IFもうひとつの約束 〜もし1年生だけで全国を目指すことになったら〜 作:勘解由小路龍之介五郎左衛門十兵衛
本当はここら辺はばっさりカットして、この話でオリキャラ登場まで書く予定だったのですが、思ったより筆がのってしまって……。
原作とほとんど同じ展開なので、流し読みでいいかもしれません。
ただ、2年生組がいないことで、ちょっと変わっている部分もあるので、一応読んでくれると嬉しいです。
私と息吹ちゃん、ヨミちゃん珠姫ちゃんの四人が晴れて野球部員となった数日後。
また新たな入部希望者がやって来た。
南相模中出身の二遊間コンビ、藤田菫ちゃんと川崎稜ちゃん。
対照的な性格だけどどこか息ピッタリな二人だ。
ノックもやってみたけど、二人とも凄く上手だった。これは即戦力だよ!
「しっかし、本当に一年生だけなんだなぁー。まあ、だからこの学校を選んだんだけど。野球は好きだけど、野球部特有の厳しい縦社会は苦手でさー」
「けど、私たちの他にも野球部員がいて良かったわ。最悪、稜と二人だけになるのも覚悟してたもの」
「六人いれば、三角ベースなら1チームつくれるな!」
「いや、1チーム作ったところで対戦相手がいなきゃ意味ないでしょ。どこの高校が三角ベースで試合受けてくれるのよ」
「いや、たしか四人と犬二匹で1チーム作って他校と三角ベースで練習試合した野球マンガがあったような……」
「誰もマンガの話なんてしてないわよ……」
菫ちゃんと稜ちゃんはやっぱり仲がいいなぁ。
まあ、本人たちにそう言ったら否定するんだろうけど。
「ん……? どうしたの、ヨミちゃん。ボーッとして」
「あ、芳乃ちゃん。あれ、もしかして入部希望者かな?」
ヨミちゃんの視線の先には、二人の女子生徒がいた。
一人は背の高い黒髪ロングのまさに大和撫子で、もう一人は肩まで伸びる金髪の内気そうな女の子だ。
「芳乃ちゃん、私ちょっと声かけてみるね!」
「あ、私も行くよ、ヨミちゃん」
私たちは彼女たちの元に向かう。
「入部希望者ですか? 我が部はアットホームな部活ですよ! 未経験者大歓迎! レギュラー登用制度あり! 一年目から活躍できますよ! 部員たちもみんな仲良し! 上級生がいないので、自分の力を試せる環境です! 必要なのはあなたの気持ちだけです!」
「ヨミちゃん、逆に怪しいよ、それ……」
完全にブラック企業の求人の謳い文句だ。
ヨミちゃんはさらに、二人の背中を押すようにして強引にグラウンドに連れていく。
うーん。
黒髪の子は野球部に入りたそうだけど、金髪の子はちょっと迷ってるみたい。でも、野球部に興味はあるっぽいし、ちょっと強引に押せば流されて入部してくれそうかも?
ウチが部員不足で悩んでいるのは事実だし、ここはヨミちゃんに任せてみるのもいいかも。
「みんな〜、入部希望者だよ〜!」
ヨミちゃんが大声でみんなに紹介する。
「ささ、二人とも自己紹介して!」
ヨミちゃんにそう言われて、緊張した声色で自己紹介したのは大村白菊さん。中学までは剣道部だったらしい。たしかに、そんな雰囲気ある! めっちゃ鍛えられてるし、体格もいい。これはみっちり技術を教えたら化けそう! まずは守備かな、でも打撃を極めてもらうのも面白そう、うーん、悩む!
もう一人は、中村希さん。経験者らしい。左打ちで、手には春休みの間もめっちゃバットを振ってた証拠のマメがある。どちらかといえば、長距離砲というよりアベレージタイプかな? 息吹ちゃんの前を打つバッターとして期待できそう! 是非うちのチームに欲しい!
「それじゃあどうする?」
「まずは体験入部ってことで、軽く練習してもらったらいいんじゃないかな? マシン打撃とか、初心者も楽しくていいと思うよ?」
「えー、守備練習のほうが絶対楽しいってー!」
「それには珍しく私も同意するけど、ここは大村さんに決めてもらいましょ。大村さんは何かやってみたい練習はある?」
「えっと、あのっ、マシン打撃やってみたいです!」
「中村さんもそれでいい?」
「ああ、うん。でも、私は……」
「着替え持ってる? 部室はあそこにあるから使っていいよ」
「ハイッ! ありがとうございます!」
二人は体操服に着替えるため部室に移動する。
中村さん、何か言いかけてたけど、大丈夫かな……?
少しして、体操着姿になった二人が戻ってくる。
「じゃあ、どっちから打つ?」
「こっ、ここは、経験者の中村さんからっ!」
「……お願いします」
中村さんの構えはオープンスタンス。
バットを立てて、リラックスした感じで構えている。
始動は早めで、球が来る前に軸足と逆の足を上げる……息吹ちゃんと同じ一本足打法だ。
息吹ちゃんと違うのは、バットを振り下ろしてコンパクトに打つダウンスイングであること。あとは、ボールのミートポイントがキャッチャーよりで、引きつけて打っていること。
ボールを引きつけて打つメリットは、そのぶんボールを見極める時間が増えるので、緩急に強くなり、また選球眼もよくなることだ。
だけどその一方で、バットの移動距離が短くなるから、パワー負けしやすく、差し込まれがちになってしまう。
だけど、中村さんはバックスイングを大きめにとることで、差し込まれないように工夫している。
後ろ大きく前小さく、まさにアベレージヒッターの理想的なスイングだ。
中村さんはマシン最高速度の球を全球ピッチャー返し。
ていうか稜ちゃん、いきなりマシンを最高速度に設定するのはいかんでしょ。中村さんが凄かったから良かったけどね……。
ところで、この中村さんってどこのチーム出身なんだろう?
中学で野球を始めて以来、他の選手の調査はサボりぎみだったとはいえ、強豪チームのレギュラークラスくらいはチェックしていた。
こんな凄い選手……ノーチェックだったなんて、一生の不覚!
「中村さん、中学はどこのチームだったの!?」
「箱崎松陽……福岡」
「福岡……野球王国!」
「道理でチェックリストにないわけだよ。まさか野球留学生?」
そんな訳ないと知りつつ、私は冗談めかして問いかける。
野球部が廃部になるかもしれない新越谷が野球留学生なんて取るわけないもんね。
話を聞いてみると、中村さんは親の仕事の都合で埼玉に来たらしい。
それでよく調べもせずに野球部に実績があって偏差値的に自分とマッチしていた新越谷を受験したら、まさかの不祥事で上級生はみんな辞めていて野球部員は一年生だけという事態だったらしい。お察しします。
「中学のみんなと約束したのに……全国で会おうって」
「全国かー」
「九人すら集まってないこのチームじゃ現実感ないわね」
「そうかな?」
意を唱えたのは、意外にも珠姫ちゃんだった。
私は珠姫ちゃんに意見を求める。
「ガールズ全国経験者の珠姫ちゃんから見て、このチームのレベルってどう思う?」
「全国っ!?」
全国という言葉に驚く中村さん。
まあ確かに、珠姫ちゃんは小柄だしあんま強そうには見えないかもね。
でも、よく見れば鍛え上げられていることは分かるし、何より珠姫ちゃんが優れているのは技術面だ。
その珠姫ちゃんは考え込む。
「うーん……二人が入ってくれて、さらにもう一人部員が入って大会に出られたとして、そこそこ良い所までは行けるんじゃないかな? それこそ、県ベスト4とか」
「えっ、そんなにっ!?」
「私もそう思うよー! うちは戦力不足は否めないけど、そのぶん個々人の能力は高い! ヨミちゃんはエースとして申し分ない変化球を持ってるし、珠姫ちゃんは言わずもがな! 稜ちゃんや菫ちゃんは守備が上手だし、そして何より息吹ちゃん!」
「わ、私!?」
驚く息吹ちゃんに、珠姫ちゃんが頷く。
「そうだね。息吹ちゃんほどのホームランバッターは全国でも体験したことなかった。もし、中村さんが入部してくれたら打線に厚みが出て……もしかしたら、全国だって狙えるチームになるかもしれない」
「く、口だけならなんとでも言えるやろ。全国とか、あんま軽々しく言ってほしくないけん」
中村さんはむすっとする。
私が息吹ちゃんを見ると、息吹ちゃんも私を見ていた。私は息吹ちゃんにウインクする。息吹ちゃんは何かを察したのか深くため息をつく。
「じゃあ、うちのチームのエースと四番の実力を見てみてよ。それで全国を目指せるチームだと思ったら、入部してほしいな!」
「ま、まあ、見るくらいいいけど……」
「じゃあヨミちゃん、息吹ちゃん、珠姫ちゃん。お願いできるかな?」
「よーし! 息吹ちゃんを抑えるぞー!」
「仕方ないわね……」
ピッチャーヨミちゃん、バッター息吹ちゃん、キャッチャー珠姫ちゃん。
このチームでも別格の三人がそれぞれ定位置につく。
ピッチャー振りかぶって第一球。
投げるのはもちろん、あの球……!!
「な、なにこの変化!?」
ヨミちゃんの魔球を見て驚く中村さん。しかし……
カキーン! 金属音が鳴り響き、白球は外野ネットに突き刺さる。
「あちゃー、ホームラン打たれちゃったかぁー」
「カーブにヤマを張ったら綺麗に打てたわ。最近はヨミとばっかり対戦してたから、だいたい球筋が分かってきたわね」
「うー悔しい、もう一球!」
二人の対戦を呆然と眺める中村さんに、私は問いかける。
「どうかな、中村さん。確かにうちの野球部は今年大会に出れるかどうかも分からない少人数のチームだけど、でも、きっと中村さんの期待に応えられるだけのポテンシャルはあると思うんだ」
「いいよ……。どうせ私が転校しても一年間は試合に出られんし、来年以降にこのチームを敵を回すのは怖いけん」
「ほんとー!?」
「でも入るからには一緒に目指して欲しいっちゃけど、全国を」
「もちろん! 私と息吹ちゃんが野球部に入ったのもそのためだからね!」
私が同意すると、続いてマウンドのヨミちゃんが右手を天に掲げる。
「目指せ、全国たい!」
「ちょっと福岡ばかにしとーと?」
「よかよか」
「使い方間違っとーし!」
ぎゃーすかぎゃーすか。
騒がしい二人は置いておいて、一人蚊帳の外になっている大村さんに話しかける。
「じゃあ、中村さんの入部も決まったところで、次は大村さんマシン打撃やってみよっかー!」
「こっ、この流れで私ですかっ! 緊張しますっ」
「大丈夫だよ。初心者なんだから、上手くいかなくて当然だよ。とにかく楽しんで、思いっきり振れば大丈夫!」
「分かりましたっ! いざ出陣します!」
そう言って、大村さんはバッターボックスに構える。
大丈夫かな? ガチガチに力んでるけど。
ピッチングマシンから球が放たれ、大村さんは豪快なスイングをする。
差し込まれたな、と私は思った。
だけど、振り遅れぎみに当たったボールは、反対方向に勢いよく飛び、そのまま外野ネットに突き刺さる。
パワーだけで持っていった、反対方向への特大ホームラン。
技術で飛ばす息吹ちゃんとは違う、天性のホームランバッター。
しかし、大村さんがこの日ホームランを打ったのは、その一球だけだった。
さっきの一発はまぐれだったらしく、空振りを連発。
だけどこれは鍛えたら凄いバッターになりそう!
今年の夏までに間に合うか……?
いや、そもそも人数がまだ揃ってないんだよなぁ。今年の夏、間に合うかなぁ……?
当初は三年の夏までに大会に出れたらいいなと思ってたけど、粒揃いの部員が八名も集結した。ここまで来たら欲が出てしまう。どうにかして、もう一人部員を確保できないものか。
「私でもあんなに飛ばしたことないのに〜」と悔しそうに大村さんを睨む中村さんを見ながら、私は頭を悩ませるのだった。
次回、オリキャラ登場、部員が揃います。
果たして、モデル選手は誰なのか……?