『今日、あたしの家に来て欲しいの!待ってるわ!』
昼過ぎ、こころからメールが届いた。
詳しい内容は書いてなかった為、意図は掴めないがとりあえず向かえば分かるだろう、と思い支度を始めた。
蘭は仲間達とバンドの練習をしに行ってるので家にはセイバーと士郎の2人だけ。
「セイバー、ちょっとこころに呼ばれたから行ってくるな」
「はい、行ってらっしゃい。お気を付けて」
セイバーに留守を任し、士郎は玄関を開け家を出ようとした。その時、家の前に黒い車が止まっているのに気が付いた。
士郎が困惑していると、車から黒スーツをきた人が降りてきた。
「衛宮士郎様でお間違いないでしょうか?」
「あ、あぁ、確かに俺が衛宮士郎だけど……アンタ誰だ?」
士郎が質問すると、黒スーツの人は背筋を伸ばし、頭を下げ謝罪する。
「これは失礼しました。私はこころお嬢様の執事─────言わば召使いです」
「こころの?」
「はい。この度はこころお嬢様の命により、衛宮士郎様を御迎えに上がりました」
そして召使いと名乗る人は車の扉を開け、どうぞ、と案内する。そのタイミングで、士郎の携帯にメールが届く。相手は─────こころだった。
『案内の人を送ったわ!』
送られてきたメールはその一言だけだった。士郎は、そんだけかよ、と内心でツッコミながらもこころにありがとうと送り、そして召使いの人に向き直る。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「お任せ下さい」
士郎は車に乗り込み、こころの家へと発車して行った。
◆
「相変わらずデカイな……」
車から降り、まず出た言葉がそれしかなかった。
ゴールデンウィークの時も家に上がらせてもらったが、それでも尚、目の前の屋敷を呆然と見上げるしかなかった。門の前で止まっていると─────
「あれ?士郎さんも呼ばれてたんですか?」
声のする方へ振り返ると、そこには美咲がいた。
「あぁ、こころが来てくれってメールが来たからな……てことは美咲もか?」
「あたしの方は、元々この曜日に話し合うって事になってまして」
「なるほど……ん?てことは」
「ハロハピ、全員集合してると思いますよ」
そう言いながら美咲は自分のトーク画面を士郎に見せる。そこにはグループトークで集合時間など話し合ってる会話があった。
「まぁ士郎さんが来ることは伝えられていなかったので驚きはしましたけど」
「俺も来て欲しい、しか言われてないからな……」
士郎も自分のトーク履歴を美咲に見せる。美咲は苦笑いを浮かべながら、溜息を吐いた。
「よくこの文脈で来ようと思いましたよね」
「まぁ、相手がこころだったし……それに家の前で召使いさんが待ってたからな」
「逃がす気ゼロですよね……」
「逃げる気とかなかったんだけどな……」
美咲と軽く会話していると、門が開き士郎を送り届けてくれた召使いが現れる。
「お待たせしました。衛宮士郎様、奥沢美咲様、弦巻邸へよくお越しくださいました。それではご案内致します」
召使いの案内の元、士郎と美咲はこころが待つ部屋へと向かった。
しばらく歩き、1つの扉前で立ち止まり召使いが扉を開ける。
「こころお嬢様、衛宮士郎様と奥沢美咲様をお連れして参りました」
すると、扉の奥から入ってちょうだい!と元気な声が聞こえた。
「失礼します」
召使いが扉を開け、それに続いて中に入る。
「来たわね!」
部屋にはこころ、そしてはぐみに薫、花音がいた。
「あれ〜?士郎さんも来てたの?」
「まるでサプライズだね、実にこころらしいよ……!」
「美咲ちゃん、士郎さん!こんにちは!」
花音達と挨拶を交わし、指定された席に座り召使いからお茶を頂いた。
「それでこころ、士郎さんを呼んだって事は何かするの?」
「えぇ!今日はとてもおもしろそうな遊びをしようと思うわ!」
「遊びって言っちゃったよ……」
目を爛々と輝かせているこころとは裏腹に美咲は何か嫌な予感を感じたのか、少し嫌そうな顔を見せる。
「それでこころ、その遊びはどんな遊びなのかな?」
「それはね!─────
──────かくれんぼ、よ!!
「……え?」
こころがやりたい遊びが、かくれんぼと知り呆気に取られる。
「すごく楽しそう!!さんせーい!」
「ふふっ……とても儚い提案だね。勿論私も参加させて貰うよ」
しかし、唯一呆気に取られなかった2人はやる気満々に参加する。そこで美咲と士郎はようやく気を取り戻した。
「かくれんぼか……この歳になってからやったことなかったな」
「わ、私も賛成、かな」
「……不安な事はまだあるけど、花音さんがやるならあたしも参加するよ」
「決まりね!」
全員が賛成し、次に鬼決めを始める。
「鬼は……士郎ね!」
「俺なんだ……」
「範囲はここ全部ね!」
「……ん?ここ全部?」
士郎は疑問に思い、近くにいた召使いと目が合う。
「弦巻邸の家の範囲はあちらの山まででございます」
召使いは窓の先にある山を指した。
「いや広すぎだろ!?」
「こころ、流石にそれは広すぎるから!もっと狭めよ?」
「そう?ならこの家と家の周りが範囲ね!」
「それならまぁ……」
まだ充分広すぎるが、先程よりも狭まったので渋々だが了承する。
「じゃあ1分後に探しに来てね!」
「わかった」
「行くわよ〜?ょーい、ドン!!」
こころの合図と共にかくれんぼがスタートした。
◆
かくれんぼが始まって3時間経ち、ようやく最後の1人を見つける事が出来た。
「長かった……」
途中からかくれんぼじゃなくなった気がしたが、そこは気にしないでおく。
「じゃあ次はお茶会をしましょうか!」
「お茶会?」
「えぇ!みんなで花園の所でお茶をするの!」
こころがそう提案すると、召使いがすぐ手配しますと言って、部屋を出ようとしていたので、士郎はそこである頼みを申し出た。
「あの、邪魔じゃなければ俺も手伝わせてくれませんか?」
「しかし衛宮様はこころお嬢様のお客様、お手を煩わせる訳には……」
「じっと待ってるより何かしてるほうが落ち着くんで、むしろ手伝わせてもらった方が気が紛れるので」
召使いがどうしようか困り果てていると、こころが助け舟を出す。
「あら、士郎も何か作るの?それはとても楽しみね!」
こころにそんな事を言われては召使いも諦めるしかなく
「かしこまりました。それでは厨房までご案内致します」
召使いに案内され、厨房まで向かう。
「すみません、無理言って」
厨房に着いた頃に、士郎は召使いに謝る。
「いえ、お手伝い頂けるのはこちらとしても嬉しい事でもあります。それに衛宮様の料理はとても美味しいとこころお嬢様から常々伺っておりましたので」
「いや、ここで出されてる料理と比べたら全然ですよ!」
「……なるほど、お嬢様の言う通り貴方は謙虚過ぎるようですね」
「え?」
召使いは棚から3段スタンドを取り出し、士郎の前に置く。
「お茶会ではこちらの物を使います。最上段はデザート、中段にはスコーン、そして一番下の段にサンドイッチを用意します」
「なるほど……」
「では衛宮様にはサンドイッチをお願い出来ますか?」
「分かりました」
「材料などはお好きに使われても構いませんので」
召使いはそう言うとメイド達にデザートとスコーンの準備を指示しに向かった。
「じゃあ早速……始めますか」
まずは下準備
バターとクリーム、チーズは室温に戻し柔らかくしておく
サラダチキンを手作りする場合は、鶏ムネ肉に砂糖をまぶし揉みこんで10分おく
沸騰したお湯に塩と酒を加え、鶏ムネ肉を入れ、再沸騰したら火を止めて蓋をし、20分ほどおく
手でさわれるくらいに冷めたら手で細かくさいておく
そしてここからサンドイッチ作り
まずきゅうりのサンドイッチを作る
きゅうりの皮を剥き斜め切りに、バットに並べて塩をふり5分ほどおく
水分が出てきたらワインビネガーを全体にふりかけ、更に10分おく
キッチンペーパーで水気をよくとり、パンにバターを塗ったらきゅうりを並べ、胡椒をふり、もう1枚のパンで挟む
次はスモークサーモンとクリームチーズのサンドイッチ
パンの片面にクリームチーズを塗る
その上にスモークサーモンを並べ、胡椒とケッパーをちらし、もう1枚のパンで挟む
最後はチキンのカレー風味サンドイッチ
玉ねぎを薄切りにして塩を少々ふり揉む
玉ねぎが辛い場合は水で洗い、水気をきる
ドライフルーツとナッツ類は細かくきざみ、ボウルに玉ねぎ、さいておいたサラダチキン、きざんだドライフルーツとナッツ類、無糖ヨーグルト、マヨネーズ、カレー粉を入れて混ぜ合わせる
パンに混ぜ合わせた具材を均等に広げ、もう1枚のパンで挟む
挟んだパンは乾燥しないようにラップで包み、上から軽く押さえておく
時間があれば冷蔵庫で30分ほど休ませる
パンの耳を切り落とし、切り分けて完成!
「よし……!」
「出来上がりましたか?」
「あ、はい」
召使いは出来上がったサンドイッチに目を向け
「失礼ですが、味見させて貰えないでしょうか?」
「俺の方からもお願いしたかった所です」
そう言って士郎は、味見用のサンドイッチを召使いに渡す。召使いはそれを口に運び、士郎はドキドキしながら感想を待つ。
「……ふむ」
「……」
「……衛宮様は誰から料理を学んでいるのですか?」
「えっと基本は独学で……」
「なるほど……」
召使いは何も言わず、数秒してから笑顔で感想を述べた。
「とても美味しかったですよ」
「良かった……」
「ではこちらのサンドイッチを持って行きましょう」
召使いは、サンドイッチを持って行く前に、士郎に向き直り呼び掛ける。
「衛宮様」
「はい?」
「もっと自分に自信を持ってください。貴方は少し謙虚過ぎる」
「え?」
「それではいつかご自分を傷付ける事になります。他人に気を使い過ぎるのも、大概にした方がいいでしょう」
召使いは笑顔を見せる。
「これは貴方よりも長く生きてる年長者からの助言でございます」
「……!」
「お嬢様方をお待たせさせ過ぎるのもよくありません。早くお届けに参りましょう」
「来たわね!」
花園に着くと、そこにはもう机と椅子が用意されており、士郎の分の椅子も用意されていた。
「大変長らくお待たせいたしました」
そして机の真ん中に3段スタンドを置く。
「わぁ〜!美味しそう!!」
「衛宮様がお作りになられたのは下段のサンドイッチでございます」
『おぉ〜』
全員に皿がいき渡り、メイド達からお茶を頂き、早速食べようとするが、手が止まった。
「あれ?お茶会って別にいただきますって言わないでいいんだっけ?」
「こころ、どうなの?」
「ならお茶会じゃなくて、いつも通りのあたし達でいただきましょう!」
「そんな簡単に決めていいの?」
「もちろんよ!だっていただきますって言った方が楽しいでしょ?」
その言葉に士郎達は笑みを零す。
「楽しいかどうかはともかく、士郎さんが作る=いただきますって言うのが定着してるのは確かだよね」
「あ!それはぐみも思ったー!」
「確かにそうだね。ふふっ、いつの間にか私達は彼色に染まられていたんだね……あぁ、なんて儚いんだ……!」
「う、うん!士郎さんが作ってくれた料理、心が温かくなるよね」
「じゃあ決まりね!それじゃあ─────」
『いただきます』
サンドイッチを口に運び、美味しそうに食べる。
「う〜ん!美味しい!!」
「えぇ!とても美味しいわ!」
「ちょ、2人ともそんなに急いで食べると喉詰まらせるよ!」
「美しい花を目に写しながら、サンドイッチを頂く……これ程の贅沢があっていいのか不思議に思ってしまうね」
「うん……わ、私、こ、こんな贅沢していいのかな……!?」
そんな彼女達を見守るように見ていた士郎に召使いが後ろから話しかけて来る。
「貴方様はお嬢様方の笑顔を作られました。これを見てもまだ自分の力ではないと申しますか?」
「……流石にそこまで自分を否定はしませんよ」
「おそらくこころお嬢様は衛宮様のことを思い、本日の会談を遊びに変えられ、そして最後にはお茶会といった手段を取られたのだと私は思います」
士郎はまさかと思いながら、こころに目を向ける。すると、こころも士郎の視線に気付き笑顔を向けてくる。こころの笑顔に微笑を浮かべ返す。
まさかな、と思いながらお茶を啜る。
それと同時にまた彼女に助けられてしまったな、と何故か嬉しそうに思う士郎だった。
次回!ついに新グループが!?
※この話で省略されたかくれんぼ回は外伝編で投稿させていただきます
外伝編はというのはこの話を書いてる時に思い付きました。なので投稿する日も決めてません。決まり次第、活動報告で報告させていただきます