IFもうひとつの約束 〜もし1年生だけで全国を目指すことになったら〜   作:勘解由小路龍之介五郎左衛門十兵衛

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0. 十二才の別れ目

私、川口芳乃は昔から野球が大好きだった。

プロ野球も好きだったけど、それよりももっと私の心を動かしたのは高校野球。

一度負けたら終わりのトーナメントにかける、野球少女たちの暑い夏。

その中でも特に、私の家の近くにある新越谷高校野球部が大好きだった。

強くて、礼儀正しくて、優しい。

そんな彼女たちに憧れた私が、野球をやりたいと思うのはごく自然な流れだった。

 

中学に進学した私は、軟式野球部に入部しようと思った。

だけど、私が野球を始めるには、大きな壁があった。

私は生まれたときから体が弱く、心肺機能に負担がかかるような激しい運動をすると直ぐに体調を崩した。特に朝は調子が悪くなりやすく、小学校に遅れていくこともたびたびあった。

最近はだんだんとマシになってきたものの、それでも運動部に入るのは懸念があった。

母親に相談すると、『双子の姉である息吹と一緒に入部するなら』と条件つきでOKを貰った。

息吹ちゃんは「仕方ないわね……」と、いつも私が野球選手の物真似をねだった時にするような口調で、渋々頷いてくれた。

 

私が入学した地元の中学は、ごく普通の公立校だったけど、顧問の先生が元野球部の人で、指導が厳しかった。

体の弱い私は必死で付いていこうとしたけど、たびたび体調を崩した。

そんなわたしでも上達できるように、心肺機能に負担がかからず、より効率的な練習メニューを提案したけど、顧問の先生は受け入れてくれなかった。

 

入部から1か月ほど経ち、私は監督から部を辞めるように言われた。体調を崩して練習を休みがちになることを「サボり」だと非難され、やる気がないやつは邪魔だと言われた。

息吹ちゃんはそんな監督に怒り、私と一緒に部を辞めてしまった。

 

「ごめんね、息吹ちゃん。私のせいで、息吹ちゃんまで部活を辞めることになっちゃって……」

 

私が謝ると、息吹ちゃんはやれやれといった感じで肩をすくめる。

 

「いいわよ。私もあの監督のやり方は好きじゃなかったもの。芳乃とふたりでやっていた野球選手ごっこのほうが、よっぽど楽しかったわ」

「でも……息吹ちゃんには、野球選手の才能があるのに」

「芳乃は私のことを“才能がある”って言うけど、私から言わせてみたら、芳乃のほうがよっぽどだわ。芳乃は自分の頭で考えて、自分の野球理論を組み立てることができる。ただの物真似しかできない私とはレベルが違うわ」

「そんなことないよ! 物真似が出来るってことは、野球選手にとって凄い才能なんだよ! だから、息吹ちゃんは野球を続けなきゃ!」

 

私がそう叫ぶと、息吹ちゃんはじっとこっちを見ながら言う。

 

「だったら、芳乃が私を強くしなさいよ」

「え……?」

「芳乃の理論を、私が得意の物真似でトレースするわ。そして、芳乃の野球が間違ってないことを、私が証明してみせる」

「息吹ちゃん……」

 

そして、息吹ちゃんは私に力強く言う。

 

「二人で強くなるのよ。そして、高校で全国に行く。あの監督を見返すわよ」

「うん……!」

 

そうして、私たちは二人だけで野球を続けることにした。

私は書籍やネットで野球の知識を片っ端から集めて精査し、その中から息吹ちゃんに最適な理論を構築した。

息吹ちゃんはその理論をスポンジのようにどんどん吸収していき、私の期待にそれ以上の成果で応えてくれた。

そうして練習を重ねた息吹ちゃんは、同年代の選手との実戦経験こそないものの、おそらく、同年代の野球選手の中でもトップクラスの実力にまで上達した。息吹ちゃんも認めた私の観察眼は、そう結論づけた。

 

あと、ついでに私自身も、体に負担をかけすぎない程度に練習してそこそこ上達はした。息吹ちゃんには背伸びしても届かないけど、技術だけなら並くらいの選手くらいにはなれてるんじゃないかな? 体力は底辺だけど。

 

そうして順調に成長を重ねた、中学3年の夏。事件は起きた。

 

私が憧れた新越谷高校野球部の部員が暴力事件を起こしたのだ。

主犯格の上級生たちは退学処分を受けたにも関わらず、野球部は連帯責任で一年の活動停止。それによって、被害者であるはずの一年生たちもみんな転校せざるを得なくなり、部員数はゼロに。

実質的な、廃部。

 

ショックを受ける私に、息吹ちゃんは言った。

 

「これは私たちにとって好都合かもしれないわ」

「え……?」

「私たちの野球は異質すぎる。いくら正しいことを言っても、ちゃんとした強豪校では受け入れて貰えないと思うわ。それこそ、中学のときのようにね。だから、私は高校で野球をやるなら、新越谷高校じゃなくて、もっと指導が緩そうな弱小校じゃないと無理だと思っていたのよ」

「…………」

 

確かに、息吹ちゃんの言う通りだ。

強豪校では私たちの野球は受け入れられない。それこそ、中学時代の二の舞になるだけ。

 

「だけど、新越谷高校野球部が実質的な廃部になったことで、私たちの野球を否定する顧問や上級生たちはいなくなった。だから、私たちが1から野球部を作り直せばいいんだわ。それなら、誰にも文句は言われないでしょ? 私たちが憧れた新越谷高校野球部とは別だけど、でも、憧れの新越谷の名前を背負って野球をプレイすることはできる」

「息吹ちゃん……でも、いいの? 息吹ちゃんの実力なら、強豪校のレギュラーだって……」

「言ったでしょ。私は芳乃と二人で築きあげた野球で強くなりたいの。下手に強豪校になんか行って、今まで積み上げてきた野球を直されたくないもの」

「息吹ちゃん……」

 

そうして、私と息吹ちゃんは新越谷高校に進学することを決めた。

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