プレイボールVSドカベン   作:コングK

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ようやっと投稿できました。年度当初は忙しいですね。


第二十話 「巨人学園動く」

真田一球の発案で唐突に行われることになった墨谷対巨人学園の一戦。

集まった両校の観客は、当初幻に終わった東東京大会準決勝の再現に熱狂し、盛んに声援を浴びせていたが、それはどこかお祭り騒ぎの感があるものだった。

 

心の内ではしょせんはただの練習試合だと高を括り、この突然の好カードをのんびりと楽しもうとさえしていた。

 

ところが。

 

そんな周囲の空気などどこ吹く風と。

初回の真田一球のプレイを皮切りに、淡々と、だがまるでここが甲子園かと思わせる両軍のあまりの気迫に。

練習試合であることなど関係ないと、己の意地をかけて目の前で繰り広げられる熱戦に。

巨人学園のグラウンドに集った観客たちの目は次第に熱を帯び、声を枯らし、その勝負の行方を固唾を呑んで見守った。

 

「なんでこの試合が神宮で行われていないんだよ・・・・・」

悔しそうにつぶやいた墨高応援団員の言葉は皆の気持ちを代弁するものだったろう。

 

序盤の盛り上がりもどこへやら。

5回を終えて、巨人学園、鬼気迫る井口の前にヒットなく、フォアボールの出塁のみ。

一方の墨谷も下手投げの特徴をようやく掴み始めた上位陣がヒットを放つも、好投手真田一球の前にどうしても得点することができない。

 

淡々と進んだ中盤戦を終え、終盤戦へと進む6回表。巨人学園は9番の文六から、墨谷のピッチャーは二番手のイガラシである。

 

「どうにか間に合ったか。」

ふうふうと滝のような汗をかきながらやってきた田所が、馴染みの墨谷高応援団に声を掛けると、団長は大きく息を吐きながら手のひらを見せた。

「見てくださいよ、この汗」

「それほどの熱戦ってことかよ。にしても一点差か」

「ええ。あの真田一球のとんでもないタマに食らいついてはいるんですが」

「あいつらだって相当やるんだがな、それほどの投手ってことかよ」

 

「ストラーイク、バッターアウト!!」

 

「投手としてもそうなんすが」

応援団長はちょうど文六が打ち取られ、打席に向かうところの一球を指差した。

「一球さん、がんばってぇ!!」

グラウンドのあちこちから聞こえる歓声に、田所は目を白黒させる。

「アイドルじゃあるめえし、何てえ人気だい」

「甲子園に出場してますしね、打つのも走るのもすごいんすよ。もう嫌になるくらい」

「けっ。可愛げのねえ野郎だな。だが、相手がイガラシじゃそううまくはいかねえぞ」

 

(嫌な奴が来やがった。)

イガラシは内心、顔を顰めながら歩いてくる一球を注視する。

井口ほどの球威はないイガラシは、変化球やタマのキレ、配球を工夫して東東京大会では投手兼内野手として活躍した。相手の心理をついて頭脳的なピッチングをするイガラシにとって、常に相手の意表をとる真田一球はやりづらく、相性的には最悪に近いと言える。

 

「俺よりも井口を続投させた方がいいですよ!」

投手交代を告げられたイガラシはそう、谷口に進言したが、それは叶わなかった。

「そりゃあこの試合だけを考えればそうだろう」

穏やかに言う元キャプテンだったが、有無を言わせぬその口調に、付き合いの長いイガラシは頷くしかなかった。

(巨人学園との因縁の対決に勝つだけがおれ達の目標じゃないってことか。)

力強くボールを握りしめ、一球を睨みつけた。

 

一方の一球はというと。戻ってくる途中の文六と何やら話し込んでいた。

「どうだい、文六」

「うん。こうも毛色の違う投手が揃っているとうちの打線じゃ追加点は厳しいかもね」

「そうか。うちの打線じゃ厳しいか」

一球はポケットの中に手を入れると何かを取り出した。

「一球さん、何しているだ~よ」

「そろそろこいつの出番かと思ってね」

掌に載せた葉っぱを楽しそうに揺らす一球に、九郎が首を捻る。

「葉っぱ!? どういうこと?」

「一球さん、いよいよ使うのか?」

それとなく察した文六に、一球は満足そうに頷くと、自軍ベンチへ向けて号令をかけた。

「影武者!!」

「おおっ!!」

その一言で巨人学園のベンチの雰囲気ががらりと変わる。

 

「な、なんだ?」

ぎょっとしながらその様子を見つめていた倉橋の前で、葉っぱを口にした一球が豪快に笑い声を上げながら打席に入った。

「さあ、猿顔~!! わいに臆せずさっさと投げてこんかい!」

「はあっ!?」

突然の一球の変貌にぽかんとする墨谷高校の観衆の中にあって野球帽の老人はからからと愉快そうに声を上げた。

「かっかっかっ。あのハッパの物真似にしちゃあ、いい男過ぎねえか」

「おい、おっさん。どういうこった?」

老人の言葉の意味が分からぬ田所が詰め寄る。

「見てりゃあ、分かる。今あそこにいるのは真田一球じゃないわい」

「真田一球じゃない!?」

「甲子園ではうまくいったが、さて、どうなることやら」

 

(まさか、これは・・・・・・。)

一度その本人と対峙したことのあるイガラシはすぐさまその違和感を感じ取った。

 

ハッパを咥えた関西弁。

その自由奔放、豪快な野球スタイル。

かの絶対王者が誇る、偉大なる核弾頭。

 

「岩鬼か!」

「か、影武者戦法だと!?」

一球の様子の変化に冷静な倉橋が混乱する。

影武者明訓作戦。

甲子園で力に差がある明訓を倒そうと、真田一球が考えついた策である。明訓の個々の選手を徹底的に癖まで研究し、その本人に成りきることによって本来持っている以上の力を出し、明訓を追い詰めた。

ただ、それは、明訓相手のとっておきだったはずだ。

 

(まさか、おれ達相手に使ってくるとはよ。)

ごくりと唾を飲み込み、倉橋はさあどうしたものかと思案する。

(あくまで振りってだけで本人じゃねえのが本当に厄介だぜ、)

これが里中や山田の真似ならまだ問題はない。岩鬼の真似というのが頭の悩ませどころだった。

 

悪球打ちである岩鬼に対してのリードは簡単だ。

変に小細工をせずストライクを投げればいい。

だが、相手は好打者真田一球だ。

影武者岩鬼と振舞っているように見せて、不用意にストライクを投げれば、簡単に打たれる可能性がある。

 

(谷口さん。)

嫌な雰囲気を感じ取った丸井が谷口を見るが、谷口はここはバッテリーに任せようと頷くのみだ。

 

(お前ならどう攻める。)

倉橋は一度岩鬼と対戦経験のあるイガラシに合図を送る。

(任されてもね。なら、こいつでどうです。)

(よし。)

ボスンと倉橋がミットを叩き、イガラシが投球モーションに入る。

『好投手イガラシくん、真田くんに対してどう攻めるか。注目の初球です!』

ビシュッ!!

 

一球目。

ククッ。

ストライクからボールになるシュート。

 

キィン!!

『打ったーーー! 真田くん、三塁線にファール!!』

 

(打った!?)

(ボールに手を出しやがった。これまでだったら見送ってるぜ。)

(もう一球、様子を見ましょう。)

(む。そうだな。)

 

続いて二球目。

ビシュッ!!

 

ククッ。

 

ブン!!

『真田くん、豪快なスイングも空を切る!!』

ボールからストライクになるカーブにタイミングが合わず空振りを喫する一球。

(おいおい、本当に成りきってやがるのかよ。)

じっと一球を観察しながら、確証を掴めない倉橋はボールを拭いながら考える。

(だとすると、こいつ一択なんだが。)

倉橋はど真ん中のサインを出すが、イガラシは首を振る。

(誘いかもしれません。ここはボール半分外しましょう。)

 

『さあ、墨谷バッテリー。サインは決まったか。ここまで追い込んでいます。第三球、投げた!!』

ビシュッ!!

 

ど真ん中からボール半分外したストレート。

「ぬおおおおおお!!」

雄叫びを上げた一球が打つも、バックネットを超えるファールになる。

 

『真田くん、豪快なバッティングもファール!! 打ちあぐねています!!』

 

(い、いや違う。これは・・・・・・。)

(ああ、間違いねえ。岩鬼だな。完全に成りきってやがる。)

これまでの一球ならば確実に打ち返していたタマ。

それを打ちあぐねているということは、目の前のバッターは真田一球ではない。

明訓の誇る悪球打ち、岩鬼だと考えるべきだろう。

 

(だったら話は早い。)

倉橋の出すサインにイガラシが頷き、四球目。

 

ビシュッ!! 

ど真ん中へストレート。悪球打ちの岩鬼にとっては打てないタマだ。

「こいつでどうだ!」

自信満々で投げるイガラシ。

「ぬおおおおおお!!」

パッと一球が咥えた葉っぱが花開く。

グワキィン!!

『真田くん、打ったーーーー』

「なんだと!?」

『打球はレフト線へ!! 一塁を廻って、二塁へと滑り込む!! レフト戸室くん、懸命にセカンドへ!!』

「セーフ!!」

『真田くん、レフト前ヒット~!! 6回にして巨人学園、追加点のチャンスです!!』

 

「そ、そんな。岩鬼なら、岩鬼ならなんでストライクを打てるんだ・・・・・・」

ぼう然とセカンドの一球を見るイガラシに、一球はかっかっかと大声で笑い声を上げる。

「悪球打ちの岩鬼にとってストライクもまた悪球だよ」

「そんなバカなことがあるか!」

イガラシが癇癪を起しそうになるのを谷口がマウンドに駆け寄りなだめる。

 

その様子を眺めながら、野球帽の老人は楽しそうにニヤリと笑った。

「バカなことがあり得るからこその岩鬼じゃからのう。はてさて、墨谷よ。影武者明訓相手にどう闘うのか楽しみじゃて」

 

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