プレイボールVSドカベン   作:コングK

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勝ち越しに成功した墨谷。一方の巨人学園は5番の倉橋を迎え、抑えきることができるのか!

※打順を間違え一部修正しました。


第二十五話 「球けがれなく道けわし」

割れんばかりの歓声がグラウンドへと響く。

6回裏。9番松本から始まった墨谷の攻撃は4番の谷口に二点タイムリーが飛び出し、尚もランナー二塁で5番倉橋を迎えていた。

 

マウンド上でぱたぱたと仰ぎ、ふうと息を吐く一球。

 

「紙一重の勝負じゃったな。様子を見にいった一球と、勝負を掛けた谷口。その違いじゃ」

「よし、倉橋。ここは畳みかけていけ!!」

大声で叫ぶ田所を尻目に、

「そう上手くいけばいいがな」

一球の様子を見、徳川はぽつりと呟いた。

 

(やはり、何かあるな。どう考えてもおかしい。)

タイムをとり、軽く伸びをする一球。この回まで打たれはしたものの散発で抑えてきただけに、まるで来る球種を読んだかのようなバッティングが気になる。

 

(クセか、サインか。とにかくよく分からなければ元から変えてみればいい。)

 

『5番倉橋くん。ここまで真田くんに抑え込まれていますが、ここは谷口くんを返し、一矢報いることができるか。巨人学園真田くん、ここは踏ん張りどころ。最少失点で切り抜けることができるか。注目の第一球!!』

 

ガバァッ!!

『あっと、これは上手だ!!』

 

ビシュッ!!

「な・・・・・・」

 

ズバン!!

 

「ストラーイク!!」

主審が高々とコールするのを横目で見ながら、倉橋は戸惑いを隠せない。

(上手だと!?)

 

続いて二球目も上手からのストレートに空振りを喫する倉橋。

(おいおい。まさか、こいつ。)

 

打席の倉橋の様子を観察しながら、一球は九郎へ頷いてみせる。

(効果あり。)

(この調子だ~よ。)

(ここからは上でいくぞ。)

(了解だ~よ。)

ボスンとミットを叩き、気合を入れる九郎。

一方打席の倉橋はバットを短めに持ち、ストレートに備えるが。

 

ビシュッ!!

ブン!!

「スト―ラーイク!!」

「ぐ・・・・・」

上手からの気合が籠ったストレートにタイミングが合わず、空振りを喫する。

 

『お見事真田くん、倉橋くんを三振に切ってとり、この回何とか最少失点差で切り抜けました。ですが、墨谷高校。この回勝ち越しに成功。巨人学園は追いつき、追い越すことができるか!!』

 

「す、すまん」

二塁から戻って来た谷口に倉橋が声を掛ける。

「まさかいきなり上手に変えてくるとはな」

「ああ。クセに気づいたって訳じゃなさそうだが」

 

クセに気づいたのであれば、それを逆手にとり、墨高ナインを混乱させるだろう。それこそ、紫義塾戦の里中のように。だが、それをしないという事はクセに気づいたとは思えない。動物的な嗅覚で下手は不味いと勘づき、上手に変えたと考えるのが自然だろう。

 

「やはり、とんでもない男だな」

改めて真田一球という男の恐ろしさに目を見張る墨谷バッテリー。

 

一方の巨人学園ベンチ。勝ち越しされ、気落ちするナインに対し、一球が檄を飛ばす。

 

「まだ一点差。3回もある。十分逆転できる!」

「で、でも、一球さん」

弱音を吐く花田に、九郎が噛みついた。

「でももかかしもないだ~よ」

「そうだ。影武者作戦は失敗に終わったが、まだうちは負けてない」

ナインをぐるりと見渡すと、一球は言葉を続けた。

 

「ここから巨人学園の野球を見せようじゃないか。そうして俺たちは甲子園に行ったんだろう?」

「甲子園・・・・・・」

「ああ。そして、俺たちはあの明訓と戦った」

 

皆が一様に口をつむぐ。

思い浮かべるのはこの夏の思い出、灼熱の大甲子園での明訓との一戦だ。

 

神奈川が誇る最強の王者。高校野球の頂点に君臨する存在、明訓高校。

 

ドカベン山田太郎。

小さな巨人里中。

秘打男殿馬。

そして、決勝点をもぎ取る闘志あふれる激走を見せた、悪球打ち、男岩鬼。

 

「そんな連中と俺たちは渡り合ってきたんだぜ?」

 

土の匂いが、太陽の日差しが。

スタンドからこだまする絶叫が。

巨人学園ナインの脳裏に蘇る。

 

「そうだな・・・・・・」

ぐっと心の奥底からせり上がる何かに皆が拳を握った。

 

「このまますんなり負けるようじゃ明訓に申し訳が立たないってもんだ」

「ああ、その通りだ。巨人学園はまだまだこんなもんじゃない!」

「その意気だ! 『球けがれなく道けわし』。この程度の険しさは人生の中じゃよくあることだぜ!」

豪快に笑い飛ばす一球に釣られ、笑みを浮かべるナイン。

 

「バッター!!」

練習試合とはいえ、さすがに準備が長いと主審が苦言を呈した。

 

「あ、次は俺だった」

4番の花田が慌ててバットを手にし、打席に入る。

(おいおい、こいつら。逆転されてショックはないのかよ。)

その様子を見ながら、倉橋が呆れる。

(とにかく、だ。この回は短めに切っておかないとな。)

マウンドのイガラシの様子を見ながら、倉橋は構える。

先ほど間一髪で生還したイガラシは激走がたたり、はあはあと息が荒い。

何とか間合いをとりながら打ち気をそらし、この回を乗り切るしかない。

 

だが、さすがに巨人学園もさるものである。

イガラシの様子をみてとるや、バントを絡めた徹底的な待球作戦を一球が指示し、4番花田、5番手塚、6番三原と打ち取られるものの、この回計30球をイガラシに投げさせた。

 

このナインの意地に真田一球という男が奮い立たぬ訳がない。

 

「ぬおおおおお!!

 

上手投げからのストレートは打者を迎えるごとに勢いを増し、唸りを上げて九郎のミットにおさまった。

 

『戸室くんバットを出すも、掠らない!! 真田くん、上手に変えてエンジン全開!! 墨谷高校6番からを三振に切って取り、この回を三者三振で切り抜けました!!』

 

 

「すごい・・・・・・」

残り二回に望みを繋ぎ、まるで腐らぬ巨人学園の姿勢に、思わず谷口は感嘆の声を洩らした。

これまで自分達が戦ってきた相手は皆どこかで慌てふためいたり、エースがふてくされたりしたものだ。

特に緊迫した一点差を争うゲームではよくある光景だ。打てない、守れないと否定的な言葉がベンチで飛び交い、しばしばいさかいも起こる。

 

ところがこの巨人学園はどうだ。真田一球という大黒柱の元、一回から乱れるということがない。一球や九郎を除けば明らかに彼らの方が野球は下手くそだ。そんなチームが自分達や谷原を抑え、東東京代表としてあの明訓と互角に戦った。

 

「おい、谷口。どうする」

倉橋がミットを片手に言った。

「オレはまだいけますよ」

はあはあと肩で息をするイガラシ。普通に考えれば交代だが、イガラシという男の根性を考えれば、続投ということも視野に入る。

 

しかし。

 

「いや、当初の予定通り、この回からオレが投げる」

谷口は巨人学園ベンチの一球を見、きっぱりと言いきった。

「この回一人出れば真田に廻る。それに・・・・・・」

「それに?」

「い、いや何でもない」

聞き返してきた丸井に応えず帽子で表情を隠し、谷口はマウンドへ向かった。

 

どういうことだろうと顔を見合わすイガラシと丸井。

 

倉橋相手に投球練習をしながら、谷口はかっかする自らを抑えようと深呼吸を繰り返した。

 

(あの真田と勝負したい。)

 

谷口自身意外だった。チームではなく、一個人に思い入れるなんて。

(だが、それほどあの真田一球は大きい。)

 

青田の中西球道の座右の銘。それを今、谷口は痛いほど実感していた。

(球けがれなく道けわし、か。)

 

明訓という頂へ至るためにも。

目の前にそびえ立つ大きな壁は越えなければならない。

 

(明訓と戦うためには、このけわしさは必要だ!)

 

ビシュッ!!

ズバン!!

 

ビシュッ!!

ズバン!!

 

(お、おいおい。ちょいとムキになりすぎじゃねえか。)

谷口の様子に、倉橋は唖然としながらしきりに落ち着くよう指示を出す。

 

(谷口をここまでしゃかりきにさせちまうなんて。)

ベンチから大きな声援を送る一球をちらりと見、倉橋は内心呟いた。

(やっぱりとんでもねえ奴だぜ、真田一球。)

 

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