プレイボールVSドカベン   作:コングK

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このシーンを書くとなった時震えましたね。
ようやく見たかったシーンが観れた。そんな感じで。

前話に出てきたカーブフォークも大魔神佐々木さんのフォークの握りからで、スクリューフォークと共に投げられるタマです。魔球ではありません。



第六十六話  「勝負か敬遠か」

 

『九回表ツーアウト。ついにここまできました、墨谷高校。夏の東東京大会予選では甲子園常連の谷原を相手に延長戦の末激戦を制するも、怪我人続出のため敢え無く準決勝を辞退。巨人学園との勝負は夢物語と消えました。ですが、よもやその墨谷が今夏の甲子園を制覇したあの明訓をここまで追い詰めるとは一体誰が予想したことでしょう。後がありません、明訓。ですが、次の打者はこうした場面で日本一期待のもてる男です。そうです、ドカベン山田太郎です!』

 

 ドワアアアアアアアアアアアア‼

 

 国分寺の森に、つんざくような歓声がこだました。

 木々が揺れ、鳥が驚き大空へと飛び立つ。

 

『ツーアウト、二塁。逆転の舞台は整っています。ですが、一塁が空いています。この試合、三回の井口くんを除き、ランナーがいる際には徹底的に山田くんとの勝負を避けてきた墨谷投手陣です。個人的な見解を言えば、ここは勝負して欲しい! ですが、明訓相手に引き分け以上にできるチャンスの方がより魅力的であるのも理解できるところ。一体どちらを選択するのか、マウンド上谷口くん!』

「ここは勝負しかないだろ!」

「まさかの敬遠はないだろうな!」

明訓側応援団からの野次はまるで懇願に近かった。江川学院の中のようにどこまでも敬遠を貫いた者もいる。観る側からすれば勝負はして欲しいが、選ぶのはあくまでも墨谷に権利があるのだ。

 

「ツーアウトランナーありで山田やで。そら普通なら敬遠や。外野は気楽なもんやで」

 五利の意見に、鉄五郎も頷く。

「悩ましいところじゃな。勝ってなんぼのプロとは違う」

 学生野球のモットーは正々堂々。卑怯な振る舞いを嫌う。甲子園で山田を中が五打席連続敬遠した時には高校野球はこれでよいのかと非難の嵐が吹き荒れた。

「勝つために銭を使って強い奴を集めるのはOKで、頭を使って危険を避けるのはあかん。何が正々堂々や。矛盾だらけやないかい」

珍しく五利は語気を強める。監督としての苛立ちも含まれているのだろう。

「この場面、普通なら敬遠じゃ。余程の野球狂じゃない限り勝負などせんわい」

 己を見ながら笑う鉄五郎に、球道は異を唱える。

「勝負しますよ。あの谷口は」

「なんやて⁉」

「あいつは根っからの野球狂ですから」

「んな、アホな。七回は敬遠したやないかい」

 五利の指摘に球道はクスリと微笑む。

「そうでなければ、自分達の進路を天秤にかけてまで明訓に勝負を挑もうと思いますか?」

「た、確かに!」

「アホな。考えられへんわい。どう考えても、あの谷口に山田を抑えるのはムリや」

「いや、そうとは限りませんよ」

後ろからの声に振り返ってみれば、そこにいたのは真田一球。

「ぼくもまんまと抑えられましたからね」

「!」

「あの男は山田とは別な意味で大きい。勝負しますよ、必ず」

 確信を込め、一球はマウンド上の谷口を見た。

 

 過去逆転がかかる場面で山田を迎えた者達の御多分に漏れず、谷口の興奮はかつてないほどで、せわしなくロージンを握ったかと思うと、深呼吸を繰り返した。

(ここは敬遠一択だろう)

 事前の約束ではそうだ。ランナーありで山田を迎えた場合敬遠する。勝負すれば打たれるが、ソロホームランならまだ被害は最小限との考えでこの九回までやってきたのだ。点差なしの同点。ここを凌げば勝ちも見えてくる。

自分の中にある別な感情を無視し、谷口は敬遠を指示。松川に立つよう促すが、松川は首を振り立とうとしない。

(勝負はしない。いいから立つんだ)

 再度谷口が立つようにジェスチャアするも、松川は座ったままだ。

『あっと、これはどうしたことでしょうか。何かサインの食い違いか。キャプテン丸井くん、タイムをとります』

 

 マウンド上に集まった墨谷内野陣。

 開口一番、松川が口を開く。

「どうして、勝負をしないんです」

「そういう約束だったじゃないか。ランナーありの場合は山田との勝負は無しだろ」

「ここはわがままを言ってもいい場面ですよ。誰も責めやしません」

「いや、別に何か言われることを気にしている訳じゃないんだが……」

 ぽりぽりと頬をかく谷口に、丸井ははあとため息をつく。

「谷口さん、井口の野郎は結局勝負して打たれちまいましたし、イガラシは逃げたっきりなんです。このままじゃ墨谷投手陣はあの山田の野郎に負けっぱなしなんですよ」

「……」

「おれたちの仇をうっちゃもらえませんかね」

イガラシがにやりと笑いながら口添えをする。

「し、しかし!」

「後ろに飛ばせば何とかキャッチしてやらあな」

 横井がポンと谷口の肩を叩く。

「頼んます、谷口さん」

 らしくなくしおらしい顔を見せたのは井口だ。

 

 皆の言葉を黙って聞いていた谷口は、そっと目を瞑ったかと思うと。

 力強く目を見開き、言った。

「よし、やろう!」

「おうっ!」

 墨谷ナインの力強い声がグラウンドに響いた。

 

『気合と共にそれぞれの持ち場に戻ります、墨谷内野陣。ここはいくらでも時間を使いたかったことでしょう。打席に入るのは通算打率七割五分。甲子園の申し子山田太郎です。明訓敗れるも、山田は未だ敗れず。この大きな大きな壁を前に、一体どういう選択をとるのか!』

 

守備位置についた松川がそのまま座ると、わっと球場全体から歓声が上がる。

 

「んな、アホな!」

 五利の絶叫が響き渡る。

 こうなることを予期していた球道と一球は愉快そうにその様子を眺めた。

「この場面、山田を敬遠、微笑も歩かせれば、後は安牌やんけ。ただでさえ、ランナーに出た山田は並以下の選手や。わざわざ勝負する必要がどこにあるんや!」

「そりゃ男と男の勝負なんでしょうよ」

 球道の言葉に五利は大きく首を振る。

「そりゃお前らピッチャーはそうや。お山の大将おれ一人で勝負すれば負けても満足やろ。だが、わしらキャッチャーは違う。全体のことを考えんとあかんのや! あの谷口も所詮はピッチャー人やったか……」

 勝敗など二の次と己のプライドのために勝負をしたがる救いようのないピッチャー人。  山田を淡々と敬遠したその様子に密かにこれはとんだ拾い物を見つけたかと喜んでいただけに、五利の落胆は深かった。

「五利よ、そいつは違うで」

「何がや、鉄つぁん。山田相手に腕試ししたいと投げるんやろが」

「だから、それが違うと言うのよ。谷口本人は敬遠のサインを出しとった。周りが納得しなかっただけや。勝負を望んだのはナインの方よ」

「な、なんやて!」

「自分達の大将なら山田に勝てる。そう信じているからこそやで。ナインにそこまで慕われとるなぞえらい果報者やないか」

「そやかて」

 まだ納得しない五利に対し、鉄五郎はばんばんとその肩を叩く。

「じゃかぁしゃい! わいら野球狂にとっては楽しみな勝負やんけ。九回ツーアウト。一打逆転の場面であの山田と勝負するなどまともな頭ではできんわい!」

 

(まさか、この時が本当に来るとはな)

 マウンド上、谷口は山田の呼吸をじっと見つめ、己の呼吸を合わせる。

(違う、三塁で見るのと) 

 投手として相対して初めて分かる、その大きさ。岩鬼のように全身から打ちそうという気配も、殿馬のように何か仕掛けてくる雰囲気もない。あくまでも自然体。一見普通に見えながら、その構えには一分の隙も見当たらない。

(土壇場九回だというのに……)

 一打勝ち越し。プレッシャーのかかる場面だ。普通の打者なら緊張に負けまいと気合を入れたり、いたって平静を装ったりするものだ。だが、山田は違う。力みなく、立つ姿はまるでその道の達人。この程度の修羅場は日常茶飯事だと言わんばかりのその落ち着きようは同じ高校生とはとても思えない。

 

 ぎゅっと谷口はボールを固く握りしめる。

 中学時代からずっとこのボールと共に過ごしてきた。

 学校に神社、河川敷に自宅と色々なところで。

 この試合が終われば、このボールを置かねばならない。

 それが父との約束だ。

 高校野球に、これまでの野球道に悔いを残さないためにも。

(今あるおれの全てを山田にぶつける)

 球場全体が静まり返り、固唾を呑む中。

(初球はここだ)

 サイン交換を終えて松川が驚くのをよそに、呼吸を整えた谷口はかつてない強敵に己の全力を投げ込まんと大きく振りかぶった。

 

(初球は様子見でカーブ、もしくは先ほどのフォークをボールに落として印象づけるか?)

 変化球で入って来ると思っていた山田に対して谷口の第一球。

 

 シュッ!!

 ズバン!!

「ストラーイク!」

 主審のコールに球場全体にどよめきが広がる。初球、あの山田に対して谷口が投げたのは。

『何と何と。まさか、まさかです。あの高校通算七割五分を誇る山田くんを相手に、谷口くんが投げた初球は信じられません、ど真ん中のストレートです! 一打勝ち越しの場面でまさかの好球に山田くんも思わず手が出なかったか。それにしてもまさに大胆不敵。墨谷高校谷口くん、この大一番に強気で攻めていきます!』

 

「やりおる!」

 かっと目を見開き、鉄五郎は快哉を叫ぶ。

「あの山田相手に初球ストレート。それもど真ん中やと。震えてくるで!」

 これが球道や不知火なら分かる。彼らのストレートはただのストレートではない。そのタマで充分山田と勝負できる。

 だが、谷口は違う。コントロールはいいが、その球威は球道達とは比べるまでもない。

「魂のこもったタマはど真ん中ゆえに相手を威圧する……でしたね」

「その通りや、中西。そこにタマの遅い速いなど関係ないわい。こないなことが信じられるか? あの山田が威圧されよったで!」

やって来た絶好球に手が出なかったのは狙いと違っていたというだけではない。山田程の打者なら、例え変化球を待っていたとしても、ストレートを打つことはできる。それができなかったということは、想定よりもずっとタマが走っていたということだ。

(まさか、ど真ん中とは。完全に裏をかかれたな)

二度三度と素振りを繰り返し、打席に入る山田。その無敵を支えてきた剛腕に鳥肌が立つ。

 恐ろしいのではない。純粋に感動しているのだ。人とはここまで野球に対し、真摯になれるのかと。

 中学時代。小林の眼に失明寸前の怪我をさせたと自ら断った野球への道。それが岩鬼と出会い、殿馬と出会い、再びこの道を歩むことができるようになった。

 

 二球目。

(得意なコースの近くに弱点あり、だ)

 シュッ!

 クククッ!

 

 山田の得意なインコースベルト辺りから落ちるカーブフォーク。

「むっ!」

山田、選球眼良くこれを振らず。カウントはワンエンドワン。

(普通打つだろ、あそこは……)

 ぴたりとバットを止めた山田に対し、イガラシは改めて格の違いを感じさせられる。

 山田をツーストライクまで追い込むのが大変だとは徳川の弁だが、その通りだとしか思えない。

 

(フォークの落差はあのいわき東の緒方の方が上だ。だが、谷口のフォークには今のカーブ気味に落ちるのに加え、通常のもの、スクリュー気味に落ちる三つの軌道が存在する。油断はできない)

 通常のフォーク以外にスクリュー気味に落ちるものとカーブ気味に落ちるもの。落差を補うその工夫に山田は感心するしかない。どれほどの練習を積んだのだろう。明訓に来たときの丸井達の話からすれば、東東京大会に敗れてからは野球の道を離れていたという。それが、対明訓が決まり、この日のためだけに新しい変化球まで身につけた。

(おれたちに勝つことが目標なのではない。やるからには勝ちたいだけなのだ。違う! 今まで出会ってきたどんなライバルとも)

その野球に対する強烈なまでの純粋な思いに、山田は頭が下がる思いがした。

 

 




プレイボールVS.ドカベン こぼればなし⑤

〇巨人学園戦を挟んだのは

単純に一球さんが好きで、大甲子園での一球さんって割を喰ってたなあと思ったからです。一球さん本編だと大谷並みのスーパースターなのになぜか明訓戦ではあんまりという感じ。
これは完全に前の室戸学習塾の知三郎の影響だと思ってます。室戸戦がやたら熱戦なのに、巨人学園戦はあっさりしたもの。知三郎の頭脳派ピッチングなんかがやたら一球さんのしようとする野球に被っていたんじゃないかと思ってます。巨人学園戦の結果を勝利から引き分けにしたのは課題が見えないと墨谷の特訓の理由づけにならないからです。
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