プレイボールVSドカベン   作:コングK

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イガラシの好投で秘策影武者明訓作戦が不発に終わった真田巨人学園、意気上がる墨谷は真田一球を打ち崩すことができるのか!


第二十二話  「半田の目」

「ほお。これはこれは」

マウンドに向かう前に、円陣を組む巨人学園の面々を前に、徳川は顎をなでる。

「さすがにちと不味いと思ったか。そりゃ、虎の子のつもりで出した作戦が不発じゃあな」

「不発? 影武者明訓作戦が?」

田所の合いの手に気をよくしたか、ぐいっと徳利を一口あおるや、徳川は大きく息を吐いた。

 

「おうとも。ええか。影武者ってのは確かに有効な作戦じゃ。本物そっくりに軍を動かし、相手を動揺させる。じゃがな、こいつが決まるためには一つどうしても避けて通れないことがある」

「そ、それは・・・・・・」

「偽物だとばれてはいかんちゅうこっちゃ。本人らしく見せるよう成りきるからこそ、影武者はその威力を発揮するんじゃ」

「で、でも甲子園で明訓は影武者に苦戦して・・・・・・」

田所の当然の疑問を、徳川は一笑に付す。

「そりゃあ、明訓は明訓と戦かったことなぞないからな」

「・・・・・・」

「それに、見てみい。甲子園の影武者明訓に比べてなんぞ足りなくはないか?」

「足りない?」

じっと巨人学園の選手を確認し、田所はあっと気づく。

「そ、そういや甲子園の時に出ていた三球士だとかって3人組がいねえじゃねえか」

「そうよ。堀田に司に一角。あの連中を含めての影武者明訓よ。じゃがどういう訳か、今この場にはおらん。これじゃあ片手落ちもいいところよ。いかに一球が一人二役で頑張っても役者が足りんわい」

「な、成程・・・・・・」

「明訓の名に墨谷が負け、独り相撲をとっているうちに追加点という腹づもりだったんじゃろう。だが、残念ながら本物を知っている連中がいた。あのピッチャーにセカンド、明訓に来ていた筈じゃからな」

「なんでそんなことを知って・・・・・・」

「わしも通りかかったんでな。面白そうなことをやっとるとこっそり覗いておったのよ。本物を知っている二人からすりゃいくら似せても偽物は偽物。元々無理しての策じゃからな。一球は別にして、他の連中はそりゃ化けの皮も剥がれる」

再度徳利をあおるや、徳川は面白そうに笑い出した。

「ふえへっへっへ。それに、本物そっくりに演じる影武者にはもう一つ大きな落とし穴がある」

「え?」

「いいことばかりじゃないってことよ。墨谷がそれに気づくかだぜ、この回は」

 

円陣を組む巨人学園の面々を見る墨谷ナイン。

イガラシの連続三振で士気は上がっているものの、依然として好投手真田一球を打ち崩せていない彼らの表情は硬い。

 

もちろん、これまで一球を打ち崩さんと谷口なりに様々な方法を試みてきた。

立つ位置をベースよりに変えたり、ストレートに的を絞ったりした。

だが、単打が続いても要所要所で打ち取られ、どうしても得点に結びつかず、初回に取られた一点が重くのしかかっていたのである。

(何としてもこの回、得点したいものだが。)

流れが来ているのを感じるも策が思いつかず腕組みをしながらマウンドを見つめる谷口に、後ろから半田が声を掛ける。

「あのー、キャプテン」

「何だ?」

次打者でバットを振っていた丸井が振り返る。

「い、いや。谷口さん」

「うん、どうした半田」

「初回からここまでの投球を見て気づいたんですが、真田の投球の癖が見抜けたかもしれません」

「どういうことだ?」

昨年夏の専修館戦を思い出し、谷口以下皆が半田を見つめる。

あの時も東実の渡してくれた専修館のエース百瀬を打ち砕くヒントを、墨谷で唯一読み解けたのは半田だった。

その目の確かさを生かして、今夏はマネージャー的な立ち位置となり、準々決勝の谷原戦でも大いに半田の情報が役に立った。

 

「真田の投球のクセが里中のと一緒だと!?」

倉橋の言葉に半田は頷いた。

 

明訓の大エース小さな巨人里中は甲子園通算20勝を挙げた好投手だが、その彼の癖が明るみに出たのは今夏の甲子園大会決勝、対紫義塾戦でのことである。

 

紫義塾のキャプテン近藤の冷徹な観察眼によって暴かれたそれは、ストレートとカーブを投げる際に軸足をプレートに置くか置かないかといったもので、結果里中を打ち崩し、明訓を大いに苦しめた。

佐野から預かったビデオでもその癖は確認されており、今度の対明訓戦では使えるのかと墨谷ナインの間でも話題になっていたのだ。

 

「けどしょせん真似だろ? そんなことあるのかよ」

横井が疑問を口にする。

「あり得ますね」

とはイガラシだ。

「巨人学園の連中は対明訓戦の前に明訓のビデオを何度も見てそのクセを徹底的に体に覚え込ませたとか。長所だけでなく短所も一緒に真似しちまっているんじゃ」

「うむ。確かにそう考えられなくはないが」

谷口が悩んでいると、審判より早く打席につくように告げられる。

「とにかく谷口さん。様子を見てはどうでしょう」

「そ、そうだな。松本、とにかくよく見ていけ」

「は、はい・・・・・・」

9番に入った松本は釈然としないながらも、気合を入れて打席に入る。

投げる一球の軸足の様子をじっとみつめる墨谷ナイン。

 

一球目。軸足はプレートの前。

「プレートの前。ストレートか」

シュッ。

谷口の言葉通り、投げたのはストレート。

ズバン!!

 

「ストラーイク!!」

 

二球目。軸足はプレートの前。

「これもストレートか?」

半信半疑の横井。

 

シュッ。

投げたのはストレート。

ズバン!!

 

「ストラーイクツー!!」

 

「おいおい。どうやら本当みたいだぜ」

目の前で松本がカーブで三振を喫するのを見て、倉橋が呟いた。

三球目に投じたカーブでは軸足はプレートの上、ビデオで観た里中の癖そのままだ。

『一番、セカンド丸井くん。一番、セカンド丸井くん』

「よしっ!」

 

俄然盛り上がる墨谷ナインの中、意気揚々と打席に入ろうとする丸井。

「タイム!」

「れ?」

唐突にタイムをとったのは半田だ。やる気満々でいた丸井は思わずずっこける。

「あんだよ」

「決め球でシンカーが来たら振り逃げで」

「ああん? オメ。おれが打てないって決めつけてねえか」

「い、いや。そういう訳じゃ・・・・・・」

かりかりしながら打席に戻る丸井。

どういうことかと尋ねる谷口に半田はスコアブックを見せる。

 

「キャッチャーの呉の後逸が多いんです」

「そういや、初回の時、おれも谷口さんも振り逃げを狙いましたね」

「あ、ああ。カーブとシンカー。決め球に使ってきたが後ろに逸らしてたな」

「そうだとどうだってんだ?」

横井が隣にいた戸室に尋ねるが、戸室もさあと首を捻るばかりだ。

「呉が変化球を捕るのを苦手にしてるってこった」

同じ捕手である倉橋がズバリと指摘する。

「変化球を捕るのが苦手? 甲子園まで行った捕手だぜ?」

「甲子園でも真田は直球一本槍だったからな。影武者明訓で里中を真似して変化球を覚えたんだろうが、捕手の九郎の技術が追いついてねえのさ」

「その割には変化球を投げてねえか」

スコアブックを見ながらの横井の指摘に、半田が口を挟む。

「真ん中より高め、それもカーブばかりです。低めはほとんど投げてません。投げても後逸しています」

「というとどういうこった?」

横井が再度隣にいる戸室の方を向く。

「おれに聞くなよ」

「変化球は捨て、ストレートを狙う。特に低めの変化球が来たのならば状況に応じて振り逃げを狙っていくぞ」

「お、おうっ!」

谷口の言葉に皆が力強く頷いた。

 

『さあ、作戦タイムは済んだか。墨谷高校丸井くん、気合十分です。一方の巨人学園真田くん、前の回の三者凡退を引きずらず、先頭の松本くんを打ち取りましたが、一番からの好打順を抑え、悪い流れを断ち切ることができるか!』

 

(トップからか。)

墨谷ベンチに目をやる一球。この丸井を出すと、ダブルプレーをとらぬ限り、確実に三番のイガラシに廻る。ピッチングで勢いに乗らせてしまった以上、その前で流れを何としても切っておきたい。

一方の丸井。半田の言葉から一発放り込み、目にもの見せてくれんとかっかしている。

じっと一球を見つめる丸井。

 

一球目。

(プレートの前。ストレート。)

 

ビシュッ。

ブン!!

勢いのあるストレートを思い切りふり、丸井は尻もちをついた。

「ストラーイク!!」

「丸井さん!!」

ベンチのイガラシから当てにいってのジェスチャーだ。

(ったく、どっちがキャプテンかわかりゃしねえ。いけすかねえ後輩だぜ。)

二度三度と素振りをしながら、打席に入った丸井は大きく息を吐いた。

 

二球目。

(プレートの前。ストレート!!)

 

ぎゅっとバットを握り、力を籠める。

ビシュッ!!

 

キィン!!

「くっ!!」

『丸井くん、打った~~。ストレートをどんぴしゃり!! ライト前ヒット~~~~』

「ナイスバッチン!!」

「へん。これでいいんだろ、これで!」

打って当然とばかりに一塁で口をへの字に結ぶ丸井にイガラシはくすりと笑みを浮かべた。

 

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