17話の一球とイガラシの対決ですが、一部変更いたしました。
作者はプレイボールファンであり、ドカベンファンでもあるため、常に作者内部でその両者がせめぎ合っており、イガラシが三振するかなとなったためです。
今後もストーリーの結果に関わらないところでは都度修正するかもしれません。
「いいぞ、井口!!」
居並ぶ墨谷の応援団から歓声が飛ぶ。
一回の裏、墨谷攻撃陣が三者凡退に倒れた時には静まり返ったものだったが、立ち直った井口が巨人学園の五番手塚からを三者凡退に切って捨てると、最小失点差もあり俄然盛り上がりを見せた。
「来るぞ、出るぞ、谷口が」
ざわつく観客席をさらに興奮させるかのように、巨人学園の放送委員が名前を告げる。
『四番、サード谷口くん』
ワーワーという歓声が上がる中、
「よし、おれからか」
打席に向かう谷口に、イガラシが駆け寄る。
「谷口さん、バッターボックスの前めに立つといいですよ」
「そうか」
二度三度と素振りをし、打席に入る谷口。
『ついにこの時がやってきました。夏の予選では幻に終わった巨人学園と墨谷の試合。この両者の対決を皆が待ち望んでいた筈です。これまで万年一回戦負けだった墨谷が頭角を現し始めたのはまさにこの谷口くんが入学してから。昨年夏の大会では優勝候補の専修館を倒し、秋季大会では東実を下してシード権を獲得する程の快挙を成し遂げました。墨谷を攻守に渡り引っ張ってきたキャプテン谷口くん、真田くんを打ち崩せるか!!』
(ず、ずいぶんな高評価だな。)
若干どうしたものかと困り顔を見せる谷口は、打席に入りながら一球の様子を伺う。
(おれに対しては何で来るかな。さっきイガラシに使ったカーブか)
ぐるぐると肩を回した一球は、その様子を見て、ふうと小さく息を吐いた。
(ついに来たな、この時が。)
流行る気持ちを押え、じっと谷口を凝視する。
その存在を意識したのはいつからか。きっと昨年の専修館との激戦からだろう。
優勝候補筆頭と言われていた専修館を無名の墨谷が倒した時、一球の中にとてつもない興味が湧いてきた。
どんなチームなのか。三ツ縞監督が率い、貧乏ながらも様々な工夫を凝らして巨人学園を苦しめた友西高校のような連中なのか。
わくわくしながら彼らの試合を観た時に、こんな連中がいたのかと武者震いをしたことを覚えている。
(弱小と呼ばれた墨谷がここまでになったのは、この谷口がいたからだ。)
専修館との激戦の際、疲れ果てた中での味方のエラーにも谷口は怒らなかった。
腐りもせずに淡々と投げ続けた。
(あれこそが真のキャプテンの姿だ。)
周りを奮起させ、士気を上げ、この男を勝たせてやりたいと皆が思う。
(だからこそ、墨谷は強い)
一回表、奇襲で一点をとったとはいえ、墨谷相手に安心ができる点差ではない。
「しまっていこー!」
「オウッ!」
ナインに声を掛けて、気合を入れての一球の初球。
ビシュッ!!
インコース低めへのストレート。
「と」
ズバン!!
「ボール!!」
谷口、反応するも、バットを出さない。
「ナイスセン!! ナイスセン!!」
墨谷ベンチから声が飛ぶ。
(インコース、よく見えているみたいだな)
一球、続けて二球目。
(文六の話じゃ、外角に強いって話だが。)
ビシュッ!!
外角高めのタマを谷口が捉える。
カキ!!
三塁線、僅かにファール。
(確かにすごい伸びだ。これはもう少し、ためて打たないとダメだな。)
打席の中でイメージを固める谷口。
続けて三球目は外角低め。
ビシュッ!!
「む」
ククッ!
鋭い曲がりを見せるカーブにぴくり、と谷口はバットを止める。
ストライクか、ボールか。微妙な所の判定は、
「ボール!!」
(助かった。それにしても、すごい曲がりのカーブだな。)
安堵の息を吐く、谷口。
元々の地肩の強さに、強靭な下半身を加えた一球のタマは、アンダースロー対策をしてきた墨谷にとっても容易に打ち崩せるものではない。伸びのあるストレートでさえ厄介なのに、あのカーブは脅威だ。
「タイム!」
打席を外し、素振りを繰り返す谷口に、戻り際イガラシが声を掛ける。
「谷口さん!」
前へ、というジェスチャーに頷く谷口。
(ああ、前めね。)
頷いて、先ほどよりもバッターボックスの前に立つ谷口を、一球はなんだろうとじっとその様子を観察する。
「どうしたんだ、イガラシ、前ってよ」
墨谷ベンチでは丸井が、隣に座るイガラシに尋ねる。
「いえ、おれの打席の時に前に立った方が打ちやすかったもんで」
「前?」
「ええ」
「本当かよ、おい」
目標を明訓の里中に設定し、下手投げの練習に勤しんできた墨谷ナインだったが、下手投げ対策が十分かというとそうでもない。元々が下手で投げる投手がおらず、苦肉の策としてイガラシや片瀬といった器用な投手達が下手で投げていたが、無理をして投球フォームを崩す訳にもいかず、その特訓は困難を極めていた。
「まあ、見ててごらんなさい」
「ボール!!」
主審のコールを聞きながら、イガラシはやはりと口元に手をやる。
カキィ!!
「ファール!!」
カキィ!!
『谷口くん、フルカウントからまたもファール、粘ります!』
「おいおい、イガラシ、おめ!」
「ええ。やはり効果がありますね。投げづらそうだ」
「そうだな。顔には出さないが、間をとって投げてやがる」
イガラシの隣に座る井口も一球の様子を見て頷く。
「タイム!」
次打者の倉橋に半田が駆け寄ったのを見て、一球は何事かと思案を巡らせ、九郎を呼んだ。
「どういうことだ?」
「よく分からないけど、ひそひそぼそぼそ嫌な感じだーよ」
「何か仕掛けてくるかもしれないがとにかく打者に集中しよう」
「ど~も」
「プレイ!」
『さあ、プレイ再開です。フルカウントから粘る谷口くん。真田くん、抑えることができるのか!』
(ここまでカーブは一球だけか。)
イガラシ相手に見せたカーブをどこで投げてくるのだろうと用心していた谷口だが、一球外角へ放っただけで、後はストレートばかりだ。
(しかしすごいストレートだ。夏の時とは違う。)
機械相手に速球を打つ練習をしてきたが、生きたタマ、それも下手からホップしてくる一球のタマを打つのは容易ではない、
ぐっとバットを握り、
「さあ、こい」
谷口は身構えた。