駆逐艦白露の日常   作:七対子

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時間あったので、続けて投稿します。
白露と金剛達との戦いです!


※2022年12月25日 内容を少し追加しました


8話 1対6

「はぁ、負けたね~…やっぱり強いのネ~……ていうか、艦載機に乗って上から来るのって、よく多摩が使う戦法ネ…比叡、さては教えましたネ…?」

 

「え…えぇ、それは…やっぱり勝ちたかったわけですし!」

 

「……まぁ、いいです……本当に、あなた達は強いでス!」

 

「いや、祥鳳さんのおかげだよ。祥鳳さんのサポートがなかったら最後勝てなかったかもしれない」

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「それにしても、瑞鳳さんの近接格闘すごかったっぽい。今度教えてほしいっぽい!」

 

「は、はぁ…」

 

 演習が終わり、各々が感想を言い休憩していた。しかし、しばらくしたら金剛達主力と白露との演習がある。まだ次の演習まで時間はあるが白露は準備運動を行っていた。

 

「白露姉さん、まだ演習まで時間があるわよ?」

 

「いいじゃん別に。向こうも少し疲れてるんだから、同じ条件でやるさ!」

 

 そういって、白露は走り出す。全速力で走っているのか、すぐに見失ってしまった。

 

「あ、ちょっと白露姉さん!」

 

「構いませんよ!」

 

「だけど…」

 

「あの子はそれでいいの、自由にやらせてあげましょう」

 

 止めに入ろうとした村雨を今後は引き留める。なぜか紅茶を飲んでおりかなりリラックスしているような様子だった。

 

 数十分後、演習の時間になり金剛達は沖合に待機していた。メンバーは金剛、比叡、霧島、祥鳳、球磨、多摩の六人だ。しばらくすると白露は帰ってきた。かなり動いてきたのか肩で息をしていた。

 

「さてと…やるか!」

 

 海上に出ていた金剛達は白露の気配に一瞬寒気を覚えた。それは柱島の面々も同様だった。勝負を楽しみにしていたのか白露は笑っていた。艤装を展開させ、一気に沖合へと向かっていく。その様子を見て、須藤が話し出した。

 

「さすが、S級クラス。気配が全く違う」

 

「ええ。彼女の力は計り知れません…」

 

(なんでうちに来なかったんだ…白露)

 

 実をいうと、須藤は白露に呉鎮守府に来ないかと声をかけていたことがある。しかし、面倒くさいという理由で来なかったのだ。S級ほどになると、喉から手が出るほど欲しい逸材だ。さらに雷にも声をかけるが、舞鶴鎮守府へ行くことを決めていたため雷もスカウトできず今に至る。現在確認されているS級は白露達を含めて十二人。うち四人は鎮守府に所属しておらずフリーエージェントだそうだ。さらに言えば、それぞれ異名を持っているらしい。

 

(白露はS級十二位。異名は剛拳だったな。そんで、舞鶴へ行った雷が十一位。異名は雷神。S級で最下位とは言っても、一戸艦隊を相手にできるほどの奴だ。けど、金剛達の連携は大本営を除いて、他の鎮守府と比べてもトップクラス。伊達に地獄を見ちゃいないんだ。そう、俺達は…)

 

 無意識に力が入ったのか拳を握りしめる須藤。須藤の様子が気になり、京は須藤に話しかける。

 

「須藤提督。どうかしましたか?」

 

「っ!?何でもない。大丈夫だ」

 

「いよいよはじまるな。一体どっちが勝つか?」

 

「金剛達には悪いが…おそらく白露が勝つだろうよ…」

 

「なぜそう言い切れるんです。金剛さん達の強さはかなりのものだ。戦闘ではほとんど傷を負わないで勝利するほどだと聞いておりますが」

 

「金剛もおそらく気づいているよ。白露には勝てない。なんでもタ級を一撃で倒したんだとか。そう金剛に聞いてる」

 

「まじかよ!?あのタ級をか!そんなすげえ奴が、どうしてうちに来たんだよ…」

 

(多分、私のことが気になってついてきたって口が裂けても言えない…(;・∀・))

 

 須藤達の話していることに対して、村雨は心の中でつぶやく。白露は正直どこの鎮守府でもよかったらしいが、村雨が気がかりでついてきたのではないかと思っている。そんなことを言ってしまえば、おそらく白露から鉄槌をされそうなので村雨は黙っていることにした…。

 

「さてと、皆さん。作戦は先ほど話した通り。おそらく、この戦い10回やって10回負けてしまうでしょう。でも気楽にいつも通りいくヨ!」

 

「で…ですね金剛お姉さま…ひえ~…何分持ちこたえられるかな~…」

 

「わ……私の計算では…10分持ちこたえられるか持ちこたえられないかですね…」

 

 相手はまだ、着任してから間もないとは言え、S級の一人だ。正直、何分持ちこたえられるかしか考えれなかった。金剛も負けることはわかっている。それでも、演習を頼んだのは白露の実力を知りたかったからだろう。そして、白露の準備が終わり、演習の合図が響き渡った。それと同時に、お互いが動き出す。まず動き出したのは祥鳳で、艦載機を放ち雷撃・機銃で応戦する。白露は、それを難なく砲撃・機銃で撃ち落としていった。それをみて、金剛はすぐに指示を出した。

 

「球磨、多摩!白露が近づいてきたら魚雷。そして、突撃お願いしま~す!」

 

 金剛の指示で、白露が近づいてきたと同時に、魚雷を放ち突撃をする二人。その様子に白露は呆れた様子だ。

 

(あの二人が突撃?何考えてんだか…)

 

 さほど気にしていないのか金剛達を牽制する白露。先ほど放たれた魚雷が白露の目の前まで迫っているのを確認しそれを封殺する。直後、白露に接近していた多摩が白露に殴りかかった。

 

「食らえ虎拳!」

 

「!?」

 

 白露に殴りかかる多摩。さらに主砲を構え白露に砲弾を繰り出す。白露はそれを危なげなく避けた。

 

「ちょっとこれは予想外だったかな!さっきの演習では見せてなかったな!」

 

「奥の手は最後まで取っておけって言われなかったかにゃ!」

 

 ゼロ距離で殴り合う二人。さらに球磨が加勢に入る。球磨の拳が白露の頬をかすめる。よほどの重みがあるのか球磨の拳は轟音を出していた。

 

「熊拳!」

 

「うお!?あぶね!二人がかりだとさすがに厄介だな!」

 

「今です!ファイヤァァァァァ!!!」

 

 予想以上に戸惑う白露。さらに、白露が攻めあぐねている間に主砲を放つ金剛達。主砲が放たれた後、球磨と多摩はすかさず白露から距離をとる。結果、白露に砲撃の雨が降り注ぎ、さらに祥鳳が放った艦攻が容赦なく白露を襲った。

 

「すごい!金剛さん達が白露姉さんを圧倒してる!」

 

「見事な連携!軽巡の二人の機動力を活かすとは」

 

「さすがに今回は金剛達に分があるか?」

 

「いや…白露はまだ負けていないよ。今は我慢しているだけ。すぐにわかるよ」

 

 時雨の予想は的中していた。直後轟音が鳴り響き多摩が埠頭まで吹き飛ばされていた。かなりの衝撃のようで弾は腹を押さえうずくまっている。

 

「さ…さすがにこれはきついにゃ…」

 

 そうつぶやく多摩。一同は、多摩から沖合に目を移すと、白露が尋常じゃない速さで砲撃を躱していた。さらに、砲撃の目をかいくぐりながら球磨に向けて主砲を放ち大破に追い込んだのだ。砲撃の雨を躱しながら金剛達に迫る白露。距離は数百メートルまで迫っていた。

 

「比叡姉さま!弾幕を!!」

 

「駄目、目で追えない…」

 

 直後祥鳳が宙に舞い上がる。さらに、主砲と魚雷を叩きこまれ大破判定を受ける。そして、霧島・比叡の順に拳を叩きこみ砲撃と雷撃を食らわした。残るは金剛ただ一人。

 

「やっぱりこうなりましたか…あなた強いね~。でも、予想より持ったほうかな…」

 

「最後に聞かせてほしいんだけど…なんで6・1で戦おうと思ったんだよ…」

 

「あぁ、そんなの単純です!ほかの方と混じってやったらあなたは気を使ってしまうからね~。あなた一人のほうがあの子達を気にせず思う存分戦えるでしょ~!!」

 

「…他にも理由があるんじゃねえの?」

 

「…う~ん……あなたの実力が知りたかった…ってところかな!まぁ、戦ってみて安心しましたヨ!」

 

「……あっそ」

 

 そして、白露が放った攻撃により勝敗が喫した。その後、全員が埠頭に戻るが、金剛は負けた悔しさからなのかしばらく叫んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ~~、惨敗したネ~~(´;ω;`)あなたたち強いのネ~~」

 

「とはいっても最初のほう空母のお二方が助っ人してくれたから、そこはカウントなしってことでいいんじゃないか?」

 

「白露さん。勝負ですから負けは負けです。こう見えてお姉さま負けず嫌いで…」

 

「演習で負けようものならしばらくこんな感じです…」

 

「うっわ、めんどくさ…」

 

「ま、まぁ許してあげてください(^-^;こういう人なんです(;^ω^))」

 

 演習が終わり食堂で休憩している一同。金剛は机に突っ伏して泣きわめき、それを比叡達が慰めていた。京と仁、そして須藤は少し離れた席からその光景を見ていた。

 

「やれやれ、金剛は負けたらすぐこれだ…」

 

「ふふふ、いいじゃないですか。見てて飽きない」

 

「本当、場の空気が和む。ああいうやつがいるだけで辛いこととか吹っ飛んでしまいそうだ」

 

「確かに彼女のおかげで救われたこともある。彼女はうちにとって太陽のような存在だよ…」

 

 そう言って、少し悲しげな顔をする須藤。気になったのか京はこんな質問をした。

 

「あの、申し上げにくいことなのですが。昔何かあったのですか?」

 

「…悪いが、そのことは答えれない。なるべく思い出したくないからな」

 

「…失礼しました」

 

「…そうだ、実は人を探しているんだ。三つ編みで黒髪の、前髪がぱっつんの艦娘を見かけたことはないか?北上っていう名前だ。ほんの些細なことでもいい」

 

 そう言って、須藤は京達に質問した。京と仁は顔を見合わせ少し考えた後こう切り出した。

 

「噂程度ですが、三つ編みでおさげの髪をした女性が暴力団をつぶして回っているという話を士官学校時代に聞いたことがあります」

 

「そいつはめっぽう強いって噂だ。たった一人で何百っていう数を相手にしたっつう話があったくらい…それから、なぜかいつもこんなことを言われているって。薄田ってやつはどこだってな…」

 

「ただ、場所についてはよくわからないのです」

 

「いや、それを聞けただけで充分だ…」

 

 そう言って須藤はお茶を一口飲みその後席を立ち一服してくるといい外に出た。そして、壁に背中を預け、たばこを吸いながら空を見上げる。結局北上の行方は分からないまま。あの出来事があってもう3年が立とうとしている。一体どこにいるのだろうか。そういう人物がいたという情報はある。しかし、その街に行っても結局会えずじまいだ。いつになったら戻ってきてくれるのだろう。もう二度と会えないのだろうか?と須藤は思った。

 

「…提督?」

 

「如月…」

 

 様子を見に来たのだろうか、少し不安そうな顔をしている。如月の心情を察したのか須藤は話し始めた。

 

「今回も北上がどこいるのかわからずじまいだ…一体あいつはどこほっつき歩いてるんだろうな…」

 

 タバコの火を消し携帯灰皿に入れながら須藤は悲しげな顔をした。如月は須藤の横に来ると壁にもたれかかる。

 

「北上さん、戻ってくるでしょうか…また一緒になれるでしょうか?」

 

「必ず見つけて昔みたいにバカ騒ぎしようぜ…」

 

 しばらく沈黙が続く。その後勢いよくドアが開け放たれ睦月が顔を出した。

 

「もう、二人とも何してるの!これから親睦を深めるための食事会だよ!!早く来てよ~!!」

 

 睦月だけじゃなく金剛や球磨、祥鳳が顔をのぞかせている。それを見た須藤は笑顔で言った。

 

「わかった。今行く」

 

 そう言って、如月とともに食堂へと戻った。その後、金剛が須藤に猛アタックしたり球磨と多摩に近接戦闘を教えてほしいと夕立が詰め寄ったり、金剛達が白露に質問攻めと騒がしい食事会になったそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「は~終わった終わった。食事ありがとうな。また、演習を頼むかもしれないからよろしく。それから、近々提督会議があるかもしれない。封筒が届くはずだから、その時に確認してくれ」

 

「はい。本日はありがとうございました!お気をつけて」

 

 食事会を終え、須藤達は呉に帰るため船に乗る。それを見送るため、京達は埠頭に並んでいる。白露もそれを見送ると、早々にその場を立ち去り寮のほうへと戻る。そして、なぜ金剛が自分と6対1で戦ったのかを考えた。さっき言っていたことが、どうも腑に落ちなかったからだ。

 

(一体何がしたかったんだ…?何の目的で私とやったんだよ…)

 

 考えてもさっぱりわからなかったため、変に考えずに早々に部屋に戻って休むことにした。今日はもう演習を終えたら暇ができるからだ。

 

「白露お姉ちゃ~ん!」

 

「…あん?」

 

「組手しよ!」

 

「……私は部屋に戻って休もうと思ってんだよ…」

 

「演習だけだと物足りなかったっぽい!だから組手しよ!白露お姉ちゃんも物足りなかったでしょ?」

 

 夕立の言ったことに、少し考える白露。確かに物足りなさはあった。部屋に戻っても暇だし、夕立と組手をして時間をつぶすのもありかと思った。

 

「…わかったよ…」

 

「やった!やっぱり白露お姉ちゃんは優しいっぽい!」

 

「……いいからさっさとやるぞ…」

 

「ぽい!」

 

 そこから夕飯の時間になるまで、白露と夕立はずっと組手をしていたらしい。夕飯時には、夕立がとてもキラキラしている状態だったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぅ、満足したか、金剛?」

 

「YES!とっても満足したね!」

 

 演習後、船の中で金剛と須藤が話していた。この演習を提案したのは実は金剛だ。以前、白露と会ったときに、どうしても気になったらしい。だから、負けてもいいから戦ってみたかったのだ。どうやら、他の目的もあったらしいが。

 

「……それで、どうだったよ?白露と戦ってみて」

 

 須藤の言葉に、金剛は先ほどまでと打って変わって真剣な表情になる。そして、一度深呼吸をした後に、ゆっくりと話し出した。

 

「強いのは間違いない…S級というのも頷ける…。でも、今のままではこの先、きっと大きな壁に立ちはだかるでしょう…資料も読みましたけど、過去の出来事があの子の本当の強みを潰している。あとは、そうですね~…あの子自身も、きっと気づいていないと思います」

 

「…そうか。金剛が言うなら間違いないな。でも、それさえ無ければ、もっと強くなるんだな」

 

「もちろん!それを克服すれば、きっと強く…………すみません……ちょっと外に出ます…」

 

「お……おう…」

 

 金剛が外に出る理由は、大体予想がついているためあまり気にしないようにした。須藤は、手に持った資料を読みながら、椅子にもたれかかる。その資料は、白露のことについてだった。

 

(駆逐艦白露…双子の妹でもある駆逐艦時雨とともに、3年前に保護される……ね。おまけに、保護される前は7年間も路上暮らし…生きるために盗みも働いていた…と。多分、金剛が懸念していた過去の出来事っていうのは、このことなんだろうな…)

 

 須藤は、資料を机に置き、立ち上がった後に背伸びをする。一服をするために、須藤も外に出ることにした。そして、静かにつぶやいた。

 

「次会う時には、もっと強くなってるといいな。白露よ…」

 

 




はい、ということで呉との演習は終わりです。
話しにも出てきましたが、S級は十二人。白露は、その最下位です。強いけど…。
それと、北上の名前も出てきました。呉鎮守府のみんなが過去に何があったのかは、先の話で出てきます。
では、これにて。

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