記録十・遭遇乱戦
Side~アルナージ
人助け。なんて台詞を言う身分でもねーけど、世界を憎む身ながら世直しなんて言って動くうち等としては、街中にエクリプスばら撒こうなんて連中も、その煽りを受ける被害者が出回るのも気に食わない話だった。
さっさと身柄を押さえられるならそれに越した事はねぇ。
そう思って、この間の『仕事』でカレン姉が拾った情報から、第14世界無人世界移住調査地区に急いだが…
捕捉できるか出来ないか位まで来て、丁度エクリプスウイルスが放たれた。
町に落ちたら、適合者でもない限り誰一人助からない。
ちょっとの苛立ちを感じながら、犯人どもをさっさと捕らえようと思い…
「待て。」
ヴェイ兄に静止された。
けど、静止されるまでもなく、あたしも気付いていた。
空に放たれ、町に向かって降っていたはずのウイルスの雨が、空で全て消えた。
見えた…かどうかも分からない。
銃撃手のあたしがこんな事いいたかないけど…『弾より早い誰か』が、空のウイルスを根こそぎ受けていった。
静まり返った空、動いていた光が静止する。
漆黒の衣装を覆うように、その身体に不釣合いにすら見える大きくはためく水色のマントと二つ結びの長い髪。
アイツは…ついこの間見た…
「ヒーロー代行レヴィ=ザ=スラッシャー、参上っ!!蒼に焼かれたい奴からかかってこーいっ!!!」
こないだ写真で見たばっかの、馬鹿偽善者の所にいるはずのお子様が、まだ大分離れているはずなのに聞こえるくらいによく通る声で叫んだ。
Side~レヴィ
「大丈夫?バルニフィカス。」
『問題ありません。』
治療や対策にデータが必要だからってことでデバイス、バルニフィカスで受ける形でエクリプスウイルスを回収したんだけど、特に問題はないみたいで安心だ。
デバイスよりボク本体の方が危ないって言えば危ないけど、一応防護服も展開してたし、真人間じゃないから多分大丈夫。
後は…これをばら撒いた感染者だ。
一年前…
引きずられるようにしてディアーチェにつれられて家を出てしばらくして、いきなり聞かされた話が、ボクは理解できなかった。
だって…そんな…
マスターが仕事で失敗して生死不明のまんま手配されたって…そんな話…
「嘘だ…」
「レヴィ…」
「嘘だ嘘だ嘘だっ!!」
ボクは頭を振って叫んだ。
だって、マスターはヒーローなんだ。危なくたって皆助けて、そうやってボクたちだって…
パンッ。
乾いた音と、しびれるような熱さが同時に来て、ようやくボクは頬をはたかれた事に気がついた。
「ディアーチェ…止めてください。」
「何?だが…」
ボクを叩いたのはディアーチェらしく、シュテルがそれを軽く止めていた。
止められたディアーチェが驚いてシュテルを見る。その様子で、ボクはようやく気付いた。
一番ショックなのは、マスターを好きなシュテルなんだって。
滅多な事で気持ちの動きを強くは見せないシュテルが、握り拳を震わせるくらいに握って、何かを我慢してた。
怒りたいのか泣きたいのか分からないけれど…少なくとも、そんなシュテルを前にボクが叫んでいるわけにも行かなかった。
「…連絡をすぐにつけるのも良いが、折角ユーリたちとも離れておるのだ、このまま別働隊としてエクリプス関連の情報収集に当たるか。」
「そうですね。私達は最悪、ユーリさえ無事なら再構築も可能ですし、ユーリには恭也が着いています。そうそう問題もないでしょう。マスターの無事が確認できるまでに動きやすいようにしておきましょう。」
ディアーチェとシュテルがこの後の事を話す中、ボクは自分のやることを考えてみた。
マスターの無事が確認できるまでに…ボクは…
「…マスターが動くまで、ボクがマスターの代わりになる。」
これが出来ないと、ボクの今までが全部無駄になっちゃうような、そんな気がした。
「貴様…」
険しい表情でボクに迫ろうとしたディアーチェを、片手で制するシュテル。
「一人でも確実に、では無く…全て救える身足ろうとした結果、マスターでも上手くやりきれなかった。代わりを勤めようと言うのが、どういう事か承知の上で…ですか?」
マスターが名乗ってたヒーロー。現実にいる筈もなれる筈もない者。
分かってる。
ユーリを助けた時だってそうだ、助けられるから助けた訳じゃない、助けるのが夢物語の筈のユーリの夢を叶えてみせたんだ。
「シュテルやディアーチェは、きっと現実の問題を解決してくれるでしょ?だったらボクはきっと、その外をどうにかできないと駄目だと思うんだ。」
それは、これまでボクがやってきた事。
色々考えて組んでるシュテルがうらやましいとまで言ってくれた、マスターの望みを叶えられる可能性を持つ戦い方。
それが、ただ滅茶苦茶な終わるのか、本当にマスターの望みに近い形になるのか、きっとここで決まる。
「それに、マスターと一緒に見てたテレビ、マスターを除いたら一番好きなのきっとボクだから。何とかなるっ!」
マスターがなろうと参考にしていた夢物語に一番詳しいのはボクだから。
「…やれやれ、不安の種はつきんな全く。」
「…ディアーチェ、笑っていますが?」
「気のせいだ。…レヴィ!」
シュテルのツッコミに笑顔のまんまで答えたディアーチェは、真っ直ぐボクを見る。
「そこまで言うならやってみろ、後始末は我とシュテルで引き受けてやる。」
「…うんっ!ありがとう王様!!」
嬉しくなってつい王様と返してしまうと、ディアーチェは照れたように視線を逸らした。
それから、当然ながらボク達も手配…でもないけど、重要参考人扱いされてる身だから、派手な事はして回れない…のに、ボクが危なそうなところに首を突っ込むものだから、たびたびシュテルやディアーチェを巻き込んで…でも、二人とも、マスターが一番喜んでくれるのはきっとボクがしてる事だって言ってくれた。
外側が黒かったマントは、マスターが真紅だったから、色一色が基本の変身シリーズから願掛けで、ボクもマントをアクアブルー一色に変えた。
そうして一年。
フェイト達も動き出した以上、ボク達もそこまで控えていられない。
細かい指針はディアーチェとシュテルが決めているから知らないけど、ボクにとっては、町を殲滅しようとする感染者達を見つけたってだけでする事は十分だった。
『5分お願いします、無茶はしないように。』
『任せて!』
町に張って、送還魔法の発動まで防御を固めてくれているシュテルに念話を返して、ボクは町から離れた丘を見る。
二人の男…感染者の姿が見えた。
「いっくぞー…成敗っ!!!」
高速移動。
一瞬で距離を詰め、バルニフィカスを振りぬく。
「ちょっ!?問答無用は勘弁じゃねーの!!」
慌てながら受け止めるバンダナ男。
む、ボクの斬撃をとめるのか、さすが感染者。
「んだよこのクソガキ!」
傍にいたイレズミのでっかいのがボクに向かって銃剣を向ける。
射撃を回避しながら滑り込むように懐に入って…
「とうっ!」
移動しながらの肘鉄。
お腹にめり込むように当たってそのまま顔面に追撃が出来る…筈だったんだけど…
何か変な感触がした。
「は…がぁ…」
頭の上からすっごい苦しそうな声が聞こえる。
あぁそっか。身長差のせいで急所に入っちゃったのか。
ま、顔は下がったし結果オーライだ。
「感染者のクセにこんなの痛がるな!」
町一つ滅ぼそうとしてたのもあってちょっと怒ったボクは、そのまま顔面に向かって、雷撃を湛えた掌を叩き込んだ。
爆雷掌。
変換した雷撃を思いっきり湛えた掌を直撃したイレズミ男は、顔から煙を吹いて後ろに崩れ落ちた。
よし、あと一…
「りっ?」
何か突然、身体を拘束された。
視線を移すと、ボクに向かって拘束術を発動しているボロボロの女の子の姿が…
「一人で頑張ったけど…これでおしまいじゃねーの。」
「お…」
バンダナの男の腕がなんか変な感じになって、めきめきと音を立てていた。
おぉ強そう、避けなきゃ…って…
今拘束されてるんだったー!!!
直後、その腕が振りぬかれるのと同時にボクは思いっきり吹っ飛んだ。
Side~ディーゴ
殺人衝動も晴らせないまま乱入してきたガキによって結構なダメージを負わされた俺は、痺れで回らない頭でどうにか立ち上がる。
「感染者ったって今のは痛いんじゃねーの。大丈夫?旦那。」
「っ…ぐ…んなんだあのガキは!」
苛立ちを晴らすために地面を一蹴り。
その後で、傍にいたフィフスに視線を移す。
「テメェこら!あんでもっとさっさと捕らえやがらねぇ!何か恨みでもあんのか!ええ!?」
コイツがとっととあのガキを拘束してりゃ喰らわなくていいダメージを大分食わされた。
頭にきた俺はフィフスの頭を掴んで地面に叩きつける。
「あー…旦那?正直そりゃ誰でも恨むんじゃねーの?」
「るっせぇ!くそっ…」
魔導師の筈だ。
感染者対策か単に変換資質による攻撃だからディバイドが利き辛かったのかわからねぇが、リアクト前とはいえまともにダメージを通して来る事自体おかしい。
化物め…っ!
「あのガキ確実に殺す!リアクトだ、早くしろ!」
フィフスの頭を引っつかんでリアクトさせる。
腕部強化装備、クロムグリート。
確実にトドメをさしておくためにリアクトしたが…
「てめェらに用があるのはガキだけじゃねーんだよ!こっちに付き合って貰おうか!」
新手が、多量のミサイルをぶっ放してきた。
くそ…どいつもこいつも!
Side~ヴェイロン
吹っ飛んでいったガキの方も確保したかったが、偽者相手とはいえ感染者。こっちも二人の今、二対一は薦められたものじゃない。
俺はアルと共に、バンダナとイレズミの元に来た。
案の定、アルのぶち込んだミサイルの雨によって燃え盛る丘の上、平然と立つ二人組。
「アル、お前はバンダナの方をやれ。」
「オッケー!」
アルに軽そうなバンダナの方を任せて、俺はイレズミの方を潰す事にした。
腕に派手な強化装備を纏ってはいるが…
「やろぉ!!」
開いた右手を伸ばして掴み掛かってくるイレズミ。
おそらくは俺のアームグラブ同様、掴む距離で使用する武装なんだろうが…
左手で組み合うようにして掴んで全力で力を込めると、イレズミのマシンアームが鈍い音を立てて罅割れる。
「く…っ!?」
…弱ぇ。
いくら本物の感染者でないとはいえ、そもそも感染者でもなんでもねぇ特務の連中の方が遥かに強いくらいだ。
力の量どうこうってより、ただ感染しただけでコイツが弱ぇのか。
「ぐああぁ!!」
そのまま握りつぶすと、潰れた手を押さえるようにして蹲る。
…クソカスが。
「うるせぇ。」
仮にも感染者だろうにこんな程度で騒ぐ馬鹿を前にしているのが面倒になった俺は、頭に銃を向け…
「光翼斬ッ!!!」
蒼い円刃が、俺と男の間を裂くようにして割って入って来た。
構えた銃を下げてバックステップ。
と、着地したところで、既に目の前に立っているさっき遠目に見たガキ。
デタラメな速さだ。
「ボクがここにいる限り!誰一人だって死なせないからな!!」
俺たちの間に割って入ったガキは、よりにもよってエクリプス感染者同士の戦いに割って入ってそんな宣言をして見せた。
…ったく、最近は何だってこうバカガキばっかと会うんだ?
とはいえ、先に会った半人前共と違ってコイツはかなりヤバイ部類だ。
全力で潰す…か。
SIDE OUT
隣で爆撃、雷の音がする場所にいる町の人達、怖いってレベルじゃないでしょうね(汗)