余録・特務、情報整理
Side~八神はやて
エクリプス感染被害者トーマ=アヴェニールの確保より、感染治療研究を進める目処が立った為、現状の整理を兼ねて、現段階の関連事件の状態を纏める事にする。
先ず、私達にとっては始まりの一件と言えなくも無い高町速人等によるCW襲撃事件。
遺体がなかったため行方不明扱いだが、失血量は現場に残されたものだけでも成人男性の3割に相当する量が確認されている。
衣類が吸い込んだ量、移動時等も考えると、生存率はほぼゼロ。仮に助かっていても戦力としてみる必要は無いと予測される。
現時点で手配されている元エメラルドスイーツの一団の内、前衛として無敵に近い戦力が削れているのはありがたいが…個人的には幼馴染が死亡していると言うのは望みたくない話である。
襲撃されるCWの方を当然見過ごしたつもりは無いが、どうやらヒーローを語っていた事を社の人間も知っていたようで、悪い噂がつかないようにと調査に協力的な姿勢を見せてくれた。それでも違法要素や危険因子が見つけられなかった為、調査はかえって彼らの立場を悪化させるものとなった。
一つ分からないとすれば、あの高町速人を瀕死に追い込める人間…否、存在の想像がつかないという事。まして、護衛の為に配置している人間やセキュリティシステムに、ゆりかごを抜けるような化物をとめられる程のものは存在していなかった(当たり前だが)。
つまり…誰の犯行かが不明。
リライヴの魔力反応も確認されているが、彼女が裏切ったとすると、回収する理由が見当たらない。
魔導師素体として攫うなら、インターミドル競技者級で十分。殺すのも生け捕りも高町速人を相手取るより余程確実だ。
次にフォート=トレイア。
彼自身は高町一尉を倒すのに余力を使い果たしたらしく倒れてしまったが、治療及びフェアレ=アートの調査に必要な情報についてフォートから開示許可が出たらしく、彼のデバイス、リベリオンからいくらかの情報を受け取る事ができた。
アート一家が家ごと消されたこの一件、焼け跡から両親の物と思われる骨や体の一部は発見されたにも関わらず、フェアレ=アートのもののみ何一つ発見されていない事を知って調査。
アンチエクリプスが絡んでいるとエクリプス関連の施設を襲撃、シグナム一尉を庇ったのと同様、死者など出ないほうがいいと被験者をついでに救出し、エクリプスに関連する情報を集めていたらしい。
フォートが被害者フェアレ=アートの写真を所持していたため、大分過去のものではあるが骨格などを照合してみた所、改造された女性と同一人物の可能性が高い事が判明。
断定できないのは、5年前の写真である事と、頭の半分以上を切り開かれるようにして取り付けられた機械と、機械周辺の傷などのせい。
片目すら失いケーブルが突き刺さっているあの状態では、仮に救出できてもどこまで治療が出来るかは不明だ。
関連して、フェアレと思われる少女を連れていた紫色の髪の少年と恥ずかしい着物の少女。
追跡した一世界跨いだ先でシグナムが見たものは、多段転送魔法の反応だった。
高速移動魔法でも、障害物の間を縫うように経路を設定できたりするが、世界間転移術式にそれを組み込むとなると相当な技量だ。
普通に追ったシグナムがそこまで複雑な転移先を追いきれるはずもなく、その後の彼女達の行方は不明…目的と同様に。
実地で実験するにもフッケバイン相手に管理局と交戦中に試す必要があったかははなはだ謎ではある。
なら実験自体は終わっていてフッケバインの逮捕を手伝いに来た?
そう予測するにはあまりに引き際が良すぎる。怨恨で捨て身覚悟なら飛空挺が墜ちたかも確認せずにさっさと逃げるなんて事は理に合わない。
フォート自身の話に戻す。
見事に高町一尉を倒してしまったため、爆弾のような味方の管理をせざるを得なくなった。
口約束に書類も何も無いとか言い訳かまして約束破れば…まぁもっと悲惨な事になるだろう。新参の純粋な子供達からの私達の評価も含めて。
とはいえ、戦力としては一級品に迫る彼がこっちについてくれるのはありがたい。
こっちとしてもプラスだし、彼一人で施設や組織と戦わせておけばそのうち死なせてしまう。目の届く範囲にいてくれたほうがマシではあった。
フォートの保護者さんからも死なせないよう頼まれているし、市民やその家族を護るのが仕事だ。彼自身が市民というにはどうにも無理があるけれど。
やたらと高性能な万能デバイス、リベリオン。
そのコアはなんとフォート本人と同化しているらしい。
融合機も細胞を以って生成できる以上、生体をコアとする事も出来るんだろうけど…とんだ技術だ。
なんでも、武装を押収されないようにとの事で、フォート自身の承諾の元組み込まれたそうだ。確かにこれでは捕まえても取り上げられない。まさか人体実験まがいの事を無許可でするわけにもいかないし。
性能については大体マリエル技官とシグナムの考察が当たっているようで、入力データに沿って可変するシステムを持つとのことで、第五世代デバイスに近い魔力結合阻害対策が施されている。
また、本人と融合している関係で、『フォート本人の生体データ』も所持、常に更新しているため、多少身体が切れたり穴があいたりしても、肉の代わり、あるいは元となる成分を展開、自然治癒にあわせて同化させる事で結構な怪我を治せるらしい。
目のような器官は難しいが、細胞の加減を繰り返している部位なら脳ですら多少のダメージなら治るとか。
違法研究チックだが、余程の事でも無い限り武具を失わずに活動できるという点では考えられたシステムだ。
フッケバインと堕天使。
不明慮な活動をしている中、殺人他の犯罪を繰り返していると言う事くらいしか分かっていないフッケバイン。
堕天使リライヴがそれを追っているのは当然殺人を行う彼らを止める為だろうが…彼らの殺害や星の被害をまるで躊躇っていない点は少し気がかりだ。
私達管理局と敵対するのはありえるとして…個人的見解になるが、高町速人を裏切り、人殺しに走るとは思えない。
だが、姿は変身魔法や身体変化で調整できても、無色の魔力光やあの戦闘力はそうそう真似できないはずだ。イノセントを所持していない点も気がかりだが、薬物を自分で調達、中毒症状を負うような真似をするわけが無いので、一度何者かに捕縛された際に押収もしくは破壊されたと予想は出来る。
フッケバインを追う以上、無視できない案件として堕天使逮捕も請け負う事になるだろう。
…問題は、同時に鉢合わせになったときの対処だ。
対応をその場で決めるのも結構だが、今回のように同時に相手にしようとして両方取り逃がす羽目になる事態に陥るのも避けたいが、どっちも放っておけば何をしだすか分からない危険因子。異常な戦闘力含めて扱いが難しい。
最後に…トーマ=アヴェニールについて。
仲間入りまでは望んでいないものの、フッケバイン一味に恩義を感じているようで、親戚の話をするように彼らの事を説明していた。
一応犯罪と聞いて抵抗はあるものの、フォートのこれまでの行動にも救済の意が含まれていたため拒絶のそぶりをみせていないあたり、人が救われる事を尊びつつ自分を助けてくれた者全てに恩義を感じるようだ。
飛空挺フッケバインに一時捕まっていた時仲間に誘われていたらしく、私達がフッケバインより正当性が無いと判断された場合、トーマが自分から進んで彼らに下る可能性もある為、細心の注意が必要である。
「…ふぅ…っ…」
現状を纏めて一息吐く。
書類の山を片付けるのも会議もデスクワークも慣れとるけど、事件状況そのものがこれだけ混沌としとるのは珍しい。
第一に、関連団体の戦力。
フッケバインや堕天使みたいな、管理局の特務隊と渡り合える化物は、普通部隊単位でいくつも存在しない。
犯罪集団を形成するトップの一人二人が並じゃない実力者って事なら珍しくも無いけど、フッケバインの連中は誰も彼も特務と余裕で渡り合える戦力の上で感染者って言う厄介極まりない一団だし、堕天使に関しては今更何を言うでもなく脅威極まりない。
第二に、関わってる団体数。
管理局、フッケバイン、3人組、速人達…それに関連があると睨んでるヴァンデインやCW社なんかも含めれば相当な数になる。それらの下請けやオマケみたいなのまでかんがえるとごちゃごちゃになる事間違いない。
「厄介極まりないな…」
整理すればするだけ滅茶苦茶な状況が浮き彫りになるだけで溜息一つ。
元々私が受け持つ事件は難事件が多い上、今回はゆりかご撃墜メンバーが全員集められる…集める許可が管理局から出るような強敵相手。厄介なのは分かりきっているけど…
こうも頭が重いのは、やっぱり速人君やリライヴちゃんのせいなんだろう。
全く…いてもいなくても問題ばっかり起こす人やなホント。
Side~高町なのは
叩きつけられて水没って言うのはどうしたって肉体へのダメージになるため、入院って程でもないけど念のために検査を受ける羽目になった私は、病室で拳を握った。
年端も行かない才能不足の少年相手に気合で押し切られるなんて猛省する結果。
そんな結果にも関わらず、反省だけが心を占めている…訳じゃない所が、フォートが実力差を覆した現実を喜びそうな自分が一番いけないとつくづく思う。
そんなタイミングなのに、丁度届いた荷物は余計に拙い気持ちを思い起こさせるものだった。
実家からのディスクレター。
速人お兄ちゃんが手配された事、それを追いかねない部隊に配属になるタイミングで少しばかり寂しくなって送った実家への連絡の返事。
暇なんてそうそうないし、折角検査結果待ちの為今の内に見ておこうと映像を再生する。
大分年が進んでるはずなのにそれを感じさせない笑顔のお母さんとお父さんが映る。
『大変な事態になったとは思うが、お前も公務員としてありたい形があるのなら、ちゃんとそれに殉じるんだぞ。』
重傷を負ってでも護るべき者を護ろうとしたお父さん。
仕事、と言うだけの話じゃない。仕事で護衛を任された要人さん本人でなく、その娘さんをも護ろうとした結果の重傷だったんだから。
ありたい形。
護り救うための制圧の力を扱う魔導師。
夢や願いに手を伸ばすための術を伝える教導官。
私がここにいる訳。
何がどうなっても、忘れないし、忘れちゃいけないもの。
『その上での話だが…信じろ。おそらくあいつらは大丈夫だ、恭也から何の連絡もないからな。』
「あ…」
自信満々に親指を立て、笑顔で言ってみせるお父さん。
言われて見て、よく考える。
ただ罪科を重ねるなにかになるなら、移動手段を失って危険に陥ってるなら、恭也お兄ちゃんが何もしない訳がない。
恭也お兄ちゃんにも何かあった可能性もなくはないけど…エメラルドスイーツは『引き払って』もぬけの殻になっていた。って事は少なくとも魔法で一撃。なんて真似は誰もしてないはずだ。そして、生身なら…負ける訳がない。
『孫はヴィヴィオが見れたからいいとしても、花嫁姿をすっとばしてだし、ちゃんと式に呼んでよね。』
「あぅ…」
検査待ちの身なのにずっこけた。
何処から伝わったのか、向こうにいる間からバレバレだったのか、楽しそうに言うお母さんに、正直会いづらい。
『何?花嫁?いやまぁ確かにそろそろ、だがそれなら美由希が』
『こうなると長いから…それじゃまた、お仕事頑張ってね。』
頭を抱えて俯いたお父さんを横目に画面に笑顔で手を振ったお母さんの姿を最後に、映像は終わった。
ちょっとした忠告もあったけど、そんなに重苦しくもない明るい空気に、沈んだ気分が癒える。
そう言えば…お姉ちゃんいなかったな。
地球も『忙しい』のかな…世界は何処も大変だ。
SIDE OUT
整理話のつもりなのですが…どれだけややこしい事態になってるのかと(汗)