ライダーが家に訪れてから1週間が経とうとしていた。
彼女が言うセイバーは、まだこちらの街には来ていないみたいだった。その一方で、士郎はライダーが最後に言った言葉が頭から離れずにいた。
“今のセイバーは、貴方の知るセイバーではありません”
俺の知らないセイバー……
一体どういう事だ?
士郎はこの1週間頭を誤せていた。そのせいで授業にも集中出来ず、バイト中でもぼーっとしてしまい客の注文を聞き逃してしまう始末……
周りで見ていた蘭達は心配そうにしていたが、士郎は大丈夫、大丈夫と言い張り、蘭達には教えずにいた。
だが家でもこのような状態の士郎を何度も目撃していた蘭は、流石にもう我慢ならずモカ達と共に士郎に言い寄る事にした。
「士郎さん」
蘭に声を掛けられ、士郎は後ろを振り返ると蘭の後ろにモカ達がいた。
「あぁ、モカ達来てたのか。いらっs────」
「教えてください」
士郎が最後まで言い切る前に蘭がそれを遮るように被せてくる。
「士郎さんは、何に悩んでいるんですか?」
「え?」
そんな蘭の質問に士郎は敢えて惚けてみせるが
「な、なんの事だ?」
「流石に言い逃れは無理じゃないかな〜?」
「え?」
「あれだけ士郎さんらしくない所を見せられると流石に分かるよ」
「いつもの士郎さんなら注文を聞き逃したりなんかしないはずです!それも1日に何回も!」
「そうそう!あとは、えーっと……何だっけ?」
「えぇ!?あ、あとは……えっと……」
ひまりに聞かれ、つぐみは頭を悩ませる。そこに巴が助け船をだす。
「ま、まぁ要するに何か悩み事があるんじゃないか?って事だよ」
「悩み事吐いちゃえ〜」
とモカ達が詰め寄ってくるが、この事に関しては蘭達を巻き込みたくないと思った士郎は、彼女達の優しさに感謝を伝えながら断ろうと微笑みかける。
「心配してくれてありがとな。でもこの事に関しては俺の力で解決しなくちゃならない気がするんだ。だから────」
「士郎さん、前に言いましたよね」
断りの言葉を言おうとした時、蘭が再び遮るように被せてきた。
「悩みは自分1人の力じゃ解決しない、なら信頼できる人に話して一緒に解決に勤しんだ方が早く解決するって」
蘭は士郎は目をじっと見つめながら質問する。
「士郎さんにとって、あたし達は信頼出来ない人何ですか?」
「そ、そんな事ないさ!蘭達には信頼してるし、尊敬もしてる……でも」
「なら!」
蘭は声を荒らげるように言い放った。目に涙を浮かべながら……
「あたし達にも士郎さんの悩みを解決させる手助けをさしてくださいよ!」
蘭の必死な行動に、士郎は少し怯みながら目を逸らす。
「けど、これには蘭達にも迷惑をかけるかもしれない……」
「それならあたしの方が士郎さんに余程迷惑をかけていますよ!士郎さんに無茶なお願いしたり、いつも家事を任せっきりにしたりしています!」
「アタシ達も士郎さんに何かと迷惑をかけてるしな」
「士郎さんには前に店を1人で任せてしまった事もありました!」
「いつも家にお邪魔すると、私達の分の美味しいご飯を作ってくれます!」
「迷惑をかけてるのはいつもあたし達の方だよね〜」
「そんな、別に迷惑だなんて思ってないさ!」
「ならあたし達も士郎の悩みが迷惑なんて思いません!」
「───ッ」
蘭の肩を支えるようにつぐみと巴が掴む。
「もう教えてくれてもいいんじゃないか?」
「あたし達は本気だぞ〜」
士郎は彼女達の圧に負け、手を挙げながら降伏する。
「わかった……俺の負けだ。正直に話すよ」
その言葉を聞くと彼女達は互いを見遣り、笑い合う。そんな彼女達を見て、士郎は思わず微笑みを浮かべた。
「俺が悩んでる理由が知りたかったんだろ?」
「はい」
「実はな───ッ!?」
士郎が次の言葉を口にしようとした時、背中に悪寒が走り口を閉じる。
「士郎さん?」
蘭達は不思議そうに士郎を見ていると、玄関のチャイムが鳴り響く。
「?誰かな」
蘭が玄関に向かおうとするところを士郎が止める。
「俺が行ってくるよ」
「え?」
そう言って士郎は玄関に早足で向かう。
玄関に向かうと士郎は改めて感じ取った。その扉の先から明らかにヤバい雰囲気を……
実は士郎は悪感を感じた時と同時に玄関先からただよらぬ気配を感じていた。おそらく相手は魔術師かサーヴァントのどちらかだろうと考え、蘭を呼び止め士郎自ら会いに行くことにしたのだ。
そして感じ取った気配は、魔術師ではなくサーヴァント……
そこで士郎は思い当たるサーヴァント達を思い浮かべる。
ランサーなら、チャイムは押すが勝手に中に入ってくるから違う
ライダーなら、こんな悪感を感じるような気配はしないはずだから違う
アサシンがこっちに来るはずもないし、キャスターは俺がこっちにいることすら知らないと思うから違う
あの野郎は、絶対に俺に会いに来るわけないから論外
そして行き着いた答えは───────
「ライダーが言ってた、俺の知らない……セイバー」
士郎は唾を飲み込み、意を決して扉に手をかけ開ける。
そこで立っていたのは───────
「久しぶりですね、シロウ」
「セイ……バー……」
士郎にいつも向ける微笑みと共に、いつもと変わらない服をしたセイバーが立っていた。
「どうかしましたか?私が居ることに驚いているのですか?」
「ま、まぁ、確かにそこにも驚いたけど……」
士郎は困惑していた。
ライダーから聞いた話だと“自分の知らないセイバー”と聞かされていた。
だが実際は、どうだろうか?
金髪の髪に翠色の瞳、そしてセイバーの感情によって動くアホ毛、そして白い洋服に青いスカート……
どっかどう見ても士郎の知るセイバーそのものだった。
「えっと、セイバー、どこか悪いところとかあったりするか?俺がいない間に」
「悪いところですか?……特に思い当たりませんね……」
「そ、そうか」
とりあえずセイバーがいつも通りで良かった……と安心した。─────その時。
「1つ挙げるとしたら、シロウがいなかった事ですかね」
全身に悪寒が走り、冷や汗が止まらなくなった。
目の前にいるのはいつものセイバーのはず……なのに、なんでこんなにも寒気がするのか?
そこで士郎は違和感に気付いた。
彼女の容姿は変わっていない……しかし、彼女の瞳には士郎の知る翠色の瞳……ではなく、
「セイ……バー……?」
「なんて、冗談ですよ。シロウが用事で家を出なくてはならない事は知っています」
セイバーはいつものように微笑む。
先程のような翠色の瞳で─────
「そういえばタイガからシロウにと預かっていた物があるのでした」
「え、あ、そ、そっか。とりあえず中に入ろうか」
「えぇ、失礼します」
士郎はセイバーを居間まで案内する。
「あ、やっと帰ってきた……って、えぇぇぇぇ!?」
「おぉ〜綺麗な人ですな〜」
「と、とと巴ちゃん!凄い美人な人がいるよ!?」
「お、落ち着けってつぐみ!」
4人それぞれにリアクションをしているが、唯一リアクションを起こさなかった人物がいた。
「……」
蘭だ
蘭は驚きはしたもののすぐにセイバーを見つめていた。
「シロウ、こちらの娘達は?」
「あぁ、この家の持ち主の蘭と、あとは蘭の友達だよ」
「なるほど」
そう言うとひまりが近付いて来て、手を差し出す。
「こんにちは!私、上原ひまりって言います!よろしくお願いします!」
セイバーはひまりの手をじっと見たあと、微笑みながらその手を握った。
「はい、よろしくお願いします」
ひまりは嬉しそうにしながらつぐみ達の方へ駆け寄る。
「めっちゃ手スベスベだったよ!?それにめっちゃ綺麗な人だった!」
そんなひまりとは裏腹につぐみ達は
「さ、さすがひまりちゃんだね……」
「初対面でここまで出来るって逆に凄いよな」
「ひーちゃんは何も考えずに行くからね〜」
「モカのそれは褒めてるの!?」
ひまりを宥めながら、次につぐみから順に名乗り始めた。
「えっと、羽沢つぐみです!士郎さんにはいつもお世話になってます!」
「アタシは巴。宇田川巴だ」
「あたしはー青葉モカっていいま〜す」
「はい、よろしくお願いします。セイバーといいます」
4人は名乗ったが未だ名乗らず黙っている蘭に士郎は、不思議に思い呼びかける。
「蘭?大丈夫か?」
「え?あ、はい」
そう言って蘭はセイバーの前に立った。
「美竹蘭……です。士郎さんにはいつも家事やご飯など作ってくれています」
「そうですか、ふふ、シロウらしいですね」
そんな時、微笑んでいたセイバーからお腹の鳴る音が聞こえた。
「……」
セイバーは少し頬を赤らめながら下を向く。そんなセイバーを見て思わず笑ってしまう。
「な!?シ、シロウ!何故笑うのですか!」
「いや、ごめん。なんか久しぶりだなって思って」
「全く……」
セイバーの反応を見て、士郎は先程の玄関での出来事の事を頭の隅に置いて、今やるべき事をする事にした。
「そろそろ昼過ぎだし、ご飯でも作るか」
「食事ですか!」
ご飯と聞いた途端、セイバーは目を輝かせる。
「あぁ、ちょっと待ってくれ」
そう言って士郎はキッチンへと向かった。
「さて、何を作ろうか」
士郎はそう言ってセイバーが持っていた大河からの贈り物をみる。そこには
「卵?」
そう、卵が入っていた。
しかもそこそこ高いブランドの卵だ。
何故?と思いながらも卵と共に入っていた紙に目をやる。
『これが届いてるって事は無事にセイバーちゃんがそっちに行ったって事よね!セイバーちゃん、士郎に会えなくて結構寂しそうにしてたわよ。だからセイバーちゃんにもそっちに居座れるように美竹さんのおじ様に話通しておいたわ!だからセイバーちゃんの事もよろしくね★』
「藤ねぇ……」
行動が早すぎる大河に士郎は、苦笑いを浮かべた。士郎の脳内で高らかに笑っている大河が想像できた。
「鶏肉がまだ残ってるし、玉ねぎもある……よし」
士郎はエプロンを着用し、料理を始める。
鶏もも肉のスジや軟骨が残っている場合は綺麗に取り除き
2cm大に切ったら
醤油、みりん、酒、砂糖を合わせ、切った鶏もも肉を入れて5~10分程漬け置く。
玉ねぎは薄切り、三つ葉は3~4cm幅にざく切り
卵は割って軽く溶いておく
◆
「セイバーさん」
居間で士郎の料理を待っている間に、セイバーに聞きたい事を聞こうと蘭は語りかける。
「貴方から見た士郎さんってどんな風に見えてますか?」
「私から見たシロウ、ですか……そうですね……」
セイバーは悩んだ素振りをみせ、そして答えが見つかったのか蘭を見つめる。
「人一倍のお人好し、でしょうか」
セイバーはそう言って、士郎の背中を見つめ微笑んだ。
「自分の事は二の次に考えて行動する困った人ですよ」
「そうですか、士郎さんらしいですね」
そこでやっと蘭が笑顔を見せた。
◆
漬けておいた鶏肉を調味料ごと鍋に投入
更に玉ねぎ、水、市販の鰹粉末、出汁を入れたら強火で火にかける
煮立ったら中火にして3~4分程煮る
そこでふと居間に目をやると、セイバーと蘭達が楽しそうに会話してるのが目に入った。
「楽しそうだな、セイバー達」
肉と玉ねぎに火が通ったら溶いた卵を3回に分けて入れる
1/3量を中央から端にかけて『の』の字を書くように細い糸をたらすイメージで入れる
玉子が固まってきたら2回目も1/3量を先程と同様に回し入れ
2回目の玉子が固まってきたら、3回目も回し入れて火を止める
ご飯を盛った丼に盛り付けて三つ葉をのせて完成!
「出来たぞー」
「待ってました!!」
「もうモカちゃんはお腹ペコペコですよ〜」
士郎は机の上に丼を置いていく。
「えー、今日のご飯は親子丼です」
全員に行き渡ると、手を合わせ掛け声をだす。
『いただきます』
各々が口に含み、幸せそうな笑みを浮かべる。
「美味しいー!」
「玉子がふわふわだ」
「鶏肉も美味しいよ!」
士郎はふとセイバーの方を見ると、美味しそうに食べる姿が見えた。
「美味しいです、シロウ」
「それは良かった」
そんなセイバーの顔を見て微笑んでいると、隣から腕を軽く引っ張られる。
「士郎さん」
振り向くと口元に米粒を付けた蘭が何かを言いたそうにしていた。
「どうしたんだ?」
「セイバーさんは……その……今日帰られるんですか?」
「え?」
「出来れば……もう少し居て欲しいって……思って……」
だんだん声の声量を落として顔を俯く蘭を、士郎は微笑む。
「その事なんだがセイバーにもこっちで住んでもらう事になったんだ」
「そうなの!?」
何故か蘭ではなく、ひまりが驚いた。
「あぁ、蘭のお父さんから許可も貰ってるから」
「タイガには感謝しなければいけませんね……」
セイバーはスプーンを置き、蘭の方へ向きなおる。
「ラン、今日からよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしく、お願いします……」
お互いに頭を下げ、ひまり達が喜ぶ。
「後でセイバーさんにいっぱい質問していいですか!」
「わ、私も聞きたい事あります!」
「んー、アタシは多分聞きたい事は聞いてくれそうだし、ストッパーにまわろっかな」
「モカちゃんも質問しまくるぞ〜」
謎の盛り上がりを見せているモカ達を見守るように見ていたセイバー。
そんなセイバーを安心した様子で士郎は見ていた。
良かった……いつものセイバーのままで……
ライダーのあの言葉で1週間近く悩んでいたが、今思うとそれが杞憂だったと感じホッとしていた。
これからは、セイバーに彼女達を──────
「騎士王からは」(翠色の瞳)
「逃れられんぞ?」(金色の瞳)
セイバーのボソッと小さく呟いた言葉と瞳の色が変わっているところが目に入った。
これからはセイバーと“一緒に”彼女達を見守ろうと心誓う士郎だった
セイバーの軽い詳細
・容姿はセイバーだが、士郎の事を思うとセイバーオルタ化する。(尚、それは数秒だけ(士郎が見た限り))
最初はもっと重くした方がいいのかな?って思ったけどこの作品に重い描写入れたら全く違う作品になりそうだから没しました。あとは自分的にこれからの事を考えるとしんどくなりそうだからやめた(σº∀º)σドヤ