プレイボールVSドカベン   作:コングK

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強打者真田一球に対し、全身全霊をもって挑む谷口。
巨人学園対墨谷戦はいよいよ終盤へ!!

※試合内容が変更になっています。


第二十八話 「その一球に賭けろ!」

「ファール、ファール!!」

審判の声がひと際大きくグラウンドに響く。

先ほどまで声を上げていた観客たちはグラウンドの異様な光景に静まり返り、黙ってその様子を見守っていた。

『何とこれで球数は20球!! 苦投谷口くん、大きく息を吐きます。ここまでコントロールミスなく投げ続けられるその精神力は大したものです。ですが、その前に立ちはだかる真田くんをどうしても打ち取れません。甲子園に出場した者の意地か、はたまた宣言通り自らを大きな壁たらんとしているのか。どちらにせよ、容易に超えられるものではありません。いかにこの真田くんを攻略するのか、墨谷バッテリー!!』

 

(そう言われてもよ。)

間をとるように谷口に伝えた後、倉橋はこれまでの配球について頭を巡らせた。

下段中段上段と様々な構えを見せる一球はまさに変幻自在、一分の隙も見出せない。

すでに持ち球の多くを使い、それを高低、内外、タイミングに気を配って投げ込んでいる。

 

(だが、当てられる。)

 

十九球目には意表をついて、力を抜いたストレートをスローボール気味に投げたが、それすらも見抜かれ、あわやという特大のファールを打たれた。

 

(明訓とは、山田とはこれ以上の壁だというのか。)

目指す頂のあまりの高さに倉橋は身震いした。

 

 

 

ゆったりとバットを構え直すと、一球は小さく息を吐いた。

 

(何という男だ。)

 

ここまでの二十球。三塁に走者があり、コントロールミスが許されない場面にも拘わらずその姿勢は飽くまでも攻め。

並みの投手なら一球ほどの打者にここまで粘られているのだ。一打あることを警戒して、それを理由に逆に歩かせた方がいいと自分を納得させることだろう。

 

(だが、この谷口は違う。)

 

自分を抑えなければ、明訓に挑む資格がない。一球が言ったその言葉を一途に信じ、愚直に抑えることを目指し、淡々と投げ込んでくる。

 

二十一球目。外角へのストレート。

未だ衰えぬ球威に負けじと一球はバットを振っていくが、

 

キィン!!

 

「ファール!!」

高々とボールが上がり、バックネットを超える。

 

(これもだ。)

これで幾度目か。確実にジャストミートさせたつもりのバッティングが、ことごとく芯を外される。

 

(尋常ならざる努力の跡。見れば分かる。)

打席を外し、改めて一球はじっと谷口を観察する。

一見すれば、体のあちこちが傷つき、ボールを握る手のひらはボロボロ。息荒いその姿に哀れみすら覚えることだろう。

 

(だが、それは大きな間違いだ。)

そこに刻まれているのは積み重ねた修練の日々。必死な表情の奥に揺らめくのは、確かな勝利への執念だ。

 

(人とはここまで一つのことを貫けるものなのか。)

 

高校に入るまで野球を知らず日々過ごして来た一球だから分かる。

淡々と。黙々と。勝つためにはチームに自分に何が足りないのか。日々それを自問自答し、愚直に己の野球道を突き進んできたに違いない。

 

(ならばこちらも全身全霊でそれに応えるのみ。)

一球は口元を結び、ぎゅっとバットを握りしめた。

 

 

球数が増えるにつれて、ぴりぴりと張りつめていく緊張感。

まるで甲子園の決勝を思わせるようなその雰囲気に、守る墨谷ナインの額からは滝のような汗が流れていた。

 

(た、谷口さん・・・・・・。)

自分の尊敬する谷口の苦闘する姿に、思わず丸井はごくりと唾を呑みこんだ。

中学時代から谷口を知っている彼だが、ここまで一人の打者に追い込まれた姿を見たことがない。

丸井からして谷口の出来は昨年の秋季大会の東実戦をも上回る絶好調。

だというのに、打席に立つ一球はその球をなんなくファールにし、20球も粘っている。

ふと内野を見渡せば、あのふてぶてしい井口やイガラシでさえ、二人の勝負に魅入られ、その表情は硬い。

 

(おれたちがこんなんじゃだめだ!)

緊張するチームの雰囲気を感じ取り、丸井はパンパンと己の頬を張ると、ひと際大きな声で叫んだ。

「ツーアウト、ツーアウト。ピッチャー、打たせていこうよ!!」

 

その一言ではっと我に返ったイガラシが、井口がグラブを叩き、それに合わせる。

「谷口さん、こっちは任せてください!」

「こっちもっす!」

他のナインも、次々に谷口へと声を掛け、勢いづける。

 

「谷口さん!」

「打たせていきましょう!!」

「守備はまかせとけ!!」

 

『力投を続ける谷口くんを奮い立たせるように墨谷ナインから檄が飛びます! 素晴らしいチームワークです』

 

振り返りこくりとナインに頷いてみせた谷口は、倉橋へとサインを送る。

 

(フォ、フォークだと!? 確かにまだ投げちゃいねえが。)

(それしかない。)

谷口の決めダマであるフォークは、後逸する危険性も考慮し、ここまでは投げずにきた。

だが、それ以外の球がことごとく打たれている以上、もはや投げぬ訳にはいかない。

 

(よし。ここはどうだ。)

サインはインコース、懐。だが、あえて倉橋はミットを外に構える。

(こぼしはしねえから思い切って投げてこい!)

どんどんと胸元を叩き、鼓舞する相棒の姿に谷口はこくりと頷いた。

 

『さあ~谷口くん、ここは踏ん張ることができるか。二十二球目!!』

 

スポッ!!

 

ククク!!

 

『あっと、これはサインミスか。ミットとは逆方向だぞ! 落ちた落ちた!! ここで決め球のフォークを出して来た谷口くん!! 真田くん、打ちにいく~~~』

 

(こいつはどうだ!)

完全に逆をついたフォークに自信を見せる倉橋。

 

だが。

 

キン。

 

『いったかーーーー。いや。三塁線をわずかにライナーでかすめました。ファール、ファールです!! 完全に意表を突かれたフォークでしたが、さすがは真田くん。容易に打ち取らせない!!』

 

(おいおい。完全に裏をかいただろうによ。)

決めにいった球を打たれ、さすがに下を向いた倉橋に対し、

「倉橋!」

グラブをかかげて返球を促す谷口の顔には悲壮感というものが感じられない。

 

「あ、あいつ」

思わず独り言を口走った倉橋に釣られ、

「すごいな」

一球の口を突いて出てきたのは賞賛の言葉だ。

「てやんでえ。てめえで火をつけておいてよく言うぜ。」

呆れた顔をし、倉橋はミットを構える。

 

(お前がその気なら俺は付き合うだけだ。だが、正直手がないぜ。)

(まさか、あれを合わされるとはな。)

谷口は再度フォークのサインを出す。

(おいおい、大丈夫なんかよ。)

(頼む、倉橋。)

 

肝心要のフォークを打たれ、破れかぶれかと倉橋はストレートを投げるようにサインを出すが、谷口は頷かない。

(ったく。強情な奴だ。打たれても知らねえからな。)

両手を挙げて、やれやれと首を振る倉橋。

 

(一か八か。あれを使ってみるしかない。)

神社でのフォークの特訓中、疲れで朦朧とする意識で偶然投げられたその球はまだ練習段階。

普段の自分なら自在に使いこなせるようになって初めて投げることだろう。

公式戦ならばこのような冒険はしていなかったかもしれない。

だが、出会ってしまったのだ。対策をし、己の全力を振り絞っているにも関わらず、打ち取れないほどの強敵に。

(ならば、少しでも可能性がある方に賭ける)

 

(確か縫い目が・・・・・・。)

緊迫した中だというのになぜか冷静な頭でその時のことを思い出す。縫い目を避けて握る通常のフォークとは違い、縫い目に指をかけて握り投げたその球は、最悪の場合投げ損なう恐れもある。

 

「倉橋、頼むぞ!」

相棒のフィールディングを信頼し、谷口は覚悟を決める。

(後で倉橋にドヤされるだろうが、やってみるしかない。)

普段の自分では考えられぬ大胆さに、谷口自身驚き、ボールを握った。

 

『長いサインの交換でした。この一球で決めにいきたいところです、谷口くん。伝家の宝刀フォークをファールにされましたが、まだ勝負は終わっていません。対して真田くん、いい当たりはするものの、どうしても決めにいけません。谷口くんの勢いに押されているのか。ここで一発欲しい所です!! プレートに足を掛けて、さあ~~~~二十三球目!!』

 

(縫い目に親指をかけて・・・。)

握りはフォーク。

「こいつで」

だが、抜くときに、左の縫い目を意識する。

「どうだ!!」

 

スポッ!!

 

『投げた! これはまたもフォークかーーーー!!』

「よし!!」

『真田くん、打ちにいくーーーーー。』

 

狙い通りとフォークを打ちにいく一球。

だが。

 

ググググ!!

「何っ!!」

「な!?」

先ほどのと違い、スクリュー気味に落ちてくるフォークに倉橋も驚く中、バットを振り切る一球。

「勝!!」

 

キィン!!

 

『打った――――――――。センターへの大きな打球だ!! これは文句なしの飛距離だ!!』

「くっ」

『センター島田くん、快足を飛ばす!! フェンスにへばりついて、ジャンプ~~~!! これはとったか、とったか、どうだーーーーーーー?』

 

「とってろーーー!!」

「入ってろーーー!!」

両校ベンチ、観客から声が乱れ飛ぶ。

 

『島田くん、高々とグラブを掲げる!! 捕った、捕っています!! これが先ほどエラーをした同じ人間か!! 墨谷高校センター島田くん、何と真田くんのホームラン性の当たりをスーパーキャッチ――――!!』

「よし!!」

三塁の郷が狙いすましたように本塁を狙う。

島田もセンターから強肩を見せるが間に合わない。

 

『これは郷くん。悠々とタッチアップ! 巨人学園同点に追いつきました! さすが東東京代表の貫禄だ!』

ああ! と墨谷応援団からため息が漏れた。

 

「ドンマイドンマイ! まだ同点じゃねえか!」

ミットを叩き、ナインを鼓舞する倉橋。

「バック、頼むぞ!」

谷口が声を掛け、ナインがそれに元気よく応じる。

 

「おいおい。打たれたショックはないづらか」

果たして法市の懸念通り。

微塵も動揺を見せない谷口の球威にキャッチャーフライに倒れ、八回を終わって二対二の同点で最終回を迎える。

 

(内側にやや落ちた分、伸びなかったか。)

悲鳴と歓声が乱れ飛ぶ中、冷静に先ほどの打席を分析する一球。

(隠していたのか? 土壇場であのタマをよく投げたものだ。いや、それよりも。)

 

「ナイスキャッチ!!」

 

ベンチへと戻る墨谷ナインから手荒い祝福を受ける島田の様子を見ながら、一球は昨年の専修館戦を思い出していた。あの時も今日と同じように試合が緊迫する中で味方がエラーするも、谷口はそれを責めることをせず、腐らず淡々と投げ続けた。決してあきらめないその姿勢はナインを奮起させ、期待に応えようといつも以上の力を引き出させていた。

 

(だからこそのあの島田のプレイだ。専修館戦で感じたことは間違いではなかった。素晴らしいキャプテンだ。まさに人の上に立つべき男だ。)

 

「よし、この回を0で抑えて、その裏。いっちょ目に物見せてやろうかい」

グラブを持ちながら、守備につく巨人学園ナインを見ながら、ああ、そうだなと一球は嬉しそうに呟いた。

 




今回出てきた球は大魔神佐々木さんのフォークの握りを参考にしています。
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