2022年こそはスピード上げていきます…
チェーンのドーグチャージャーを持つカミシロユウキとの遭遇から翌日。翔琉は駄菓子屋内のガレージで今までの事と、涼葉から貰った情報をもとに整理をしていた。
「そんなことまで!?ホント最っ低!女の敵超えてる!!」
ガレージ内で涼葉が声を上げる。
「まさに、鎖に繋がれたように弱みを握られてるってことでしょ?」
「そういう事だな。アイツの言葉を見るに、自分の悪いところをばら撒かれない彼女を、恐らくほかにもいる女性にも……」
翔琉は「立場が危ういからね。せっかくまたここまで上がってこれて、その子とかによって地位をまた蹴落とされたら生活もままならない」という結城の言葉から、被害者は複数人いると推測した。
「でも、その春歌って子がとんでもなくソイツの近くにいるってことは分かった事でしょ?その子を餌に釣れば…」
「いや、それがアイツ。ガントルーパーまで雇ってた。呪導に金をつぎ込むほど、あの一件は知られたくないのだろうな…」
「ガン……?」
涼葉は聞きなれないガントルーパーという単語に?が浮かぶ。
「ガントルーパー。つまりは呪導の戦闘兵さ」
「えっ、なんでその戦闘兵がバックアップしているの?もしかすると神代祐樹って……」
「ドーグチャージャーを持つ者は追加の金さえ払えばチャージャーのエネルギーの補充やら、それでこそガントルーパーのサポートだって受けられるんだ。多分神代祐樹は大金つぎ込んでガントルーパーのサポートを受けさせて弱みを握っている女の人らを監視させてる…だろうね」
「是が非でも自分の手は汚さないで他人にやられてるの?ますますゲスじゃん!こんなのがカリスマ扱いされるってどうかしてるよ!!頭来た!!次はNewTuberの不祥事特集やってやるー!!」
そう言うと涼葉は駄菓子屋を出ていった。
その光景を翔琉は苦笑いするしかなかった。
第6話「負を断ち切る剣となれ」
『まぁ、デキ婚ってカタチになっちゃったのはアレだけど、仲間のNewTuberもどんどん結婚していってるし、結婚適齢期もギリギリだったんで今回の婚約に至った感じっすね』
「女に手を出しておいて、よくもまぁこんなこと言えるなぁ」
休憩に入った正樹はカミシロユウキが生出演していたTVのワイドショーを見ていた。昨晩の話もあったのか、不快感を示して即座にチャンネルを変えた。
翔琉はスマートフォンである動画を見ていた。
「顔の良さとあの手のトークでファンとかいろんな女の人に手を出したって感じだろうなぁ…。アレから察すると…」
「っつたく、大体コイツのどこがいいんだかなぁ…」
「まぁ、今の世の中って予想だにしないことが流行ったりする時代だからなぁ…。もしかしたら来るかも。駄菓子ブーム」
「オイ何言ってんだ。駄菓子は毎年ブームぞ!そら、休憩終わり。業務再開!」
翔琉と正樹はそんな会話を繰り広げて、駄菓子屋の業務を再開しようとしたその時だ。
翔琉のスマートフォンの着信音が鳴った。相手は春香からだった
「もしもし?」
『あ、何でも屋さん。実は話があるんです』
◇
テレビ局の地下駐車場。玄関から神代が出てくる。
駐車してある愛車の高級スポーツカーに向かおうとしていたが、我が目を疑った。
高級スポーツカーのボンネットに腰かけている黒いスーツ姿の男がいたのだ。
「全く、大事な顧客のクルマに腰かけるって、御宅らどーいう神経してんの?」
「これはこれは、神代様。お変わりなくてうれしいです」
神代の言葉の先制攻撃を難なくかわしたスーツ姿の男は屈託のない笑顔でそう言った。
「お聞きしましたよ。どうやらサポートがお邪魔だったようで」
「ちげーっつーの。御宅らの傭兵共の口が軽すぎるんだよ。あんな正義の味方の仮面ライダー様になんてことバラしてるんだよ。個人情報とかの秘密は完全黙秘ってお約束じゃないのか?」
「これはこれは。サポート達にはきつく言っておきます」
「んで、用件は?」
「いえ、私はその要件でこちらに」
「あっそ。んじゃこの辺で」
神代はそう言うと高級スポーツカーに乗り、地下駐車場を後にした。
駐車場を出るときに、子供を連れた女性を目撃した神代の脳裏には、ある過去の光景が浮かんだ。
―「どうしてアンタはダメな子供なの!?」
―「何をやってもダメじゃない!」
―「なんで言う通りにしないの!?」
幼少期の神代に母が怒鳴りつける光景。
時たまに彼はこの光景をフラッシュバックするのだ。
「本当にコレで、人の愛を知れるのか…?」
神代はポケットからチェーンのドーグチャージャーをおもむろに取り出し、呟いた。
その呟きはスポーツカーの中にしか響かなかった。
◇
その頃、翔琉は春香の高校から近いオープンカフェにいた。
先ほどの春香の電話は、春香が翔琉に会わせたい人物がいるという内容だったのだ。
入ると、奥のテーブル席に私服姿の春香と、黒いパーカーを羽織った30代前半と思われる男性が座っていた。
翔琉は春香と男性の向かいに座った。
「ごめん。すごく待たせちゃった?」
「いいえ。私たちもつい数分前にここに来たので」
「で、この人が俺に会わせたい人?」
「ユウキの知人の鈴宮拓海って言います。タックンって名前でNewTuberやっている者です」
拓海は神代との関係を事細かに説明した。
どうやら、小学校時代から親友で、最近の天狗のような神代に心底うんざりしているようだった。
翔琉も今回の事件についてを一樹に話した。
「そ、そんなことが…。アイツ、とうとう物理的に怪物になり果てて…」
「まぁ、あながちそんな感じです。で、話って?」
「その、こんなこと言うのはアレなんでしょうけど、アイツを救ってやることってできませんか?」
「救う…?」
「それってどういう?」
翔琉と春香は拓海の想定外の言葉に首をかしげた。
拓海は春香の問いかけに対して重々しく口を開いた。
「春香さんをはじめ、いろんな人がアイツのせいで苦しんでいるのは分かってるんです。だけど、一番苦しんでいるのはアイツなんだと思うんです。アイツ、実は小さいころから母親に虐待されていて、それが原因で恐らく『人の愛』に飢えてるからこそああなったんだと思うんです。この負の鎖をつないでいるのはアイツだろうけど、一番負の鎖に絡まっているのはアイツなんじゃないかなって…。変ですよね。そう考えるって…」
拓海から告げられたあのチャラい男とは重苦しく、壮絶な過去。
気のせいか、カフェテラスの雰囲気も少し重いように感じた。
「いい事じゃないですか。そういう考えが出来るって」
その重い雰囲気を遮るかのように、翔琉は言った。
「翔琉さん…」
「俺も思うんですよ。人間ってどんな悪に染まっても、ほんの0.1%の良心があるんじゃないかって。」
「そうですか。ありがとうございます」
翔琉は即座に涼葉に電話を掛けた。
「もしもし?ちょっと思いついた作戦があるんだけど、いい?」
◇
それから数時間が経過した廃倉庫。
神代の乗った高級スポーツカーが入っていった。
「どしたの?こんな時に連絡って。ようやく諦める決心でもついた?」
降りて早々神代は歩きながら軽口を放つ。
神代の眼前には春香の後ろ姿が見える。
「まー、俺にも非があるよ?あんな綺麗なコに告白されたら速攻結婚ルートまっしぐらになるし?でも君たちみたいな子猫ちゃんを捨てると何言い出すかよくわからないし、だからこs…」
何という事だろうか。春香は振り向きざまに神代の頬に向かって右ストレートを繰り出したのだ。
たまらず神代はぶっ倒れる。
「つくづく思ったけど女の敵のレベルはみ出してるし!!どういう思考回路してるの!?」
ただでさえ殴られた神代は再び驚いた。
春香の服装のはずなのに、別の女の声がしたからだ。
顔を上げるとそこには、春香の恰好をした涼葉がいたのだ。
「なっ…。え!?誰だよアンタ!」
「誰って、全世界の女の味方のジャーナリスト・有働涼葉よ!覚えておきなさい!!」
「その辺にしておきな涼葉…」
涼葉にとって女の敵とみなした神代をぶん殴ったことにより意気揚々となった涼葉は堂々と名乗る。
物陰に隠れていた翔琉は涼葉を窘めた。
「っ…。どういうことだ!?まさかお前ら、俺をハメたってのかよ!?」
「その通り!目には目、歯には歯、動画には動画のネタよ!!」
どうして涼葉が春香の恰好をしているのか。
事の発端は数時間前にまで遡る。
◇
「作戦って…何するの?春香ちゃんまで連れてきて」
電話で呼び出され、廃倉庫で落ち合った涼葉は春香を連れた翔琉に聞いた。
「ドッキリだよ。アイツに対する」
「ドッキリ?」
「題して、『春香ちゃんかと思ったら、実は涼葉だったドッキリ』ってとこ。まぁつまり本人かと思ったら全然本人じゃなかったってことかな」
「あー、だから春香ちゃんをがそんな荷物持ってるって事ね…」
涼葉は視線を春香に移した。
春香の手にはボストンバッグがあり、その中に春香の衣服が入っていた。
「でも、アイツに仕掛けるのなら他のネタとかなかったの?」
「まぁ、あるにはあったけど、コレだよ」
翔琉は涼葉にある動画を見せる。それは昼間に翔琉が駄菓子屋で見ていた動画だった。
「『大スターかと思ったら、実はそっくりさんだったドッキリ』…?これが一体」
「目には目、歯には歯、動画ネタには動画ネタってことだよ。それに涼葉、『一発ぶん殴りたい~!』って顔してただろ?そういうことだ」
「げっ、バレてた…」
数日前の時点ですでに見透かされてはいるが、感情が表に出てしまう涼葉は少し赤面気味になる。
「まぁ、とにかく。アイツをおびき寄せて、ぎゃふんと言わせるドッキリだよ。涼葉はとりあえず着替えてきてくれ。そしたら春香ちゃんはこの場所にいるってことを連絡して」
「でも、こんなところにいるの不自然がらない?」
「むしろあそこまで執拗になってるし、何なら春香ちゃんの方から降参宣言を兼ねるからな。不自然がりはしないさ」
「そんなもんかなぁ…?」
涼葉は若干不安を覚えながらも、ボストンバッグを持って出て行った。
◇
「ハメたというわけか…そこまでして倒したいか…!」
「倒す?違うな」
「はぁ?怪物の力持ってる俺をどうやって救うってんだ?仮面ライダーが?」
結城はチェーンのドーグチャージャーを持ちながら翔琉を睨みつける。
「その自覚あるなら、まだ戻れるかもな。普通のニンゲンに」
「どういうことだよ?」
「さっきお前の友人とやらに依頼されてついでにお前の境遇も知った。『愛に飢えた怪物となったお前を救ってほしい』って。ホントはお前が一番苦しみの鎖に絡まってるんじゃないのか?」
「それが、それが何だってんだよ…!お前に何が分かるってんだよ!!」
翔琉の言葉が図星だったのか、結城は少し言葉を詰まらせながらも、翔琉に反論をする。
「俺はお前とは境遇が違うから何も分からない。だけど、愛に飢えているからって鎖に繋いで居続けさせることは、『愛』なんかじゃない。それは単なる『呪縛』でしかない。お前がやっていることは、母親がお前にやった事と同じだ!」
「うるせぇ…!うるせぇんだよ!!」
結城はドーグチャージャーを胸に突き刺し、チェーンドーグへと変貌する。
「みんなそうやって俺に同情やお節介しやがって…。同情するんだったら、俺の苦しみを味わいやがれ!!」
チェーンドーグは右腕の鎖を翔琉の方向に伸ばす。
翔琉の危機を察知したのか、トライジングキャリバーが飛来し、それをキャッチした翔琉は鎖を切り裂く。
「だったらその苦しみの鎖、俺が断ち切ってやるよ」
[トライズドライバー・スタートアップ!]
[1号!クウガ!ゼロワン!カメントライズ!]
翔琉はトライジングキャリバーを地面に突き刺すと、カメンデバイザーを取り出し、ドライバーを起動。
デバイザーにカメンチャージャーをデバイザーにセットした。
「変身!!」
[うなれ正義の必殺キック!ライジングジェネレーション!!]
翔琉はデバイザーをベルトに装填し、トライズ・ライジングジェネレーションとなった。
トライズとチェーンドーグが向かい合う。廃工場が一瞬の静寂に包まれた。
その静寂を引き裂くかのように、チェーンドーグが鎖を伸ばしながらがトライズに迫る。
トライズも突き刺したトライジングキャリバーを手にし、鎖を斬りながらチェーンドーグを迎え撃つ。
「これじゃぁいくら鎖を切っても近づけやしねぇ…。だったらコイツ使ってみるか!」
[トリプルチャージ!マキシマムブースト!]
トライズはアマゾン・真・オーズのカメンチャージャーを取り出し、トライジングキャリバーにセットした。
刃先から緑色のエネルギーが放出され、それが長い三つ又の爪となった。
「そんなハッタリが通用すると思うか?」
「そう思えるなら食らってみろ!ワイルドデザイアクロー!」
チェーンドーグは尚鎖を伸ばしてくるが、トライズは大きく跳躍し、それを避けながら、トライジングキャリバーを横に薙ぎ払った。
その爪は鎖をも粉砕し、チェーンドーグの胸部にダメージを与える。
ダメージを負った隙に、一気に近寄り左上から右下にかけて袈裟に切り裂く。
「味な真似しやがって…。だがなぁ!」
チェーンドーグは再び腕からチェーンを伸ばそうとするが、その腕からチェーンが伸びることはなかった。
それもそのはず、先ほどトライズがワイルドデザイアクローで腕にあるチェーンの射出装置を破壊していたからだ。
チェーンドーグは再びトライズに向き直ると、トライズはスパーキングビートルに姿を変えていた。
「お前、さっきお節介云々って言ったよな?」
「あぁ。それがどうしたってんだ?」
「悪いな。俺は超絶お節介人間な何でも屋を売りに生きているからな。例えお前みたいな悪人だろうが、救ってくれって言われようが言われなかろうが、救わなきゃ気が済まないからな!」
トライズは啖呵を切ると、ドライバーからデバイザーを引き抜き、トライジングキャリバーの銃身にあたるスキャナーにデバイザーをスキャンした。
[デバイザー・コンファーム!フィニッシュムーブメント!]
「超電!マキシマストレートフラッシュ!」
トライジングキャリバーの刃先に赤・青・黄の電気エネルギーが蓄積され、カード型のフィールドが展開。
超高速でフィールドを通り抜け、チェーンドーグを切り裂く。
トライズの必殺剣を食らったチェーンドーグは断末魔の叫びを上げずに爆散。
結城の姿となり、身体からドーグチャージャーが排出され、粉々に砕け散った。
♢
それから暫く経過し、結城は駆けつけた樹たち警察により現行犯逮捕となった。
春歌も、警察などから詳しい内容の聴取のため、樹と共に警察に向かう事となった。
「あの、ありがとうございます。こんな弱い私を助けていただいて…」
春歌は翔琉に一例をして、感謝の意を伝えた。
「春歌ちゃんだって、十分強いと思うぜ?」
「えっ?」
「一歩踏み出して、誰かに助けを求めたって事は、心が強いって証拠だと思うんだ。今の世の中、言いたいことも言い出せないかもしれない。だけど、自分から一歩踏み出せば、何かが変わる」
「何かが、変わる…」
「あぁ。強い心さえあれば、前に踏み出すことだってできる。それさえ忘れなけりゃ。どうにだってなるからな」
「翔琉さん、本当にありがとうございました!」
翔琉からの激励を受けた春香は、樹の乗るパトカーに乗り込み、廃工場を後にした。
翔琉と涼葉も廃工場を後にした。
「はぁ~…。私もやってみようかなぁ…。New Tuber」
帰路に付く道で、涼葉はいきなりNew Tuberになりたいと言い出した。
「涼葉にできるのか?ただでさえ雑誌記者なのに!?」
「いいじゃん!ウチの新聞社副業禁止じゃないし、ちょっとお金に困りかけてるし~!」
「いや、ああいうのは絶対大変だぞ?最初から一攫千金掴む気でいると尚更だって!」
「でも、翔琉の何でも屋にお客さんが舞い込んでくるかもよ?」
「…!」
「あ~!ちょっと考えてたでしょ!」
「考えてねぇ!俺の何でも屋は口コミが…」
そんな2人の仲睦まじい光景を見ている影がいた。
地下駐車場で結城と会話をしていたディーラーの男だ。
「やられましたか。そうなれば、私が本格的に彼らの前に出た方が良さげでしょうねぇ」
ディーラーの男の屈託そうな笑顔が夕陽に照らされた。
その男の手にはシールドのドーグチャージャーが握られていた。