プレイボールVSドカベン   作:コングK

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プレイボールとドカベンでは連載期間が重なっているものの、ドカベンの方が長期に連載されていたため、変化球の呼称についてはドカベンを基準として考えていきます。
また、金属バットの問題についてはプレイボールが続いていれば池田高校の躍進からヒントを得て自然に取り入れただろうということと、ドカベンでは山田が木製を使う場面はあるものの金属についてはそこまで言及がないため普通に金属を使っています。

※改題しました。


第十五話 「幻の準決勝始まる」

四日後の土曜日。

 

「れ。今日は休みだったか」

墨高グラウンドに顔を見せたOBの田所は、部員の姿がどこにもないことに疑問をもち、部室へと向かう。

「鍵がかかってやんな。河川敷に行ってんのか? でも今日は使う日じゃねえはずだしよ」

近くにいるサッカー部員に聞こうにも、彼らの姿も見えない。

どうしたのだろうと、うろうろしていると校舎から出てくる小室に出会う。

「おお、田所。どうしたんだ?」

「どうしたって、部長。野球部の連中はどうしたんです? 今日は休みですか?」

「いや。急遽巨人学園との練習試合が決まってな」

 

何気なく言った小室の一言に田所は唖然とする。

「きょ、巨人学園と練習試合!? なんでまたそんなことに」

驚くのも無理はない。谷口との付き合いが長い田所にとって、今夏の墨谷の無念は忸怩たるものがあった。

「何でも明訓と引退試合するためには必要なことなんだと。まあ、勉強特訓の方も続いているようじゃからわしも文句は言わんが」

「め、明訓? 明訓ってあの神奈川の明訓?」

 

一体どういうことか。巨人学園でさえ十分驚きなのに、甲子園の覇者明訓とは。

 

「ああ。丸井達が交渉に行ってな。中間試験前だと言うのにご苦労なこった」

「で、みんなって。まさか他の部の連中も?」

「ああ。みんな応援に行っとるよ」

「行っとるって、部長はどうして行かないんです」

「留守番が必要じゃろうが」

「そ、そういうことじゃなくて・・・・・・。い、いや、こうしちゃいられねえ」

どたどたと乗ってきた軽トラへと急ぐ田所を尻目に、小室は職員室へと戻る。

「そりゃ野球も大事だろうが、勉強の方も誰かが気にしとかんといかんしな」

 

 

一方、巨人学園へと足を運んだ墨谷の面々はどうだったかというと、東実並みに充実したグラウンドに面食らっていた。

大きなグラウンドに、ナイター用の照明。公立の自分達とは段違いの施設だ。

「ちぇっ。見せつけてくれるぜ」

倉橋の言葉に谷口が頷く。

「それにしても大きなグラウンドだな」

普段自分達が使っている高校のグラウンドだけでなく、河川敷のグラウンドと比べてもその広さは驚くほどだ。

「やあやあ、待っていたよ。墨谷の諸君」

声を掛けてきたのは真田一球。すでに準備万端らしく、グラウンドには巨人学園のメンバーが勢ぞろいしていた。

「墨谷高校の皆さん、よくいらっしゃいました」

巨人学園のベンチから姿を見せた少女は芦田麗子と名乗り、勝手ながら準備をさせていただきましたと語った。

「準備?」

「はい。放送委員会の方にお願いしまして」

見ると、練習試合であるのに、即席の放送席が作られている。

「全く。金のあるところは違いますね」

「ありがとうございます」

イガラシの皮肉が通じず、笑顔で礼を言う麗子は、巨人学園との練習試合があることを聞き、後をついてきた墨谷の応援団を誘導する。

「調子が狂うな、全く」

そんな墨高をさらに驚かせたのは、甲子園でも有名になった呉九郎の拳骨ノックだ。

 

 

「ライト文六!!」

ガシィ

 

「センター花田!!」

ガシィ

 

拳骨で打ち出されたタマは驚くべき球威で内野に外野に飛んでいく。

 

「な、なんだありゃ」

唖然とする横井に、知るかと戸室は返す。

 

「ありゃ随分と頑丈そうスね」

さすがの井口も喧嘩にならなくてよかったと呆れるばかりだ。

 

互いに練習が終わり、挨拶が交わされる。

じっと自分を見つめてくる真田一球に谷口は戸惑いを隠せない。

どうしてそんなに楽しそうなのだろうか。

 

交換したメンバー表を見て、墨谷ナインが驚きに目を丸くする。

「一番が真田だと!?」

「おいおい、あいつ。ピッチャーじゃねえのかよ」

横井がぽりぽりと頬をかく。体力の消耗が激しいピッチャーが一番など聞いたことがない。

「いや、夏の大会の時の谷原戦がそうだった」

冷静に分析するのは倉橋。

「一番なら打順が多くまわってくるからな。考えてねえようで考えてやがるぜ」

「な、成程」

ごくりと戸室は、相手側のベンチで笑顔で話している一球を見る。

 

「谷口さん、お願いします」

一塁側のベンチ前に集まった墨谷ナインに、丸井に促された谷口が檄を飛ばす。

「いいか、みんな。巨人学園を予選の時のままだと思うな。甲子園に行き、明訓と戦って相手は成長している。油断するなよ」

「へへ。こっちだって夏の予選のまんまじゃねえぜ」

横井の言葉に皆が頷く。

「さあ、それじゃあしまっていこうよ!」

「オウ!!」

 

さっと散り、守備位置につく墨谷ナイン。

 

墨谷の先発は井口。

 

先攻巨人学園の攻撃。井口の前にはやくも試練が訪れる。

 

『さあ、一回表巨人学園の攻撃、墨谷いきなり強敵を迎えます』

巨人学園の放送委員会の声がグラウンドに響く、

 

「一番、ピッチャー真田くん。一番ピッチャー真田くん」

きゃあああ!と巨人学園の女子生徒たちから黄色い歓声が上がる。

 

一球を迎えて、倉橋は夏の大会の対巨人学園戦の攻略メモについて思い出す。

(とにかくこいつは塁に出しちゃ駄目だ。クサいところをついて抑えるしかない)

 

強肩・好打と持ち合わせている真田一球だが、そのもっとも恐るべき能力は常人離れした足の速さだ。甲子園の対明訓戦では、強肩に定評がある岩鬼の好スローイングでも刺せず、出塁を許している。

 

「さすがに、明訓を苦しめた連中は違う」

ふうと、井口はプレートを外し、ロージンを使う。

一見爽やかに見える一球から感じる何とも言えぬ迫力に、さすがに肝の据わった彼でも緊張をぬぐいきれない。

 

 

「よろしく」

「こちらこそ」

にっこり笑顔で打席に入る一球に倉橋は内心やれやれとため息をつく。

(ピッチャーで一番とはね。それにしたっていきなりこいつか。)

 

倉橋の脳裏に自分達の代わりに準決勝で巨人学園と対戦した谷原の試合がよぎる。

 

地力では完全に巨人学園を圧倒していた谷原だが、初回一番に座った一球にホームランを決められ、次打席では敬遠を選択した。ところが、その超人的な足で二盗三盗と決められるうちに冷静な谷原ナインが動揺し、ついにはスクイズを決められて二点目を失った。それならばと試合巧者の谷原は一球の前にわざとランナーを出し、その足を封じる作戦に出たが、突如全員左で打つという奇策を用いた巨人学園にまさかの2点を失い、終わってみれば4対0という有様だった。

 

(おれたちが苦戦した谷原がああも好き勝手やられるとはよ。)

準々決勝からの疲れもあったろう。だが、谷原は甲子園常連校として決して相手を侮ってはいなかった。ごくりと唾を飲み込み、倉橋は一球を観察する。

準決勝、谷原はただ一人。この男真田一球に敗れたと言っても過言ではない。

 

(ある意味ドカベン山田以上のバッターだぜ)

高校球界NO.1スラッガーは明訓の山田で衆目の一致するところだろう。だが、その山田の唯一の欠点が鈍足だ。それゆえ、江川学院が徹底して行った山田への敬遠は効果がある。

しかし、一球の場合はそうはいかない。塁に出すとこれ以上うるさいランナーはおらず、隙あらば本盗すらも狙ってくる。

 

(こいつでどうだい)

倉橋のサインに井口が頷く。

ビシュッ。

一球目。外からインコースへのストレート。

 

「ボール!」

 

「結構速いな」

タイミングを測っているのか。振りもせず呑気に話す一球に渋い顔をする倉橋。

「あれでもうちじゃあ速球派なんだがね」

「これは失礼」

(そりゃあ甲子園で中西なんかの球なぞ見てりゃあな)

 

井口がいかに速球派で鳴らしていようとも、全国では同じレベルはごろごろしている。特に、青田の怪童中西球道が山田に投じた150㎞越えのストレートは同じ高校生のものかと思わせた。

 

二球目。今度はぎりぎり外角低めへのストレート。

「ボール!」

ぴくりともせずボールを見送る一球の涼しい顔に倉橋は小首を傾げる。

(どういうこった)

(全くバットを動かさねえ。打つ気なし?)

井口もまた首をひねる。

(だが、攻めるしかない。いっちょこいつでどうだ)

倉橋のサインに井口が頷く。

振りかぶって投げるは真ん中から直角に曲がるシュート。

 

(どうだ!)

ククッ。鋭い曲がりのシュートに対し、一球は慌てず体を沈ませ、バントの体勢になる。

 

「なんだと!?」

 

コン。

 

墨谷ナインが気付いたときにはすでに遅し。

「うっ!」

絶妙に左投手である井口の右を狙ってのゴロに、思わず井口が反応。

 

「井口!」

すかさずフォローに入った谷口に気付かず、ボールを捕った井口が一塁に投げる。

 

「セーフセーフ!!」

審判のコールに観客たちにどよめきが走る。

 

『なんとセーフだ! これは驚きの快足だ真田くん!!』

 

「おいおい、冗談だろ」

ゆうゆうとバントヒットを成功させ塁上でにこりと笑顔をみせる一球に、倉橋はたらりと冷や汗を流した。

 




巨人学園                      
一番 真田  ピッチャー    二番 法市  セカンド 
三番 九郎  キャッチャー   四番 花田  センター
五番 手塚  ショート     六番 三原  レフト           
七番 郷   サード      八番 二宮  ファースト
九番 文六  ライト

墨谷高校
一番 丸井   セカンド    二番 島田  センター
三番 イガラシ ショート    四番 谷口  サード
五番 倉橋   キャッチャー  六番 井口  ピッチャー
七番 横井   ファースト   八番 戸室  レフト
九番 松本   ライト
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