物語の本筋に関わる変更ですが、プレイボールファンの作者は不承不承頷いた感じです。
どうしても、ドカベンファンの作者が納得しませんでした。
「おっ。やってるやってる」
軽トラで河川敷のグラウンドにやってきた田所は、墨高ナインが練習しているのを見つけると、きょろきょろと辺りを見回し、車を停めた。
「あっ。田所さん。この間はどうも」
声を掛けてきたのは丸井。続いて、イガラシも姿を見せる。
「おう、丸井。どうもじゃねえぞ。この間のありゃ何だ。どうしてまた巨人学園と試合をする羽目になったんだ」
「ええまあ、いろいろありまして」
イガラシが事情を説明すると、田所は大きくぽかんと口を開けた。
「や、やっぱり明訓と練習試合するってのは本当なのかよ!」
「はい」
「じょ、冗談だろ。オメ、あの明訓だぞ? ドカベンの」
キャッチャー経験者の田所も当然ドカベン山田についてはよく知っている。
その打棒、キャッチングセンス。高校野球NO1キャッチャーと言っても過言はあるまい。
「オレたちで交渉に行きまして・・・・・・」
「だからって明訓とはなあ。俺っちはまた、部長が相手校を聞き間違えたのか思ったぜ」
無言で黙る二人をちらりと見ながら、そう言えばと田所は気がかりなことについて尋ねた。
「大丈夫なのか、谷口が復帰しちまって」
「どういうことです?」
「やっぱり、お前ら自分たちのことはわかっちゃいないんだな」
田所はあきれたように首を振ると、グラウンドを見ながら、その理由を説明した。
「見ろい。この墨谷に谷口を慕って入って来た連中の多いこと。その連中からすりゃ奴がいるってだけで、頼りたくもなるんじゃねえか」
2年生の丸井・加藤・島田、1年生のイガラシに久保。
決して人数は多くはないが、全国制覇した名門墨谷二中でいずれもレギュラーを張っていた逸材だ。そんな彼らが墨谷に入学した理由は一つしかない。
誰よりも努力する男谷口の存在。
相手が誰だろうと諦めず、ムキになって挑むその姿勢は多くの者を惹きつけ、魅了する。事実、夏の大会時の墨高では、田所が思わず止めるほどの猛練習が行われたにも関わらず、誰一人脱落者が出なかった。谷口のキャプテンとしてのカリスマとしか言いようがない。
そんなカリスマのある人物が戻ってきたのだ。丸井達の思いも分からなくはないが、他の部員たちが谷口を頼り、丸井達をないがしろにしはしないか。秋季大会を前に、チームとしてもめ事が起こるのはよくないし、また明訓に労力を割いて平気なのか。
田所が、丸井とイガラシに真意を正す。
「そ、そんな。谷口さんがいるからと頼ろうなんて誰も考えていやしませんよ」
丸井は開口一番田所の考えを否定した。
「丸井さんの言う通りです。それに明訓を目標に据えるのは、秋季大会に向けても効果があると思いますね」
イガラシは冷静に自分の考えを話す。
「と言うと?」
「山田のいる明訓以上のチームはないでしょう。うちのレベルアップにつながるのは確かですよ」
「そ、そりゃまあそうだが」
「むしろ願ったり、叶ったりです。キャッチャーを急いで育成しなきゃいけないときに倉橋さんが近くにいてくれるんですからね」
「あ、オメ。本音が出やがったな」
突っ込む丸井を田所はまあまあと諭す。
「お前らがいいってんなら、オレは別に構わねえんだがよ。だが、明訓とはなあ」
しきりに明訓との対戦について呟く田所。
万年一回戦負けと言われた時代を知っている彼だけに、明訓という雲の上の相手と戦うことが未だ信じられぬらしい。
「巨人学園とは引き分けに終わっただろう。あの真田から二点取ったとは言え、相手は明訓だぜ。大丈夫なんかよ」
「まあ、確かにあの試合、勝ちきれませんでしたからね。色々と課題はあると思います」
「でも任せてください。谷口さんを中心として皆で特訓メニューを考えましたから!」
力強く丸井が言い、胸を叩いた時だった。
「うえへへへへ。これで明訓を倒すねえ」
茂みの奥でのっそりと立ち上がった男がいた。
「何だ、おっさん。何がおかしいんだ!」
「よ、よしなさいよ」
つっかかろうとする丸井をイガラシが止める。
野球帽をかぶり、徳利を引っさげた男は、ふらふらとした足取りで、練習を行っている墨高ナインの方へと向かっていく。
その何とも言えない異様な迫力に、丸井とイガラシはその場に立ち竦む。
「あの顔、どこかで・・・・・・」
「ふん。いけ好かないオヤジだぜ!」
どこかで見た顔だと首を傾げるイガラシの横で、腹を立てる丸井。
「お、おい。あれは!」
そんな二人をしり目に、大きく目を見開き、田所はわなわなと指先を震わせた。
「知っているんですか、田所さん」
イガラシの問いに、田所はあり得ないと首を振る。
つい先日巨人学園のグラウンドで偶然出会ったその男。
高校野球を目指していた者ならば、その名前を一度は耳にしたことがある筈だ。
今夏の高知県代表、室戸学習塾監督。
そして、ドカベン山田擁する明訓を率いて、夏の甲子園で初優勝を果たした名伯楽。
「徳川監督・・・・・・」
田所の呟きに、丸井とイガラシはあんぐりと口を開けて、徳川を見送るしかなかった。