はじめてのさよひな   作:学学 学

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遅くなりました。
あまりにも救いがないので、プロットを少し弄ってました。


姉妹

同じあたしは存在しない。

 

私は私であり、本当の意味での氷川日菜はもう存在しないんだ。

 

だけど、それでも私は氷川日菜だし、周りの人もそう思っている。

 

なら、それで良いじゃん。

 

 

はじめてのさよひな

第二話 姉妹

 

とある日の早朝。日菜はギターをアンプに繋ぎ弾き始めた。

彼女にとってさっき動画で聞いたばかりのスコアも見た事がない曲なのだが、一度聞けばだいたい弾けてしまった。彼女が罹患している記憶のなくなる病気は、主にエピソード記憶が無くなる病気であり、手続き記憶と呼ばれる技術面はあまり影響しないのである。

そのため、今までの彼女が積み上げてきたギターの技術は残っており、後は日菜の才能があればどうにでもなる。

 

「ーーー♪」

 

歌詞を口ずさみながら、ギターを演奏していると音楽を遮るように扉が叩かれた。

 

「日菜! 今何時だと思ってるの? 朝から弾くの辞めっていつも言ってるでしょ?! せめてアンプに繋ぐのはやめなさい!」

 

「……お、お姉ちゃん?」

 

扉の向こうにいるのが不思議と誰だか分かった。

日菜が知っていることは日記を読んだ内容のみ、記憶なんて無い。

ライブでの映像は見たが姉はギターだ。コーラスはあるが、それでも声で確信を持てるほどではない。

けれども、日菜は確信できた。

 

「…………? そうだけど、ところで今日、どこかに一緒に行こうとか言ってたけど、どうするの?」

 

紗夜の言葉に日菜は昨日の分の日記を思いだした。

昨日の日菜によると今日は紗夜とのデートとのことだ。具体的な内容は書かれていなかった。もしかしたら何も考えていなかったのかもしれない。

記憶は持ち越し出来ないのだからその辺をハッキリとその日のうちに決めておいてほしいと、内心で過去の自分に文句を言いながら会話を繋ぐ。

 

「うーん、どうしようか?」

 

「どうしようかって……。はぁ、とりあえずショッピングモールにでも行ってみる?」

 

「うん、そうだね」

 

氷川日菜という人物がどういう存在なのかが分からない。日記で"こういう行動をした"、など大まかな内容は知っているが、細かな受け答えなど分からない。

だから、紗夜に違和感を持たれないように神経を研ぎ澄ませる。扉に耳を当て彼女の細かい反応を聞き取り、()()()()らしい反応を探り当てる。

 

「……うん! るんって来たよ!じゃあ、早く準備しなきゃ!」

 

日菜のその言葉に紗夜はため息をついた後に言葉を繋いだ。

 

「まだ、6時過ぎよ。今から行ってもやってないわよ。10時ごろに行きましょう。」

 

そう言うと紗夜は自室へと戻っていた。それを音で確認すると、日菜は床にへたり込んだ。

 

(大丈夫……だったかな? ()()()を出来てたかな?)

 

そんな不安に駆られた。

紗夜に嫌われたくない。心配かけたくない。そんな思いがぐるぐると頭の中を巡る。

今日初めて出会ったと言っていい紗夜相手にここまでの感情を抱くとは日菜は自分で自分に驚いた。

 

(でも、それって私の中に氷川日菜が残ってるってことだよね)

 

そう思うと、少し気が楽になった。

この想いを、氷川日菜として最後に残ったものを大切にしたい。

きっと、今までの自分も()()だったんだと、日菜は思った。

 

一方、日菜の部屋の前から立ち去った紗夜は難しい顔をしていた。

日菜と紗夜の関係は少し前まで、冷え切っていた。

かつては仲が良く、幼い頃はいつも2人でいた。その頃から日菜は紗夜のやることをなんでも真似をしていた。しかし、天才でなんでもすぐに身につけてしまう日菜は、紗夜の後から始めても一瞬で紗夜を追い抜いていった。

そして、紗夜が辞めて別のことを始めると、真似をしていただけの日菜も辞め、また彼女の真似をする。

この繰り返しにより、紗夜は日菜の事を避けるようになった。

けれども、今では関係が修復されつつあった。もしかしたら他人から見れば完全に治ったように見える程度には、修復された。

 

(もう、あのお願いは叶った。のかしらね)

 

去年の七夕での願い。

"日菜とまっすぐ話せますように"

これは叶いつつある。今日だって、日菜とたまたま休日があったから遊びに行く約束をしたし(紗夜はギターの自主練をしたかったが駄々をこねた日菜に負けた)、会話だってスムーズで苛立つことも無くなった。

 

しかし、だからこそ気が付いてしまう。

 

日菜のどうしようもない違和感に、気が付いてしまった。

 

(いつから、日菜の部屋には鍵がついたのかしら?)

 

まずは、部屋の鍵だ。記憶を掘り返せば、中学になった頃は日菜の部屋には鍵が無かった、はずだ。しかし、今ではドアノブに鍵穴がつけられている。無論、何度か日菜が出かける時に使用しているのを見たことがある。

人の部屋に無遠慮に入る割に、ドアノブを付け替えるほど自身の部屋には欲しく無いのだろうか?

 

(何か隠しているの? それに……)

 

次に日菜の言動が時々無機物のように感じてしまうことだ。

たとえるなら、オンラインゲームのチャット機能にある定型文や、お辞儀、回転といったコミニュケーション用の動作のように、あらかじめ決められたコマンドのようなものを使われているような気分になるのだ。

 

(ただの気のせいだとは思うけど、だけど……。)

 

しかし、紗夜も日菜のことを少しでも理解しようと、歩み寄ろうとし始めが、冷え切っていた期間が長すぎた。ソレらがただの気のせいや日菜の個性なのか、それとも何か重大な、取り返しのつかないことになっているのか、紗夜には判断が出来なかった。

それに、それらを口にしてしまっては今度こそ2人の関係が修復不可能になってしまいそうで怖かった。

 

 

時刻は10時過ぎ、日菜と紗夜はショッピングモール内の映画館に来てきた。2人で特に予定もなくぶらぶらとするのも悪くはないかもと紗夜は考えていたが、今、上映している映画は機会があれば是非見てみたいものがあったからだ。

 

()()()()()()は何か見たいのあるの?」

 

「ええ、これよ。」

 

そう言って映画のチラシを1枚日菜に見せた。

アメコミを原作としたヒーロー映画だ。また、シリーズとして長く、ストーリーも繋がっているため初見の人にはとっつきにくい作品でもある。無論、紗夜はどの作品も観たことがない。

しかし、主人公の妹役を白鷺千聖が吹き替えている。彼女は日菜と同じアイドルバンドPastel✽Palettesのメンバーで、紗夜とも同じクラスである。

 

「……!」

 

しかし、日菜は少し言葉を詰まらせた。日記には姉がその手の作品に興味があるとは書かれていなかったため、どう反応をしたらいいのか分からなかったのだ。

氷川日菜は姉がヒーロー映画が好きだと知っていたのか?

それとも紗夜なりのジョークなのか? 

そんな、紗夜に対する記憶掘り下げるため、脳内で日記を必死に捲るが、()()()()()()()()()映画とパスパレが繋がる事はなかった。

どう答えれば正解なのかが分からない。しかし、時間をかけるわけにもいかない。

 

(—どうする?)

 

「えー。そんなのより、あたしは、こっちの方がいいかなー。」

 

脳死で紗夜の映画に同意しようかと悩んだが、とりあえず、適当な映画を勧めることにした。

サメが台風と共に街に飛来するというどう考えても、色んな意味でヤバい映画(しかも5作目)だ。

そんな日菜に紗夜は腕を組み結構本気の声色で紗夜は言った。

 

「……日菜、この映画には、白鷺さんが出ているのよ? バンドメンバーが出ているのに、()()()()なんて言い方はダメよ。」

 

バンドメンバーとはかけがえのない大切なものだ。それに、()()がパスパレのことを大切に思っている事を紗夜は知っていた。だからこそ、紗夜は日菜の言葉に本気で注意したのだ。

しかし、その言葉にようやく日菜は数週間前の日記の内容を思い出した。

 

(うそ、どうしよう……。)

 

パスパレのことに気がつかなかったのは痛い。

氷川日菜がパスパレのことを忘れるなんて事はありえない。どうしたら、違和感を持たれずに済むか?

全身全霊で紗夜を観察し反応を窺う。そして、日記の内容をどんどん捲る。

そして、それっぽい言い訳を見つける。

 

「……じ、実はパスパレのみんなと試写会に行ったんだよね。結構面白かったよ!最後主人公が……」

 

「日菜! 映画館でネタバレは辞めなさい!」

 

NFOでストーリーのネタバレを踏んだ時の悲しみを知る紗夜は全力で日菜の言葉を止めた。その言葉に日菜は慌てて口を閉じて見せた。

 

(な、なんとか意識を逸らせた?)

 

「ご、ごめん。それより、おねーちゃんはまだ観てないんだよね。 だったらこれにしよ。千聖ちゃんも喜ぶと思うし」

 

「本当に、あなたって子は……。」

 

笑顔を向けてそう言う日菜に紗夜はため息をついた。

 

(日菜、あなたは自由なの? それとも……)

 

紗夜は券売機へと向かう日菜の背中を見つめていた。

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