プレイボールVSドカベン   作:コングK

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土門は個人的には一番明訓を追い詰めたと思っています。

4/19 若干内容変更加筆。


第三十五話 「鉈とカミソリ(前)」

普段は盛んに練習の声が響く河川敷のグラウンドが、静まり返っていた。

 

「まさかな」

「ああ・・・・・・」

ぐいと汗を拭う墨谷ナインは、未だに目の前に彼らがいることが信じられない。

 

影丸隼人にジョージフォアマン。土門剛介に谷津吾朗。

全国の高校野球ファンならば知らぬ者はいない高校野球界のビッグネームだ。

 

影丸率いる千葉県代表クリーンハイスクールは創設一年目にして関東大会であの明訓を大いに苦しめ、今夏の千葉県予選でも甲子園で明訓と引き分け再試合という激闘を演じた怪童中西率いる青田相手に後一歩と迫った。

 

今や押しも押されぬ強豪となったクリーンハイスクールだが、そんな彼らが一躍有名なったのは、山田や岩鬼と中学時代から因縁が続く影丸の存在もあるが、何と言っても前明訓監督である徳川が指揮をとっていたことが大きい。社会人野球秋田製紙監督の誘いを断り、あくまでも打倒明訓を目指した徳川の姿はマスコミにとって格好のネタであり、当時は大いに紙面を騒がせた。

 

「えらく苦労させられたんでな。プロに入って打倒山田を目指す気があるんなら借りを返すつもりで来いと言ってやったのさ」

かっかっかと楽しそうに笑い声を上げる徳川に対し、影丸はやれやれと肩を竦める。

「けっ。打倒紫がならず燻っていたこっちの気持ちを見透かしやがって。相変わらず食えねえ爺さんだぜ」

「デモ、ウォーミングアップニハチョウドイイ」

「くひひひ。そう上手くいくかのう。おい、一番から準備せえ。とりあえず一回り投げてもらおうじゃねえか」

「は、はい!」

 

突然の来訪者に戸惑うも、素振りをしながら打席に入る丸井。

 

「やれやれ」

慌ててプロテクターを着けようとした倉橋を、

「あ、僕がキャッチャーをやります」

谷津がミットを掲げて制した。

「え・・・・・・」

「明訓を苦しめた影丸さんのタマを受けられるまたとないチャンスですから」

「すまないがそうさせてやってくれないか」

横合いから土門が口を挟むが、影丸の球を打ってみたい倉橋としては渡に船だ。

 

「そ、それじゃ」

「ええ」

谷津がプロテクターを受け取ったのを見ると、影丸は皮肉めいた笑みを浮かべた。

「どっちがキャッチャーでも構わんぜ。俺のタマを土門のと一緒にするな」

「それはそうですよ。土門さんの方が上ですから」

「ぬかせ。捕り損なって怪我をしても知らんぜ」

「それこそいらぬ心配だ。吾朗の身体の強さは筋金入りだ。お前程度のタマではびくともしない」

「ウフフフ。そいつは楽しみだ」

 

一番丸井。

(明訓を苦しめた影丸か。)

ぺっぺっと気合を入れる丸井に対し、影丸は冷めた目を向ける。

(甲子園にも行っていない連中が打倒明訓だと。)

 

大きく振りかぶってのストレート。

 

(速い!!)

打ちにいった丸井はぴくりバットを止める。

 

ズバン!!

「ストラーイク!」

 

「さすがに速いな」

「ああ」

 

周囲の声に気をよくした影丸の二球目。

 

「うっ!」

キィン!!

 

3塁線へのファール。

てっきり空振りかと思っていた影丸は内心舌打ちする。

(へえ。生意気にも当ててきやがった。だが、お次はどうかな。)

 

三球連続ストレート。だが、丸井にファールにされ、影丸は眉を潜める。

(おいおい。どういうこった。)

 

「ウフフフ。おい、影丸よ。チャンバラごっこなんぞにうつつを抜かしとるうちに野球が下手くそになったんじゃねえか」

「元監督だってのによく言うもんだぜ」

徳川の煽りを受けながらも、影丸は動じない。

 

ビシュッ!!

バシィ!!

渾身のストレートに丸井のバットが空を切る。

 

「ストラーイク!! バッターアウト!!」

(さすがは徳川がコーチを引き受けただけあるぜ。粘りやがる。)

 

続いて二番島田、4球目に手を出し、ピッチャーゴロ。

 

「べらんめえ! 影丸程度のストレートを打てねえで何が打倒明訓じゃ!!」

 

(言ってくれるね、全く・・・・・。)

苦笑しながらも、そのプライドからかストレート勝負を続ける影丸に対し、三番イガラシはファールで粘る。

 

(ちっ。小器用に当てて来るじゃねえか。)

 

(速い。さすがに甲子園出場は伊達じゃないな。)

ぐっとバットを構えるイガラシに対し、影丸は余裕の笑みを崩さない。

だが。

 

キィン!!

「何!?」

打ち取ると思ったストレートを上手くイガラシに合わされ、途端に影丸は顔を引き締める。

 

(こ、こいつら。俺の速球についてきているだと!?)

 

「へい、ピッチャー。変化球を使ってもいいんだぜ?」

「はい。頑張って捕りますよ」

吾朗の言葉に、笑みを浮かべた影丸は、

「ふん。それには及ばねえぜ」

じっと次打者の谷口を観察する。

 

「よし」

二度三度と素振りを繰り返すと、谷口は打席に入った。

 

一球目高めのストレート、ボール。

ぴくりともバットを動かさなかった谷口に、影丸は笑みを消す。

 

(少しはやりそうじゃねえか。)

 

二球目一塁線にファール。

 

三球目三塁線にファール。

 

四球目にはファールが真後ろに飛んだ。

 

徐々にタイミングを合わせてくる谷口にさすがに影丸の内心に苛立ちが募る。

(こつこつと当ててきやがって。気に入らねえ。)

 

一方の谷口。

(真田もそうだが、こんな連中に明訓は勝ってきたというのか。)

 

影丸の球威に驚き、彼に打ち勝ったまだ見ぬ明訓の強さに思いを馳せていた。

 

五球目、さらにもう一度真後ろへのファール。

 

(しつこい野郎だ。)

自慢のストレートに食らいついてくる谷口に影丸は低く舌打ちすると。

 

(それじゃあこいつは・・・・・・。)

ガバアアア

大きく振りかぶり、どりゃあああとまるで柔道のような掛け声をあげながら。

 

(どうだ!!)

くるりと体を回転させた。

 

ビシュッ!!!

ギュルルルル!!!

 

「う、これは!!」

「くっ!!!」

 

 

ドシィ!!

 

捕球し損ない、体に当てた谷津は驚きに言葉を詰まらせる。

 

「せ、背負い投法・・・・・・・」

土門の速球が鉈なら、影丸のそれはまるでカミソリのような切れ味だ。

 

(ふん。どうだ。)

格の違いを見せつけ笑みを浮かべる影丸は、しかしバットを持ったまま打席を離れない谷口の姿に目を見開いた。

 

「お、おい」

「お願いします」

「お願いしますって、お前。今のは」

「くひひひひ、影丸よ。今のはボールじゃ。まだ谷口は打ち取られておらん」

「確かに際どいコースでしたね」

「何だと?」

谷津の投げ返したタマを捕りながら、不服そうに顔を顰める影丸。

そんな彼をさらに不快にさせたのは、谷口が何やら呟きながら二度三度とバットを振る様子だ。

 

(あ、あいつ。俺の背負い投法にまるで物怖じしてやがらねえ。)

初見の相手はまず間違いなく己の背負い投法を見るなり度肝を抜かれる。

対山田を目指して磨き上げてきた秘投だ。当然のことだろう。

それだというのに目の前の男はどうか。

まるで打つのが楽しみとばかりにバットを振っているではないか。

 

 

(そんなに投げて欲しいならお望み通りにしてやろうじゃねえか。)

ニヤリと笑った影丸。二度目の背負い投法。

 

ガバアアア

 

ビシュッ!!!

 

ギュルルルル!!!

 

 

チッ!

 

ドシィ!!

 

「おおっ!!」

 

再び谷津のプロテクターへと突き刺さったストレート。

だが、周囲から上がった驚きの声は影丸へのものではない。

 

「俺の背負い投法を掠っただと?」

あの山田を三球三振にきってとった背負い投法。

そのストレートに谷口がついてきたという事実。

 

「す、すごい伸びだ」

感嘆の声を上げる谷口に対し、思わず苦笑する谷津。

 

「こいつはいい肩慣らしになりそうだぜ。」

パンパンとグラブを叩くと、影丸は先ほどまでとうって変わって目をぎらつかせた。

 

 

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