拳の軌跡 作:攻略王補佐官
ジオフロントに入り、五人が最初に見たのは、導力ケーブル等が張り巡らされており、インフラ整備も整っている、とても魔獣がいそうにない場所だった。
「ここがジオフロント……」
「話には聞いていたけど、こんなに広いだなんて」
「スッゲェーな。中世の地下水道がそのまま残ってるのかと思ったぜ」
「記録によると20年前の都市計画と同時に建設が開始されたそうです」
「そんなもんがクロスベルの地下にあるとはな。おまけに魔獣の徘徊と来たか」
「確かこの上は……中央広場だったな」
ロイドが上を見上げてそう言う。
「普段は封鎖されているので、魔獣が市内に侵入することはないそうですが、たまに工事関係の作業員の方が襲われて怪我を負うそうです。ですが、現在、警察の方では対処が出来ていない状態です」
「……取り合えず、警察の仕事関係なしに、必要な仕事だと言うことは分かった。テストはともかくキチンとやり遂げよう」
「そうね。一つ一つ基本を確かめながら、進んでいきましょう」
「了解です」
「おっしゃ!パパッと終わらせちまおうぜ!」
「それじゃ、魔獣退治に行くとするか」
「よし、行こう!」
ジオフロント内での戦闘はジョンとロイド、ランディが前衛を務め、エリィとティオの二人が後衛で三人のサポートをする形で進んで行った。
ロイドのトンファーによる機動力と制圧力、ランディの重たい一撃、ジョンの精練された動きから繰り出される体術、そして、エリィの正確な狙撃とティオのアーツによるサポート。
組まされて一時間とは思えない程、五人のチームワークは完璧だった。
戦闘しつつ、時には回避してジオフロント内を進んでいると、エリィが足を止めた。
「エリィ、どうした?」
「今、誰かの泣き声が聞こえた気がして……」
「気の所為じゃないのか?そもそも、ここは封鎖されてるんだろ?」
「そうですね。あくまで公式には、ですが」
ティオがそう言うと、今度は五人の耳に泣き声が聞こえる。
「聞こえたわ!」
「ああ!今のは、俺も聞こえた!」
「おいおい、どういうことだよ!?」
「私に言われても……!」
「あのダクトからだ!」
ジョンが近くのダクトの換気口を開け、中に入る。
そして、数分後、ジョンは一人の子供を連れて戻って来た。
「ジョン、その子は?」
「どうやら、探検でここに迷い込んだらしい。だな、アンリ」
「は、はい…」
「たっく、俺は何度も言ったよな?子供だけで危ない所には行くなって。忘れたのか?」
「ち、違うよジョンさん!僕は止めようって言ったけど、リュウが平気だって言って入って行っちゃったから僕心配で………!」
「あの悪ガキ……どれだけ口酸っぱく言っても聞きやしねぇ……」
アンリに目を合わせつつ、ジョンは頭を掻く。
「ジョン、その子と知り合いなのか?」
「ああ、まぁな。こいつはアンリ。住宅街に住んでるガキだ。こいつと、後リュウってガキが居るんだが、とんでもねぇ悪ガキでな。いくら叱っても反省しないんだよ。工事現場に入り込んだり、大人の付き添いなしで街道に出ようとしたり」
「それより、今その子、リュウって子もここに入ったって言わなかったか?」
ロイドの言葉に、全員がハッとする。
「そうだ!アンリ、リュウは何処だ?」
「そ、それが、途中で怖い魔獣と出会っちゃって逃げてる内に逸れちゃったんだ……」
「急いだ方がいいな……ロイド、このまま進んでリュウを探したほうがいい。構わないか?」
「そうだな……一その子だけ地上に戻した方が安全かもしれないけど、事は一刻を争うし戦力を分散するのは得策じゃないか。君、すまないけどもう少し俺達に付き合ってくれるかい?」
「出来るか、アンリ?」
「は、はい。できます……」
「よし。エリィ、悪いがアンリを頼む」
「ええ、分かったわ」
エリィがアンリと手を繋ぎ先に進む。
大きなゲートをくぐると、一際広い区画へと出た。
「ここは……ジオフロントの中間地点か?」
「このまま進めば最深部です」
「だが、ここまで人っ子一人見てないぞ?」
「もっと奥かもしれないな」
「急がないと時間も厳しいわ。早く見つけてあげないと………」
「うわあああああああああ!!」
五人で話し合ってると、遠くから子供の悲鳴が聞こえた。
「今のは!?」
「リュウの声だ!」
五人はアンリを連れて、急いで奥へと走る。
すると階段を上がった先には、スライム型の魔獣に囲まれる子供が居た。
「エリィ!魔獣の引き付けてくれ!」
「分かったわ!」
ロイドに言われ、エリィが導力銃を構える。
放たれた銃撃は全て魔獣に当たり、魔獣がジョンたちへと向かう。
「ジョン、ランディ!行くぞ!」
「おうよ!」
「ああ!」
襲い掛かるスライム型の魔獣《フロストグミ》にロイドが突っ込みトンファーで殴りつける。
そのロイドを襲おうと他のフロストグミがロイドを横から襲うが、ランディが間に入り、スタンハルバードを大きく振り回してダメージを与えつつ吹き飛ばす。
「《素流体術 肆ノ型 乱式》!」
ジョンは、足を肩幅に開いて腰を落とし、右手を腰の位置まで引き、左手の掌を相手に見せる様に開く構えを取る。
そこから、急接近し拳撃を乱打する。
拳のラッシュにフロストグミは耐えきれず、粉々に砕け散る。
「《アクセルラッシュ》!」
「これで終わりだ!《グリムゾンゲイル》!」
ロイドは回転しながら二体のフロストグミにダメージを与え、怯んだどころをランディがスタンハルバードに仕込まれている導力機で炎を起こし、薙ぎ払う様にフロストグミを焼き払う。
残りの二体も、エリィの射撃とティオのアーツで倒され、無事リュウの救出が出来た。
「兄ちゃんたちスゲェな!」
リュウはさっきまで魔獣に襲われかけていたことなど忘れ、魔獣を一瞬で蹴散らしたロイド達に声を上げる。
「見たことない顔だけど、新人の人?」
「そうだけど、よく分かったな。制服だって着てないのに」
「「制服?」」
ロイドの言葉に、リュウとアンリは首を傾げる。
「えっと……もしかしてお兄さんたちギルドの人じゃないんですか?」
「え?」
「ギルドって、もしかして《
「ギルドって言ったらそれしかないじゃん。てか、兄ちゃんたち遊撃士じゃないの?」
「あ、ああ。俺達はクロスベル警察の新人だ」
「えええぇぇぇ!!」
ロイドの言葉にリュウが大声を上げる。
「どうしてケーサツのお巡りがこんな所に居るんだよ!」
「そ、そんなに驚く事か?」
「だってケーサツのお巡りって言ったら腰抜けで有名じゃん!ケーサツは横柄で全然頼りにならない、遊撃士の方が何十倍も頼りになるって父ちゃん言ってたぞ!」
リュウの言葉にロイドは驚きを隠せなかった。
ランディやティオも驚いたのか口を開けてポカンとする。
「やっぱり………」
唯一エリィだけは分かっているかのような表情で俯く。
「りゅ、リュウ失礼だよ。助けてもらったのに」
「でもさぁ~、折角ギルドの新人に助けてもらったと思ったのに痛っ!」
すると、ジョンがリュウの頭を拳骨で殴る。
「何すんだよってジョン兄ちゃん!?どうしてケーサツなんかと一緒にいるんだよ!?」
「今日から警察の仕事を手伝うことになったんだよ。それよりリュウ!なんだその態度は!助けてもらって文句か?」
「だ、だって……」
「だってもへったくれあるか!相手が警察でも遊撃士でも、助けられたらお礼を言う、常識だろ!ロイド達が助けに来なけりゃ、お前今頃魔獣に喰われてたかもしれないんだぞ!」
「うっ……」
「そもそもだ、子供だけで危ない所に行くなって俺前にも言ったよな!これで何度目だ、約束破るの!」
「………」
「それにアンリ!」
「は、はい!」
「リュウが心配なのは分かるが、お前までリュウに付いて行ったらダメだろ!そういう時はすぐに大人を呼べ!」
「す、すみません…ジョンさん……」
ジョンに怒られ、二人はしょぼくれる。
そんな二人を見て、ジョンは頭を掻き、溜息を零す。
そして、二人に近寄り腰を落として二人の頭に手を置く。
「怪我はないか、二人とも」
「う、うん」
「……僕もありません」
「そうか……なら良かった」
さっきとは打って変わって、ジョンは優しい笑顔を浮かべる。
「悪かったな。もうちょっと早く助けに来てりゃ怖い思いせず済んだのにな」
「ううん、俺が約束守らなかったのが悪いんだ。ごめん、ジョン兄ちゃん」
「僕もすぐに大人を呼べばよかったのに……ごめんなさい、ジョンさん」
「いいんだよ。その代わり、次こそ約束守れよ。でないと、次はお前らの母ちゃん父ちゃんに報告するからな」
「おう!」「はい!」
「よし、いい子だ」
最後に二人の頭を撫で、ジョンは立ち上がる。
「さて、ロイド!警察本部に行く前に二人を家まで送ってもいいか?」
「ああ、構わないよ。ともかく、ここから出よう」
アンリとリュウの二人を保護し、入り口に戻ろうとしたその時だった。
頭上から、巨大な魔獣が降って来てジョンたちの退路を塞いだ。
「なっ!?」
「なんで大きさなの!?」
「まずいぞ!今の装備じゃ勝ち目がねぇ!」
「仕方ない……ランディ、ジョン!二人で子供を抱えて、エリィとティオと逃げてくれ!」
「なんだと!?」
「俺が時間を稼ぐ!その隙に逃げろ!俺も時間を稼いだら逃げる!」
「一人でどうやって逃げるんだよ」
ジョンはそう言ってロイドの隣に並ぶ。
「一人より二人で時間を稼ぐ方がいい。それに二人の方が逃げやすいだろ」
ジョンとロイドは覚悟を決め、魔獣と対峙する。
(くっ……!それしかねぇのか!)
ランディは歯嚙みをしながら、他の方法を何とか模索しようとする。
「自己犠牲もいいが、少々短絡的だな」
その声と共に、刀を持った長髪の男性が魔獣の背後に現れた。
そして次の瞬間、魔獣は細切れに切り裂かれ消滅していた。
「今のは……!」
「速い……!」
「全然見えませんでした……」
「何モンだ?」
「また助けられちまったか……」
ロイド達が驚いてる中、ジョンはソフト帽を外し自身を仰ぐ。
「すげー!スゲーよ、アリオスさん!」
「でも、どうしてここに……?」
アンリとリュウは興奮気味にアリオスに駆け寄る。
「広場のマンホールの蓋が開いていて、そこに子供が入っていくのを見たと通報があってな」
「何はともあれ、助かったぜ。アリオスさん」
ジョンはソフト帽を被り直し、長髪の男性“アリオス”に近寄る。
「ジョンか。後ろの彼らは………そうか、お前が前言ってたメンバーか」
「まぁな。取り合えず、入り口まで一緒にいいか?」
「構わない。お前達も夕方だ。早く家に帰りなさい」
「「はーい!」」
歩き出すアリオスの背中をアンリとリュウの二人が追いかける。
「ジョン、あのオッサンとも知り合いなのか?なんて言うかオーラが違うんだが……」
「腕前も普通じゃありませんでしたけど」
ランディとティオがジョンに近寄って聞いてくる。
「ああ。あの人は、アリオス・マクレイン。クロスベルが誇る遊撃士協会クロスベル支部のA級遊撃士さ」
「あの人が……」
ジョンの言葉にエリィは納得した様に言、ロイドもその名前を思い出す
「クロスベルタイムズで何度が目にしたことがある。どんな依頼も完璧に熟し、市民からの絶大な信頼を得ているクロスベルの守護者……あれが《風の剣聖》アリオス・マクレイン…………」