プレイボールVSドカベン   作:コングK

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コミケ原稿何とかなりそうです。こちらもそれに合わせて更新していきます。

前回無料だからと全部はけたので今回は調子に乗って増刷してしまいました。
こちらをお読みの方はお来しいただけると大変助かります。
もちろん、流行り病のあれこれがありますのでこちらにもアップしていきます。


第五十一話  「決着」

迷いから連打を浴び、苛立つ球道とは対照的に、静かに打席に入った谷口は、

「よし」

 そう一声呟くと、バットを構えた。その様子をじっと目を離さず見ていた球道は思わずボールを強く握り締める。

(ここでこいつか)

 打たれたらそこで挑戦は終了だ。降って湧いたようなチャンスも全て無駄となる。

(正直お前たちには申し訳ねえと思っている。だが、わざと打たれることなんざおれにはできない)

 再びストレートの握りを敢えて見せる。

(だからこそ、おれの持つ全力でお前を抑える。ぐうの音も出ねえように。お前たちに後悔が残らねえようにな)

「ま、まさか……」

 他人事のように言う谷口の顔をじっと見つめながら、えーじは座る。

 直球だけに拘る勝負など、あの山田との対戦以来ではないか。

(こいつは二打席目から合わせて来ていた。用心しないと)

 ハーフストレートのサインを出すえーじだが、球道は首を振る。

(ったく、意地っ張りめ。ここで打たれたら終わりだろうが)

 球道の態度に痺れを切らしたえーじはタイムをとり、わざとらしく肩をゆっくりと回す。

「さっきの一球が肩に当たったみたいじゃん」

「何がだよ。当たったのはマスクじゃねえか」

 見え見えのえーじの行為に球道は口をへの字に結ぶ。

「言うことをきかないとキャッチャーを降りるってか。だがな、ここは逃げちゃいけない場面だ」

 打席に立つ谷口の方に球道は顎をしゃくる。

「あの野郎を見ろ。おれのストレートを打つ気満々じゃねえか」

「だから、他のタマにしろと言っているじゃん」

「狙っていたタマを打てなかったっていうんなら諦めはつくだろうよ」

 球道の言葉に、付き合いの長いえーじはそういうことかと理解を示し、守備に戻る。

(球道らしいぜ。負けても納得できるようにということか)

  ぴたりとど真ん中に構えたえーじ。

 だが、サインを出している形跡がなく、谷口は首を捻る。

(ノーサイン?)

 イガラシに投げたハーフストレートが一瞬頭によぎるが・

(いや、中西の性格ならここはストレート一本だ)

 そう決めて挑んだ谷口に対する球道の第一球目

 

 ガバアアア!

 それに合わせて、谷口はタイミングを測る。

(二―)

 ビシュッ!

 

「何っ!」

 

 チッ!

 

「ファール!」

 わずかに掠ったボールはキャッチャー後方のネットに当たる。

(な、何だ、今のタマは……)

 ゾッと背筋に感じた寒気に谷口は身震いする。

 拭っても拭っても流れ落ちる汗が止まらず、谷口はタイムを要求して大きく深呼吸を繰り返した。

「お、おい。何なんだ、今の」

押せ押せムードとなっていた墨谷ナインもまた然り。

 投げた瞬間に分かるこれまでよりも明らかに一段階上の速球に、互いに顔を見合わせ戸惑うばかりだ。

「あんなの、打てる訳ないだろ……」

 戸室の絞り出すような声に、皆は一様に表情を固くする。

「冗談じゃねえ……」

 ぎりっと唇を噛み締め、イガラシが悔しそうに呟いた。

 これまでの百五十キロ前後の速球なら今までのタイミングの取り方で当てられるだろう。

 だが、今の球道のそれは訳が違う。

「何であんなタマ投げられるんだ……」

「スピードガンが無きゃ正確な数字は分からんが、山田相手に投げた百六十ってのがあれくらいじゃないのか」

「ひゃ、百六十!」

 未知の数字に丸井が思わず声を上げる。

「格の違いを見せつけてくれるぜ」

 いつも面の皮が厚い井口と言われている井口も、その異次元の速さに賞賛を送るしかない。

「だが、これが打てないとおれたちは……」

 イガラシの言葉に一気にお通夜ムードとなるベンチ。

 そんな対戦相手を見て、才蔵は同情する。

(意気消沈しちまって……。無理もねえ。だが、男と男の勝負だ。恨むのなら勝手な約束をした徳川のおっさんを恨むといいぜ)

 

二球目。

えーじはあえてインコースに構える。

(にい、さんでは遅かった。に、さん。これくらいのタイミングならどうだ)

 

 ビシュッ!

 

 ドシィ!

 

 インコースの高めを谷口振らず。

 (手が出なかった? それとも見たのか)

 悩むえーじは再び、インコース、今度は真ん中へとサインを出す。

 

 ビシュッ!

 

 ギィン!

 

 ガチャッ!

 

勢いよくネットに当たるファールボール。

(こいつ、怖くはないのかよ)

 球道の全力のストレートが当てられたということよりも、別なことにえーじは驚いた。

これまで対戦した多くの打者は球道のタマのあまりの速さに腰が引け、スイングは波打っていた。

(それなのにこいつは踏み込んできたじゃん)

 自分以上に球道の速球について知る者はいない。その速球は有象無象の自称速球派の紛い物とは比べ物にならぬ本格派だ。万が一でもその身に受ければ打撲だけでは済まず、下手をすれば骨折で、例えこの勝負に勝てたとしても明訓との試合には出られぬだろう。

(それを分かっているのか? 分かってやっているとしたらとんだ命知らずだぜ)

 

 三球目。再びインコースにきたストレートに対し、躊躇なく谷口は打ちにいくもファール。

 掠ったボールがプロテクター越しに腹に当たり、徳川はうげっと口元を抑える。

「と、徳川さん」

「平気か?」

 谷口とえーじの呼び掛けに、徳川はぷらぷらと手を振って応える。

「べ、べらんめえ! 酒がちょいと口から零れたただけや。後で飲み直せばいい」

「え?」

 どう反応してよいか分からず困った顔をする谷口に対し、

「さすがは常勝明訓を率いてきた監督だぜ」

 そう軽口を叩きながらも、球道は内心穏やかではない。

(まただ。またインコースを踏み込んできやがった)

 大人しそうな外見をしながらも時折顔を覗かせる気の強い一面。そして、何が何でも打とうとするその姿勢。

(まるであの山田のようじゃねえか)

 人は見かけによらないという言葉を体現するかのようなライバルの姿が、どことなく谷口と重なって見える。

(おれには分かる。お前が相当な野球狂ってことがな)

 その身にできた傷。ユニフォームの汚れ。その顔つき。何もかもが野球に全てを注ぎ込んできた者の証だ。

(だからこそ、おれは全力でお前から三振を奪う。そうしてこそ、お前たちを押し退けて明訓と戦うことができるってもんだ)

 球道の覚悟を感じ取り、えーじはミットをど真ん中にぴたりと固定した。

「ど真ん中勝負だと!」

「谷口さんを舐めているのか!」

「いや、違う」

 口々にナインが非難するのを、イガラシは否定する。

「谷口さんを認めているからこそだ。だからこそ……」

 

 ごくりと誰かが唾を呑み込む音が聞こえる。

 耳が痛くなるほどの静けさの中。

 

 ガバアアア。

 土を蹴り、大きく振りかぶり。

 

「ぬおおおおおおおお!」

 ビシュッ!

 雄叫びを上げながら、ど真ん中へのストレートを球道は投げ込んだ。

 

「ぐっ!」

 負けじと力強く振る谷口のバットが速球を捉える。

 

 キィン!

 

「なんだと!」

 まさかと球道は振り返り。

「やった!」

 墨谷ベンチからは歓声が上がる。

 

 澄んだ音と共に、打球は一塁線へ飛び。

 

 バシィ!

 

 長身の才蔵のファインプレイによって、その行く手を阻まれた

 

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