プレイボールVSドカベン   作:コングK

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8回の表。一人出れば、一球に廻る巨人学園に対し、墨谷のピッチャーは谷口。

※試合内容が変更になりました。


第二十六話 「巨人学園の意地」

(おいおい。)

投球練習での谷口の様子を見、

 

「谷口!!」

倉橋はもっと肩の力を抜けとジェスチャーで指示を出す。

 

(楽に、楽によ。)

(そ、そんなに力んでいるかな。)

 

意外そうにしながら、肩をほぐす谷口の表情を見て、倉橋は内心呆れる。

 

(やれやれ。知らぬは本人ばかりだぜ。)

冷静そうに見える谷口だが、意外にもムキになることがある。相棒を務めてきた倉橋からすると長年頭を悩ませた所だった。

 

(ま、分からなくもねえが。)

真田一球という超高校級の存在を目の前にし、自分がどれだけやれるのか。

対明訓を抜きにしてもその高揚感は格別だろう。

 

(だが、捕手はそんなことは言ってはいられねえからな。)

冷静に巨人学園ベンチを確認し、倉橋はどうしたものかと考えを巡らせる。

 

 

「どうする、一球さん。この回も待球作戦でいくか?」

文六の問いに、一球は首を振った。

「いや、あれは飽くまでもイガラシが続投する場合に備えてだ。谷口に代わった以上、意味がない。それに」

「それに?」

「郷、ちょっと」

 

打席に向かう郷を呼び止め、一球は策を授ける。

「えっ!? いいのか、それで」

「ああ。頼むよ」

 

 

『回は終盤8回。巨人学園、一点ビハインドで打順は下位。7番郷くんからです。一打出れば、1番の真田くんに廻るだけに、ここは大事にしていきたい。墨谷高校、投手は3番手の谷口くん。今夏谷原相手に見せた力投が再び冴えわたるか。注目しましょう!!』

 

「何だと!?」

打席に入った郷がすーっと一塁に入った井口の方へバットを向ける。

そちらの方へ打つぞという意思表示に井口が眉をしかめ、来るなら来いとグラブを叩く。

 

『郷くん、一塁に入った井口くんを狙うと予告! これはどういうことなんでしょう。注目の第一球です!』

(井口をかっかさせるつもりか?)

(とにかく下位とはいえ用心よ。)

(ああ。)

 

一方の郷。

一球目。高めにボール球、反応せず。

二球目。ストライクを果敢に振っていくが、空振りを喫する。

三球目。低めに来た球を一塁線へバントにいくとみせかけ、バットを引きボール。

 

(どういうことだ?)

(さあな。狙いがよく分からねえ。)

悩む墨高バッテリーをよそに、打席の郷に打ちにいけというジェスチャーを見せる一球。

 

「おいおい。どういうことだい、一球さん」

郷が何を狙っているのか分からず、思わず文六が一球に尋ねる。

「一塁を狙って何の意味があるんだ?」

「あれでいいのさ。あれで」

 

(残り二回だろうに。何を考えてやがるんだか。とりあえず悩む時にはここでどうだ。)

(うむ。)

倉橋のサインに、谷口が頷く。

 

「戦において重要なのは如何に相手を油断させるかさ」

と一球。

「油断させる?」

「ああ。人間一度解けた緊張は、どんな人間でも一瞬では戻らない。そして、この場合、一番狙うべきは・・・・・・」

 

『さあ~谷口くん、四球目だ。振りかぶって、投げました!! インコースへストレート!!

 あっと、何と郷くん、三塁線へバントだ!!』

 

「何だと!?」

「くそっ!」

予想外のバントに、サードに代わったばかりのイガラシが反応するが、疲れからか足がついていかず、つんのめる。

 

「そう。ピッチャーを代わり緊張の解けたイガラシだ。投げなくていい。自分の所には飛んでこない。意識するつもりはなくても体がそう思ってしまう」

 

パシィ。

 

『谷口くんが慌ててフォロー!! 一塁へ投げるも間に合いません!! 巨人学園郷くん、バントヒットで出塁~~』

 

(あいつ! これをやるつもりで、一塁へ注意を向けさせたのか。)

やり返されたと呆然とするイガラシに、一球は笑みを見せる。

 

「い、一球さん!」

「そろそろ出番だろ、文六。用意しないと」

 

 

『さあ、大変なことになってきました。8番二宮くんがバントで送り、ワンアウト二塁。9番文六くんに一打出れば、同点という場面です。墨谷バッテリー、ここは最低でもアウト一つとって次の真田くんと相対したいところです』

 

(やれやれ。一打出ればって。期待するかね、このフヌケの六に。)

文六は内心大きなため息をついた。

 

真田一球が来てから本当に色々なことがあった。

当時二軍監督でありながら、勝負に勝って一軍監督になったのはあの剛球一直線藤村甲子園の恋女房であった岩風五郎。だが、その采配に反発したレギュラー陣が離反し、後を引き継いだ一球は一度部から離れた彼らの復部を認めず、素人ばかりをかき集め、チームを作り甲子園へと出場したのだ。

 

二度三度とバットを振り、文六は打席に入る。

(おそらく高校野球最後の打席か。よーし、思いっきりいくぞ。)

 

ぺっぺと両手に唾を吐き気合を入れる文六に対し、倉橋は勝負を選択する。

 

一球目、ストレートを空振り。

二球目、カーブにタイミングが合わず、勢い余って尻もちをつき、眼鏡を飛ばす文六。

「お、おい。大丈夫か」

「ああ、すまない・・・・・・」

眼鏡を渡しながら、苦笑いを浮かべる倉橋。

(やれやれ。気合は買うが、空回りじゃねえか。)

 

「いいぞ、文六!! 一度しかない高校野球なんだ!! 思いっきりやれ!!」

 

ネクストバッターズサークルから一球が叫ぶ。

「おうともさ!」

再度ぺっぺと気合を入れて構える文六。

 

続けての三球目ストレート。

「くっ!」

キーン!!

 

「ファール!!」

 

『一塁線へのファール。文六くん、何とかくらいついています』

 

(運動センスゼロと馬鹿にされていたってのに。)

ふうと息を吐き、文六はバットを握りしめる。大友以下レギュラー陣にバカにされても野球はやめなかった。そんな自分がまさか甲子園に出場し、ライトを守ってあの明訓と戦うこととなるとは誰が予想できただろう。

 

(ここまでやってこられたのは間違いなく一球さんのお蔭だ。)

 

当初はその常識外れの行動に苛立ったものだった。

だが、一人になっても野球を続けようとするその姿勢に打たれ、共に戦ってきた。

 

(野球を続けてきてよかった。本当によかった。)

鼻をすすりながら、文六は闘志を燃やし、谷口を見る。

 

『さすがにここは送ってはこないか。文六くん、強打の構えです。二塁ランナーを返せるか』

 

(甲子園の里中を思い出せ。行ったんだぜ、おれたちは。あの大甲子園に!!)

 

『谷口くん、四球目、投げた!! ど真ん中だ!! 文六くんこれを打ちにいく!!』

 

カキィ!!

 

「いけ~~~」

 

『これは谷口くんの勝ちだ。ふらふら~っと上がったボールがセンターへ!! センター島田くん、悠々落下点へと入る!! 墨谷これでツーアウト!!』

 

「え・・・」

 

ポトン。

 

『・・・・・にならないならない!! 何と名手島田くん、この何でもないフライをバンザイ!! 太陽か、汗が目に入ったか!!』

 

「ああっ!!」

「わあああああ!!」

 

墨谷側からは悲鳴が、巨人学園側からは歓声が上がる。

 

『島田くん、慌ててボールを拾い一塁へ投げる!! 文六くん、ヘッドスライディング!!』

ザザーーーーーッ!!

「セーフ、セーフ!!」

『あーっと一塁は間一髪セーフ!! 郷くんその間に三塁から本塁を伺うも、墨谷高校井口くん、ファーストからのものすごい返球でそれを許さない!!』

 

 

「舐めたらいかんぜ! おれは巨人学園の文六だぜ!!」

 

一塁上、ガッツポーズを見せる文六に、否が応でも盛り上がる巨人学園応援団。

「ナイス文六!!」

 

「打ちとったってのにツイてねえ。だが、ワンアウトだぞ、谷口!! 切り替えていけ!!」

 

マウンド上の谷口に向かって大声で声援を送る田所。

その横では、徳川が楽しそうにぐびりと徳利に口をつける。

(今の文六の執念は次の一球の力になるで。こいつが正真正銘この試合の大一番になりそうじゃ。)

 

『一番ピッチャー真田くん、一番ピッチャー真田くん』

どわあああというまるでここが甲子園かと思わせるような歓声がグラウンドに響き渡る。

 

『谷口君、完全に打ち取った当たりでしたが何という不運! ランナー一三塁の状況で、迎えるは一番の真田くんです。墨谷高校、さすがにここはタイムをとり、内外野の選手を集めます!!』

 

「す、すいません」

顔面蒼白になりながら申し訳ないと謝る島田に対し、

「次はよろしく頼むぞ」

谷口はそう言うと、口元を隠した。

 

「ワンアウトでランナー一・三塁だ。スクイズに長打にと色々頭を捻らにゃならんが、ここは打ちしか考えられない」

倉橋の言葉にイガラシも頷く。

「ええ。後続が期待できませんからね。ですが、意表をついてプッシュもあるってことを頭に入れといた方が」

「そこはイガラシと井口に任せる」

谷口の言葉に頷く二人。

 

「敬遠で満塁策じゃダメなのかよ」

横井が口を挟むと、しれーっとした空気が流れた。

 

「あのなあ、お前。6回の裏、同じ場面で巨人学園の連中は勝負したろ」

ぽりぽりと頭を掻きながら、倉橋が呆れた声を出した。

「そ、そりゃ確かにそうだが」

「因縁の試合だ何だと煽っちゃいるが、練習試合なんだぜ。それに、お前。最初から谷口が打たれると決めてやしねえか?」

「い、いやそういう訳じゃねえけどよ」

じーっと己を見てくる丸井達の視線に耐えられず、横井は下を向く。

 

「巨人学園の連中は真田を信頼して任せたんだぜ。おれたちもここは谷口に任せにゃ話にならんだろうよ」

倉橋の言葉に皆が一様に頷き、横井はぽりぽりと頬を掻いた。

「わ、分かった。分かった。悪かったな、谷口、ここは頼んだぜ!」

「ああ」

谷口の返事を聞くや、一斉に守備位置に戻る墨高ナイン。

 

(ったくあいつも。付き合いが長いんだから、いい加減谷口って男を理解しろよ。)

本塁へと戻りながら、倉橋は心の中でぼやく。

 

(こうと決めたらてこでも動かねえのが谷口じゃねえか。)

 

「勝負とはありがたい」

構える倉橋に向かって、一球が声を掛ける。

 

「はて、何のことやら」

わざとらしくとぼける倉橋は再度肩の力を抜くように、谷口に指示をする。

大きく深呼吸をし、一球の呼吸の様子を見て、気持ちを落ち着けようとする谷口。

 

(来るなら来い。セカンドでさばいてやるぜ。)

腰を落とし、身構える丸井。

 

(やられっぱなしは性に合わないんでね。)

グラブを叩き、己を鼓舞するイガラシ。

 

内外野陣、共に互いの位置を確認し、大きく息を吐いた。

 

「プレイ!」

 

 

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