IFもうひとつの約束 〜もし1年生だけで全国を目指すことになったら〜   作:勘解由小路龍之介五郎左衛門十兵衛

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8. 合宿の成果

ゴールデンウィーク最終日。

 

私たちは、昨夏千葉ベスト16の大鷲高校と、東東京代表の藤和高校(ただしBチーム)の2校と総当たりで練習試合をすることになった。

 

くじ引きの結果、第一試合は藤和vs.大鷲。第二試合は新越谷(うち)vs.大鷲。第三試合は新越谷vs.藤和となる。

 

なので、第一試合の間、私たちは観客席で見学だ。

 

「ねぇタマちゃん。どっちが勝つと思う?」

「うーん、藤和かなぁ……。Bチームとはいえ、来年以降の主力選手がメインみたいだし。激戦区東東京代表はちょっと格が違うよ」

「おっ、賭けか? じゃあ私、大鷲高校に500円!」

「こら稜。500円とはいえ野球賭博なんてしたら不祥事どころの騒ぎじゃないわよ」

「じょ、冗談だって……」

 

あはは……稜ちゃんは仕方ないなー。でも気をつけようねー。ただでさえ新越谷(うち)は例の暴力事件で風当たりが強いんだからねー。

 

「ひっ! 芳乃の目が怖い……!」

 

稜ちゃんがなんか怯えてる。まぁ、分かればいいんだよ(暗黒微笑(だぁくねすすまいりんぐ))。

 

それはさておき。

試合前のノックをぼーっと眺めていると、私はあることに気づいた。

 

「あっ、あそこ! 大鷲のベンチに藤平さんがいる……!」

「藤平さん? 芳乃の知り合いかしら?」

 

息吹ちゃんが首を傾げる。

 

「去年のU15日本代表投手だよっ! 世代最速レベルの速球に、緩急のあるスローカーブ、あとスライダーとフォークも投げれる特S級の本格派だよっ!」

「へえ……そんな凄いピッチャーがいるのね」

「もー、息吹ちゃんは他の選手に興味なさすぎだよー。ベンチにいるってことは投げないのかな……? もしかして、うちとの試合で投げたりして?」

「だとしたら、楽しみね」

 

息吹ちゃんは小さく笑みを浮かべながら藤平さんを見据える。

 

藤平さんvs.息吹ちゃんか……。

実現するといいなぁ。

この前の柳大との練習試合における大野さんと朝倉さんとの対戦で、息吹ちゃんが県レベルの強豪に通用するのは分かった。

あとは、全国レベルに通用するか……。通用するとして、どれほど活躍することができるのか……。

 

おそらく、藤平さんは息吹ちゃんの苦手なタイプのピッチャーだ。

 

息吹ちゃんは相手の球種に山を張って打ついわゆる『読み打ち』タイプの打者だ。

だから、相手の球種が少なければ少ないほど、読みの精度は高まる。

ヨミちゃんの球種はストレートとカーブのたった二種類。先日対戦した柳大の朝倉さんもストレートとフォークの二種類。

配球が読みやすく、息吹ちゃんが大好物なタイプのピッチャーだ。

 

実際、部内でのヨミちゃんと息吹ちゃんとの勝負では圧倒的に息吹ちゃんの方に分があったし、柳大戦でも朝倉さんの球をまともに打ったのは息吹ちゃんだけだった。

 

一方、柳大の大野さんは多彩な投球を見せるピッチャーだったけど、ストレートの威力が並程度だったので、対応力に優れた息吹ちゃんならそれほど問題なかった。

 

たけど、大鷲の藤平さんは、世代最速レベルの速球を持つパワーピッチャーでありながら、スライダー・スローカーブ・フォークボール・チェンジアップの緩急も自在な本格派。

いうなれば、変化球の多彩な朝倉さんだ。

その代わりノーコンだけど、それが逆に的を絞りづらくしているとも言える。読み打ちタイプの息吹ちゃんにとって、天敵といっていいピッチャーだろう。

 

次の大鷲戦が、息吹ちゃんの真価を測るチャンスとなりそうだ。

……もちろん、藤平さんが登板してくれたらの話だけど。

 

 

***

 

 

「はあ、どうせなら新越谷じゃなくて藤和相手に投げたかったなぁ」

「そう言うな、奈央よ。監督は、一年のお主にまず勝ちを味わわせてやりたかったのであろう」

「あたしなら藤和のBチームくらい抑えれますぅー! てか、勝ちなんて中学時代に嫌になるほど味わってるって」

 

大鷲高校の一年生エース藤平奈央は肩をすくめた。

ブルペンキャッチャーの一年生、石原美子(よしこ)は肩もよくて打撃も出来るいいキャッチャーなのだけど、堅物なので一緒にいてもあまり面白くない。

 

「あー退屈ね。そうだ、美子。賭けしない? 何点差つくか。負けたら帰り荷物持ちね」

「……相手をあまり過小評価しないほうがいい」

「まさか、あたしが投げるのに負けるとでも思ってんの?」

「そうではない。勝って当然の試合であろう。だが、だからこそ、ここでお主が不甲斐ない投球をするようであれば、夏のベンチ入りすら白紙に戻りかねんぞ」

「へーへー分かってますって。……それで、何点差つくと思う?」

「……5点」

「控えめだねぇ。コールド無しなんだし、かるーく10点差はつくでしょ。まじでなんでこの練習試合に加わってんのってレベルの高校でしょ、新越谷(あれ)

 

たしかに、昔は強豪校だったのかもしれない。

だけど、今は部員たった9人。それも全員一年生。

こんな弱小校に、県ベスト16の大鷲が、それもエースである自分が投げて負けるわけがない。

圧勝だ。

 

奈央にはそのような自信があった。

否、奈央だけではない。

大鷲高校、藤和高校……この両校ともに、新越谷高校のことを侮っていた。

 

軽く10点差はつく。

奈央のこの予想は的中することになる。

ただし、その勝敗は奈央の予想とは真逆だったが。

 

 

***

 

大鷲vs.藤和B 4対9

新越谷vs.大鷲 15対3

藤和B vs.新越谷 7対8

 

練習試合が終わってミーティング。

部室には晴れやかな空気が漂っていた。

 

「いやー、2連勝! 高校初勝利は気持ちいいなぁー!」

「えらくご機嫌ね、稜」

「そりゃそうだよ。日本代表ピッチャーからホームラン打ったんだぜ! 菫は大鷲戦、1本しかヒット打ててなかったよなっ」

「そのかわり大鷲戦の出塁率は稜の2倍あるわよ。それに稜、藤和戦は全打席凡退じゃない。藤平からホームラン打ったからって調子乗って大振りしすぎよ」

「合宿中ずっと大振りの練習してたんだから大振りになんのはしょーがないだろ!」

 

わいわいぎゃーすかぎゃーすか。

やっぱり、稜ちゃんと菫ちゃんは仲良しだなぁ。

 

「はいはい。二人ともイチャイチャするのはそれくらいにして、さっさと反省会して帰ろ?」

「イチャイチャなんてしてないっ」「イチャイチャなんてしてないわよっ」

 

やっぱり息ぴったし。

 

「じゃあ、反省会しよっか。まずは初戦の大鷲戦ね」

「まさに打線爆発! 圧倒的勝利!って感じだったな」

「先発全員安打だったわね」

「……菫ちゃん、私ヒット打ってないんだけど」

「ごめん。素でヨミのこと例外扱いしてたわ」

「ひどーい!」

 

ぷんすか、ヨミちゃんがほっぺを膨らませる。

 

「でも、圧巻だったのは息吹ちゃんだよね」

「うんうん、全打席ホームランとかヤバいし!」

「そ、そうかしら……」

 

みんなから褒められて照れる息吹ちゃん。

 

「まあ、第一打席は相手が自滅してくれたから打てたようなところもあるわね。ああいうパワーピッチャーは本来苦手なんだけど、ストライクとボールがはっきりしてたから置きに来たど真ん中のストレートだけ待ってれば良かったのよ」

「けど、狙い球をきっちりホームランにするんもすごいっちゃ。私は良い球過ぎて逆に力んでゴロになったりしたけん」

「あーそれめっちゃわーかーるー。私も良い球すぎて空振っちゃったかもー」

「ヨミちゃんは球見えてないだけでしょ。てか打者一巡する前に交代しちゃったから藤平さんと対戦してないし」

「むー、酷いよタマちゃーん!」

 

わりと本気でショックを受けるヨミちゃん。

このままみんなと勝利の余韻に浸りたいところだけど、あまり時間がない。

私はぱんぱんと手を叩き、みんなの注意を向ける。

 

「はいはい。談笑するのはそれくらいにして、反省会やっていくよ」

「はーい」

「まずは稜ちゃん。第一打席、日本代表の藤平さんから高校初ホームランおめでとう。でも、その後の打席は打ち気にはやりすぎたかな。フリースイングって言っても、ある程度相手の配球を読んで、打つ球と見送る球は考えなきゃダメだよ」

「り、了解」

「次に息吹ちゃん。大鷲戦は全打席ホームランで大活躍だったね。でも、藤和戦では相手の変則投手に苦戦してたね。息吹ちゃんは相手が速球派でも軟投派でも同じタイミングでリズムを取るけど、そこも相手によって変えたほうがいいかもね」

「そうね。経験の少なさが現れたわ。帰ったら練習に付き合ってくれるかしら」

「うん、勿論。じゃあ次は白菊ちゃん。白菊ちゃんはヒットも打ったし、フォアボールを選ぶこともできたし、初心者とは思えない活躍だったね。でも、バットを握る手にちょっと力が入り過ぎかな。バッティングで大切なのはスイングスピードだから、必要以上に強く握る必要はないよ。もちろん、インパクトの瞬間はぎゅって握らなきゃだけど」

「確かに、言われてみたらそうかもしれません。剣道でも、構えは余裕を持たなくちゃいけませんものね……。精進します」

 

こういう感じで、私は順番に選手の良い点・改善点を述べていく。

そして最後。

私は一番の問題児のほうを向く。

 

「最後に有希ちゃん。有希ちゃんは新しいバッティングスタイルが上手くいってるね。さすが、光陽台桜の天才少女!」

「そ、そうかな?……そ、それで、反省点は何だし?」

「うーん。それが、よく分からないんだよね。有希ちゃんのスタイルが野球の常識から外れすぎてて」

 

これだ。

有希ちゃんのバッティングスタイルは良くも悪くも新しい。これまで有希ちゃんのようなスタイルの選手はプロにもいなかった。

強いて言えば、メジャーに行ったあとの某安打製造機が一番近い感じだけど、あれともちょっと違う。

 

そのため、アドバイスがしづらいのだ。下手に口出しすると、いま調子が良いのまで崩しかねない。

せめてもう少しデータがあれば。調子がいい時と悪い時のデータがあれば、両者を比較して改善案を出すことくらいはできるのだけど。

 

野球理論オタクとしては不甲斐ないけれど……でも、興味深い研究対象でもある。

これから3年の夏まで、じっくりねっぷり有希ちゃんのバッティングを調べあげて、その秘密を丸裸にしてみせねばっ! じゅるり……。

 

「よ、芳乃ちゃん!? なんか目が怖いし!」

 

そんなこんなで、ゴールデンウィーク合宿は終わり……夏がやってくるのでした。




前話の投稿から非常に間が空いてしまいました。申し訳ありません。

さて、今回の練習試合はどういう結果にするか悩みましたが、サクッと勝たせてしまいました。いろいろと苦労するような展開も考えたのですが、いまいち面白くならなかったので。
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