IFもうひとつの約束 〜もし1年生だけで全国を目指すことになったら〜   作:勘解由小路龍之介五郎左衛門十兵衛

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28. 空振り三振!? (柳大川越戦Part3)

2回裏の柳大川越の攻撃はまたも三者連続三振に打ち取られ、3回表。

大野は先頭打者の九番・丹羽有希をピッチャーゴロに抑え、川口息吹と対峙する。

 

(1アウトランナー無しで、一番川口息吹。まあ、及第点ね)

 

もちろん、勝負しない。

 

大野は観客席から飛ぶヤジを背中に受けながら、淡々と敬遠球を4球投げる。

 

1アウト1塁。

しかし、柳大川越の奇策はそれに留まらなかった。

 

『おいおい、キャッチャーがまた立ち上がってるぞ!』『中村も敬遠するつもり!?』『一番・二番の連続敬遠!?』『そんなのアリ!?』

 

観客席には、罵声よりも動揺の声が広がる。

その声を聞きながら、大野は怜悧な笑みを浮かべる。

 

(中村希も川口息吹と同じ、怪物の(たぐい)。勝負を避けられるなら避けたほうがいいわ。初回に中村希と勝負したのは、バント2つで失点してしまう0アウトランナー1・2塁の状況にするのが嫌だったから。1アウト1塁なら敬遠しても問題ないわ)

 

希を敬遠し、1アウト1・2塁。

走塁センスのある川口息吹といえど、キャッチャー浅井の強肩から三盗は流石に望めない。

ここから新越谷が得点するには(四死球やエラー等を考慮しなければ)、最低でも1本はヒットを打つ必要がある。

 

だが、それは大野が許さない。

2者連続敬遠なんて奇策を実行した以上、絶対に打ち取る。

 

三番・菫の打席。厳しい外角のストレートでストライクをとった後、わざとやや甘いインコースに投じられた2投目。菫はそれに手を出すが、それは鋭く胸元に曲がるスライダー。

 

ガキャ……!

 

ボテボテのセカンドゴロ。

柳大川越のシフトに阻まれ、ゲッツーにとられる。

 

甘いストレートと見せかけたスライダー。

初回の希の打席でも見せた球だが、左打者に対しては空振りを取る球なのに対して、右打者に対しては詰まらせて打ち取る球となる。ゴロピッチャーである大野の真骨頂はむしろこっちのほうだ。

 

とにかく、大野は1アウト1・2塁のピンチをたった2球で切り抜けた。

 

 

***

 

 

その後、試合は投手戦の様相を示し、5回表まで両者無得点の0行進。

しかし、流れは着実に新越谷に傾いていた。

 

新越谷の詠深は4回投げて被打数0、与四球1の圧倒的なノーヒットピッチング。奪三振は9。ボール球が多いからか球数自体は嵩んでいるものの、疲労している様子は見受けられない。

 

一方の柳大川越の大野は5回投げて2安打無失点にこそ抑えているものの、たびたび鋭い当たりを打たれ危なっかしい。ここまで好投できているのは、柳大川越自慢の一丸守備のお陰である。

そして決定的だったのは4回表。2アウトランナー無しの状況から再び息吹・希の連続敬遠。これで球場の空気は完全に新越谷に傾いた。

柳大川越のあまりに節操のない敬遠策に、これまで中立の立場で静観していた地元の高校野球ファン達も、批判やブーイングはせずとも次第に新越谷贔屓の応援をするようになったのだ。

 

「球場全体が新越谷の勝利を願ってるわね」

 

5回裏。柳大川越の攻撃。

自チームの五番打者の打席を眺めながら、ベンチで大野がひとりごちる。

詠深が空振りを取るたびに、観客席からは歓声が飛ぶ。まるで、柳大川越が負けることを望んでいるようにすら思えてくる。

 

と、近くにいた1年の大島が問いかけてくる。

 

「敬遠策のこと、後悔してるスか?」

「別に。私は他人(ひと)のために野球やってるわけじゃないもの。高校野球らしい真っ向勝負を望む観客には悪いけれどね」

「でも、大野さんは川口息吹さんと勝負したいとか思わないスか」

「多少はね。でも、私の自己満足(エゴ)でチームに迷惑かけるわけにはいかないわ」

「あれ? 他人のために野球やってるわけじゃないんじゃなかったスか?」

 

にまにま。

生意気な顔でこっちを見てくる。

 

「揚げ足を取るな!」

「大野さんって優しいスよね」

「〜〜〜〜っ!」

 

ここが観衆の前でなければゲンコツぐりぐりの刑に処していたところだ。

 

しかし、まったく、生意気な後輩である。

大野は嘆息する。

 

朝倉目当てで入ってきた強豪ガールズ組のくせに、大島はなぜか自分にばっかりちょっかいをかけてくる。これは慕ってくれているといっていいのだろうか。

正直、よく分からない。

自分はあんまりいい先輩じゃない、と思う。すぐ感情的になって怒鳴ってしまうし、つい手が出てしまうこともある。大島は自分のことを優しいと言ってくれるが、本当に優しいのは自分じゃなくて、こんな自分を認めてくれる大島だろう。

 

絶対に負けられない。

他人に何を言われたっていい。

それでも、このチームで一戦でも多く、この夏を戦いたい。

そのためなら……悪役にでもなんでもなってやる。

 

結局、5回裏の柳大川越の攻撃は三者凡退。

球場は新越谷の応援ムード。

しかし、大野の目はいまだ闘志に燃えていた。

 

「さて、この回もエースがビシッと抑えるわよ!」

 

 

***

 

 

6回表。

大野は先頭打者の四番・珠姫をサードゴロ、五番・稜をレフトフライに抑える。

疲労からか、大野の球威は若干落ちていた。だが、守備にも助けられ、なんとか打ち取っていく。

 

そして、2アウトランナー無しで六番・芳乃。

ここでキャッチャーが立ち上がる。敬遠だ。

 

本日六度目の敬遠に、球場がざわめく。

その中には、戸惑いの色も多く含まれる。

 

息吹と希の敬遠はまだ分かる。

だが、この敬遠はなんだ?

芳乃はミート力こそあれ、非力なうえに鈍足。打ったとしても単打。

ランナー無しの状況で敬遠しても意味がないと思うのが普通だ。

 

(意味はあるのよ。打順調整っていうね)

 

もしこのまま芳乃を抑え、次の七回(最終回)を三者凡退に抑えることができたら、本来なら文句なしの完封である。

しかし、この試合、まず間違いなく延長に突入する。大野にそう確信させるほど、今日の詠深のピッチングは神懸かっていた。

 

もしこのまま延長に突入すれば、延長八回は息吹からの打順となる。

そうなれば、0アウトランナー無しの状況から2者連続敬遠はできないため、再び希と勝負しなくてはならなくなる。

初回は抑えることができたが、疲労で球威も落ちている今の自分に同様の芸当ができるなどと大野は思っていない。

 

だから、息吹と希を連続敬遠できるよう、打順調整をする必要がある。

 

息吹と希を連続敬遠するにあたって、最も理想的なのは2アウトランナー無しの状況で息吹の打席に回すことだ。

そのためには、その前の回は七番打者で終わらせたらいい。

そうすれば次の回、八番・九番を打ち取り、2アウトランナー無しで息吹の打席を迎えることができる。

だから、この回は六番の芳乃ではなく、七番の詠深で終わらせたい。

 

本来なら、こんな無茶な作戦は実行できないのだが、大野なら新越谷の七〜九番打者は確実に打ち取れる。その自信があるからこその作戦だった。

 

敬遠を決めた大野を見て、打席の芳乃がニヤリと笑みを浮かべた。

そして、大野の第一球。それは大きく外に外れたにも関わらず、芳乃はその場でぶんっ、と素振りをした。

 

ストライク。

 

(なるほど。敬遠球空振り、ね。流石に怒らせちゃったかしら)

 

本来なら、敬遠球空振りはマナーの悪い行為だが、相次ぐ敬遠策によって柳大川越へのヘイトが溜まっている状況だと周りの反応も変わってくる。

 

『川口芳乃いいぞー!』『抗議の空振り!』『いい加減勝負しろ大野ー!』『敬遠多すぎだよ!』

 

観客席からは芳乃の空振りを称賛する声と、大野への批判。

 

だが、大野はそんなこと構わずに敬遠球を投げ続ける。

2球目も芳乃が空振り、2ストライク0ボール。

観客席は湧き立つ。

 

『どうした大野、追い込んでるぞ!』『ピッチャー有利のカウントなんだから勝負しろよ!』『私たちは熊実戦みたいな真っ向勝負が見たいのよ!』『せっこい野球いい加減にして!』

 

だが、キャッチャーは座る様子はない。

その態度に、観客席からの怒号はますます酷くなる。

しかし、大野が3球目の敬遠球を投じた瞬間、球場は一瞬静まり返る。

 

ブンッ!

 

なんと、追い込まれているにも関わらず、川口芳乃が空振ったのだ。

敬遠球を空振り三振。

凡退(?)した芳乃はベンチに戻る。

前代未聞の事態に、球場全体が戸惑いに包まれる。

 

だが、この異常ともいえる行動の意図を正しく理解できた者もいた。

そのうちの1人……大野は悔しそうに歯噛みする。

 

(まさか、敬遠球空振りは抗議じゃなくて、わざと凡退するため? そうか、川口芳乃はこちらの打順調整を崩すために……! やってくれたわね!)

 

新越谷対柳大川越。

ある意味、高校野球史上類を見ない大荒れの試合は、しかし、依然としてお互い無得点のまま進行していた。




投稿遅くなっております。
ピスケス杯育成が忙しく……げふんげふん。
トレーナー業と並行しつつ執筆も頑張ります。
この作品が完結したらウマ娘モノかあるいはリアル競馬モノを書きたいなぁとかも思いつつ。まずはこちらを完成させなければ。
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