この素晴らしい世界に祝福を! このぼっち娘と冒険を!   作:暇人の鑑

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第10話です。
今回で第4巻の時間軸にあたるストーリーは終わりとなります。


第10話 このドルオタと真剣殺陣を!

お、お前………本当にいいのか?」

「男に二言はありませんよ」

 

 呼吸を止めて1秒、真剣な目をしていたので真剣な目で答える。

 

 

「やっぱやめたとかなしだぞ⁉︎もう返さないぞ⁉︎」

「いいですって。俺もそれ人からもらったやつですし」

 

 一枚の紙切れを大事そうに両手で包むライトさんに、俺は少し引きながらも宣言した。

 

 

 

…………いや、このやり取りにこんな緊張感はないな。

「アクセルハーツの公演チケットをくれるなんて……!お前と手を組んで良かった……‼︎」

「まさか、ファンだったとは……」

 カツオ狩りから一夜明け、いつも通りに武器のメンテナンスとその用具を調達しにきた俺は、いつぞやにもらったチケットを渡したところ、ライトさんは思わぬ反応を見せていた。

 

「てか、お前アクセルハーツの子達とよくつるんでるらしいじゃねえか。羨ましいぞ!」

「きっかけは褒められたものじゃないですけどね……で、メンテナンスはまだです?」

「お、おう……そうだったな。……このサイズの使い心地はどうだ?」

 

 羨ましそうにするライトさんにメンテナンスを続けるように促すと、作業をしながら聞いてくる。

 

 うーん……

「折り畳みだから持ち運びしやすいんですけど、何というか普通の鎌より重いのが……あと、耐久性が少し心配かもです」

 

 

 分解して、取りきれなかった血糊などの汚れをとっていたライトさんはそれを聞いて。

「まあ、折り畳みの分仕込まなきゃならないものが多くなるからそこは勘弁してくれや。

 

 ………あと、重さと耐久性と複雑さはトレードオフだ。軽い素材を使えば耐久性が心配になるし、耐久性を求めるなら当然重くなる…中に複雑な機構を組めばデリケートにもなったりしてな………まあ、それはおいおい考えて行くとして……」

 

そう呟いているうちに、武器の調整を終わらせたので代金を払おうとすると、手袋のようなものを渡された。

 

「今度はこれ使って感想を聞かせてくれよ。新しい商品の試作品だ」

「指抜きグローブ?手の甲あたりに石がついてるけど……これはなんです?俺、盗賊として手袋は一応持ってるんですけど…」

 何に使うのかが読めなかったので答えを聞く。

「その石は魔法石だ。言ってみればグローブ型のワンドってことだな」

「へー……ワンドがなくてもフルで魔法が撃てるし、指抜きならつけてても蒸れないしいいかも……分かりました、使ってみますよ」

「おう……あと、なんならアクセルハーツの子達にウチの武器を…」

「まあ……機会があれば」

 

 ライトさんの意外な一面を垣間見つつ、俺は鍛冶屋を出て街へと向かった。

 

 

「アクセルハーツ……悪い奴らじゃないんだが……」

 ギルドへ向かう道すがら、俺はあの3人のことを思い出す。

 

 数日前の大根芝居から始まったこの奇妙な関係。

 

 美少女達に囲まれて順風満帆に冒険できることはかなりの贅沢なのだが………

 

 一緒に虫と鳥を退治しに行ったり、カツオに追いかけ回されたり……。

 

「何というか、関わると妙なことばかり起こるからな……」

 

 アクアさん達と普段冒険しているカズマさんの苦労が少し分かったような気がしつつも、ギルドに行くと………。

 

 

「丁度いい所に!マトイさんに指名依頼がやってきていますよ?」

 

 今度は受付のお姉さんが、妙な事を言い出した。

 

 

 

「護衛クエストで、依頼人は……アクセルハーツ?なんたって一体……」

 

 ギルドのカウンターで内容を聞いた俺は、その内容に首を傾げていた。

「少し前に小劇場でコンサートをしていた時、熱狂的なファンに困らされたらしいんです。なので、ボディーガードをやってほしいとの事です」

「はあ………でも、なんで俺に?実績で見ればカズマさん達の方が向いてると思うんですけど…」

 

 俺の今レベルは15。狂ったドルオタにもそうそう負けないだろうが、それでも強敵を相手にするにはまだ役不足だろう。

 

 意図がわからないでいる俺にお姉さんは紙を差し出して更にこう付け加える。

「恐らく、知り合いに頼みたいという事なんじゃないでしょうか……?

 兎に角、詳しい話はホームでするとの事なので、この地図に記された場所へ向かってみてください」

「………よくわかりませんが、一応聞くだけ聞いてみますよ」

「わかりました。それでは、よろしくお願いしますね」

 

 

 

 数日後。

 

 地図にあった場所はバイトでも見る場所だったので、迷うことなくたどり着いた。

 

「貸し家か……まあ、女子3人で家を買うとは考えにくいしな。怪しい奴も近くに張り込んでる気配もないしな」」

 

 そこは、小さめの庭がある1階建ての家で、その近くには民家がいくつか並んでいる……閑静な住宅街的な奴だ。

 

「ゆんゆんは……いいや、後で話せばなんとかなるだろ」

 パーティーメンバーでもないのに、貸切というわけにはいかない。

 

 いい加減パーティーを組んでゆんゆん離れをしようとおもいながら呼び鈴を鳴らすと、パタパタと足音が聞こえて。

 

「あら、ナギトじゃない。依頼を見て来てくれたのね」

 目がチカチカするほどの鮮やかなピンク色の髪をした美少女……エーリカが出迎えてくれた。

 

「一応聞くだけだからな?……起きてるのはエーリカだけか?」

「ボクも起きてますよ。リアちゃんは……まだ起きて来ませんね。今から起こしに…………いくのでついて来てください。

 

 リアちゃんに今の状態のまずさを知ってもらういい機会なので……」

「お邪魔しま………いや、ちょっと?俺、今から何を見せられるの?」

 

 シエロさんの言葉に多分の不安が残るが、とりあえず上がる為に靴を脱ごうとして……………その手を戻した。

 

 

「……靴でいいわよ?」

「あ、いや………落ちているゴミを拾おうと………」

 靴で家に上がる習慣ってないんだよな………。

   

 

 

 

「何これ」

 

 そこは、まさしく別世界だった。

 

「良かったぁ…ナギト君がそっち側だったらどうしようと思ってたけど、その反応なら安心だね」

「いや、これはさすがに………」

 

 ここに黒髪の美人が寝泊まりしていると言っても、たいてい信じてはもらえないだろう。

 

 脱いだ服は脱ぎっぱなし、箪笥は開きっぱなしで。

 

 

 お菓子を食べた殻はそこらに散らばり、マグカップやスープ皿には、残ったものが沈澱してすごいことになっていた。

 

 そして、その部屋に鎮座したベッドには、気持ちよさそうに眠る汚部屋の妖精………違った。リアさんが目を開いていた。

 

 

「んん………?シエロ、エーリカ……?」

 言葉を失っている俺の前にいたシエロが。

 

「おはよう、リアちゃん。ナギト君が依頼を受けに来てくれたよ?」

「え?いや、まだ受けると決めたわけじゃ……」

 

 シエロさんに反論しかけたが、目線に飛び込んできたリアさんに思わず目を逸らす。

 

 ノースリーブのシャツに短いスカートという無防備な姿をした年上のお姉さん、さらにはとてつもない美人となればこうなるのも無理はないだろう。

 

 無理はないからこそ……この汚ねえ部屋とのギャップがひどい。

 

 

 すると、寝ぼけ眼のリアさんが俺に気付いたようだ。

 

「ナギトも来てたのか…?おはよう…………。

 

 

 突っ立ってないで適当に座ってくれ」

「足の踏み場がないんですが……。

 

 うーん、リアさんはまともだと思ってたのに、まさかの片付けられないタイプか…」

 

 潔癖症という訳ではないが、流石にこの状態の部屋には座りたくない。

 

「あーあー…下着まで散らかってるし。洗濯物が少なかったわけね…」

「ふえ⁉︎し、下着は流石に恥ずかしい……な、ナギトは見ないでくれ!」

「恥じらう所もっとありません?」

 この汚さの前では下着などそうそう気にならな………まあ、それはもういいや。リアさんも覚醒したし話をしよう。

 

「指名依頼が来てたんで一応話を……「リアちゃん⁉︎食べかけのお菓子にありさんが集ってます⁉︎」

「……別にいいじゃないか。アリだって食べなきゃ生きていけないんだから…」

 

 シエロさんの悲鳴に、なんでもないように返す光景に頭が痛くなってくるんだが………いや、話を進めないと。

「沸く場所がおかしいことに気付いてくれ…で、何があったのかを詳しく……「ちょっと!この瓶の中の飲み物腐ってるわよ⁉︎道理で家の中が臭いと………いますぐ捨てて来なさい!」

 

 今度はエーリカがビンを指さして叫ぶと、リアさんは心外だと言わんばかりに……

 

「そんなに怒ることないだろ⁉︎

 

 大丈夫だ、次の休みには必ず掃除を……!」

「話が進まないから今すぐやるぞ!この際俺も手伝うから!」

 

 

 

 

 

 数時間後。

「まあ、なんということでしょう。ゴミの廃棄場のようだったリアのお部屋が、年相応の乙女のお部屋に、生まれ変わりました……!」

「ふぅ……まあ、こんな所だな。スイッチ入っちまった」

 

 汚部屋に耐えきれずに本腰を入れた結果、自分の部屋でもここまでしないレベルで掃除をしてしまった……!

 

「すごい……自分の部屋じゃないみたいだ!」

「いつもこうしろとは言わないから、せめて他人を招ける程度の綺麗さは保ってくれよ?」

 そうしてピカピカになった部屋を見て、リアさんが驚きの声を上げる。

 

「こんなに綺麗に掃除できるなんて……!ナギト君、ちゃんと賃金は払うから定期的に掃除を……」

「本当!ついでにアタシ達の部屋も……!」

「俺は清掃員じゃないって…………それで、例の依頼についての話を……」

 

 俺はクエストについて話を聞きに来たのであって、掃除をする為にここへ来たわけじゃないのだ………んおッ⁉︎

 

 

「ナギト‼︎コン次郎を何処にしまったんだ⁉︎」

 突然リアさんが詰め寄って来るが、どうやらあのぬいぐるみの件のようだ。

 

「アレならもみ洗いした後、外に………って!折角片付けたのにまた散乱させんな!」

 

 結局話を聞けたのは、再び散らかしたリアさんを2人に預け、また片付けをした後の事だった。

 

 

 

「成る程……粘着気質のファンがいるから用心棒をやってほしいと……」

「そうなんだ。特にシエロに粘着していて……」

 

 客間で話を聞かされた俺は、シエロさんに目を向けると。

 

「はい。こんな感じの……」

 手渡された似顔絵らしきイラストを見ると、そこには丸々太ったおっさんのイラストが書かれていた。

 

「ドルオタか?しかもスーツ………これ、その後プロポーズとかしそうだよな。それか、なんらかの恨みを抱かれているとか………」

 俺の推測にシエロさんがビクッとする。

「………おい?まさか、そのファンをぶん殴ったとかじゃ」

「ち、違いますよ!

 手が出たにしても別のファンですし、それについてはちゃんと謝りました。

 しかも、それを反省して今は握手会の時は薄い手袋を50枚ほど付けてるんですから…」

「そこまでするほどの男性恐怖症が……?でも、そうなると怨恨の線は薄そうですけど、一応警察に話をしたほうがいいですよね。何かあったら遅すぎるぜ?」

「そうよね……けど、次の公演は今夜なのよ。今日相談してすぐに警察が動いてくれるとは限らないでしょ?」

「だから……暫くは君の力を貸してほしいんだ」

 そう頭を下げるリアさんに続いて2人も頭を下げて来た。

 

 ここまで聞いた上に、こんな事をされたら流石に断りづらいよな……我ながらちょろいが仕方ない。

 

「分かった。ゆんゆんにも声をかけてみますよ」

 

 そうして、俺はゆんゆんを呼びに宿へと向かうのであった。

 

 

 その日の夜、小劇場にて。

 

「……ゆんゆんはソロでレベリングに行ってて、声をかけることができませんでした。なので、今日は俺1人です」

「分かった。君だけでも来てくれてありがたいよ。一応、私達も警察官を何人か派遣してもらえることになったけど……それでも数日後になるらしいんだよね…」

 

 ゆんゆん不在のため、劇場スタッフの制服を借りた俺は1人、踊り子姿の3人と舞台裏にいた。

 

 今日は他の踊り子も何組か踊るので、そこで例のファンの姿を確認するためだ。

 

「………いた!あの緑のスーツ着たおっさんか」

「そうです。間違いありません」

 そして、劇場の最前列の席には、そのおっさんが………踊り子を前に狂喜乱舞している。

 

「……本当にシエロさんだけに執着してるのか?他の踊り子にもご執心みたいですが…」

「どうやら、踊り子が好きだけど、その中でも特にシエロが……って事じゃないかな……エーリカ?どうしたの?」

 たしかに、エーリカがやけに静かだと思っていたが、答えは意外なものだった。

「ねえ、あそこにいるのって魔剣の勇者じゃない?ほら、あそこに女の子2人連れてるの……」

「本当ですね……警察が呼んでくれたのかな?」

「いや、でもアイツは王都の方で活躍してるはず。ただの野暮用じゃ……」

 例のファンから少し離れた所に、王都で活躍していると新聞にも書いてあった凄腕冒険者の1人、「魔剣の勇者 ミツルギ」がいたのだ。

 

「何にせよ、もしかしたら助けてくれるかもしれない。後で声をかけてみよう」

 リアさんが客席へ行こうとしたがそれを止めた。

「そこまで待つ必要はないですよ。アイツの連れ……1人は盗賊と見た。だったら……敵感知を持ってるはずだ。敵意を向けて誘き寄せれば……」

「いますぐにでも話ができるってわけね!それじゃあ……」

 

 と、エーリカが何かをやろうとしたその時。

 

「それでは最後のユニット……アクセルハーツの皆さんです!」

 

 タイムリミット……アクセルハーツが公演をやる番が来てしまっていた。

 

 

 

 

「みなさん、こんばんはー!アクセルハーツでーす!」

 

 

 アクセルハーツがステージを始める後ろで、俺は早速敵意を向ける前に周囲を確認する。

 

「同じ盗賊は……いないか。なら、敵意を向けたら他のやつまで釣れることは無さそうだな………」

 

 もしかしたら別のやつが釣れるかもしれないけど、それならそいつも巻き込めばいいとして、敵意を向けようとしたその時。

 

 

「ねえキミ?こんなところで何してんのさ」

「……………師匠⁉︎」

 同じスタッフの制服を着たクリスさんが、俺の背後に立っていた。

 

 

「アクセルハーツの用心棒ね……君もなかなか面白いことになってるじゃんか」

「そんなこと言われても……ところで師匠こそどうしてここに?そんな男物の服着ちゃって…よく似合ってますよ?」

 

 舞台裏で久々の再会を果たした俺達は、声を潜めて話をしていた………雑音がステージに入らないようにと言う配慮だな。

「ちょっと神器の匂いがしたんだ。……でもまさかここで会うなんてね。あと、服について後でお話ししようか?」

「だって、あまりに自然だったから……それより神器って、こんな小さな劇場に?」

「………埒が開かないから話を戻すけど、おそらく今ステージにいる黒髪の子が持ってるんだと思うな……もう一つは、魔剣の勇者が持つあの魔剣だもん」

 おそらくアレはチートアイテムだと思うんだけど……って、あのピアニカが神器⁉︎

「アレ、ただのリズムメーカーだと思ってたけど、神器だったのか。………でも、アレがほしいのならダメですよ。アレはアクセルハーツにとっては大事な機材なんですから」

「だよねえ……それに、よくない噂があるわけでもないし、下手に盗むのも可哀想か……ねえ、アレの代わりに何か作ってあげることは」

「出来ませんよ。編集ソフトもパソコンもないんですし…」

 

 クリスさんが首を傾げているが、俺としてはその前の言葉の方が気になっていた。

 

 魔剣……つまりチートアイテムが神器扱いされるってことは、逆に言えばあのピアニカもどきがチートアイテムと言うことも出来る。

 

 チートアイテムは所有者本人にしか使えないはずだし、やっぱりリアさんは日本人なのだろうか。

 

 でも、それならなぜ日本人らしい動作を見せなかったのだろう?

 

 ひょっとしたら、転生するときに記憶を持っていかれたのか………

 

 

 と、考察に入り出したその時。

 

「キャッ⁉︎ちょっと、やめて下さい!」

 

 シエロさんの困ったような声がした。

 

 

 

 

 クリスさんと互いに頷き、慌ててその場へと向かうと。

 

 

「何故だ!俺はシエロの握手券付きのグッズを買ったんだぞ⁉︎

 

 こんな手袋越しでは無く、素肌に触れる権利がある筈だ!」

 

 例のおっさんが、チケットを片手に文句を言い出していた。

 

 

「はいはい、そこまでそこまで!」

「すいませんお客様。握手券の裏面に注意書きがありますので……!」

 師匠がさりげなく両者の間に入り、俺が離れるように促すも。

「うるさい!さあ、シエロちゃ〜ん。僕と握手を……」

 それを押しのけたおっさんがシエロさんの腕をガッと掴んだ。

 

 そうなると勿論………

「い、いやあああああああ⁉︎」

「ふべらっ⁉︎」

 全力の右ストレートがおっさんに突き刺さり、おっさんが吹っ飛んでいった!

 

「お、お客様あああっ⁉︎シエロさん、ストップ!」

「ちょ、ちょっとキミ⁉︎落ち着いて…」

「寄らないでええええ⁉︎」

 一応スタッフなのでシエロさんを落ち着けようとするが、パニックになったシエロさんのアッパーカットが俺たちに飛んでくる。

「「ゴファ⁉︎」」

「あ、えーと……3人ともごめんなさい!大丈夫ですか……?

 

 

 

 あの、ボク…男性恐怖症で、男の人に触られるとこうなっちゃうんです。だから……こう言うことはできないんです!

 

 だけど……どうか、僕たちのことを嫌いにならないでほしいんです!」

 

 地味に男扱いされていじけている師匠を慰めていると、そのおっさんは怒るかと思いきや………突然笑い出した。

 

「ファンの私にこんな暴力を振るうなんて…………いい!いいよ、シエロちゃん!僕、さらに気に入っちゃった‼︎」

 

 息を荒げ、頬を好調させながらそんな事を言い出すおっさんは、まるで獲物を前にした変質者のようだった。

 

「うわぁ……この人ドMなの?」

「エーリカ!人にはそれぞれ趣味が……」

 

 後ろでエーリカとリアさんがヒソヒソやっていたが……突然、その声が止んだ。

 

 いや、これを前にしたら止めずにはいられまい。

 

 何故なら………

 

 

「コイツ、トロール⁉︎………モンスターが擬態していたのか⁉︎」

 

 その体が緑色に変化し、頭からはツノが生えて………大きな鬼の姿になっていったからだ。

 

 

「トロールなんて呼ばないでくれ!俺にはチャーリーという名前があるんだ………それより俺、シエロちゃん連れて行ってお嫁さんにする………!

 

 シエロは、俺のものだああああ‼︎」

 

 

 そして、突然モンスターが現れたとなっては、その場にいた人々は悲鳴をあげて逃げ惑い始めた。

 

 

「最後の最後で台無しじゃないの‼︎アクセルハーツ、余計なことしてくれたわね⁉︎」

 他の踊り子達が何か言ったが、それを聞きつけたチャーリーがその踊り子達をまえに舌なめずりして。

 

「安心しろ。ついでにお前達も連れて行く。そして愛でてやるのだ……いでよ!手下達。他の踊り子達を捕らえるのだ!」

 

 トロールやゴブリンを呼び出して、そいつらは踊り子達を追いかけ始めた。

 

「ど、どどど、どうするのさ⁉︎こんな大群、アタシ達だけで止められないよ!お客さんの避難も済ませないといけないし……!」

「そうは言ったって、俺たちしかいないんだからやるしかないですよ、」師匠!」

 この場にある戦力は俺、師匠にアクセルハーツの3人。

 

 シエロさんを下手に動かしてその場にチャーリーを行かせるのは不味いから彼女はここで固定だとして……ダメだ、4人でチャーリーとその配下を止めつつ、客と他の踊り子達を守るのなんて不可能に等しい。

 

「ナギト!これを……それで、私たちはどうすればいいんだ⁉︎」

「アタシ達が原因だもの!全力で止めるわ!」

「ナギト君!指示を!」

 

……全く、なんでいつもこんなんばっかり……!

「とりあえず、師匠とエーリカ、リアさんは客と他の踊り子達を守ってあげて下さい!

 シエロさんはみんなに支援魔法を掛けて、あとは自衛!

 

 俺はコイツと……」

 

 マントと得物を着けながら、半ばヤケクソ気味に指示を出し、とにかく迎撃しないとと考えていた俺の隣に、1人の男が並んだ。

 

 

 

 

 

 

「キミ達だけで勝てる相手じゃないだろう?

 

 ボク達も力を貸すよ。さあ、一緒に戦おう!」

 

 ソイツは、俺より一回り背が高く、高級そうな鎧に身を包んだかなりのイケメンで。

 

 取り巻きに盗賊とランサーの女の子を連れた………

 

「魔剣の勇者………気づいてくれたか!」

「何ィ⁉︎あの魔剣の勇者一行までここに来ていたのか……モンスターをもっと連れてくるべきだったな…」

 

 ミツルギ御一行がそれぞれの武器を構えて助けに来てくれた。

 

「踊り子好きのトロール、チャーリー!このボクと仲間達が居合わせたことがお前の運の尽きだ!」

……いきなり出てきて主役ヅラを始めたのにはこの際目を瞑ってやろう。

 

「目的はチャーリーの撃退だけじゃねえ!客の避難と、踊り子達を捕まえに行ったモンスター達も……!」

 とりあえず、簡単に状況を伝えるとミツルギは少し考えたあと。

「クレメアは人々の非難の誘導を頼む。それからフィオは踊り子達に襲いかかってるモンスターを退治してあげてくれ。ボクはチャーリーを倒す!」

「わかったわ、キョウヤ!」

「任せてキョウヤ!」

 と、盗賊「クレメア」にランサー「フィオ」の2人に指示を出していた。

 

 それなら………作戦変更だ。

「俺がコレの支援をやるから、師匠は盗賊と一緒に非難誘導をお願いします!アクセルハーツの3人はランサーと一緒に他のモンスター達を!」

 シエロさんを動かして、そちらに行きたいチャーリーを俺とミツルギで足止めする。

 そうすれば、早く捕まえに行きたいと言う焦りを誘えるかもしれない……!

「了解したよ弟子君!」

「分かった!」

「任せなさい!」

「うん!」

「こ、コレって……まあ、今はこの状況をなんとかするのが先か…」

 

 そうして各々が行動を開始して、チャーリーは当然シエロさんを追いかけようとするが。

 

「逃さねえぜ……『ウインド・バレット』‼︎」

 

 足元を狙い撃ってその動きを止めてやると、チャーリーは斧を片手にこちらに殺気を向けてきた。

 

「グッ……ええい、小癪な!俺の邪魔をしやがって。許さんぞ!」

「それはこちらのセリフだ!……行くぞ!我が魔剣の力を受けてみよ!」

 それに呼応するように魔剣を構えるミツルギが駆け出したのを皮切りに劇場の中での競り合いが始まった。

 

 

「パワータイプの撃ち合いは、やっぱり迫力あるなぁ……」

 

 

「ぬぅん!流石は魔剣の勇者だ……俺の武器がズタズタではないか」

「そっちこそ、僕のグラムを前にここまで耐え切るとは中々の業物を使ってるようだな」

 

 ミツルギとチャーリーの撃ち合いは、正しくパワーとパワーのぶつかり合いと言わんばかりのものであったが、武器の性能の差か、ミツルギの方が優勢だった。

 

「武器の強さを差し引いても、やっぱり王都で活躍してるだけあって、とんでもねえ強さだ……あんな力押しでやれるんだもんな」

 どちらもバニルと比べるとテクニックは微妙だが、パワーならダクネスさんのそれを若干ながら上回っている。

 

 

 そんな状況を不利と悟ったチャーリーは突然ニヤリと笑い。

「だが……お前がそれほど強くても、お前の仲間達はどうかな?

 

 言っておくが、俺の配下はヤワではないぞ」

 

 そんなハッタリじみた事を………おい、あいつ乗りやがったぞ⁉︎

「隙ありィ!お前の仲間たちは善戦しているぞ……グオッ⁉︎」

 よそ見をしたミツルギを、チャーリーが斧で仕留めに行こうと………!

「隙だらけのお前が言うなよ!魔剣さんも乗せられないで下さい!」

 

 仕方ないので、斧を振り下ろそうとしたチャーリーの脇腹を鎌で横薙ぎに斬り払うと、脇を押さえたチャーリーがこちらを血走った目で睨みつけた。

 

「ぐう………貴様、いつの間に懐に……!」

「悪いな!バレないように忍び込むのは得意技なんでね!……『ウインドブレス』!」

 片手で斧を振り下ろそうとしたので、下がりながら地面に散らばっていた小さな破片を風で目に飛ばしてやった。

「グアッ⁉︎……ええい、ガラスの粉や砂利を飛ばして目潰しとは、この卑怯者めが!」

 目を押さえているうちに後ろに下がると、ミツルギはスキルでも使ったのか、魔剣を輝かせていた。

 

「今度は釣られないで下さいよ!」

「す、すまない………助かったよ。あとはボクに任せてくれ!」

 

 そして、チャーリーが目線を上げた所でミツルギはその剣で横払いを放った!

 

「『ルーン・オブ・セイバー』ッッ‼︎」

 その一撃はノロノロと立ち上がったチャーリーを両断せんと迫ってはいたものの、最後っ屁と言えばいいのか、斧を囮にして回避した。

 

 

「ぐぅ……ここまでやるとは。ここは部が悪いな。手下どもは……」

 

 どうやら捕まえた踊り子達だけでもお持ち帰りしようと後ろに視線を向けるが。

 

「弟子君!お客さんの避難が完了したよ!ここからはアタシ達も!」

 

「キョウヤ!踊り子達も全員開放したし、手下のモンスター達も片付けたわ!」

 

「ナギト!私たちも手を貸すよ………大事な劇場をこんなにメチャクチャにして、絶対に赦さないから!」

 

 他のもそれぞれの仕事を終えて、こっちに助太刀に来てくれていた。

 

「チャーリー!これでお前は終わりだ!」

 ミツルギの言う通り、8対1では流石に勝ち目はないと悟ったチャーリーは。

 

「………しょうがない。今日のところは引くとしよう。だが……俺は必ずシエロをものにして見せるぞ!

 

『テレポート』‼︎」

 

 

 テレポートで逃げ出し、この戦闘の終わりを告げた。

 

 

 

 その戦いから一夜明けて。

 

「分かりました。では、我々の方でもチャーリーの行方を捜索しますので、アクセルハーツの皆さんも注意してください」

「はい、よろしくお願いします……」

 

 チャーリー一行が暴れ回り、劇場の中で大乱闘が起こった事でセナさんを筆頭とした警察官達が現地調査を行い、その場で戦っていたメンツはそれぞれ事後処理に奔走していた。

 

「……にしても、結果としては劇場の客席とステージの崩壊だけで、怪我人は1人もなし、か……」

「まあ、劇場とあの子達への評判はガタ落ちだろうけどね……でも、アタシ達にお金を請求しないらしいしいいじゃない」

 

 俺と師匠、ミツルギ一行は劇場の掃除と復興に駆り出され、アクセルハーツの面々は今回の事件を招いた一端として他の出演者達への謝罪周りだ。

 

「ボク達も信用回復のために色々話を回すけど………アクセルハーツはしばらく活動休止だろうね」

「被害者と言っても、全く控えないって言うのは無理だろうしな。………こりゃ、しばらくはあの3人に付き合ってクエストやることになりそうだ」

 

 ミツルギに頷き返し、再び作業に取り掛かった俺は。

 

 

 これがただの始まりにしか過ぎないことを知る由もなかった。

 

 

 

 

 その夜。

「マグロ、無くなったの⁉︎」

「ああ……カズマんとこの爆裂娘が吹っ飛ばしやがったんだ。

これで来年からは初マグロはなしだな。楽しみにしてたのによ………」

 

 俺達が劇場の修理に奔走している間に例のマグロが襲来していたらしく、その燦々たる結果を他の冒険者達から聞かされていた。

 

「そうか……それは残念だなあ」

「お前、カツオの件で参加したくないとか言ってたよな?嬉しそうな顔しやがって……」

「何のことかわからんなあ?さて、カズマさん達のところへ行くとするか」

 まあ実際、修理に加えてマグロ討伐なんて勘弁して欲しいので嬉しいのは確かだな。

 そうして何か騒いでいる4人組に話しかけようとしたその時。

 

 

 

「………‼︎」

バンとドアが開かれ、そこには同じく姿が見えなかった奴が。

 

「ゆんゆん……?でも、アイツこんな派手な登場するかな⁉︎

 

 ちょ、ちょっと引っ張らないでくれよ、怖いって!」

 

 違和感を覚えたが、それを口にする前にゆんゆんに手を引かれ、カズマさんたちの元へと連れて行かれた。

 

「ゆんゆんにナギトじゃないか。一体何があった?」

「さあ?俺は知りませんが……」

 

 カズマさんと共に首を傾げていると、やがてゆんゆんが。

 

 

 

「カズマさん!

 

 

 

 

 私………カズマさんの子供が欲しい‼︎」

 

 

 顔を真っ赤にして、とんでもない事を言い出した!

 

「………喜んで!」

「「おい」」

 

 ついでに、めぐみんとリアクションが被った。

 




いかがでしたか?

今回で第2章が終わるので、10話終了時点でのナギトの人間関係とスキル等を整理します。

冒険者 マトイナギト 男
職業 盗賊 レベル15 所有スキルポイント 7
スキル
チート関連
・追風 ・突風
・ウィンド・バレット
・ルミノス・ウィンド
・並行詠唱

盗賊スキル
・潜伏
・敵感知
・窃盗
・罠探知

その他
・片手剣
・ウィンド・ブレス

人間関係
ゆんゆん→先輩兼仲間。そろそろ頼りきりじゃダメだよな……⇔この町でははじめてのお友達で、同い年の冒険仲間。そろそろパーティーに誘いたいな……。

ライト→馴染みの鍛冶屋。ドルオタだった事にびっくり。⇔馴染みの冒険者。はじめての顧客。

カズマ→先輩。苦労人ポジションというシンパシーを感じているがスケベ。⇔後輩転生者でゆんゆんの友達。アイツのチート、なんか地味だよな……。

めぐみん→ゆんゆんの友達で、チンピラ気質なロリっ子。カズマさんに目をかけているのでは?⇔ゆんゆんの数少ない友達。よからぬ事をしないかと密かに心配。

アクア、ダクネス →1章終了時と特に変化なし。

クリス→師匠。初対面時の悶着は特に気にしていない……?⇔弟子。胸を見られたのは許してるわけではない。

ウィズ→魔道具店の店長さん。ゆんゆんがよく通ってるよなーと言う認識。⇔お客さんの1人。ゆんゆんさんの知り合い?

バニル→何でお前復活してんだよ……。と頭を抱えている。尚、バニルは口にしないもののナギトが転生者ということに気づいている。⇔成金小僧の同類。なかなかにすばしっこい。

ミツルギ→チャーリー戦の時に共闘。パワータイプ。⇔サトウカズマと違っていきなり突っかかってきたりはしないまともな男。

リア→真面目なのにズボラな年上のお姉さん。実は転生者なのでは?と疑惑を持つ。⇔冒険でも掃除でも頼れる年下の男の子。

エーリカ→ぶりっ子だけど、意外とまとも……?⇔生意気な年下だと思っていたけど意外と強い……?

シエロ→男性恐怖症のボクっ娘。⇔年下なのに凄いなあと感心。


 今のところはこんな感じです。尚、この作中でのアクセルハーツはオリジナル版と違い、グッズは自分たちで作っています。


 そして、次回はいよいよ5巻のストーリーに入りますのでお楽しみに!

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