プレイボールVSドカベン   作:コングK

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ようやく出せた。青田の怪童。
一球さんだけでは我慢ができず出してしまう。




第四十六話 「学校組ふんばる」

「あれ、こっちは二軍か」

 そう言いながら、また記者が残念そうに出ていくのを横目で見ながら松川は苦笑した。

 明訓との引退試合が世間に認知されるや、急にやって来るようになってきたマスコミだが、特訓組は河川敷にいると伝えると皆同じような反応をするのがおかしくてならない。

 元々ぎりぎりのメンバーしかいなかった墨谷高校野球部は、各地区の金の卵たちが入部した後も一軍二軍などと区別することなく練習してきた。現在別れて練習しているのは、対明訓のための徳川の猛特訓とそれによる部員の怪我による秋季大会への影響を考えての措置に過ぎないのだが、事情を知らぬ記者達にはそれが分からぬらしい。

 

「二軍か、とはとんだ言い草だな」

 文句を言う鈴木だが、とても半月前に自分では一年生達の面倒を見切れないと言ったのと同じ人物とは思えない。松川と共に一年生を引っ張る立場となり、まがりなりにも上級生としての自覚が芽生え始めたということだろう。

「気にするな。それより打撃練習だ!」

 そうレガースを着けながら松川が声を掛けると、片瀬がマウンドに上がる。

 丸井やイガラシの不在で指示をする者がいないのではと心配されていた学校組だったが、隅田中で倉橋卒業後キャプテンを務めていた松川の指導力はさすがで、今や下級生の信頼を十分に勝ち得ていた。

「よし、まずは高橋からだ」

「はい」

 言いながら高橋はバントの構えを見せる。それを見ながら、次打者の鈴木は首を傾げる。

(打撃の練習と言いながらバントばかり。本当に大丈夫なんかね)

 河川敷組もバントや基礎的な守備練習を中心に行っていたが、学校組はそれをさらに徹底し、この一月近く行っていたのは走り込み、守備練習、バント練習に素振りと地味な練習ばかりだった。

(もっとがんがん打ち込んだ方がいいんじゃないか)

 確かに鈴木と松川以外は一年生ばかり。基礎的な練習は必要だろう。けれども、そればかりするのはどうか。高校から野球部に入った鈴木だが、これまでの墨谷の猛特訓と比べるとどことなく物足りなさを感じていた。

「なあ、松川。もっと違う練習をした方がいいんじゃないのか」

 打席に入った鈴木は松川に話しかける。

「違う練習って?」

「専修館戦の前みたいに金谷町のバッティングセンターに行くとかさ」

 

ビシュッ!

 

キン

 

「あっ……」

 ころころとボールは三塁線に切れ、ファールとなる。

「少なくとも百パーセント狙ったところにバントが転がせないうちは駄目だろ」

 松川の言葉に鈴木は頭を掻いた。

 

「それにこれは徳川さんからのアドバイスでもある」

「あのじいさんの?」

「基礎を徹底的に体に叩き込め、だってさ」

 

 徳川曰く。少しでも野球を齧った者はすぐに特別な練習をしたがる。素振りをせずマシンを使った打撃練習で満足してしまう。

「それは悪手じゃ」

 マシンを使った打撃練習の場合、速いタマに慣れることはできる。

 だが、それが良い事ばかりとは限らない。

 マシンは一定のタイミングで投げて来る。人間は知らず知らずのうちにタイミングを計り、それに合わせたバッティングを覚えてしまう。

「現実に同じタイミングで投手が投げて来ると思うか?」

 徳川の問いに、松川は否と答えた。

 いかに敵打者のタイミングを外すか、読みを外すか。極論を言えば、投手の仕事はそれに尽きる。どんなに速い剛速球を投げようと、鋭い変化の変化球を投げようと、タイミングを合わされたら打たれてしまう。

 逆に打者の側からすれば、投手心理、投手の投げるタイミングが分かればその攻略は容易となるだろう。

「だからこそのバント練習なんだってさ」

 投手がどのタイミングで投げようと、どんなタマを投げようと。

 狙って転がせる技術を身に付ければ、これに勝るものはない。

「バントもヒットも一打は一打。ようは点に繋がるかどうかじゃ」

 信濃川高校監督として甲子園に出場し、明訓相手にバントヒットを多用すると金作戦をとった徳川の言葉には重みがあった。

「なるほど……」

 納得した鈴木は再度バントの構えを見せる。

 

 コン!

 今度は見事に転がした鈴木だが、松川の送球の前になんなく一塁フォースアウトとなる。

「くそっ!」

 

(さすが松川さん)

 球をキャッチしながら、片瀬は改めて松川の凄さについて思い知らされる。

 特訓組と袂を分かった松川だが、ただ一年生のため、チームのためだけにそうした訳ではない。

 夏の地区大会予選。イガラシや井口といった一年生投手の台頭の陰で、松川は控えに回らざるを得なかった。ちょうど春先から調子を落としていたことも手伝い、ベンチを温める機会が多くなった松川が、何とかレギュラーに残るためにと考えついたのが倉橋無きあと一年生に頼らざるを得なくなる捕手へのコンバートである。

 春先から密かに練習を始め、夏の予選の間に倉橋にそれとなくアドバイスをもらい、秋季大会前にチームの皆に相談しようと思っていた矢先に降って湧いたように対明訓戦の話が舞い込んだ。徳川の特訓の厳しさは格別で、違うポジションの練習をする余地はない。

(このままだと、おれは投手と内野の練習ばかりになっちまう)

 対明訓に意識が向いている丸井やイガラシは気づいていないが、秋季大会に向けていち早く決めなければならないのはチームの要、第二の監督とも言われる捕手だ。

(一年生二人には荷が重い)

 旗野と平山はともに中学では名を馳せた捕手だが、今夏墨谷の試合のマスクは全て倉橋がかぶっており、実戦経験に乏しい。

(やるしかない)

 松川なりに覚悟を決めての学校組への参加だった。

 

「よし、それじゃあ守備練習を始めてくれ」

 松川の指示で、学校組ナインはそれぞれの守備へと散らばる。

 ノッカーとなった鈴木の傍らで、松川は片瀬を相手に自らの守備練習を行う。

「それじゃあ、ワンバウンドからいきます」

「ああ頼む」

 片瀬が投げたワンバウンドのタマを松川は胸に当てる。

「もういっちょ」

 低めにきたタマをかがみながら、松川は受ける。

「す、すげえ」

 今年始めたばかりとは思えない松川の様子に、旗野と平山も闘志を刺激される。

「おれたちだって負けていられるか!」

 バシッとミットを叩くと、ナインを鼓舞する。

「おうっ!」

 元気のいい声が墨谷高校のグラウンドに響いた。

 

 学校組が自分達なりに練習に励んでいる頃。

 徳川の酔いどれノックを受けきった特訓組は、突如現れた訪問者の前に驚きを隠せなかった。

 

「何だと?」

「ど、どうしてあいつが……」

 さしも冷静なイガラシも言葉を失う。

 仮想明訓として呼ばれた土門たちの登場も衝撃的だったが、それ以上だ。

 

「随分な態度だな。呼ばれてわざわざ来てやったんだ。礼の一つでもあるべきだろうに」

 そう不敵な態度を見せてやってきた男の名を知らぬ高校球児などいはしない。

 

 甲子園での明訓との引き分け再試合。

都合二十七回に及ぶ激闘を一人で投げぬいた剛腕。

 その座右の銘である球けがれなく道けわしとの言葉と共に、今後語り継がれていくであろう甲子園で山田相手に出した百六十三キロの豪速球。

 

 千葉が全国に誇る浦安の星。

 

 生みの親も育ての親もプロであり、その投げるタマも既にプロ顔負け。

 そんな彼を、人は同姓であるかの西鉄ライオンズの大打者と同じ異名でこう呼んだ。

 

 怪童。

 

「中西球道……」

 全身が泡立つような興奮を覚えながら、その名を谷口は口にしたのだった。

 

 

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