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「ふぅ、洗い物はこれで終了っと」
士郎はいつもの日課である家の掃除を始めていた。時間はまだ早朝の6時半、蘭はまだ部屋で寝ている。本来であればそろそろ起こしに行かなくてはならないが、今はゴールデンウィークで更には昨日のバンドの件で疲れてると思うので、士郎は今日ぐらいゆっくり休んで貰うため自分からは起こしに行かないようにしていた。
「しかし昨日の蘭達、凄かったな……」
士郎は食器を拭きながら昨日の事を思い出していた。
いつも近くで見てきたつもりだったが、士郎は自分でも知らなかった彼女達の一面を初めて知り、嬉しくもありそして悔しくもあった。
悔しさは蘭達に対してじゃなく、自分に対してだ。
いつも近くにいたのに、彼女達の事を何にも理解していなかった自分に対して悔しく思っていたのだ。
「俺も……まだまだだな……」
笑みをこぼしながら、ボソッと呟く。
士郎は暗くなった自分を戻す為、頬を叩く。
「よし、気分がてら外に出るか」
そう言って置き手紙を置いてから家を出ていった。
★商店街
何の宛もなく外をブラブラと歩き始め、商店街へとやってきた士郎は久しぶりに街を探索する事にした。
「この辺りを探索するのは初めて来た時以来だな……」
あの時の光景を思い出しながら、商店街を歩き続けていると1枚のポスターに目に入った。
「これって……」
そこには『Pastel✻Palettes GW LIVE!!』とデカデカと書かれた宣伝ポスターだった。
「確か、あの子達もバンドをやっていたよな……」
もしかしたら、香澄達や蘭達以外のバンドを見たら何か掴めるものがあるかもしれない……
そう思った士郎は開催地を確認して、そこに向かう事にした。
「はい、ではそれでいきましょう」
開催地でライブの準備が最終段階まで迫っていた時、少しトラブルがおき、現場のスタッフと千聖が話し合っていた。
「こちらの問題はこちらでどうにか出来そうですが……」
「やはり問題はこれですね……」
その問題点とは今日行うライブで機材や照明担当していたスタッフの人が突然来れなくなり、更にはそこに代わりに担当してもらうスタッフも居らず、困難を極めていた。
「照明は他の人に回せますが、流石に機材の方までは……」
「ジブンが行けたらいいんスけど……」
「流石に麻弥ちゃんを抜く訳には行かないわ」
「そぉッスよね……」
うーん、と悩んでいると彩が1人ここにいない事に気が付いた。
「あれ?日菜ちゃんは?」
「ヒナさんなら先程までアソコにいましたよ?」
しかしイヴが指さした方向に日菜はいなかった。
「え、待って!?日菜ちゃんどこ行ったの!?」
問題事がもう1つ増えた時だった。
「やっぱり人が大勢いるな」
開催地に着くとそこには大勢の人で賑わい、用意されていた椅子に座れなかった人はその場に立って始まるのを待っていた。
あまりに人が多すぎて見易い場所を探す為に辺りを歩いていると、背中に誰かが見知った声と共に抱き着いてきた。
「お兄さん!こんにちは!」
「うおっ!え?」
振り返ると金髪の髪にサングラスを付けた女の子がいた。だが、士郎にはこの女の子と面識がなく、一体誰なのか思考をフル回転させながら考えていた。
「あ、そういえばあたし変装してたんだった。うっかりうっかり♪」
舌を出し、てへぺろ、と言いながら士郎の手を引っ張り人気があまりない場所まで連れていき、金髪の髪───カツラを取った。
「あ、君は!」
「やっほ〜、あたしの事覚えてる?」
「勿論だよ、君は紗夜の妹の日菜ちゃん、だろ?」
「大正解!」
日菜は嬉しそうに拍手し、サングラスを外した。
「まさかお兄さんがあたし達のライブ見に来てくれるなんて嬉しいな〜」
「この前事務所にお邪魔させてもらった時から、興味はあったからな。っていいながら今日ライブが会ったのは初めて知ったけどな」
苦笑しながら応えると、日菜は笑いながら
「アハハハ!それでも見に来てくれたんでしょ?じゃあ許してあげる!」
「ありがとな」
許しを得て苦笑から自然の笑みに変わった士郎だったが、1つの疑問に思った事ができた。
「そういえば日菜はここにいていいのか?もうすぐライブ始まるんだろ?」
「あ〜、それがね────」
日菜から説明を受け、士郎は今彼女達が今どういう状況に陥っているか理解した。
「なるほどな……じゃあ下手したら今日は中止になるかもしれないって事か」
「そうなっちゃうの、うーん、何とかならないかな〜?」
そこで日菜はあ!、と声を出し、何か閃いたのか目をキラキラさせ、そして何故か士郎を見ながら応える。
「お兄さん、麻耶ちゃんの師匠さんだったよね!」
「なんでさ……俺は麻弥の師匠じゃないぞ?」
「つまりお兄さんは機材に詳しい!」
(話聞いてないな、こりゃあ……)
要するに、と日菜は士郎の手を掴み、お願いする。
「お兄さん!あたし達のライブ、手を貸して欲しいの!」
「まぁ……大体は予想出来てたけど……本当に俺でいいのか?」
「うん!お兄さん以外いないの!もうあたしの中でるん♪って来たから!!」
「えぇ……ま、まぁ、俺で良ければ手を貸すよ」
「やったー!じゃあ早速レッツゴー!」
「え、ちょッ!」
日菜は士郎の腕に抱き着いて、仲間達の元へ向かって行った。
「日菜ちゃーん!どこ行ったのー!」
日菜がいなくなって彩と麻弥、イヴの3人で探す事になり楽屋の辺りを散策する。
「本当にどこいっちゃったんだろ、日菜ちゃん」
「ここら辺に居ないってことスかね?」
「じゃあをハンイを広げて見ましょう!」
「そうだね、範囲をもうちょっとだけ広げて探そうか」
「日菜さん何処に行ったんスかね……」
「あたしがどうかしたの?」
「それが日菜ちゃんが居なくなっちゃったの」
「なるほど、じゃああたしも探すの手伝うよ!」
「ホント?ありがとう!」
「じゃあ探しに行こうー!」
「「「「おー!」」」」
「なんでさ……」
「「「え?」」」
我慢出来ず、士郎はこの流れに終止符を打って出た。
「て、ええええ!?お兄さん!?それに日菜ちゃん!?」
「し、士郎さん!まさかここにいるなんて驚きッスよ!」
「シショウ!お疲れ様です!」
「なんでさ……」
ツッコミを入れるのに多少疲れてきた士郎だったが、まだ挨拶をしていないのでとりあえず挨拶をかわす。
「こんにちは、話は日菜から聞いたぞ」
「え?」
「って事は!」
「俺で良ければ手を貸すよ」
「やったー!」
「それじゃあ早速チサトさんの所へいきましょう!」
「ちょ、押すな引っ張るな!?自分で走れるから!?」
士郎はイヴと日菜に引っ張られ、そして後ろから彩と麻弥に押されながら、千聖がいる楽屋へと向かう。
「千聖ちゃーん!」
彩と声がし、扉の方へ目をやるとそこには先程まで彩達が探していた日菜と今回の非常事態を解決してくれる強力な助っ人、士郎がいた。
「士郎さん、こんにちは」
「あぁ……こんにちわ……」
ここに来る途中で色んな目にあい、少し疲れ気味になっていた。
「どうかされたんですか?」
「いや、気にしないでくれ……」
「そうですか、それと日菜ちゃん、どこに行ってたの?」
「え?えーっと、か、観客席にお兄さんが見えたからさ!助っ人として来てくれないかな〜?と思って飛び出しちゃった!」
日菜は千聖から放たれた鋭い視線に怯えながら、嘘つく。そこに助け舟がでる。
「あぁ、観客席から見てたら日菜が来てな、話を聞いて俺が了承したんだ」
「そうですか……確かに士郎さんに来て頂けた事は私達にとって嬉しい事ですが……わかりました。士郎さんに免じて説教はなししてあげます」
「やったー!」
「けど、次また同じ事を仕出かしたら有無を言わさず説教だからね?」
「は、はい!」
「それじゃあ士郎さんに早速お願いしてもよろしいですか?」
「分かった」
「お兄さん、頑張ってね!」
「それはこっちのセリフだけどな、まぁやるだけやってみるから、そっちもライブ頑張れよ!」
「はい!」
「任せておいて!」
「ジブンも頑張るっス!」
「ブシドーのココロで頑張ります!」
「それでは私達は向こうでライブ衣装に着替えてきますので、この後暇なら裏側から見ていってください」
「あぁ、そうさせて貰うよ」
「それでは」
そう言ってスタッフと共に5人は部屋を出ていった。
「さて、始めますか」
「こちらの機材なんですが───」
結果から言うと、直す事に成功した。
流石に苦難なくとはいかなかったけど、何とか直す事が出来た。この事をスタッフに伝えると感謝を述べたあと、監督が呼んでいる言われ、案内された場所に向かう。
「やぁ、また君には助けられたね」
指定された場所に監督が椅子に座っていた。
「ど、どうも」
「立ち話もなんだ、椅子に座ったらどうだい?」
「じ、じゃあ失礼します……」
士郎は空いた椅子に座り、監督が見ている方向を見る。そこには大きなテレビがあり、画面には彼女達が映っていた。
「話は聞いたよ、今日はあの子達のライブを見に来てくれたんだってね」
「いえ、今日たまたまライブある事を知って、それで───」
「それでも見に来てくれたんでしょ?なら変わりはないさ」
「そ、そうですか」
そこで話が途切れたので、士郎はテレビに目をやる。
そこには先程まで楽屋で個性それぞれに発動させて笑いあって彼女達ではなく、正しく“アイドルの顔”で笑顔を絶やさずステージに立っていた。
「驚いているようだね」
監督に見透かされ、驚きながらみる。
「君には先程までの騒がしかった彼女達が1番印象に残っているのだろう。だが、今ステージに立っている彼女達を見て自分が思っていた印象がグルッと変わったんじゃないか?」
「……その通りです」
香澄達や蘭達の時もそうだ。
いつもの日常の顔が彼女達の顔と、勝手に決めつけそして理解したつもりでいた。
だが、実際は違う。
彼女達はバンドという顔を持ち、いや、或いはまた別のものでもまた違った顔を持っているのかもしれない。士郎が知っているのは彼女達のほんの一部の素顔でしかないのだ。
「人にはね、士郎くん。それぞれの感情を持った笑顔があるのだよ」
「感情を持った……笑顔?」
「そう。怒りを催す笑顔や、悲しみを表す笑顔、そして楽しみに満ち溢れた笑顔。言い出したら数え切れない程の笑顔があるね。その中で君は幾つの笑顔を人に見せてきた?」
監督に言われ思い出そうとするが──────
「分かる訳がないよね?だってそれが当たり前なんだから」
士郎は監督の方へ目をやるが、監督はテレビの画面を見たまま話を続ける。
「その笑顔を自分で引き出そうとしたら、それは作り笑いと変わらないんだから」
なら、と士郎が何かを言う前に監督が答える。
「答えは簡単。きっかけだよ。何かに対して感情を抱くきっかけさえあれば人は無意識に見せるのだから」
彼女達をご覧ん、と監督が言う。
「今の彼女達はどんな表情をしている?怒りに満ちた笑顔か?それとも悲しみに満ちた笑顔かな?」
彼女達の顔をよく見てみる。
一見どこでも見せる笑顔だが、何故かそれが違うように感じてしまった。
「……何かに対して喜んでいる笑顔?」
「私も同じ答えだよ、でもね私は他にもこう思うんだ
────何かを楽しんでいる笑顔ってね
「何かを楽しんでいる?」
「そう、彼女達の場合はアイドルを楽しんでいる、に当てはまるのかな。アイドルは時としてバッシングを受けたり、嫌がらせを受けたりする事がある。それでも彼女達がアイドルという存在である限りそれを最大限楽しんでいこうって、彼女達の中ではそう思っていると私は思うんだ」
監督の話を聞いて、黙り込んだ士郎
「それが正解かどうかは分からないよ?だってこの世界に答え合わせするものは存在しないのだから。思う事は人それぞれってことよ」
そこでやっと監督は士郎の方をみる。
「君はどうかね?」
「俺……ですか?」
俺は……どうしたいんだ?
「まだ……分からないです」
「なら、君から知りに行ったらいいんじゃないか?」
「え?」
「君には借りがあるからね、彼女達の練習を見に来てくれてもいいし、他の子の事が気になるならその子のを見にいけばいいよ」
「……」
「君が悔いの無い道を選ぶ事を私は勧めるよ」
「悔いの無い……道」
俺はまだ、彼女達の事を知らなすぎる……
なら、俺がやる事はただ1つ
「監督さん、ありがとうございます。おかげで自分なり答えが出ました」
「それは良かった」
「それから麻弥達にも伝えてください。色々と勉強になった、ありがとうって」
「任せておいて」
士郎は視線をテレビの画面に向ける。画面には彼女達が笑顔で客に手を振っていた。
知らないといけない……
俺が知らない……彼女達の世界を……
「それでここで働く気になってくれたかね?」
「監督さん、いい雰囲気が台無しです……」
ゴールデンウィーク3日目 Pastel✻Palettesのアイドルの“笑顔”
何かパスパレじゃなく、監督さんの話になってる?
知らんな!!
次はRoseliaだァ!