プレイボールVSドカベン   作:コングK

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コミケに発刊した後に次々見つかる誤字。前編もそうでしたが、一応資格持ちの方に安くないお金払って頼んでいるんですが、どうしたもんか。知人は金返してもらえとか言うし。作者が見直すとクセみたいなものがあって見落とすんですよねえ。紙に出しての見逃しは凹みます。まあ、締め切り日の朝まで打ってたからですね(笑)。
締め切りぎりぎりまで直していたので、直し間違いがあるという本末転倒。
刷り直そうかとも思いましたが、コミケで無料頒布などしたので当分無理だろうなあ。



第六十四話  「代わりは誰だ!?」

 三年生の引退試合の名目で行われている明訓と墨谷による非公式試合。

戦前の予想では、山田擁する明訓が圧倒的にリードするだろうという予想が大勢を占めていた。甲子園四連覇の実力もさることながら、岩鬼・殿馬といった明訓五人衆の存在。そして、何より甲子園通算二十勝を挙げている里中を墨谷が攻略するのは難しいと思われていたからである。

 ところが。

 蓋を開けてみるや、里中だけでなく先発の岩鬼からも得点。六回に墨谷が遂に追いつきさらに逆転するに及び、国分寺球場の雰囲気が明らかに変わり始めた。

 

「墨谷がまさかここまでやるとは……」

 楽勝と信じて疑わなかった明訓応援団長はそう思わず呟き、

「こら~! おんどれ、どこの応援団長じゃい!」

 傍にいた山田の妹サチ子にドヤされ、小さくなった。

「まあまあ」

 山田の祖父はとりなしながら、明訓ベンチをじっと見つめる。

(やはり思った通りじゃったな、太郎。ここまでしてくる相手。要注意じゃぞ)

 

 オーナールームからの鑑賞を断り、バックネット裏に陣取った鉄五郎と五利もまた、予想外の激戦に驚きを隠せなかった。

「明訓も足元を掬われた感じやな。墨谷がまさかここまでやるとは思わんかったやろ」

 五利の言葉に、鉄五郎は得意げに胸をそらす、

「そやさかい、わしは言うたやんけ。明訓に勝つつもりやとな」

 山田宅訪問の際に引退試合のことを知った鉄五郎は、それは記念試合などではないと断言したが、まさかここまで本気でいるとは思わなかった。

「じゃが、正直ここまでやるとはわしも予想外じゃ。秋季大会も近く、三年には進路の問題もあるというのに。一体どれだけのものを犠牲にしてきたんや」

「それができるのがあの連中の強みですね」

 鉄五郎の隣に座る球道もまたそれに頷く。

「何や、墨谷の連中を知っとるんかいな」

「あいつらのバッティングピッチャーをやらされてボロ負けしたんですよ」

「何やて!」 

愉快そうに笑う球道に対し、五利と鉄五郎は驚きを隠せない。

中西球道と言えば、ドカベン山田と並ぶ高校野球の金看板だ。まさか、その球道が墨谷に打ち込まれるとは。

「く、狂っとる。練習試合やぞ。公式の記録にも残らん試合になんでそこまで!」

 冷静にツッコむ五利の横で、鉄五郎はからからからと愉快そうに体を揺すった。

「ドアホ! 公式も非公式もあるかい。当人達がやりたいからに決まっとるじゃろう! ええやないか、墨谷。それでこそ明訓最後の相手にふさわしいで!」

 

 明訓七回の表の攻撃は二番の殿馬から。

 墨谷の投手はこの回イガラシから谷口に代わっている。

 づらづらとのんびりと歩いみてくる殿馬の姿からはリードされている焦りは微塵も見えない。

「色々と大変づらな。お互いによォ」

 殿馬は倉橋を一瞥すると、ポツリとそんな言葉を零す。

(こ、こいつ。気づいていやがるのか)

 

 青い顔をしながら落ち着くよう指示する倉橋だが、墨谷ナインからすれば気が気ではない。

 ましてや、この回は明訓のクリーンナップが相手だ。

(打たせて取る。そうすれば倉橋の右手のことは隠し通せる筈だ)

 

 谷口の思惑は曲者殿馬の前に脆くも崩れ去る。

 初球。カウントをとりにいったシュートに対し、殿馬はバットを叩きつける。

「秘打花のワルツ!」

 まるで花を描くようにぐるぐると回転するボールを倉橋、何とか捕ろうとするも。

「うっ」

 右手が痛み、ボールをに触ることができない。

 殿馬、それを確認もせず、二塁へ。ツーベースヒットとなる。

『代わって出た谷口くんの初球に出ました、殿馬くんの秘打花のワルツ! いや、それよりも先ほどのクロスプレイの影響か。倉橋くん、右手を痛めているようです。墨谷に代わりのキャッチャーはいるのでしょうか』

 タイムをとり、マウンドに集まる墨谷ナイン。

「何とか誤魔化そうと思ったが相手が悪かったな」

 相手の弱点を知るやそこを的確に攻める嫌らしさこそ曲者殿馬の真骨頂だ。この場合は素早く気づいた相手を褒めるべきだろう。

「ベンチ入りでないなら旗野と平山がいますが、この場面であいつらは荷が重すぎますよ」

 冷静なイガラシの指摘に、谷口は腕組みをする。

「このまま続けてもいいが、ただで済ませちゃくれないだろうな」

 油汗を流しながら倉橋は呟いた。ランナーに出た殿馬は足も速く走塁も上手い。今の自分では到底刺すことなどできぬだろう。

「しゃあねえか。できれば最後まで行きたかったが」

 ふうと小さくため息をつくと、倉橋は丸井を見、次いでスタンドの方を向く。

「倉橋さん……」

「丸井、頼む」

「は、はい」

 ぐっと拳を握りながら、丸井は主審に選手の交代を告げる。

 一体誰が捕手をするのか。明訓側だけではなく、何も知らされていない墨谷側応援団も固唾を呑む中、その名前が告げられる。

 

『墨谷高校、選手の交代をお知らせします。キャッチャー倉橋くんに代わりまして、松川くん。キャッチャー倉橋くんに代わりまして、松川くん。背番号十一』

 

「「えっ!?」」

 墨谷ナインだけでなく、松川自身もあっと驚く。

「な、なんでおれが」

「事前に丸井と相談しておったのよ。何かあった時用にな。きちんとメンバー表にもお前の名前は入っとる」

「で、でもこの場面で……」

「どの場面だろうと必要とされているなら後は出るだけや。四の五の言わんと、さっさとグラウンドに行かんかい!」

「は、はい!」

 徳川に一喝され、グラウンドに向かって走る松川。

 一方予想外の名前に味方である墨谷ナインも動揺が隠せない。

 

「なんで松川さんがわざわざキャッチャーに」

 イガラシの呟きに、井口がさあと応える。

「お前等にピッチャーの座を奪われてからあいつなりに考えたらしいぜ」

「それにしたって急すぎますよ。今この場で通用するとは思えない」

 辛辣なイガラシの反論に対し、倉橋はじっと彼を見つめるとニヤリと笑う。

「少なくともあいつは春先から練習を積んでいたぜ。こっそり隠れてな」

「まさか……」

「とにかく、後はあいつに任せた。おれはベンチで休ませてもらうとするぜ」

 ぷらぷらと手を振りながらマウンドを後にした倉橋は、ベンチに現れた松川を見つけると、言った。

「墨二出身の連中に見せてやるがいいさ。努力と根性がお前らの専売特許じゃないってことをな」

「はい……」

 

 隅田中学の先輩から後輩へ。

 今、キャッチャーミットが手渡された。

 

『前代未聞の交代劇です。何と墨谷高校、三年生の倉橋くんに代わり、スタンドにいた松川くんをキャッチャーに立ててきました。メンバー表によれば、投手と三塁手での登録になりますが、これはどういうことでしょう!』

 

「松川がキャッチャーなんて聞いたこともねえぞ」

 慌てる田所に、山本が突っ込む。

「まあ、田所さんのピッチャーよりはマシでしょうよ」

「あ、オメ。過ぎたことを蒸し返しやがって」

 強豪東実相手に谷口の代わりに登板した田所だが、強力打線に好き放題打たれたのは苦い思い出だ。

「あの時は負けるために敢えてしたんだがよ。この交代はどういうこった」

「そんなの勝つために決まっとろうが」

 いつの間にかやって来ていた徳川が、空いていた田所の隣にどかりと座る。

「あの松川に頼まれてな。このわしもちょいと手を貸してやったのよ」

 

 深夜工場の明かりで照らされた広場。

 徳川との一対一の特訓は密かに続けられた。

「何しろ、わしは弱い者の味方じゃからのう」

 そうほくそ笑む徳川に、田所たちは唖然とする。

 河川敷組の特訓後に、松川の特訓を手伝う? 一体どれだけの体力があると言うのか。

「松川! 特訓分くらいは活躍せえよ!」

 徳川の檄に、墨谷ナインは事情を察する。

 人知れずチームのことを考えて、松川は自ら特訓を続けていたのだ。河川敷組にも負けぬほどの。

「松川、頼んだぞ」

 ポンと肩を叩いた丸井に、松川は力強く頷いた。

 

『思わぬ交代となりました、松川くん。捕手としての能力は未知数です。どのようなリードを見せるのか!』

 

「ちらづら」

 二塁上の殿馬に対し、岩鬼から盗塁のサインが出される。

「代わったばかりで気の毒やが、勝負の世界の厳しさを知ってもらわんとな」

『谷口くん、牽制。殿馬くんの足を警戒しています。ここはどのタイミングで走って来るのか』

 

 谷口が振りかぶると同時に、動く殿馬。

『あっと、初球から行った! 投球は外へのストレート! 里中くんこれを振る!』

 バットとかぶさり、視界が遮られるが

「ここだ!」

松川の三塁への好送球に、

「づら⁉」

 殿馬は慌てて二塁へ戻る。

 

『これは驚いた! 見事な肩を見せました、松川くん。さすがは投手出身です』

(走るだろうと決めて動いて助かった。まさか本当に走って来るなんて)

 明訓のえげつなさに、松川は冷や汗を流す。

 

結局殿馬を里中がバントで送り、ワンアウト三塁。

 

 一打同点の場面で迎えるバッターは山田。

 この試合、初めて対峙する両雄。

(これがドカベン山田太郎……)

 今目の前にしたから分かる。冷静なイガラシでさえも最初から敬遠せず投げてみたくなってしまったのはなぜか。この男の持つ不思議な魅力のせいだ。その一分の隙もない佇まい。落ち着いた振る舞い。一度でも投手をしたことがある者ならば思ってしまうだろう。この男に自分のタマが通用するか試してみたい、と。

 それほど、山田との勝負には抗いがたい魅力がある。

 

(だが、ここはその場面じゃない)

 ランナーがいる時に勝負はしないというのが試合前の約束だ。

 それを三年生である自分から破ることはできない。

 

谷口、淡々と敬遠を選択。

「またかよ! 一回だけじゃねえか、まともに勝負したのは!」

「あの一年と代われ! そっちの方がよっぽど楽しいぜ!」

 好き勝手に騒ぐ外野に対しても、身じろぎもしない。

 元から格が違う相手と戦っているのだ。自分達にできることをするだけだ。

(五番の微笑は一発がある。三塁に殿馬がいるがここはスクイズの可能性は薄い)

 外野フライで一点という場面。三振をとるのが一番だが、捕手が松川であることに一抹の不安を感じる。

(ここであのフォークを出して捕れるだろうか)

 松川には何度も自分のタマを受けてもらったことはあるが、巨人学園戦で出したスクリューフォークはいまだに投げていない。ここ一番で出して、後逸でもすれば三塁ランナーの殿馬の足からして楽々セーフだろう。

(とりあえず、フォークなしで組み立てるしかないか)

 そう決めて、微笑と対峙した谷口だが、さすがに好打者の微笑を前にツーストライクを取りながらも粘られる。

(まだまだリードが甘いな。ま、試合経験が無けりゃ仕方がないか)

 敵ながら、急造捕手に選ばれた松川に同じ捕手出身の微笑は同情の視線を向ける。

 

『五番微笑くん、粘っています。谷口くん、コーナーを丁寧に突くピッチングで微笑くんを追い込んでいますが、決めきれません。フルカウント、次は何を投げるか。新生墨谷バッテリー。ここは試練です』

 

(ここはアウトコース低めへストレートでどうだ)

 谷口のサインに、松川は首を振る。微笑は長距離打者だ。低めを狙い打たれて一塁線に流されては、如何に鈍足の山田でも楽々二塁に到達するだろう。

 すっと松川が出したサインに、谷口はびっくりする。巨人学園戦で使ったスクリューフォークのサインは倉橋しか知らないはずだ。

 繰り返しサインを確認するが、松川はこくりと頷くのみだ。

(大丈夫なのか? だが、ここは松川を信頼して投げるしかない)

 

 谷口、振りかぶっての六球目。

 

 スポッ!

 

(フォーク⁉)

 この試合初めて見せた谷口のフォークに、

『決めダマはフォークか!? 微笑くん、ニッコリ笑ってこれを打つ~~!』

それでもタイミングを合わせにいく微笑。

 

 しかし。

 

「何⁉」

 グググッ!

 スクリュー気味に落ちてくるフォークにバットのミートポイントがずれる。

 

 カキィ!

『あっと、これはピッチャー前へのゴロになった。谷口くん、これを拾ってすかさず二塁へ転送。二塁から一塁へ! 微笑くん、懸命に滑り込むも一塁も間に合わない!』

「アウト~!」

「くそっ!」

 グラウンドを叩いて悔しがる微笑。

『明訓、この回ノーアウト一塁の絶好のチャンスにクリーンナップを迎えましたが、伏兵松川くんの前にダブルプレーを喫し無得点。その差一点は縮まらず!』

 

「わいとしたことがとんまややーまだに期待したのが間違いやった。やはり王者岩鬼明訓はわいが打ってこそや!」

 ベンチに戻って来た微笑の顔にぐしゃぐしゃと岩鬼のハッパが押し付けられる。

「三太郎、おんどれもじゃい。あんな絶好球を転がしおって! わいならバックスクリーンに放り込んどるで!」

「面目ない」

 申し訳なさそうにする微笑と岩鬼の間に入り、里中がとりなす。

「ただのフォークを三太郎が打ち損なうものか。あのいわき東の緒方のフォーク程とも思えないが……」

 明訓初の夏の甲子園大会決勝の相手、いわき東高校の緒方は超高校級のフォークの使い手だった。その緒方のフォークに比べれば落差はそこまでないように思える。

「特殊な変化をしたとか?」

 山田の問いに、微笑は打席での印象を語った。

 普通のフォークと異なり、揺れながら落ちてきたと。

「揺れて落ちる。まるでドリームボールじゃないか」

 東京メッツの誇る日本初の女性投手であり守護神水原勇気。

 その彼女は自らの代名詞であるドリームボールでセ・パの名立たる強打者を三振に切って取った。

「そこまでの変化ではないが。単なるフォークだと思っているとおれみたいに打ち損なうぜ」

 

(まさか……)

 微笑の言葉に山田の中に戦慄が走った。

 巨人学園の一球から手渡された映像で、今夏の墨谷の様子は把握している。

 谷口はフォークを投げていたが、微笑の言うような特別な変化は無かった。

 とすれば、夏の大会後に身につけたに違いない。

(おれ達を倒すためにどうしてそこまで……)

 公式戦なら分かる。明訓に勝てたということは記録に残る。

 だが、たかが練習試合。記憶に残っても記録には残らない。

(それなのに)

 秋季大会も、今後の進路も。全てを投げだして、ただひたすら明訓に勝つことだけを目指す執念にも似たその純粋さ。

(一体、何があの男をそうさせているんだ)

 涼しい顔でマウンドを降りる谷口を、山田は信じられぬといった表情で見送った。

 




プレイボールVS.ドカベンこぼれ話③

〇水島新司先生これはどうしました問題

球道くん→大甲子園と読むと疑問をもつのが球道のガールフレンドと目される結花の扱い。大甲子園の千葉県大会決勝で結花が目が見えなくなったというエピソードがあるのに、その後なしのつぶてで全く出てこないんですよ。あれほど結花が球道に力を与えたんだとか言っといて? 球道、お前甲子園に来とる場合じゃないだろと、本作にはそのエピソードをわざわざ入れました。後は山田ロッテ逆指名問題も後味が悪かったので、追加で入れてます。総じて球道は割をくったキャラだというのが個人的な感想。球道くんを読む限り嫌いになれないキャラなんですがね。
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