プレイボールVSドカベン   作:コングK

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冬コミを目指して奮闘中ですが受かるか分からずドキドキしています。
何とかこの物語は書き終えたいと思っていますが。
同人版を手に入れた方でハーメルン版をお読みの方は気づかれたかもしれませんが、同人版はハーメルン版を加除訂正しているため、細かい部分で内容が違うところもあります。もちろん、巨人学園との試合のように直した方がいいと思った所は文章丸々変えていきます。


第四十一話 「託された思い」

 河川敷の仮想明訓との勝負から二日が過ぎた。

 休みなくハードな練習を積んだことにより、さすがに疲れを見せる部員たちであったが、そんな中でもいつも通りの日常を過ごす者もいた。

 

 受験や就職が近いためかどことなく緊張感のある教室内。

谷口はいつも通りに授業を受けながらも、その手にはなぜかゴムまりが握られていた。

 

「よければ使ってくれないか」

 河川敷の練習後土門より託されたそれは、事故に遭い再起不能と言われた土門が再び剛球を投げられるようになるためにと繰り返し使用したものであると言う。

「繰り返し使えば握力がつくことだろう」

「あ、ありがとうございます」

 恐縮しながら受け取る谷口に、

「明訓との試合、ぜひ見に行かせてもらうよ」

 そう言って土門は爽やかに去って行った。

 

(どうしても、疲れが出ると握りが弱くなるな)

 人差し指と中指の間に挟み込む通常のフォークと比べて、谷口のフォークは親指と人差し指を使う。そのため通常のフォークよりも疲労による影響が激しく、事実仮想明訓との勝負では、予想以上に変化の甘くなったフォークを捉えられ痛打された。

(これを使って、少しでも鍛えないと)

 にぎにぎとゴムまりを握りながら、フォーク自体にも工夫が必要だと思いを馳せる。

(縫い目の左。挟んだ親指を意識して投げればスクリュー気味にフォークは落ちた。ならば、人差し指を意識してなげたら……)

 対明訓を相手にし、武器は多い方がいい。色々と試してみるべきだろう。あれやこれやと考え込んでいると、目の前にぬっと誰かが立った。

「おい、谷口。野球もいいが、今は勉強のことを考えんか」

「は、はい……」

 教師の言葉に顔を赤くしながら、机の中にゴムまりを隠して尚も握って放さぬ谷口に、後ろの席にいた者は呆れたと言う風に肩をすぼめてみせた。

 

 こくりこくりと舟を漕ぎ始めた井口に対し、イガラシはノートを丸めて後ろから投げるも、びくともしない。

 くるりと振り返った小室が目を細め、じっとその様子を見つめるも井口は気づかない。

(ば、馬鹿が!)

 どうしたものかと悩むイガラシをよそに、つかつかと小室は井口の前に立つ。

「おい、井口!」

 耳元で大きな声で呼びかけられ、はっと井口は目を醒ます。

 

「す、すんません。つい」

「いい加減にせんか。これで三度目じゃぞ。また眠る様なら今日の練習はなしじゃ!」

「そ、そんな横暴な」

「横暴なもんか。初めからわしゃ言っておったじゃろう。勉強もしっかりやれと」

 各校の強打者を相手にするという緊張感漂う勝負の後に休みなしに練習だ。疲労は溜まっている。だが、課題が見えてきたのも確かだ。今はとにかく練習がしたい。眠らぬように指で目を大きく見開く井口に、小室はぷっと吹き出した。

「そこまでの気合を勉強でも見せて欲しいもんじゃ」

二人の様子にほっと安堵のため息をつくイガラシは、井口の隣の者にジェスチャーで指示を出した。

(次寝ていたら叩け? おいおい。さすがに容赦ねえな)

 やれやれと肩を竦める同級生に、イガラシは頬をかく。

(そうでもしねえと部長に試合出場禁止だのなんのと言われそうだかんな)

 対明訓に向けて墨谷に欠けていた異なる強敵との戦いの経験。仮想明訓との練習はその穴を埋めて余りあるものだった。かつて明訓を苦しめたライバルたちの実力に嘘偽りはなく、彼らと勝負できたことはイガラシの野球人生においても得難い経験となった。

 

(それに、あの犬飼知三郎……)

イガラシの脳裏に一昨日のことが思い出される。

「どうじゃ。野球が恋しくなったじゃろう」

練習後、汗でドロドロになったシャツを着替えていた知三郎に徳川は言った。

「まあ、いい気分転換にはなりましたよ」

 知三郎は素っ気ない。既に室戸学習塾野球部は解散している。元々が対明訓。それもドカベン山田と闘うことを目指して作られたチームだ。甲子園での対明訓での敗戦後、今は全員が東大合格を目指して勉学に励んでいる。

「ふん。相変わらず素直じゃない奴じゃ。野球に未練がなければいかに東大見学に誘おうと無駄なことだと切って捨てているのがお前だろうに」

「言うほど二足の草鞋は簡単じゃありませんよ。この大事な時期に球遊びにかまけている連中と一緒にされてもね」

「なんだと!」

「よしなさいよ」

 ぷりぷりと怒り出す丸井を止めたのはイガラシだ。

「お前なあ。あそこまで言われて腹が立たないのかよ」

「もちろん立ちますよ」

 そう言うや、イガラシはきっと知三郎を睨んだ。

「お前が無理だと思っている勉強と野球の両立。やってやろうじゃないか」

「君が? へえ、そいつはまた」

 挑むように己に向けられる視線に、知三郎は委縮するどころか興味深げに目を光らせる。

 六打席勝負し、二安打四球一。結果からすればイガラシと知三郎の勝負は互角だったと言ってもいいだろう。

「随分と酔狂なことを考えますね。そのためにはまず地区大会を勝ち上がらないといけませんがね」

「くそっ」

丸井は悔しそうに唸った。今夏の墨谷は怪我で出場を辞退したとはいえ、準決勝に進むことなく戦いを終えた。甲子園で名を馳せた強豪、あの土佐丸を破り高知県代表となった知三郎の言葉には何とも言えぬ重みがある。

「まあ、とりあえず期待せず楽しみにしておきますよ」

 そう言って、ぷらぷらと手を振りながら飄々と犬飼知三郎は高知に帰って行った。

 

 昼休み。中庭にいる倉橋を見つけ、松川は声を掛けた。

「よお。そっちの練習はどうだ」

「まあ何とか形にはなってきました」

 痛そうに松川は肘をさすって見せる。

「にしても、この間の連中はとんでもなかったな」

「本当に……」

 審判として参加していた松川だが、土門達の好意で最後一打席勝負することができた。疲れているとはいえ、その球威は衰えを知らず、明訓はこれ以上の存在なのかと空恐ろしくなったものだ。

「それは?」

 松川が気になったのは倉橋がぺらぺらとめくっていたメモだ。

 使い古されたメモ帳にびっしりと何やら書かれている。

「ああ。この間の谷津がな。別れ際にくれたんだ」

 

「よかったら、これをどうぞ」

 そう言って谷津から渡されたメモを見て、倉橋は目を丸くした。

 そこに書かれていたのは明訓の打者の特徴や好物に個人的な好みまで細かく分類されたメモ。横浜学院を勝利に導くために明訓の強さの秘訣を解き明かそうと甲子園までつきまとい、彼らの様子を克明にまとめたそれは、谷津にとって汗と努力の結晶とも言える物だ。

「どうしてこんな大事なものを」

「なに、とんだ気紛れですよ。せっかく土門さんと一緒に特訓に協力したのに簡単に明訓に負けて欲しくはないんです」

「いや、でもよ……」

 手渡されたメモに残る染みの数々。あの半田と同じように足を棒にしながら、情報を集めたことだろう。自らの高校野球の思い出とも言える品をどうしてそう簡単に渡すことができるのか。

「単純に見てみたくなりましてね。墨谷の皆さんが明訓とどんな試合をするのかを」

「だからって、こいつは」

 尚も戸惑う倉橋に対し、

「明訓との勝負、楽しみにしています」

 そう言って微笑むと、谷津は土門の後を追って行った。

 

「そんなことが……」

「はは。以前にも似たようなことがあったっけな」

 倉橋たちの二年次のこと。優勝候補筆頭と言われたあの専修館との戦いを前にして、東実の大野から預かったメモ。結果的にそれは専修館のエース百瀬を打ち砕くきっかけとなり、大金星をあげることとなった。

「どいつもこいつもおせっかいで困る」

「ありがたいことですね」

 そう言いながら、どことなく話辛そうにする松川に、倉橋は助け船を出した。

「そんなことより、おれに用があるんじゃねえの?」

「はは。分かりましたか」

「中学時代誰がバッテリーを組んできたと思ってやがんだ」

「確かに」

「いつ来るのかと思っていたが案外早かったな。ほれ」

 そう言い、倉橋は松川にノートを渡す。

「こ、これは」

 中身を見て驚く松川。

「墨二出身の連中に目にもの見せてやろうじゃねえか」

「……」

 無言でノートを受け取り、涙ぐむ松川の肩をポンと倉橋は叩いた。

 

 部室で東実から渡された明訓のビデオを見ながら、半田の脳裏に浮かんだのは一昨日の仮想明訓との勝負だった。

(とんでもない人たちだった……)

 ビデオに映る明訓のライバルたち。その彼らと実際に接し、改めて半田は明訓の強さに思い至り身震いした。

 

土門の超剛球。

 影丸の背負い投法。

 犬飼知三郎の知恵を使ったプレイ。

 フォアマンや谷津の強打。

 それら全てを明訓は打ち破ってきたのだ。

 

(強い)

 そう言わざるを得ない。

 

 悪球打ち男岩鬼。

 秘打男殿馬。

 小さな巨人里中

 ニッコリ笑って人を斬る微笑。

 そして、ドカベン山田太郎。

 

 絶対的王者とも言われる明訓だが、決してその地位に安穏としていた訳ではない。

 彼らの前には常にその地位を脅かそうとするライバルたちが立ちはだかり、時には窮地に追い込まれた。だが、絶体絶命の場面になっても決して彼らは諦めず、勝利することには慣れているとばかりに相手を逆に圧倒する。

(強すぎる……)

 ビデオを観れば観るほどその結論に行き当たる。

(でも、諦める訳にはいかない)

 半田が思い出すのは河川敷での特訓が終了した後のこと。

 

「すいません、少しいいですか」

 明訓の各バッターの特徴を尋ねて廻った半田に、彼らは嫌な顔一つせず付き合ってくれた。

「バッターだけでいいのか?」

 そう申し出たのは影丸とフォアマンである。

「おれはともかくこのフォアマンは里中を打ち込んでいる。色々身になる話が聞けると思うぜ」

 やって来た時とはまるで雰囲気が異なり柔らかく話す影丸に半田は驚いた。

「それは助かります。でも影丸さんにも話が聞きたいのですが」

「おいおい。おれは山田に二度も負けた男だぜ」

 関係ないとばかりにノートを出す半田に、影丸は呆れたようにため息をつくと知っている限りのことを話した。

「それじゃあな。お前たちが明訓相手に一泡吹かせることを楽しみにしているぜ」

「グッドラック」

 そうして、影丸とフォアマンは徳川に一礼すると河川敷グラウンドから立ち去った。

 

(二人の思いを無駄にはできない)

 そう心に決め、半田は再び明訓のビデオと向き合った。

 

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