IFもうひとつの約束 〜もし1年生だけで全国を目指すことになったら〜   作:勘解由小路龍之介五郎左衛門十兵衛

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11. 影森戦(前編)

「「「手足が同時に出てる奴!」」」

 

開会式の入場行進の録画を見て、涙を流す部員が3人。

有希ちゃんと白菊ちゃんと息吹ちゃんだ。

 

初心者組2人はまあ仕方ないとして、息吹ちゃんはモノマネ得意なんだから前の人の真似すればよかったのに……と思ったら、息吹ちゃんの前は有希ちゃんだった。

 

でもまぁ、息吹ちゃんは基本完璧なんだけど、たまにこういうヘマをする所が可愛いよね。……え、シスコンじゃないよ?

 

 

***

 

 

いよいよ、影森戦だ。

 

最後の調整や、申し訳ばかりの守備の連携練習をしていたら、試合当日はあっという間にやって来た。

 

今日の新越谷(うち)のオーダーはこんな感じ。

 

一番センター 中村希

二番レフト 丹羽有希

三番ライト 大村白菊

四番ピッチャー 川口息吹

五番ショート 川崎稜

六番ファースト 川口芳乃

七番キャッチャー 山﨑珠姫

八番サード 武田詠深

九番セカンド 藤田菫

 

まあ、投手ヨミちゃんを温存している以外は特に捻りのないオーダーかな。

結局、影森に関しては殆どノーデータなので、正攻法でいくしかない。

 

とはいえ、偵察で得た情報や試合結果などから読み取れる情報はあるので、そこはバッチリ反映している。

試合時間を見るに、おそらく、影森はテンポの早い試合を仕掛けてくる。つまりピッチャーはボール球をあまり多投せず、ゾーンで攻めてくることが予想される。選球眼の悪い有希ちゃん、白菊ちゃんを臆せず上位で起用できるのはありがたいね。

あとは、テンポの早い展開が得意な稜ちゃんを五番に置き、そういうのが苦手な菫ちゃんを九番に下げる。

 

ピッチャーの息吹ちゃんはストレートのスピン量が多いから、空振り率が高い代わりに球が軽い。フライを外野に飛ばされやすいことを考えると、外野に初心者2人を抱えるうちの守備とかみ合ってないピッチャーだったりする。

でも空振り率が高いぶん三振は取ってくれるので、ある程度の失点さえ覚悟すれば安定して抑えてくれるピッチャーでもある。

 

今回の影森戦の鍵は、いかに相手の野球にのまれずに、自分たちの野球をやるかにかかっている。

具体的にはロースコアの試合を拒否し、大量点の取り合いになるのが理想的だ。

 

そのための作戦はいくつか考えてあるけど……でも1巡目は、とりあえず選手に任せて様子を見ようかな。そしたら何か見つかるかもしれないしね。

 

そういうわけで、試合開始前の練習時間。

藤井先生にノックを打ってもらうが、やっぱりみんなミスが多い。でもノビノビとプレーは出来ているね。動き自体は悪くないよ。

 

2回戦とはいえ初戦だけあって、球場の観客席はガラガラだ。

だけど新越谷(うち)の応援席に道着姿の一角がある。白菊ちゃんの関係者かな? なんかお嬢様とか呼ばれてるし。今度白菊ちゃんのことお嬢様って呼んでみようかな?……なんてね。

 

相手チームの守備練習は、声こそ出さないもののかなり上手。まあ守備が下手だと強豪相手にロースコアのゲームにはならないよね。新越谷(うち)とは真逆のタイプかな。

ブルペンで投げる相手ピッチャーは、アンダースローの中山さん。偵察通りだね。事前に息吹ちゃんのモノマネで対策したのとフォームはそっくりだけど、球速は息吹ちゃんのほうがやや速いかな?

 

そう思って息吹ちゃんのほうを見ると、カチンコチンに固まっている。

 

「あれ? 息吹ちゃん、緊張してる?」

「しょ、しょうがないでしょ! 初めての公式戦なのよ!」

「あー」

 

そういえば忘れていたけど、これは私たちにとっても初めての公式戦なんだっけ。作戦とか考えるのに夢中で忘れてたよ。

特に息吹ちゃんはこのチームの核。めちゃくちゃプレッシャーのかかる立場だ。

初公式戦で四番ピッチャーなんて普通ないからなぁ。緊張して当たり前だ。

 

でもまあ、息吹ちゃんは本番になればなんだかんだやってくれるタイプだからね。信用してるよ、私のお姉ちゃん。

 

さて、試合前に藤井先生から軽くお話をしていただいて、いよいよプレーボールだ。

 

後攻の新越谷はまず守りから。

息吹ちゃんがマウンドに立ち、深呼吸する。

うん。いつもの凛々しい横顔になったよ。

 

一番バッターの山池さんが打席に立つ。

珠姫ちゃんの要求はやや高めのボール球。まずは一球、様子見と緊張をほぐすためのリードかな?

息吹ちゃんは振りかぶって、要求通りの球を投げる。

バッターの山池さんは高めの球を打ちあげる。息吹ちゃんの球は浮き上がるように感じるから、思わず手が出ちゃったのかな?

 

平凡な外野フライ。

とはいえ、飛んだ方向があまりよろしくない。

ライトの後ろ側――白菊ちゃんの方向だ。

 

「白菊ちゃん、後ろ、後ろっ!」

「は、はいっ!」

 

白菊ちゃんはセンターの希ちゃんの指示を受けながら後ろに後退。だが……

 

「た、高いですーっ!」

 

あちゃー。

バンザイだ。

打球は白菊ちゃんのグラブの上を通り過ぎていく。

……これ、やっちゃうとめちゃくちゃ恥ずかしいんだよね。私も草野球で経験あるから分かるよ。

でも、ボールを取れなかったら早く拾いにいかなきゃ。エラーしたからって固まってちゃダメだよ!

 

結局、外野に転がるボールはカバーに入った希ちゃんが拾い二塁に投げる。

とはいえバッターは悠々セーフ。

エラーによる出塁でノーアウト2塁となった。

 

「白菊ちゃん大丈夫! 守備でのミスは打席で返せばいいから! どんどんエラーしていこおっ!」

「は、はいっ!」

 

私はファーストから精一杯の声を出す。

初心者にあれもこれも求めるのはやり過ぎだ。白菊ちゃんの役割は初心者らしからぬ打撃でチームに貢献すること。このエラーを引きずって打撃にまで影響が出たら困る。

 

さて、気を取り直して二番バッターの小橋さん。

バントの構えをしている。うちの内野はそこそこ上手いけどあくまでそこそこ。バントを防げるほどじゃない。素直に1アウトもらっておいたほうが良さそうだね。

1アウト3塁になったら犠牲フライでもスクイズでも点が入る。これは1点は覚悟しなきゃいけないね。

 

珠姫ちゃんも同じ考えなのか、ストライクゾーンに構える。

そして……

 

「バスターエンドランっ!?」

 

影森の二番バッターの予想外の行動に思わず声をあげる。

 

まさか、初回のこの大事なバッターでそんなギャンブルを?

 

二遊間に難しい当たり。

しかし、不幸中の幸いにも稜ちゃんが好フィールディングで止めると、三塁が間に合わないのをチラッと確認して一塁に投げる。

 

1アウト3塁。結果的にバントをさせたのと同じ結果になった。

とはいえ、こちらが精神的に受けたダメージはそれ以上に大きい。

何をやってくるか分からないっていうのは怖いよね。

 

続いて、三番バッターの三角さん。

またもや、初球打ち。平凡なフライだけど、これも飛んだ方向が悪い。レフト方向……今度は有希ちゃんだ。

 

そして有希ちゃんはボールを見失ったのか、上を見上げてきょろきょろしている。

幸いにも打球が高かったので、センターの希ちゃんが快足を飛ばして追いつきフライアウトになるも、体勢を崩してホームに投げられず。三塁走者がタッチアップで帰塁して1点を先取された。

 

たった3球で1失点。

しかし、影森ベンチは先制点をあげたにもかかわらず全く喜ぶ気配がない。淡々としている。

 

とはいえ、これで2アウトランナー無し。

もとより多少の失点は覚悟のうえだ。

 

息吹ちゃんは点を取られて吹っ切れたのか、先程までよりもいい球を投げ三球三振で相手四番バッターの小毬さんを抑えた。

 

「ごめん芳乃。失点しちゃったわ」

 

ベンチに戻る道すがら、マウンドから追いついた息吹ちゃんが片手を上げて謝った。

 

「大丈夫。それより、最後の球すごく良かったね。まるでヨミちゃんのストレートみたいだったよ」

「あはは。じつは、リリースの時の指の使い方をちょっと真似てみたのよ。おかげで少しだけ球の威力が増した気がするわ」

 

息吹ちゃんはとっさにこういうことができるから凄いんだよね。普通、思いつきでちょっと真似てみるなんてできないよ。しかも試合中に。

 

「め、面目次第もありません! 私のエラーのせいで点を取られてしまって……」

 

外野からダッシュで戻ってきた白菊ちゃんが髪をバサッと揺らして頭を下げる。

 

「全然大丈夫だよっ! でもエラーした後もインプレー中だから、ぼーっとしてちゃダメだよ。すぐにボール拾いにいかなきゃ」

「は、はいっ!」

「まあ、エラーは計算のうちだから。それよりも目の覚めるような一発、期待してるね。お嬢様」

「はい……って、お嬢様ってなんですかーっ?」

「だって、ほら。道場の人が白菊ちゃんのことお嬢様とかお嬢って呼んでたよ」

「お、お友達にお嬢様と呼ばれるのは恥ずかしいですー!」

 

白菊ちゃんは顔を押さえて地団駄を踏む。

だけど、エラーのショックは吹き飛んだようだ。

よかった。白菊ちゃんにしょんぼりした顔は似合わないからね。キラキラ笑顔で白球を追いかける野球少女でいてほしいな。

 

さて。

1回裏、新越谷高校の攻撃。

 

一番バッターの希ちゃんが打席に立ち構える……と同時にピッチャー投げる!

早い!

希ちゃんまだ「お願いします」も言い切ってなかったよ!

 

思わず希ちゃんは見逃し、審判のストライク……コールと同時にキャッチャーがピッチャーに返球するとピッチャーがすぐにモーションに入って投げる!

 

2ストライク。

 

希ちゃんはたまらず、キャッチャーの返球の前に右手でタイムをかけゆっくりと構える。

 

そして三球目。

ピッチャーが構え……投げたっ!?

 

早い!

クイック――いや、スーパークイック!?

こんなモーションで投球できるものなの!?

 

希ちゃんはとっさに手を出すがボテボテのサードゴロ。アウト。

 

希ちゃんがこんなに翻弄される打席も珍しい。

とぼとぼと、希ちゃんが肩を落としながらベンチに戻ってくる。

 

「ドンマイ! どうだった?」

「多分全部直球……大した球やないけどなんか気持ち悪かった……」

 

希ちゃんと話していると、ネクストにいた白菊ちゃんがこちらに寄って来た。

 

「希さん、中山さんの球速はどうでしたか? マシンの最高設定が100%とすればどれくらいでしょう?」

「80くらいやない? 息吹ちゃんのアンダースローとあんま変わらんよ」

「80ですか。ありがとうございます」

「?」

 

希ちゃんが首を傾げる。

いったいどういう意図の質問だったんだろう?

マシンの最高設定が何か関係あるのかな? たしか白菊ちゃんはマシンでの速球打ちが結構得意だったけど……

 

って、いけないいけない。

白菊ちゃんのことも大事だけど、今は有希ちゃんの打席だ。

 

こうしている間にも、有希ちゃんは2ストライクノーボールに追い込まれている。

スーパークイックで放たれた中山さんの第3球目……

 

キィン!

 

有希ちゃんの打球はショートの正面にワンバウンドで届きそうな当たり。

影森のショート山池さんは丁寧に捌こうとするが……

 

その打球、消えるよ?

 

有希ちゃんの打球は山池さんの1メートルほど手前でワンバウンドしたとき、ボールにかかっていた回転によってイレギュラーのようなバウンドをする。

グラブを前に出すために突っ込むようになっていた山池さんは、突然視界外に逃げたボールをすっかり見失ってしまう。カバーに入ったレフトがショートの後逸したボールを捕球したときにはすでに、余裕で1塁セーフとなっていた。

 

やっぱ有希ちゃんのバッティングスタイルは初見殺しすぎるよね。

どの方向の回転がかかってるか分からないから、知ってても対処は難しいし。

 

とにかく、1アウト1塁。

果たして、白菊ちゃんは汚名挽回の一打を放つことができるか……!?

 

 

***

 

 

私、大村白菊が幼少より親しみ、全国制覇を成し遂げた剣道は、間合いの攻防とも呼ばれる競技。

 

もちろん、野球と剣道はまったくことなるスポーツだということはわかっています。

それでも、剣道の感覚を野球に活かすことは可能だと、芳乃さんや息吹さんに教えてもらいました。

 

正直、私が野球を始めるにあたって、不安はたくさんありました。

高校野球で活躍している選手は、みなさん幼少の頃から……遅くとも中学生から、野球の鍛錬に励んできた方々ばかりです。

 

そんな中で高校から始める私が、みなさんの足を引っ張らないか。

実際、私は野球選手なら当たり前に捕れるはずのフライをエラーし、さらにそれに動揺するあまりその後のカバーも忘れてしまいました。

 

それでも、芳乃さんをはじめ、野球部のみなさんは私のことを信じてくれています。

 

でしたら……私の今持っている全ての心技体をもって、それにお応えするまで……!

 

私が得意なマシン打ち。そして剣道の間合いの感覚。

その二つを融合させて……目の前の相手を討つ!

 

ピッチャーの中山さんの小細工(クイック)は私には通用しません。中山さんが何をしようと、それはせいぜい不正投球にならない範囲。私がこれまで剣道で対峙してきた相手は、もっと複雑なフェイントを仕掛けてきました。

 

この勝負の間合いはおよそ八間。

その間合いにボールが入ってきたときに打てば、マシンと同じタイミングで打てるはずです。

 

「……今っ」

 

神   仏   照   覧

 

めし

 

私の腕にずっしりとした感触。

 

そして……

 

ボールは遥かスタンドに消えていきました。

 

 

***

 

 

「ナイバッチー白菊ちゃーん」

「エラー取り返してお釣りが来たわね!」

 

ベンチに帰ってきた白菊ちゃんを、べしべしと手荒い祝福がお出迎えする。

……なんか希ちゃん本気で叩いてない? 大丈夫?

 

しかし、白菊ちゃんには驚かされたなぁ。

打った瞬間それと分かるホームラン。もし風向きが良ければ、下手したら場外まで飛んでたんじゃないかという当たり。

 

とにかく、白菊ちゃんの2ランのおかげで1点リード。

もちろん、これで終わらせるつもりはない。

 

息吹ちゃんのことだもん、さっきの白菊ちゃんの打席を見て何か気づいたんだよね?

 

影森のエース中山さんは、ホームランを打たれても動揺する様子はない。あくまで淡々と、機械のようにボールを投げ込んでくる。

 

その第一球。

 

カーン、という金属音と共に、息吹ちゃんの打球はスタンドへ。

白菊ちゃんに続いて息吹ちゃんのソロホームラン。

これで1-3。2点リード。

 

「よーし、私も続くぜー!」

 

稜ちゃんは意気揚々とバッターボックスに向かうが、あえなく三振。

 

2アウトランナー無し。

次のバッターは私だ。

 

白菊ちゃんと息吹ちゃんの打席を見て、コツはだいたい分かった。

投手にタイミングを合わせようとすればクイックでタイミングをずらされる。だったら、ボールだけをよく見て合わせれば……!

 

コキュンッ!

 

あんまり気持ちよくない金属音が鳴り、キャッチャーフライ。

タイミングは合ってたんだけど、この打ち方はちょっと難しいな。白菊ちゃんや息吹ちゃんにしかできない攻略法かもしれない。うーん、残念。

 

それはともかく。

1回終了時点で1-3。

思ったより苦戦する場面はあったものの、今のところは順調だ。

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