放つ相手も発生源も違うというのに、それでもウィンダの殺意に颯人は恐怖した。

 

「ウィンダ。一旦落ち着け。ここでこの男を殺したところで―――何にもならないぞ。」

「…それもそう…だね。」

 

荒ぶるウィンダを一度落ち着かせると颯人は改めて創に尋ねた。

 

「俺はウィンダを犠牲にするつもりはない。―――かといってこの世界の歪みをそのままほっときたいわけでも無い。」

「つまり―――?」

「今の俺には選べない。―――それこそ霊使とウィンの選択に委ねるさ。あいつだってこの世界の歪み位理解しているはずだしな。」

 

それだけ言うと颯人は創に背を向けた。これ以上話すことは無いと言わんばかりの態度に創は大きなため息を一つ吐く。それでも颯人の後姿を見る創の顔は何処か満足気だった。

本人さえその事に気づかないまま―――侵入者が発見されたというアラートが鳴った。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

三つに分かれた扉の一つを潜った瞬間赤い卵黄が開店し、明らかにヤバい感じのアラートが響き渡った。それが何か良くない予兆だと感じた霊使は大急ぎでマスカレーナを呼び、そのバイクに跨った。

ウィンも実体化を解いている辺り、このチェイスへの本気度が伺える。

 

「ぶっ飛ばすよ!掴まってて―――!」

 

そう言い終わるか否やというタイミングでマスカレーナはバイクを飛ばす。

その眼前にはあからさまに邪魔する気が満々のロボットが現れた。―――が、そこは情報屋マスカレーナの愛用バイク。フロント部分やカウル、エンジンルームは対弾のダイラタンシーフレームを採用しているため、そうそう事故ることは無い。

 

「この程度で私のバイクは止められないよ!無駄無駄無駄ァ!」

 

バイクを止めようとするロボットは哀れ、バイクのタイヤの下敷きとなって一瞬でおじゃんになってしまう。そんな勢いでぶっ飛ばしているせいか―――役目を果たせずに機能を停止させたロボットたちの残骸が霊使達の行く手を阻むのもまた一瞬であった。

 

「ああもう、邪魔!」

「なんかないの?変形する機能とかさぁ!」

「流石にそれは無いって!」

 

まだ道のりは長い。一直線でしかないはずの通路には無尽蔵のロボット。

全員が全員腕にデュエルディスクらしきものを付けていることから一度でも決闘し始めたら終わりが無いのは見えている。

 

「時間稼ぎ…にしてはやりすぎだろこれぇ!ってなるところなんだけど…!」

 

それでもやるしかない。

だが、霊使にはI:Pマスカレーナというインターネットに強い精霊が居る。

幸いなことに電波は通じるので仲間との連絡にも事欠かない。

 

「…こいつらには本体が居るっぽいよ!図体がでかい奴だからすぐわかる!」

「分かった…これで、よし!」

 

仲間にもこの事実はもう伝えた。電波様様である。

マスカレーナの言う通り、ひときわ大きい図体を持つ機械がこちらを睨んでくる。

 

「機械に言っても意味あるのか分からないけど―――おい。」

『シンニュウシャ、ハッケン。ハイジョ、スル。デュエル、カイシ。』

「―――決闘(デュエル)しろよ。」

 

霊使はそう宣言するとともにデュエルディスクを構えた。




登場人物紹介

・ウィンダ
ガチギレウィンダ。実は若干シスコンの気はある。

・風見颯人
ウィンダを犠牲にするつもりはさらさらない。

・星神創
ウィンダには大義のための犠牲になってもらうつもり。

・四遊霊使
マスカレーナのファインプレーに助けられた。

・マスカレーナ
多分今回の功労者

というわけで次回から中ボス三連戦が始まります。取り敢えず初戦は霊使から行きましょうかね。
というわけで次回もお楽しみに。
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