この素晴らしい世界に祝福を! このぼっち娘と冒険を! 作:暇人の鑑
今回はバトルの後に普通にスキルを覚えます。
不慮の事故で死んでしまった「纏 凪斗」.は天使さんに導かれ、チートスキルを携えて異世界へとやって来た。
そして、赤い目の魔法使い「ゆんゆん」とともに向かった冒険者ギルドにて、盗賊冒険者「マトイ ナギト」に生まれ変わる。
こうして多少の不安を抱えつつも、俺の異世界生活は幕を開けるのであった……!
翌朝。
「馬ってあったかいんだな……」
異世界に来て初めての夜を、馬と一緒に馬小屋で過ごした俺は、凍死から守ってくれた救いの神……お馬様の脇腹をさすっていた。
「にしても、金がない奴は冬でも夏でも馬小屋で寝泊まりするって……ほぼホームレスみたいなもんじゃんかよぉ…」
冒険者は今の時期こそ宿を借りているが、春や夏などは馬小屋で寝泊まりする人も少なくないらしい………なって早々こんなことを知りたくなかったが。冒険者は言ってみればただのフリーターで、この世界には労働基準法って言う労働者のための法律なんてない……そんな世知辛いのが現実だ。
しかも現在年下の女の子に借金をしていると言う情けなさのおまけ付きで………いっその事クズにでもなった方が楽なんじゃないだろうか。
因みに、まだ持ち物は換金していない。登録が終わり、ゆんゆんに街中を案内してもらっていたら質屋が閉店してしまったのだ。
「まあ、そのお陰で今日はゆっくりと売りに行けるな………はあ、さっさと行くか」
体を動かせるくらいには目が冴えたので、服についた藁を払った俺は、昨日の記憶を頼りに街へと向かうのであった。
「筆箱とシャーペン、教科書数冊で合わせて5000エリスか……ゆんゆんに1000エリス返すから4000エリスだとしても、1エリスが1円なら結構な額だよな」
リサイクルショップのような場所に持って行った俺は、昨日1000エリス紙幣4枚を片手に、ギルドへと向かいながら、質屋でのやりとりを思い出す。
「この世界にとっては日本のものは珍しいものみたいだったな」
日本でこんなものを売ったら1000円も行かないだろうが、この世界では使われてない素材のもので珍しいのか、貴重品として高く買ってくれた。
……まあ、体操服にジャージはまだ帰って来てないが、流石に女子が着たものを売り払うのはアウトな気もするので取っておく……のも何かダメだよな。でも、燃やすのは勿体無いし……。
と、考えていると昨日から水しか飲んでない体は空腹を訴えてきた。
「……ギルドの酒場でご飯食べよう」
兎も角、紙幣を持ってギルドへと急ぐ俺であった。
ギルドへの道中。
「なんかいい匂いが……って、串焼きか」
漂ってきた匂いに絆された俺が向かった先は、串焼きの屋台だった。
「あー、空腹に響く…値段も100エリスか。何本か買い食いするか」
肉が焼ける匂いに空腹は刺激され、ギルドまでもう我慢できないと屋台に向かおうとした時。
「…何やってるんだろ」
屋台にいた先客……いや、その後ろじっと見ている奴がいた。
いや、見覚えのある袋を持ってるから誰かは明白だけど。
「ゆんゆんも串焼きを買うのかな?」
多分、俺に体操服を返しに行く前の腹ごしらえだろうが、何故か店の前を行ったり来たりしていた。迷っているのか、或いは買い方がわからないのか……。
息を潜めて見守っていると、やがて意を決したように串焼きを3本程度購入。
そして、焼きたてらしい串焼きを幸せそうに頬張り始めた。
「……食事中に行くのは失礼だよな。別の場所に行こう」
さて、俺も飯食いに行かなきゃ。
「ロングソードにショートソード、はたまたダガー……どれも5000エリスからか…」
適当に朝食を済ませた後、俺は武器屋で唸っていた。
盗賊職に必要な道具や防具を揃えるのは無理だとしても、せめて武器は揃えておきたくて来たのだが。
「どれも高いなぁ…武器がないしクエストも難しいのしかないのなら、しばらくバイトするしかないか」
自分の予算では到底買えそうもない値段の武器たちを見て、思わずため息をついてしまう……いや、違うな。
木の剣やナイフなど、買える武器はあるのだが、それを買ってしまうともれなく残金がまずい事になるのだ。
「どうだい兄ちゃん!何か欲しい武器は…」
「お金貯めて出直します…」
どこかでバイトでも探すか…と、頭を下げながら武器屋から出て、今度こそ冒険者ギルドを目指して歩き始めたその時だった。
「ひったくりー!」
誰かの叫び声が聞こえ、その数秒後に誰かが俺の前を突っ切る。
「そんなぁ…」
それからさらに数秒後に被害者らしき女の人が項垂れていた。まあ、流石にあそこまで距離を離されたんじゃ、流石にもう追いつけないか。
いや、待てよ?
「いけるな……」
すでに習得していたスキルで、確か早くなるスキルが……あった。
「何を盗ったのかはしらないけど、人相が悪くて逃げてる奴を見つけりゃいいんだな…………」
兎に角俺はその泥棒が走った方向へ向かい走り出して、そのスキルを発動させた。
「『追風』!」
すると、後ろから前へと風が吹き、走るスピードが上がるのを感じながら走り続けていると、すぐにそれっぽい奴が見つかる。
「いた!」
顔を布で隠し、なにかを抱えながら走ってる男の背中が見えたので、その男を抜かした後に急ブレーキ。
息つく間も無く男の方を向いて、もう一つのスキルを発動させた。
「『突風』‼︎」
男に向けて駆け出した瞬間、ミサイルのような勢いとなる。
「何だ⁉てめえは「食らえ‼︎」
男が避けようとするのも許さずに、拳を突き刺したのだが。
「『バインド』‼︎………あ、ちょっとキミ⁉︎」
「え⁉︎うわぁっ⁉︎」
男が倒れたことで標的が変更されたのか、誰かの放ったロープで拘束されてしまうのであった。
数分後。
「いやー、ごめんね?まさかあたし以外にあの泥棒を懲らしめようとした人がいたとは思わなくて……」
男がお巡りさんに引っ張られていった後、ようやくロープによる拘束が解けた俺は、ロープを放った女冒険者に連れられて酒場にやってきていた。
「いやー、偶々ですよ。偶々……。にしても、さっきのバインドってスキルって、もしかして職業は盗賊だったりしますか?」
聞きたいことがあったので質問しながら、奢りとして差し出された赤い液体を口に運んで……ん?これって⁉︎
「ブハッ⁉︎」
「だ、大丈夫⁉︎もしかして飲めない?」
「はい、恥ずかしながら……」
差し出された液体はお酒だったらしく、その妙な味に思わず吹き出してしまった。
お酒を飲んだのは初めてだけど、こんなに苦いのか…。
「なんか、本当にごめんね……すいません、この人にジュースを。後、さっきの質問は当たり。アタシはクリス、盗賊職の冒険者さ」
口元を拭っていた俺にジュースを奢ってくれたその冒険者は、どうやらクリスと言うらしい。
「いいえ。こっちこそ……僕はナギトです。14歳で、昨日冒険者になったばかりですが職業は盗賊です」
「お、ならあたしの方がお姉さんってわけだ。アタシは15だからね」
俺より一つ上なのに俺が吹き出した赤い液体と同じヤツを美味しそうに飲んでるのか…。大人として認められる年齢が日本より早いのかもしれないな。
「でも、盗賊に必要なものや、スキルの覚え方も分からなくて……さっきだって、それを知りたくて武器屋に行った帰りだったんです」
すると、クリスさんはなるほどねと一つ頷いて。
「なるほどね……。それじゃあ、ここで会ったのも何かの縁!折角だしこのクリスさんが盗賊について色々と教えてあげよう!」
と、願ってもない提案をしてくれた。もちろん断る理由もない。
「本当ですか、ありがとうございますクリスさん!」
「じゃあ、このクリムゾンビアーを飲んだら教えてあげるよ!…………まあ、君のジュースが来ないとこれ飲み干しても意味ないから、もう一杯頼むけど、それでもいい?」
「は、はい……」
こうして、いくらか不安は残るものの、クリスさんに盗賊について色々教えてもらうことになった。
冒険者ギルドの裏手の広場。
「さて。今から教えるわけだけど……そもそも、盗賊に必要なスキルは冒険者カードの現在習得可能なスキルってところから覚えればいいんだけど……君、スキルポイントは今いくつ?」
「5ポイントですね」
「まあ、まだレベル1だしね…」
どうやら、レベル1でも5以上のスキルポイントがある人もいるらしい。
「なら、あたしがお勧めするスキルをいくつか教えてあげるよ。まずは《敵感知》。これは、敵意を感じ取ることができるようになるスキルさ」
そう言われてカードを見ると、確かに習得可能スキルの欄に《敵感知》と言うスキルがあった。消費ポイントは1。
やり方は……
「スキルの文字をなぞって、タッチすればいいよ」
「はい………よし、これでいいかな」
言われた通りにすると、体が淡く光った。
「ここに敵意を出せる人やモンスターがいないけど、敵意を感じるとピリッとするからね。そして次は……《潜伏》!」
そうして光が止んだと思ったら、叫び声と共にクリスさんはなぜかそこからいなくなっていた。
「あれ?いなくなっちゃったのかな」
あたりを見渡しても誰もいないが、これがさっき聞こえた「潜伏」なのだろうか。
にしても……
「やっぱり女ってよくわかんないんだよな……13歳のゆんゆんはすごいスタイルよかったのに、さっきのクリスさんは俺より年上なのに、男と言われても分からない……」
なんかピリッとした……あそこにいるな。
敵感知に反応があったので向いてみると、そこにはジト目のクリスさんが。
「キミ、敵感知を試したいのはわかるけど、いきなりセクハラとはいい度胸だね……。兎も角、今のが《潜伏》。姿を隠すことはできるけど、《敵感知》のスキルとは互いの効果を打ち消し合っちゃうのと、アンデッドには効き目がないから注意してね」
先ほどやった、潜伏している相手の悪口を言って敵意を向けさせて、敵感知で見つける方法もいけそうだな。
スキルの運用法について考えていると、気を取り直すようにクリスさんは。
「そして、今度があたしのイチオシスキルな《窃盗》だよ。これは、相手からランダムに一つものを奪い取るのさ。こういう風に……」
そう言って近くを歩いていた猫に手を向けて。
「『スティール』!」
叫んだと同時にクリスさんの右手が輝き、思わず目を瞑る。
そして目を開くと、クリスさんの手には猫がつけていた首輪が。
「こんな風にね……あっ、ちょ!待って、首輪は返すから引っ掻いてこないで!」
クリスさんが猫に逆襲されている間に、《窃盗》スキルを覚えていると、首輪をつけ直された猫はどこかへさっていく。
「うぅ……なんとかつけることができたよ。さて、今度は君があたしにやってみなよ」
それを見ていると、クリスさんが悪戯っぽい笑みを浮かべながらなかなか挑戦的な提案をしてきた。
「え?でも、ひょっとしたら…」
「大丈夫大丈夫!
前にひどい目に遭った時の反省として、とられても良いものを何個か持ち歩いてるし。それにあたしは自慢じゃないけど運がいいからね。そうそう高価なものは取られないさ」
運が良ければ酷い目に合わない気もするけど……まあ、本人もそういうなら良いよね?
俺の幸運値は普通だし。
「さあ!いつでもどうぞ?」
折角色々教えてくれたんだし、あんまり変なものを取らないようにしないとな……。
「それじゃあ行きますよ………『スティール』ッ‼︎」
そんなことを考えながらスキルを発動させると、先程のクリスさんと同じように俺の右手が輝きを放った。
そして、右手には何かを掴んだような感触がある事から、とりあえず成功したらしい。
「でも、なんか薄っぺらいな。それに妙に生温かい……」
と、手に入れたものを見ようと、視線を上げると。
「………………」
「…………へ?」
そこには胸部あたりにあったはずの黒い布がない。
「……………⁉︎」
少しぽかんとした後、クリスさんが顔を真っ赤にしながら条件反射的に胸元を手で抑えて蹲る。
それを見て俺は慌てて手の中にあるものを見ると。
「アンラッキースケベかよ、畜生おおおおおおおお‼︎」
手の中にあった黒い布を絶叫と共に地面へ叩き落とした。
「ちょっとキミ⁉︎なんて事してくれるのさ‼︎しかもアンラッキーってどういう事⁉︎」
「だ、だだだ、だって取れたんだから仕方ないじゃん!それに、こんな変な事態に巻き込まれてるんだからアンラッキーで良いじゃん‼︎と言うかそもそも、着てなくても認識されるほどでも……」
「言うに事欠いてよくも言ってくれたね⁉︎いや、それよりも………
早く、それをあたしに渡してあっち向いててよおおおおおお‼︎」
こうして俺は盗賊スキルを覚えた代わりに、クリスさんへと酒を奢り、また呑まされる羽目になった。
いかがでしたか?
今回は盗賊スキルという事でクリスさんに教えてもらいましたが、カズマさんを超えてみました。
次回はゆんゆんと一緒に初クエストにしようと考えてますのでよろしくお願いします。
それでは、お楽しみに!