ドワアアアアアアアアア!!
東京ドームの興奮は最高潮に達していた。WBC日本代表の壮行試合の最後。栗山監督が白羽の矢を立てたのはセ・パを代表する黄金世代と呼ばれる者たち。
「彼らとがっぷり四つで戦えてこそ、世界の強豪と渡り合え、世界一を目指せると思います」
その言葉に球界の垣根を越えて集まったのは黄金世代、俗にドカベン世代と呼ばれる者たちだ。
『さあ、大変なことになってきました。ここで、これまでの試合の流れを振り返りましょう。侍ジャパンの先発ダルビッシュのタマを初回に一番岩鬼がホームラン。この流れにのって一気に三得点。好調ダルビッシュを三回で引きずりおろしました、徳川ジャパン。一方的な展開になると思われましたが、五回一番ヌ―トバー、二番近藤と二連続ヒットの後に、三番大谷の一発がライトスタンド上段に突き刺さり、試合を振り出しに戻しました。令和の三冠王村上を意地で三振に打ち取るも、ここで先発の不知火は無念の交代。リリーフとして登板した里中が多彩な変化球で火のついた侍打線を抑えるも、一進一退の攻防の中、六回からはなんとあの球けがれなく道けわしの剛腕中西球道が登板。山田―中西の黄金バッテリーの誕生に東京ドームの超満員の観客が大いに沸きました。ですが、中西。九回表に三番大谷に直球勝負を挑み、ものの見事にそれをセンターに弾き返され一失点。その裏、マウンドに栗山監督は何とこの男をもってきたのです! 百マイルを打ち、百マイルを投げる男。ミスター二刀流大谷翔平! 海を渡り、世界に飛び立ったスーパーヒーロー。今日もショータイムを見せるのか!』
「何が、ショータイムや! 冗談は顔だけにせいや、ほんま」
己の悪態にも笑顔を崩さない大谷に、岩鬼は調子が狂う。
『侍ジャパン、ここが最後の試練だ! 大谷の前に立ちはだかるのは、甲子園四度制覇のあの明訓とそのライバル達です』
しかし、大谷。
一番岩鬼。
「ぬなっ!」
二番殿馬。
「づら⁉」
『ああっと、曲者殿馬、秘打白鳥の湖もリズムが合わず、三振! 大谷翔平。遂に勝利まであと一人と迫りました! ここで迎えるのは大谷と同じく二刀流プレイヤーの真田一球!』
「よろしく!」
楽しそうに打席に入って来る一球はそのままバットを長く持ってみせる。
(ここは勝負か?)
力と力の勝負の世界で生きてきた大谷はそう直感。ストレートを投げるも、するりとバットを短く持った一球はこれをバント。キャッチャー甲斐の送球も実らず、バントヒットで出塁する。
『これは大変なことになってきました、東京ドーム。世界の二刀流大谷翔平。勝利を目前に迎えるは日本球界をこれまでけん引してきたドカベン山田太郎です。数々の記録を打ち立てたこの大打者を打ち取ることができるのか! 注目の勝負です』
(この場面の山田さんは要注意だ)
甲斐からのサインに頷き、大谷、振りかぶって第一球。
外角高めのストレート。
キィン‼
百六十三キロの速球を合わせて来る山田。
(さすがに、ドカベンは伊達じゃないか)
ふうと大きく息を吐き、次は何を投げようかと思いを巡らせる。
(噂通りのタマの速さだな)
二度三度と素振りをし、山田はバットの感触を確かめる。
固唾を呑んで二人の対決に見とれる観衆。
しんと静まり返った東京ドーム。
二球目。
高めから真ん中へ鋭く曲がるスライダー。
キィン!
(なんて角度だ。さすがは大谷)
山田のバットを握る手に力が入る。
三球目。
インコース高めのストレート。
『インコース際どいところ! これを山田見逃しました』
(さすがに簡単には釣られてくれないか)
『大谷―甲斐のバッテリー、ここは何を投げて来るのか。注目の四球目!』
「山田を前にしてなんじゃ、あいつのあの楽しそうな顔は」
徳川が呆れたようにボヤく。
大谷の表情はまるで野球小僧そのものだ。
四球目、外角低めへツーシーム。
山田、これも見逃す。
『さすがの大谷もここは慎重です。そうです、高校時代より数々の記録を打ち立ててきたドカベン山田太郎。後輩達の前に大きな大きな壁として立ち塞がります』
「へっ。その壁を越えようって面じゃねえか。あいつのあの顔は」
球道の言葉に、隣に座った影丸や土門は苦笑してみせる。
カウントツーツー。
『さあ、ここは一球様子を見るか、ここで勝負か。注目の五球目』
「勝負だな」
大谷の表情から、勝負の気配を察する里中。
『大谷、振りかぶっての五球目!』
観客の耳に聞こえてきたのは、
力強く大谷が振りかぶる音。
山田がバットを振るう音。
そして……。