プレイボールVSドカベン   作:コングK

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巨人学園最後の攻撃。谷口は抑えきることができるのか。

※試合結果そのものが変わっています。


第二十九話 「新たなる出発」

日が西に傾き、先ほどまでの暑さが幾分か和らいだ。

巨人学園と墨谷高校の試合は最終回、巨人学園の攻撃を迎えていた。

 

『さあ、ついにここまで来ました。墨谷高校谷口くん、アウトカウント二つをとり、最後の攻撃に望みを託すことができるか。この回、3番の呉くんがレフト前への2塁打を放ち、4番の花田くんが送ってワンアウト。5番の手塚くんはカウント2-1からベースぎりぎりに立ち、袖にボールを掠らせ、デッドボールで出塁。ランナー1,3塁となり、巨人学園は6番の三原くんに番が回ります。夏の都予選の時と同じように奇跡を起こせるか三原くん!』

 

(ったく。敵ながらさすがとしか言えないぜ。)

サインを出しながら、倉橋は改めて巨人学園の凄さについて驚かざるを得ない。

8回の表同点とするも、一球を打ち取られ、反撃の芽が摘まれた巨人学園。

さすがに意気消沈すると思いきや、全くその士気は衰えず、その裏9番松本から始まる墨谷打線を一球がぴしゃりと抑え、最後の攻撃に臨んでいた。

 

「行け~三原~」

盛んにベンチから飛ぶ歓声は最終回という緊張感を微塵も感じさせない。

 

(そういや、こいつら、夏の都予選決勝もちんたら延長をやってたもんな)

(うむ。)

 

高めに構えたミットに向けて、谷口は渾身のストレートを投げ込む。

 

ビシュッ!!

 

「くっ!!」

『高めのストレート、三原くん、果敢に打っていった~~~』

 

キィン!!

 

乾いた音が響き、ふらふらとボールが上がる。いち早く落下点に入った丸井からカバーに入った横井へ。横井からファーストの井口へとボールが繋がる。

 

「アウト!!]

静まり返るグラウンドに主審の声が響くやどよめきが戻って来た。

 

『三原くん、高めの球を積極的に打っていきましたが、惜しくもゲッツー! 最終回谷口くんを追い込んだ巨人学園でしたが、あと一本が足りませんでした!!』

 

悔しそうに顔を歪ませ、しゃがみこむ三原に駆け寄ると、一球はその手をとった。

「お疲れさん」

「ご、ごめん。一球さん」

「何も謝るようなことじゃない。勝敗は兵家の常さ。それよりもまだ勝負は終わっていない」

ぐいと引っ張り、三原を立ち上がらせると、一球はベンチに向かって声を掛けた。

「さあ、みんな仕舞っていこうぜ!」

 

『倉橋君のバットが空を切る!! 真田くん、この回意地の力投で何と墨谷のクリーンナップを連続三振! 甲子園出場校としての貫禄をみせつけました!』

 

「く、くそ!」

一矢報いることができず、悔しそうに顔を歪める倉橋とは対照的に8回表の一球との対決にムキになり過ぎた反動か、どこか呆然としながら谷口は列に並んだ。

「巨人学園対墨谷高校の練習試合は、2-2の引き分け!」

「「ありがとうございました」」

主審の宣言と共に、礼を交わす両校。

 

「お、おい谷口」

倉橋から小突かれ、はっと気づいた谷口は目の前で右手を差し出す一球に気づいた。

「あ、すまない・・・・・・」

ごしごしとユニフォームで手を拭き、その手を握り返した谷口は目を大きく見開いた。

 

「こ、この手は・・・・・」

自分と同じようにボロボロの手。一体どれほど投げ込めばここまでになるのだろう。

「明訓と戦うつもりで張り切り過ぎてね。おやじの薬は打ち身にはよく効くんだが、切り傷・擦り傷には効き目がイマイチなんだ」

にっこりと微笑みながら言う一球に、谷口は胸の奥が熱くなった。

 

「ど、どうしてここまでしたのに・・・・・」

明訓と戦わないのか。そう聞こうとして、谷口は口を噤んだ。自分達が申し込まなければ、彼らが明訓と戦えていたのだ。必死になって打倒明訓を誓っていたその心中を慮れば、うかつなことを言うべきではなかった。

 

「明訓との再戦は叶わなかった。だから君たちに託す」

一球の思いを受け止めるように谷口は力強くその手を握った。

「明訓戦での健闘を祈る」

谷口は無言で頷くと、一球の手を強く握り返した。

 

『今、両校のエースががっちりと握手を交わしました。それに続き、巨人学園と墨谷高校のナインがお互いの健闘を称え、固い握手を交わします。何という感動的な場面でしょうか。東東京大会準決勝の再現などと散々煽って来た私ですが、恥ずかしい限りです。この試合はそんなものでは言い表せない感動を私達にくれました』

 

巨人学園放送委委員の声が震える。

芦田麗子に今回の練習試合のアナウンスを頼まれた時には完全な興味本位だった。

高校野球好きの自分にとっては渡りに船。いずれ大学に進みアナウンサーを目指すための練習にちょうどいい。そんな程度の気軽さで引き受けたことなのに。

 

たかが練習試合。されど練習試合。

甲子園大会の決勝もかくやとばかりの熱戦を繰り広げた両校の奮闘に、アナウンサー役の学生の胸にこみ上げてくるものがあった。

 

『拙い、まことに拙い放送で申し訳ありませんでした。私の実況では、この試合の魅力をあますところなくお伝え出来たかどうか自信がありません。・・・・・・聞き及んだところ墨谷高校は10月上旬には明訓との練習試合を控えているとのこと。是非ともその際には私も東東京の一野球ファンとして、応援に駆け付けようと思います。最後になりますが、・・・・・・アナウンサーとして、失格なのはわかっていますが、言ってもどうしようもないことだとも理解してもいますが、

でも、巨人学園の生徒としてどうしてもどうしても言わずにはおられません!!』

 

一度マイクから離れ、大きく息を吸うと彼は一息で言った。

 

『・・・・・・どうして、どうしてこの試合が神宮で行われなかったんだ!! 野球の神様の大馬鹿野郎!!』

 

キーンと甲高い音が響き、続いて深い嗚咽が漏れた。

集まった巨人学園と墨谷の観客は互いに示し合わせたように静かに、だが熱烈な拍手をグラウンドに送った。

 

「さあ、片付けだ。終わり良ければ総て良しってね」

「勝ちたかっただ~よ、一球さん」

グラウンドから去る巨人学園ナインには悔しさは微塵も見えない。全てを終えた清々しさがその顔には溢れていた。

 

 

甲子園で明訓と戦った時にいた三球士がいれば、明らかに巨人学園の優位は動かず、引き分けに持ち込むことは難しかったかもしれない。

万全の状態ではなかったのにも関わらず、一言もそのことに触れず去って行った真田一球に、谷口は敵ながら敬意を抱かざるを得なかった。

 

「勝てなかったな」

「ああ。さすがとしか言いようがないぜ」

倉橋が相槌をうつ。

 

「あの真田に三球士が揃った巨人学園相手に明訓は1―0だもんよ」

横井がやれやれと呆れたように頭を振り、戸室が頷く。

「全くだとんでもないな。どうなることやら」

 

「真田を打ち崩せないようじゃ難しいですね」

ずけずけと言うイガラシに井口と丸井が渋い顔を見せる。

 

「あ、そういや忘れてた」

倉橋が何かを思い出したように、谷口を小突いた。

 

「練習試合だからっていきなり無茶しやがって」

「あ、ああすまん。つい・・・・・・」

 

谷口の言葉に戸室が首を傾げる。

「つい?」

「いつもだろ」

横井のツッコミに谷口は恥ずかしそうに頭をかいた。

 

和気藹々と戻っていく墨谷ナインを一球は満足そうに見つめていた。

高校時代最後の勝負に勝てなかったのは残念だが、それ以上に大きな収穫のあった一戦だった。

 

「終わったなあ、一球さん。明日から俺は受験生。入試という戦が待ってる」

ボールを磨きながら文六が声を掛ける。

「そうか。文六の根性なら大丈夫さ」

「一球さんは卒業後の進路はどうするんだい? やっぱりプロへ行くのか?」

「それでもいいかと思っていたんだが」

一球は墨谷ナインの方をちらりと見ると大きく頷いた。

 

「この巨人学園の監督をやるっていうのもどうかと思ってね」

 

「え!? 本当ですか?」

側にやってきていた芦田麗子が嬉しそうに声を上げた。

 

「うん。彼らが、墨谷が今後どう成長していくのか。そしてそれに負けないような新生巨人学園を作る。退屈しそうにないじゃないか」

 

「そうかい。だとしたらもうちっとばかしきれいに拭かないとな」

横合いからひょっこりと顔を出した郷が文六の手からボールを奪った。

「そうづら。何たって後輩たちには墨谷にやり返してもらわなけりゃならんづら」

法市も後に続く。

「おいおい。法市。いつまで殿馬の真似してんだよ」

「どうにもクセになって抜けんづら」

 

次から次へと集まり、ボールやグラブを磨き始める巨人学園ナイン。

巨人学園の明日を担う者達のために。

日が沈み始めても、その手は休まることがなかった。

 

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