はじめてのさよひな   作:学学 学

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思いついてしまったのだから仕方がない


バトン

私の人生はリレーだ。

 

昨日の私からバトンを受け取り、明日の私へと託す。

 

たった1日の人生を全力で走る。

 

それが()()()の人生なんだ。

 

 

 

はじめてのさよひな

第1話 バトン

 

 

 

午前5時丁度、ベットで丸まっている少女は目を覚ました。

彼女の耳にハメられたイヤホンから、目覚まし時計代わりのアラームの音が周りの迷惑にならないように、けたたましく鳴ったのだ。

 

「……ここは?」

 

少女は眠い目を擦りなが身体を起き上がらせた。ゆっくりと眠っていた脳が回転し始め、自身の置かれている状態を把握していく。

 

「どこ?」

 

ここがどこか分からない。

薄暗い部屋を見渡しても見覚えのない場所だ。どうして自身がここにいるのか、思い出そうとしても全く心当たりがなかった。

いや、それどころか、自身に記憶、思い出というものが無かった。

 

名前も、年齢も、性別も、家族も、友人も、

 

おおよそ、自分自身に関する全てが思い出せなかったのだ。

 

しかし、生来の性格は記憶なんかに関係ないのか少女は不思議と落ち着いていた。慌てることもパニックになることも無かった。

 

(とりあけず、電気をつけよう)

 

そう思い、けたたましい音が鳴っているイヤホンを外して立ち上がり、ぐるりと部屋を見渡した。

この部屋は学生の部屋のようだった。暗くてよく見えないが様々な女の子達の写真が壁のコルクボードに貼ってあるなど青春を満喫しているようだ。また、部屋のあちこちには何やらメモみたいなものが貼ってある。

 

(スイッチて、多分、出入り口の近くだよね?)

 

照明のスイッチはだいたい出入り口の近くにあるだろうという、当てずっぽう。記憶はない無いのに、こういう感覚だけは残っていることを不思議に思いながら木製の扉の前へといどうする。しかし、ふと、扉に取り付けられているものが目に入った。

 

「え? 嘘」

 

扉には後付けだと思われる、鍵がついていたのだ。

掛け金錠と言われるもので、扉の外枠に板状の金具、扉に丸い金具が付けられ、それらを南京錠で固定している。

少女はノブを回して出ようとしてが当然だが扉は開かなかった。

 

(閉じ込められてる? 記憶喪失で、監禁って……。)

 

しかし、少女は大して動揺していない。鍵は内側からかけられているため、開けるための鍵自体は部屋の中にある筈だし、いざとなれば体当たりで壊せばどうにかなる。もしくは窓を割ればいい。

記憶喪失は今更騒いでも仕方がないことだ。

 

(まずは電気っと)

 

とりあえず明かりをつけようと扉のすぐ近くにある照明のスイッチに目をやった。ふと、その下にメモが貼られていることに気がついた。薄暗くて見づらいが、それでもこの距離ならばなんて書いてあるかは読める。

 

"記憶がなくて混乱していると思う。けど、安心して。まずは姿見を見て。  昨日のあたしより。"

 

そうこのメモには書かれていた。意図も意味も分からないが、今はメモ通りに姿見を見てみるしかない。

電気をつけ姿見の前へ移動した。姿見はどこにでもあるような簡素なものだ。そこに映ったのは十代の少女だった。贔屓目無しにアイドルとして活躍していてもおかしくないぐらい整った顔をしている。

 

(これが私なんだ……。)

 

鏡に映っているのだから、自分自身のはずなのだが少女にとっては初めて見る他人のような感覚だった。

きっと鏡に映つったのが太ったおっさんでも彼女は()()()()()だと納得しただろう。

鏡面にも2枚のメモが貼ってあり、それらを手に取った。

 

「………あなたの名前は氷川 日菜(ひかわ ひな)

 

鏡に貼られたメモを読み上げた。

氷川日菜。その名前に何も感じないが、ストンと不思議と胸に収まった。少女、もといい日菜はもう一枚のメモもにも目を向ける。

 

"勉強机のタブレットの電源をつけて"

 

その指示に従い、日菜は勉強机のに座りタブレット端末の電源を入れた。電源をつけるとホーム画面に行かずに自動で動画が流れはじめた。

映ったのは日菜だった。しかし、顔つきがやや幼くおそらく中学生くらいの年齢だ。

 

『これを見ているということ、あたしはもうこの世にはいないと思う。』

 

「え?」

 

動画の中の日菜は開口一番にそう言った。

全く意味がわからない。彼女が死んでいるということは、ここにいる自分は何者なのか? そんなことが頭を過ぎる。

 

『なんてね! 一度言って見たかったんだぁ。 それはさておき、あたしは、不特定健忘症? 平たくいえば記憶が無くなる病気みたいなんだよね。病院に行ってないけど、症状から言って間違いない。』

 

動画の中の少女は真面目な表情となった。

その雰囲気に押されて、日菜も息を飲んだ。記憶が無くなる病気、確かにそれなら、今の状況をだいたい説明できる。そう考え、日菜も動画の少女と同じ表情となった。

 

『んー、この病気のことはいい感じの資料をこの端末に保存しておいたから後で読んでね。とりあえず、あたしの記憶はもうすぐ無くなる。多分、これを見ている()()()は、おねーちゃんのことも、自分のことも忘れちゃって氷川日菜(あたし)じゃあなくなってる。

そして、最悪なことに眠るたびに全ての記憶がなくなってしまうようになっていると思う。

もうあたしは別人だよ。』

 

眠ると記憶が無くなる。

つまり、今の自分は1日しか持たないということだ。どうあがいても明日には辿り着けない。それはとても悲しい事だとすぐに思ったが、だからといって辛くは思わなかった。

今の日菜には何もない。無くしたくない思い出も、大切なモノも無い。

だから、何も思わないのだ。

そんな日菜を放って動画の日菜は泣きそうな目で話を続けた。

 

いや、話というよりも叫びに近い。

 

記憶が無くなるのが嫌だ。

大好きな姉を忘れるのが嫌だ。

大切な思い出が消えてくのが怖い。

自分が消えいくのが怖い。

その悲鳴にも似た想が、その動画には込められていた。

 

『だから、あたしはここに全てを保存した。ここに今までのあたしの、そして、これからのあたしが保存されているはずだよ。

あなたが、この1日をどうするかは分からない。でも、このあたし達を受け取って欲しい。そして、どうか続けて繋げて。これが()()()()の最後の願い。』

 

そ言うと動画が終わった。

自然と画面は切り替わり、"スワイプしてロック解除"という文字と矢印が写し出された。

しかし、日菜は動こうとしなかった。自動的に端末がスリープモードに切り替わると、そこに反射した自分の顔を見て短くため息をついた。

そして、そのまま無言でタブレットを操作し始めた。タブレットの中には『日記』、『病気について』、そして『パスパレ』、『Roselia』という4つのフォルダーが入っていた。

日菜はそれらを見ると迷わず日記を開いた。日記のフォルダーには日付毎に整理されたPDFがいくつか保存されている。内容は()()()()()()()()()と思われる本当に幼い時のものもや、詳細に記載されたその日に書かれたものまで沢山だ。また、中学1年生の8月9日から日付が連続して保存されていることから、おそらくこの日から書き始めたのだろう。

日菜はそれを無言で読み始めた。

はじめはゆっくりと読んでいたが段々と読む速度が上がり、最後には1ページを数秒もかからず読み切るようになった。俗に言う速読という技術で、彼女自身もどうして使えるのか分からないが、使えるのたらそういうものなのだと思い使っていく。

日記を読み終わると、次にパスパレとRoseliaのフォルダーを開く。中には動画ファイルが幾つか入っていた。開くと中にはどこかのスタジオで少女たちが演奏をしている映像が入っている。

それらも目を通して覚えると、日菜は立ち上がり部屋の隅に置いてあったギターケースを手に取り中から部屋の鍵を出した。

 

「……。うん、()()()()、あなたの人生は私………。あたしが受け取ったよ。」

 

そう呟いてつい今しがた耳で覚えた曲を弾き始めた。

 




記憶喪失になる病気の症状

はじめはただ、物忘れが激しくなるだけで、忘れても頑張れば思い出せる事が多い。
しかし、段々と物忘れが激しくなっていき、自分のことも友人、家族のことも忘れてしまい。2度と思い出せなくなる。
最終的に、眠ると全ての記憶を忘れてしまうようになる。
しかし、身体に染み付いた技術は忘れない。たとえば自転車には乗れるし、ギターも弾ける。また、信号とか大統領とか常識的なことも覚えている。
治療法はなく、ある日突然治ることも多い。しかし、一度忘れたことを思い出せるとは限らない。
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