ご注意:作者はドカベン、プレイボール両方のファンでお互いになるべくおもねらないようにしていますが、中には明訓が○○はおかしいや、墨谷が○○はおかしいと感じる人もいると思います。その場合は読むのを止めることを勧めます。素人が書いているしな~ぐらいな方はどうぞ気軽にお楽しみください。
コミケに行く前に力尽きそう。
相方も具合悪いというし、二人してやばいかも。
そして、その日。
雲一つない秋晴れの中、柔らかい日の光がスタジアムを包んでいた。
東京メッツのオーナーに鉄五郎と五利は、球場前の長蛇の列を横目に見ながら、いち早く球場入りする。
「全く。鉄の口車に乗って、うちでやっていいと言ったが、ここまでとは思わんかったぞ」
渋面を作るオーナー。
「諦めなはれ、オーナー。むしろ山田人気のええ証拠やないか。これだけ人を集める男が来たらどうなるかが分かっただけでも儲けものやで」
「あのなあ鉄つぁん。当たったつもりでおるけど、ドラフトはくじやで? 外れることもあるやろうが」
「どアホが! 外すことなんざあるかい。わしの黄金の左腕で引き当てたる」
「いい気なもんじゃ。あの連中のためにいらん手間が増えたと言うのに」
忌々しそうにオーナーは扉の方を振り返る。
二日前に国分寺球場で行うとなってからの高校野球ファン・明訓ファンの動きは早く、新聞やゴザを敷いて徹夜に備える者が後を絶たず、急遽球場に隣接する公園内にまで列を誘導する羽目になった。それに伴う警備員等の手配はメッツの善意で行われたが、予想外の人出にオーナーにとっては余計な出費が嵩むこととなった。
「ええやないか。青少年の健全な育成のためや」
「こんなことならNHK以外の中継も認めるべきやったな」
身も蓋もない事を言うオーナーに、鉄五郎と五利はうんざりした顔を見せる。
「何を言うとるんや。高校生を食い物にしたとえらい叩かれまっせ」
「鉄つぁんの言う通りや。なんぼなんでもそれはあかん」
「叩かれても腹が膨れればそれでええんやが」
「全く。秀吉たちの爪の垢を煎じて飲ませたいくらいやで」
「そやそや。アナウンスのお静はんも売り子の子らも快く引き受けてくれたんに」
明訓と墨谷の練習試合が正式に決まった後、少なからず揉めたのが審判についてだった。
当初墨谷の面々は大学生となった谷口の一つ上の先輩たちに頼ろうと考えていたが、
「ば、バカ。明訓相手の審判なんか無理に決まっているだろ」
とすげなく断られ、OBにまでその範囲を広げて何とか引き受けてもらえないかと返事を待っている状態だった。
そこへ、天の助けとなったのが、鉄五郎からの電話である。国分寺球場の使用権を譲る話のついでに、鉄五郎は審判そのついても自分に任せるよう告げた。曰く。
「あの明訓の最後の試合や。どう考えても大学生やその辺の素人には荷が重いやろ。わしに任せるとええ」
とのことで、渡りに船とばかりに鉄五郎の提案に乗った墨高に、審判を引き受けてくれる人物が見つかったと連絡が入ったのは前日の夕方のことである。
「おっ。噂をすれば」
サングラスをかけ、白杖を手にやってきた男を見、鉄五郎はにやりとした。
「おい、秀。今回はわざわざすまんかったな」
「ふん、鉄。わしは借りを返しただけじゃ」
素っ気なく返す男こそ、『わしがルールブックじゃ!』の決め台詞で名審判と謳われた秀吉三郎である。鉄五郎のプロ初登板の際に初主審をした秀吉は、以来三十年以上の長きに渡り審判を務め、目の病で数年前惜しまれつつも職を辞した。
そんな秀吉に鉄五郎が連絡をとったのは、プロ野球の審判仲間の間で顔の広い彼に明訓と墨谷の練習試合を裁ける人材を探してもらうために他ならない。
「にしてもよ。昨日の今日でようも集めてくれたもんや。さすがは秀吉三郎」
通常プロの審判の場合、一試合ごとに試合出場手当が支払われる。
だが、今回彼らにはそれは支払われない。飽くまでもボランティアだ。
「明訓の引退試合ときたからな。どいつもこいつも手弁当で集まってくれたわい」
あくまでも自分の手柄ではないと主張する秀吉だが、審判生活三十年を超える彼の人望あってこそだという事は鉄五郎も五利も百も承知だ。
「とにかくや、秀吉はん。席を用意してま、そこで楽しんでくれや。目は見えんでも、山田のホームランの音は格別やさかいな」
微笑む五利を、鉄五郎は肘で突く。
秀吉と入れ違いに間が悪く入って来たのは墨谷ナイン。
「こ、この度はどうも……」
先頭を歩く谷口がぺこりと頭を下げると、部員たちもそれに続く。
「い、いや。こりゃその……」
気まずそうに口元を抑える五利を鉄五郎は後ろに隠す。
「何、青少年の健全な育成のためや。どうや、今日の首尾は」
「無論、勝ちますよ」
脇からそう宣言したイガラシに、五利は思わず心の中でツッコミを入れる。
(あの明訓に勝つやと……。青春は向こう見ずっちゅうやっちゃな)
夏の甲子園大会。あの青田の怪童中西球道との激戦を制した明訓を前にして、地区大会止まりの墨谷が何を言っているのか。
だが、墨谷ナインの様子を注意深くじっと見ていた鉄五郎は、小さく頷くと頑張れよとだけ返し、歩いて行った。慌てて五利とオーナーはその後を追う。
「ちょいと鉄つぁん。何や、もう少し声を掛けてやらんのか」
「何をよ。戦う前の連中に失礼やで。見て分からんのか」
「どういうことや」
「あやつら明訓に勝つつもりや。少なくともそれだけの特訓を積んで来とる」
「ま、まさかそんな……」
「勝負に絶対はない。明訓が油断したらどうなるか分からへんで」
鉄五郎たちと別れ、控室にやって来た墨谷ナイン。
荷物を置くや、丸井は不満を洩らす。
「けっ。何だい。山田のホームランを楽しみにだなんて」
「まあまあ。大抵の人間はそう思うのが普通だ」
「うちと明訓じゃそりゃそうだよな」
谷口と倉橋は別段気にした様子もない。
「よお、お前ら。とんでもない人出だな。ここに来るまでびっくらこいたぜ」
そう言いつつやって来たのは、田所だ。
後ろには谷口の一年先輩である中山達を引き連れている。
「すまんな、谷口。力になってやれなくて」
山口が頭を下げる。
「さすがにおれらじゃ明訓相手の審判は役不足だかんな」
とこれは太田。
最初、練習試合の審判を引き受けて欲しいとの谷口からの依頼を気軽に引き受けた中山たちだったが、相手が明訓と聞き、恐れをなしていた。甲子園にあれだけの人を集めた明訓との練習試合などどれだけの注目を浴びることになるだろう。自分たちでは荷が重すぎる。
「いえいえ。応援に来て頂いただけでもありがたいです」
「応援ならまかせとけ。ばっちり決めてやるからよ」
中山がどんと胸を叩くと、
「お前はそれしか能がないかんな」
と山本が茶化す。
「この~!」
以前と変わらぬ先輩たちのやりとりに、緊張気味だった墨谷ナインの顔が綻んだ。
(こいつらもやるじゃねえか)
先輩なりの気遣いをみせる後輩たちに、田所は満足そうに頷いた。
「で、どうなんだ、谷口」
山本が気になることをずばりと口にする。
「明訓相手にいい試合ができそうなのか?」
「ええ。負けない練習はしてきました」
谷口の返答に、中山たちは唖然とする。
「負けないって、お前。あの明訓に勝つつもりなのかよ」
全国の頂点に立つこと四度の絶対王者。
ドカベン山田を筆頭にした強力打線に、甲子園通算二十勝を誇る小さな巨人里中。
その絶対王者を前にして。
「当然ですよ」
谷口に代わって丸井が答えれば、
「試合ができたから満足なんて気は毛頭ありません」
不敵にイガラシが言ってのける。
「ほ、本気なんか……」
谷口と共に二年間を過ごし、あの専修館との激闘を闘い抜いた中山たちをして、信じられない。まさか、谷口たちが本気で明訓を倒そうとしているなど。
「それじゃあ応援よろしくお願いします」
そう言って、笑顔を見せて出ていく後輩たちの背中の何と大きくなったことか。
「あ、あいつら本気で……」
二の句が継げず、顔を見合う中山たち。
「しゃっきりしろい! 連中のあの堂々とした態度を見習えってんだ。精々明訓の大応援団に負けないようにおれたちもがんばろうぜ!」
「お、おう!」
現役時代さながらに声を張り上げ、田所たちは応援席へと向かった。