新庄日本ハムを応援したいと出した本です。
新庄監督就任を聞いて、おいおいトライアウトはどうしたんだと思いながらも、ああやりそうだなと納得せざるを得ませんでした。トライアウトにチャレンジする時の話や、日本ハム時代の話を聞いて、
(この人って、もの凄く野球を好きだよな)
と感じていたからです。努力を表に見せないスタイルも本当にかっこいいなと思っていました。
そんな新庄剛志を可愛がっていたのが故野村監督です。なにせ新庄に言われて、名物のミーティングの時間を短くしたくらいですから。ただの文句ならば野村監督も聞かなかったでしょう。新庄の野球に見せる姿勢と、その人柄ゆえに評価していたのではないかと思います。そして、その野村監督と懇意にし、あぶさんを預けた水島新司先生。先生が存命だったら、きっと新庄監督の誕生を手放しに喜んでいたのではないかと思います。
敵も味方もどんな野球をしてくるか分からない、わくわくする野球。昨年度の監督就任以来、日本ハムの試合を欠かさず観ている身としては、スーパースターズとファイターズの試合は是非とも見たい。ならば書いてしまおうということで、今回のコミケにおまけ本として作成することにいたしました。
勢いで書いていますので、色々とツッコミどころはあると思いますが、温かい目で読んでいただければ幸いです。
日本中を騒然とさせた元メジャーリーガー新庄剛志のトライアウトへの参加。引退し、野球から遠ざかっていた人間に何をできるのか。恩師の野村監督も呆れたその挑戦は、しかし半年後日本ハムファイターズ監督としてその才能を花開かせることとなる。
指導者経験0の新庄BIGBOSS率いる新生日本ハムファイターズはキャンプから話題を独占。ガラガラでの打順決め、車の屋根に乗っての打撃指導、様々な外部講師を招いた際にはあのオリンピックで活躍した室伏広治までいたというのだから驚きだ。
そんな新庄ハム元年は札幌ドームの最終年だったが、『優勝は目指さない』の監督の宣言通りのダントツの最下位。二年目の巻き返しが期待されていた。
一年間のトライアウトを経て成長した新庄チルドレンたち。だが、勝ちきれない試合が続く。大差負けは無くなったものの、一点差ゲームをここぞという時落とし、気づけば定位置の最下位に。エスコンフィールド元年もまたも最下位かと思われた。
ところがどっこい、もっている男新庄はやはりもっていた。
夏場になって各チームの主力に疲れが見え始めると、昨年度の一年間のトライアウトが功を奏し徐々に力をつけた若手が台頭。今や若き主砲として風格を見せ始めてきた万波を中心に順位を上げ、五位。一方の上位陣はスーパースターズが前年度パリーグ覇者のオリックス、ロッテ、ソフトバンクとの激しい首位攻防戦の最中にあり、今や二ゲーム差の間に四チームがひしめく大混戦。この熾烈な争いにさらに拍車をかけたのが、誰あろう日本ハムの躍進である。オリックス、ロッテとの二連戦を二勝一敗で勝ち越すと、その勢いのままソフトバンクに三連勝。ソフトバンクをクライマックスシリーズ争いから引きずり下ろした。
ペナントレースでの首位通過の後に日本一を目指している東京スーパースターズ率いる闘将土井垣監督はこの日本ハムの勢いを警戒。三連戦の初日は何としても落とせないとナインに檄を飛ばしていた。
「それにしても相変わらずここはすごいな。確かにメジャーの球場みたいだ」
マウンドで投球練習を終えた里中が汗を拭いながら、そう呟く。
「ここの球場はよ、人工芝の球場と違って微妙に弾むから厄介づらぜ」
「キキッ」
殿馬とサルの二遊間コンビのぼやきを、横合いから岩鬼が鼻で笑う。
「そら、とんまみたいな下手くそならどこでもトンネルするやろ。サト、今日はサードに打たせえ。不甲斐ない味方の分、わいが働いてやるわい」
バッティング練習を始めたスーパースターズ。その練習をじっと見つめる男が一人。誰あろう、日本ハムファイターズ監督、新庄剛志その人だ。
「さすがに山田君は飛ばすね~」
快音を響かせる山田の背後に立つと、嬉しそうに話し掛ける。
「なんや、新庄はん。今はうちの練習時間の筈でっせ」
「いいからいいから」
「よくあらへんがな! 何で相手チームの監督がわざわざ観に来とるんや!」
「うん、やっぱり振りが違うな。ボールの見極めもいい。なあ、山田君。そのボールの見極めの秘訣をうちの若手に教えてやってよ」
「え⁉」
驚く山田は一球見逃し、新庄の方を見るもにやにやとして微笑んでいるばかりだ。
「ドあほ! どこの世界にライバル球団の連中にアドバイスする奴がおるねん! そんなもんはハムのコーチがいるでっしゃろ! 代打の神様八木はんがコーチやんけ!」
「いいじゃないか、減るもんじゃないんだし。駄目?」
「わいの話を聞かんかい!」
「時間があれば構いませんよ」
「ホント⁉ いや、助かるわ~。今度メールするからさ。後でうちのマネージャーからアドレス伝えさせるね~」
「何や、携帯なのに携帯しとらんのかい!」
岩鬼のツッコミにも動じず、ぷらぷらと手を振る新庄。
「いや、ここグラウンドよ。持って来ちゃダメでしょ」
「正論づら」
「ぐぎぎぎぎぎ」
飄々とした表情で戻っていく新庄監督を前に、ドカベン山田は不思議と笑みが零れた。
(不思議な人だ、新庄さんは。自然と惹き込まれてしまった)
『さあ、いよいよ始まります。運命の三連戦。現在首位オリックスとは一ゲーム差東京のスーパースターズ。本日試合のないオリックスに対し、日本ハム相手に勝利して少しでも差を縮めたいところ。一方の北海道日本ハムファイターズですが、怪我人続出から長い連敗ロードを抜けて、夏場に復調。上位三チーム相手に三連勝。クライマックスシリーズを狙う各チームにとって油断のできない相手です。既にクライマックスシリーズは絶望と言えども、スーパースターズ相手にも勝ち越し、来季へと繋げることができるか。注目の一戦です』
日本ハムの先発は抜群のコントロールを誇る加藤貴之。
「北海道のわいのファンに初回からどでかい花火を見せていくでえ!」
吠える岩鬼への第一球はど真ん中へのストレート。
「何やて!」
テンポよくど真ん中に投げ込む加藤の前に、三振を喫する岩鬼。
「昨シーズン通して四球が十一。加藤のコントロールは折り紙付きだ。悪球はまず望めない」
土井垣の言葉に北が宣言する。
「それでも殿馬なら何とかしますよ」
その言葉通り。
コン。
『曲者殿馬、三塁線へ絶妙なバント! ころころと転がるボールはライン上へ!』
(切れる……)
『これを見送ったサード清宮! だが、ボールは切れない切れない! ライン上にぴたりと止まる~!』
「そ、そんなバカな!」
「秘打G線上のアリア、づら」
湧き上がるスターズファン。続いてのバッターは三番微笑三太郎。
『さあ、続きますスーパースターズ。この微笑を出すと、後に控えるは山田です。ファイターズ、ここで流れを断ち切りたいところです』
微笑への初球。
『あっと、何と強打者の微笑がバントだ! これは完全に意表を突かれたサード清宮! 間一髪一塁はアウトとしましたが、ツーアウトながらランナー二塁で山田を迎えます!』
ドワアアアアア
歓声に沸くエスコンフィールド。だが、土井垣は腕組みをし、唇を引き結ぶ。
「申告敬遠、あり得るな」
里中と加藤の投げ合いだ。一点勝負になるだろうと、微笑へバントの指示を出したが、こうした場面での申告敬遠はあり得る。
だが。
『あっと、ここは四番山田に対して申告敬遠を使いません、新庄監督。あくまでもバッテリーを信頼しているということか』
ざわめくスタンドをよそに、
「まだ一点も取られてないのに、敬遠なんかしたら面白くないでしょ」
そう笑顔でバッテリーに勝負のサインを出す新庄。
『さあ、加藤―伏見のバッテリーはこの新庄監督の期待に応えたいところ。いかにして山田を抑えるか』
初球、インコース高めのストレート。二球目、インコース真ん中へのストレートを山田はファール。
(思ったより内側に食い込んできているな)
三球目、インコース低めへと落ちるフォークボールも、山田、これを振らずカウントはツーワン。
『加藤、山田に対しての四球目、投げた!』
キーン!
『打ったーーーー。アウトコース低めのスライダーを山田、ライト方向へ思い切り引っ張った! ライト万波ダッシュ! これをキャッチして、一塁へ送球!』
「アウト!」
ドワアアア!
『これは驚きだ。ライト万波のレーザービーム! まさかの好送球に山田は間に合わず無得点です。唖然ぼう然スーパースターズ!』
「やーまだ! このドあほ! おんどれでなければ楽々セーフや! 今から球場の周りを走って来てその身体を絞らんかい!」
岩鬼の野次に苦笑する山田に、
「まさか、あれが間に合うとはな」
と里中はミットを手渡す。
「ああ。いい肩をしている」
一回の裏、日本ハムの攻撃。一番加藤豪。
(コンパクトに振りながらも、当たれば飛んでいく。要注意だ)
里中の初球、アウトコースのストレートを加藤豪、バットを振るも、三塁側スタンドに入るファール。
(やはりストレートには強いな。今日の里中のストレートも走りはいいんだが)
山田、ストレートを見せ球に変化球を駆使して、加藤豪を打ち取り、ワンアウト。続いて打席に入るのは二番、松本剛。
(昨年の首位打者が二番。普通ではあり得ない。そのあり得ない野球をやってしまうのが新庄さんの野球だ)
キィン!
『打ったーーー! 里中の初球! 松本剛どんぴしゃりでレフト前! ワンアウト一塁でクリーンナップに続きます!』
ドワアアア!
『エスコンフィールドが沸きます! 三番清宮。悩める大器が新庄監督の下で大ブレーク。キャリアハイの成績を残した昨年度に引き続き、今期は得点圏での打率は三割と好調を維持しています』
「面白いやないか。サト、ど真ん中に投げえな。コータローに花を持たせたれ!」
『あっと、清宮。にっこり笑いながら、レフトスタンドにバットを向けます。これは予告ホームランだ!』
「何やて! 青二才がふざけおって! おい、サト。調子に乗っ取るニヤケ顔に打たれようもんなら一生もんの恥やで!」
(ったく、どっちだよ)
かっかする岩鬼に里中は呆れながらも山田のサインを待つ。
(どうも臭うんだよな)
ちらりと日本ハムベンチの新庄の様子を伺う山田。
(どう考えても予告ホームランはしそうにないんだが)
ホームランと見せかけてのバントを警戒したバッテリーは際どい所を突くも、清宮は手を出さず、ツーボール。
(くさいところには手を出さないか。清宮は選球眼がいい。ここは変化球でストライクを)
里中の三球目はど真ん中からインコースへのカーブ。
「よし」
コツン。
『あっと、清宮バントだ! 松本剛はいいスタートを切っている』
岩鬼は一塁に送球。まんまと松本剛を二塁に進め、歓声の上がるファイターズベンチ。
「ナイスメジャーリーグ作戦!」
「メジャーリーグ作戦⁉」
「映画の話づらよ」
呟く殿馬にああと頷く里中。その脇で、腹を立て、ファイターズベンチを睨む岩鬼。
「せこいことをしおって! クリーンナップなら打たせんかい!」
「おあいこおあいこ」
笑みを見せる新庄監督に対し、ぐぎぎぎぎと岩鬼は歯ぎしりをする。
『してやったりの清宮幸太郎。岩鬼に向かって笑顔を見せます。それにしても、新庄監督。得点圏打率の高い清宮にまさかのバント!』
(仕掛けてくるとは思ったが、まさかツーボールからバントとは)
『そして、先ほど凄まじい肩を見せた万波が打席に入ります。ファイターズ。ここはツーアウトながら一打得点のチャンスです』
ぱっぱと何やらベンチからのサインを出す新庄に、意外な顔をしながら頷く万波。
(何のサインだ……)
(とにかく、ここは初球から全力でいくぞ)
ガバアアア!
ビシュッ‼
『里中、初球から落とした! だが万波これにタイミングを合わせている!』
カキィ‼
『打球はライトへ。ライト山岡下がる下がる、いや、入った入った!』
「何っ!」
『ファイターズ二点先制! 主砲万波に一発が出ました!』
「すげえな、まじで」
ホームインした万波がベンチに向かってそう呟くと、Ⅴサインを見せる新庄。
「ま、まさか初球シンカーを読んでいたのか?」
「という表情だよ、あの新庄さんの表情は」
「バカな、どうやって! サインを盗まれたのか」
「新庄さんに限ってはそんなことはないだろう。恐らく勘なんじゃないかな」
「勘⁉」
「なんとなく来そうとかっていうのが分かるらしい」
「おいおい」
呆れるスーパースターズバッテリー。だが、さすがに常勝明訓を支えてきた小さな巨人は強い。五番マルティネスを打ち取ると、最少失点でこの回を切り抜けた。
二回三回と両チーム無得点に終わった四回。スーパースターズがついに牙をむく。
先頭の殿馬に対し、四球を出した加藤を交代。続けてマウンドに立ったのは何と伊藤大海。
『驚きました。この試合、どうしても勝ちたいということでしょうか。第二戦先発と思われていた伊藤をここで登板させてきました、新庄監督』
伊藤、コースを巧みにつく投球で微笑を追い込むと、アウトコースにスローカーブ。これを微笑が打つも、サードゴロ。殿馬の好走塁で二塁はセーフ。ワンアウト二塁で再び山田を迎える。
『山田を迎えて、伏見、マウンドに向かいます。得点圏打率は五割を超える山田です。ここは慎重に攻めたいところ』
ベンチを見る、日本ハムバッテリー。新庄は頭を掻き、傍で建山コーチが苦笑いを浮かべる。
(くさい所をついて四球……。いや、違うな)
素振りをしながら、山田は考えをまとめる。
(建山コーチは投手出身。投手の気持ちを第一に考える。新庄さんと意見が食い違ったということだろう。だとすれば、この場面は勝負だ。そして、投げるのは……)
『伊藤振りかぶって投げた! あっと初球から山なりのスローカーブ!』
キィー―ン!
「え⁉」
『打った―――。レフトスタンドへ一直線! 山田、初球のスローカーブを読んでいた! スーパースターズ試合を振り出しに戻す山田のツーランホームラン!』
ダイヤモンドを一周する山田を驚愕の表情で見る伏見。
「初球にスローカーブ。意表を突いたと思ったのに……」
四回裏日本ハムの攻撃。この山田の一発に衝撃を受けたのか裏の攻撃はマルティネスにヒットが出る者の野村が凡退し、四人で終わる。
明けて五回。前の回の勢いをそのまま繋げていきたいスーパースターズは七番山岡が凡退するも、八番足利がバントヒットで出塁。すかさず、二盗を決める。これに対し、日本ハムバッテリーは落ち着いてバッターとの勝負に集中。九番サル、一番岩鬼を三振に打ち取り、ワンアウト二塁の危機を脱する。
その裏。七番奈良間、八番伏見と凡退した後の九番五十畑、三塁前に上手く転がすバントヒットを決め、出塁。
『さあ、スーパースターズに足利がいるのならファイターズにはこの男、五十畑がいます。中学時代、東京オリンピック陸上代表のサニブラウンに勝った男です。その俊足は折り紙付き! スーパースターズバッテリーここは十分に警戒しています』
(問題はどこで走ってくるかだ)
里中は牽制球を投げながら、横目でじっと一塁の五十畑のリードを観察する。
(リードは普通だが……)
(里中、ここはストレートで)
(えっ。いいのかよ)
バッターはストレートに滅法強い加藤豪だ。里中は変化球の方がいいのではないかと再度サインを出すが、山田は頷かない。
(それこそ思う壺だ。五十畑も加藤がストレートに強いのは分かっている)
『さあ、サインの交換は終わったか。加藤に対して、里中の第一球……。あっと、五十畑、走った走った。初球から盗塁!』
バシィ!
山田、キャッチするや否や矢のような送球をセカンドの殿馬のグラブ目掛けて投げる。
「アウト!」
『山田、五十畑の盗塁を読んでいました。セカンド殿馬のグラブへストライク送球! これではいかに俊足の五十畑でも間に合いません!』
(それにしても何て足の速さだ。変化球で入っていたら決められていたかもな)
六回、七回と両軍走者を出すものの、追加点をとることができず、回は進み終盤八回。
『微笑、マルティネスとそれぞれ単打は出るも、バックの守備に助けられ、ここまで同点。一点を争う好ゲームを展開しています、両チーム。八回の表、スーパースターズは一番の岩鬼からの好打順。しかし、ファイターズ新庄監督、ここで宮西を交代させ、今シーズンストッパーとして定着した守護神田中正義をもってきました。この采配が吉と出るか凶と出るか』
「何が、正義執行じゃい。そのにやけ面に逆にわいが一発かましてやるわい!」
カツーンカツーン。
(笑えと言われたから笑っているのに)
緊張をほぐすためにかけられた新庄監督からの言葉を忠実に守っているだけの田中正義は内心もやもやしながら初球ストレートを投げるも、タマが高めに浮き、岩鬼にとっては絶好の悪球となってしまう。
「しまった!」
気づいた時には既に遅し。
グワラゴワラガキ――――ン‼
打球は快音を響かせながらレフトスタンド上段へと突き刺さる。
『田中正義痛恨の失投! 何と岩鬼に対しての初球ストレートが浮いてしまいました。浮いたそのタマは岩鬼にとっては絶好球! 岩鬼、勝ち越しのソロホームラン!』
やんややんやと盛り上がるスーパースターズのファンに向かって、ぷらぷらと手を振る岩鬼。
「可愛いファン共や。主役が主役の力を出しただけやというのに」
岩鬼にまさかの被弾を喫した田中正義だったが、殿馬をファーストゴロ、微笑を三振に打ち取ると、四番山田を警戒し過ぎて四球で歩かせるも、続く土井垣を打ち取ってチェンジ。最少失点で何とか切り抜ける。
八回裏、ファイターズは五十畑に代わって江越が打席へ。これを見た、岩鬼は野次を飛ばす。
「江越はん、バットに当たるんでっか!」
「おい、岩鬼止めろよ」
里中に諭されても、岩鬼は悪びれもしない。
「本当のことや。ロマン砲なんて言われたかて当たらんと意味ないで」
「少なくともあいつには言われたくないんだがな……」
打席で苦笑する江越に、かちんとする岩鬼だが、二塁からため息が聞こえる。
「ストライクにまるで掠らない誰かさんよりは少なくとも当たっているづら」
「何やと! いくらバットに当たったかて、ホームランにならな、意味ないやんけ」
(やれやれ……)
二人の言い争いをよそに、平常心で投げた里中だったが。
カキ―――ン!
「ぬなっ⁉」
「!」
『高々と上がった打球はそのままスタンドへ! 出た、出ました。九番江越、左中間へのホームラン! 里中、まさかの被弾! 新庄采配ズバリ的中! 代わったばかりの江越がいきなりの同点打です! 監督自ら出迎えています!』
江越の活躍は止まらない。同点としたその次九回の表、六番星王のセンター越えの一打を何とダイビングキャッチする好守備を見せ、裏の攻撃に望みを繋ぐ。
しかし、スーパースターズ、里中が踏ん張り九回裏無失点。白熱の勝負は延長戦へと突入する。
『三対三。がっぷり四つで組み合っています、スーパースターズとファイターズ。今シーズン怪我人が続出し、優勝を目指しますとのその言葉を実現することができなかった新庄監督。ですが、その目は来季を向いています。消化試合にするつもりはありません。オリックス、ロッテ、ソフトバンクを相手に見せた粘りをスーパースターズ相手にも見せることができるか。一方のスーパースターズ。混沌とする優勝争いに向けて、ここは落としたくはないところです。ここまで里中を引っ張って来た土井垣監督、この後はどうするつもりでしょう』
「何、投げ切りたいだと?」
里中の言葉に土井垣は眉を顰める。
「はい。日本ハムとの三連戦。是が非でも負けられません」
「馬鹿野郎。高校野球気分は止めろ。後がない連中と違って俺たちはこの後のクライマックス、日本シリーズと考えにゃならん」
「そ、それは……」
「とにかく、緒方に交代だ。北、頼む」
「は、はい」
ベンチからブルペンへと北が連絡をとる横で、里中は無念の表情を浮かべる。
(新庄野球の勢いに里中の闘争心に火がついているんだ)
十回表。ファイターズの投手は田中正義から代わって玉井。その玉井、先頭打者の岩鬼を三振に打ち取ると、二番殿馬を迎え、怪訝な表情を浮かべる。
『おっと、これは何だ、二番殿馬。いきなりのバントの構えです』
(バントヒット狙いか……。確かに殿馬は足が速い)
前進守備をとろうとするサード清宮に、飯山コーチが声を掛ける。
「幸太郎!」
(あっとっと。強打も気をつけろってことか)
慌てて中間守備をとる清宮。これに対し、バントの構えをしたままの殿馬へ玉井の第一球は外角へのカットボール。これを殿馬は振らず、ボールとなり、清宮は混乱する。
(まるで振る素振りを見せない。何なんだ?)
続けて、二球目。ど真ん中へのストレート。これまた、見送った殿馬に玉井―伏見のバッテリーも頭を悩ませる。
(まるで打つ気なし。四球狙いって訳でもあるまいし)
(あるぞ、セーフティー)
(了解)
伏見のアイコンタクトに、頷きで清宮は返す。
『さあ、カウント1ボール1ストライク。ここまで全く動きを見せない殿馬ですが、何が狙いか。玉井、第三球投げた!』
途端にバントの構えを見せる殿馬に、清宮は猛ダッシュを見せるも、
「づら」
プッシュバントに切り替えた殿馬の打球はその頭上を越えていく。
「くそっ!」
清宮、慌ててボールに追いつき、一塁へ送球するもセーフ。
「秘打ソーラン節づら」
打った殿馬は飄々とするが、スーパースターズファンの歓声は収まらない。
三番微笑。セカンド後方へ抜けるかという当たりを放つも、これを加藤豪に代わって守備についた上川畑が好捕。流れがファイターズに傾いたかと思われたが。
キィー―ン‼
『打ったーーーーー。この男にはプレッシャーというものがないのか。延長十回の表、山田、勝ち越しのツーランホームラン。今日二ホーマー。それにしても頷けません。この場面での山田勝負。どうして申告敬遠をしないのか』
「監督……」
渋い顔を見せる建山コーチに、新庄は淡々とその肩を叩く。
「分かるよ、言いたいことは。そりゃ、敬遠すれば勝てる。でも成長しないでしょ。こんな美味しい場面、そうそうないやん。こういった場面で抑えられる投手がいなけりゃ、来年優勝できんでしょ」
十回裏。ファイターズは五番マルティネスが出塁すると、これを六番の野村が緒方のストレートに上手く合わせて、一点差にまで詰め寄るも。
『落としてきたーーー。伏見のバットが空を斬る。山田、ここは強気のリード。三塁ランナーいるにも関わらず、逆にフォーク攻め! 伏見、意表を突かれました。ファイターズ後一歩及ばす。五対四で試合終了!東京スーパースターズの勝利です』
「くそっ!」
悔しそうにベンチに戻る伏見。そして、それを温かく迎えるファイターズナイン。そして、敗者はさっさと引き上げるとばかりに姿を消す新庄。その選手たちの奮闘に拍手を送るファイターズファン。
(新庄さんはすごいチームを作ろうとしている。負けたというのに、暗さが全くない)
思えば、十三連敗の中でも選手たちは試合を投げず頑張っていた。昨年度一年行ってきたBIGBOSS野球の成果だろう。
(あの野村監督も新庄さんには一目置いていたと聞く。野球が大好きだったあの人が認めるくらいだ。新庄さんも何を置いても野球が好きなんだろう)
見た目の派手さや突飛な言動に惑わされがちだが、その奥底にある野球への真摯な情熱は確かだ。
(選手もそれを分かっている。素晴らしいチームを新庄さんは作り上げようとしている。来季は要注意だな)
ぐるりと、山田はエスコンフィールドを見渡し、うんうんと頷く。
(日本一の球場で日本一になる。新庄さんならあり得るかもしれない)
いや、楽しかった。楽しかったです、東京スーパースターズ対北海道日本ハムファイターズ。想像するのがまず楽しいのと、勝手に選手、監督が動くこと動くこと。これもずっとファイターズを観てきたからかもしれません。一点差で負けるのが多いとか球団ワーストに近い十三連敗とかどうでもよかったです。選手がのびのびと楽しくプレイをし、いい試合の時には本当に手に汗握る。昨年のヤクルトとの交流戦は私の中では日本シリーズかと思うくらい楽しかったです。そうした試合を作れる選手、その選手たちに溢れんばかりの愛情を注ぎ、育てようとしている新庄監督の野球愛には本当に感心するばかり。これからも応援していきます。