記録十一・常世に救いがないのなら
Side~レヴィ
全部で四人。
感染者同士だと容赦ないっぽいから、ボクががんばって全部とめないといけない。
とりあえずは強そうなほうから。
「とうっ!」
「っち…」
新手の銃剣持ちに、大剣で斬りかかるもとめられる。
む…押し切れない、やっぱり強いな感染者。
「まとめてくたばりやがれぇ!!」
競り合ってる間に背後から機械の腕を構えて迫ってくるイレズミ男。
挟み撃ちになるのもゴメンだから、空に向かって跳躍。
「翔けろ!雷の剣!」
ボクが飛んだ結果、銃剣持ちは向かってきたイレズミ男を引き受けなきゃならなくて、防御する。
二人とも競り合って止まってる間に、雷の剣を放つ。
二人を囲むように周囲に突き刺さった剣。それを…
「雷神封殺縛滅剣!!!」
一斉に炸裂させた。
雷撃の音が空に森に響き渡る。
とりあえず、これで二人とも沈黙させられたと思うけど…
「っ!?」
気付くとミサイルがボクを包囲するように向かってきていた。
咄嗟に防御魔法を展開するも、全身が爆発に飲み込まれる。
「やりすぎなんだよテメェ!ガキだからって容赦しねぇぞ!」
女の子の声が聞こえてくる中、ボクは爆煙に包まれた中から全速力で飛び立った。
「雷神・疾風脚!!」
「いっ!?」
飛行加速の勢いをそのままに蹴りかかる突進蹴り。
馬鹿でかいミサイル郡の発射器具を手にしたままで避けられなかったのか、まともに受けた女の子はそのまま地面にめり込んだ。
と、バルニフィカスを握っていた右腕をつかまれた。
掴んだのは、さっきボクをふっとばしたバンダナの左手だった。
「感染者集団相手によく頑張ったんじゃねーの!」
そのままボクを引っ張りながら右拳を全力で振りぬいてくるバンダナ。
ボクは、その拳を左手で掴んだ。
すさまじい衝撃音が響く。タダでさえ強めの感染者だけど、能力が筋力強化らしくて物凄い力だった。
けど…ね。
「ボクは『力』のマテリアル…力比べでっ…負けるもんかああぁぁぁっ!!!」
魔力を身体能力を全開に変化した拳を掴んだ左手をそのまま全力で握りながら、右腕を引っ張る。
「ちょ、タ、タンマ…あだだだだぁ!!」
左手が何かを握りつぶすような感触を確かめる間もなく、無理矢理引き剥がした右腕に握ったバルニフィカスを全力で振りぬいた。
「どぶぁ!」
変な声を出して森の奥に消えるバンダナを見送った所で、背後から射撃音。
武器を振りぬいたまんまの体勢じゃかわせる訳も無くて、ボクは炸裂射撃の雨に呑まれた。
Side~ヴェイロン
殺傷攻撃ならマジで俺らまで殺されてたかもわからねぇ相手だったため、姉貴の希望にはそわねぇがフレシェット・シェルを殺す気でぶち込んでやった。
とんでもねぇガキ…いや、マテリアルとか口走ってやがったし、この間の局との戦闘の時にいたチビみてぇにただのガキじゃねぇんだろう。
「ち…きしょうがぁ!!」
さすがに無力化程度に加減された攻撃でそんなに長い間伸びてはいないのか、やかましい雑魚がこっちに向かってくる。
情報収集にはさっきふっとんだバンダナの方だけで十分だ、こっちは殺しとくか。
俺は左手でイレズミ雑魚の頭を掴んで…
飛来した魔力刃が、俺の腕を横から叩いて引き剥がした。
さすがに驚いて視線を移せば、全身から煙を立ち上らせ、多数の出血も見られるボロボロの有様でデバイスを振りぬいた青いガキの姿。
「マスターの代わり…なんだ…まだ…まだぁ!!」
叫んでかかってくる姿は、教会で見たあのガキの姿を思い起こさせる。
…どいつもこいつも!
周囲を炸裂射撃で覆う事で下手に移動させないため、俺は射撃を撒き散らすように打ちながら、ガキに向かって斬りかかった。
ボロボロの有様で大技や全力も繰り出してるにも関わらず、迫り合いになってまだ力負けしないガキ。
「この世界にゃ、神もいなけりゃ救いもねぇ。ヒーローだ?寝言も大概にしやがれ!」
迫り合いから左手を伸ばしてガキの頭に手を伸ばすが、右手を武器から放したガキは、俺の左手と組み合う。
片腕でも十分だと思い、ナパームファングを放とうとして…
「爆雷掌!!!」
火炎と燃料を放とうとしていた左腕に雷撃の魔力を流し込まれ、左腕が吹っ飛んだ。
「この…ガキ…」
「ま…だ…」
至近距離での爆発で吹っ飛んだのはガキの方も変わらず、木に背を預けて辛うじて立っている。
それでも左手だけで武器を放さず構えてやがった。
「ヴェイ兄!テメェよくも!!」
ようやくおきたらしいアルが、俺の状態に気付いてガキ一人殺すには過ぎたミサイルランチャーを取り出す。
が、やりすぎとは思わなかった。特務の連中と同じく、あるいはそれ以上にやばい相手だ。
捕らえられれば幸いだが、まだ何をするかわからねぇ。
直後、アルの武器からミサイル郡が放たれ…
「及第点ですレヴィ。」
同じくガキの声がしたと思った直後、放たれたミサイル郡が火炎誘導弾に撃ち抜かれて中途で爆散した。
アルの射撃を全部打ち落としたってのか…かなりの腕だ。
「ですが、戦闘の度これでは気が休まらないのでもう少し何とかしてください。」
爆煙が晴れると、青いガキを庇うようにして、炎を迸らせた黒い服のガキが静かにこっちを見据えて立っていた。
Side~シュテル
感染者4人相手に非殺傷で本当に持ちこたえるとは…普通に考えたら恐れ入る話だけれど、マスターの代わりを務めると言った以上、それくらいはこなして貰わないといけない。
「騒がせましたね。ですが、町の人々の転送は既に完了しましたので、私達もこれで失礼します。」
「逃がすと思ってんのか!」
言いつつ殲滅用の武器を私に向けてくる大きな胸の女性。
まともに相手をしてもいいけれど、それを避ける手立てはある。
「先ほどレヴィが吹き飛ばした男、目を覚まして逃げますよ?」
情報を引き出すためか殲滅か、両方か。フッケバインの偽者と呼ばれている彼らを、放置は出来ないはずだ。
そして、片腕が破壊されている男性の方が追跡に回る訳もない。
「テメ…」
「アル。」
「くそっ!ヴェイ兄無茶すんなよっ!!」
苦い顔をして、女性は胸を揺らして飛び立っていった。
アレだけあるとさすがにうらやま…今考える事ではない。
私は、無言でデバイスを構え…砲撃を放つ。
「ごばぁ!」
ヴェイと呼ばれた男性を狙って拳を構えていた往生際の悪いマシンアームの男性を撃ち抜いた。
「…助けたつもりか?」
「ええ、彼を。」
反撃する余力は十分あっただろう彼に正直に告げると、彼はつまらなそうに舌打ちした。
レヴィが折角身体を張ったのに、攻撃を仕掛けられれば彼は反撃で殺してしまうだろう。
それに、一人を彼らに任せたのだからもう一人は此方で拾わなければ情報が拾えない。
「どいつもこいつも…」
「神もいなければ救いもない、ですか?」
様子を伺うために集音、サーチャーによる視認で様子だけは見ていた為、多少の会話は聞けている。
無言で此方を睨んでくる彼を前に、私は分かりやすく溜息を吐いた。
「貴方が救いになればどうですか?」
あまりにも簡単な事だが、考えもしなかったのか彼は目を見開いて硬直した。
「苛立たしそうに救いがないとごねるくらいなら、それが手っ取り早いですよ。犯罪者になってもいい…なんて、大人嫌いの不良少年が陥りそうな勘違いですね。」
無論、一番大変な上、叶う保障などロクにない事だ。
けれど、妥協するならするで、その時点で苛立つ資格など無い。諦めたのは自分なのだから。
「…なんであれ、選ぶのは貴方です。マスターやレヴィが大変なので、出来れば加害者から救い手になってくれるといいのですけどね。」
「うるせぇよ。」
歯軋りをしながら私を睨み付けた彼は、そのまま残っていた右手で銃を放ってきた。
防御と同時に爆煙が辺りを包む中、私はレヴィと先程倒した男を拾ってこの場を離れた。
Side~ヴェイロン
防御ごとぶち破るつもりで放った一撃だったんだが、倒しきれたどころか防御すら破りきれなかった。
強い上に感染者対策も整えているらしい。
「ち…」
ナパームファング修理しないまま戦ったらやばかったかもしれねぇ。
あのガキの方もそれが分かってるから余裕の様相だったんだろうが…
しかも、あのうるせぇ雑魚もきっちり拾って逃げやがった。
リアクトプラグもくっついたままだったし、アルがバンダナ拾ってこれねぇと収穫が…
「あ?」
ふと見ると、一瞬見たリアクトプラグがへたりこんでこっちを見ていた。
最後、砲撃をぶち込んだ際に分離してたのに気付かなかったのか。
一応もって帰れば収穫にはなるんだろうが、面倒くせぇ…
『貴方が救いになればどうですか?』
イラつく台詞を思い出して、思わず目に力が入る。
睨むようになったせいか、ただでさえ怯え気味だったソレは、自分の身体を抱きすくめるようにして震えだす。
救いなんて、そんなものねぇ…いっそのこと吹っ飛ばしてやろうかとも考え…
「こっちは捕まえてきたよ。ヴェイ兄大丈夫?」
目標を捕らえたアルがちょうど顔を出した。
ぶっ飛ばす気分でもなくなって手近な場所に腰を下ろす。
『犯罪者になってもいい…なんて、大人嫌いの不良少年が陥りそうな勘違いですね。』
逮捕だ善悪だと語る特務の連中とも違って、嫌にイラつく台詞だ。
撃っても撃たなくてもストレスになりそうなあのクロチビの言葉を思い出して俺は舌打ちした。
Side~ディアーチェ
シュテルが連れ帰ってきたレヴィは、散々な有様だった。
胸部打撃で内臓と肋骨の数本を損傷しているわ、片腕は吹っ飛んでいるわ。
「全く…生身なら死んでるぞ馬鹿者。」
腕は通常プロセスではどうにもならん損傷なので、紫天の書のシステムを使って一部再構築をかける。
回復魔法や自然治癒で治る場合は、身体強化にも繋がるので出来る限り此方は使わないほうがいいのだがな…ユーリと離れている今、システム起動に必要な魔力を我の自前で用意せねばならんのも不便だ。
「なのは達にも簡単に抑えられない相手です、レヴィ一人で複数相手にした結果としては妥当でしょう。」
「ふん…周り中阿呆ばかりなのは今に始まった事ではない…か。」
確保した情報源を調査しながらレヴィのフォローをするシュテル。
情報隠蔽の為の後発洗脳術や自爆装置の確認なのだが…まだ続けている辺り、解除の必要がある代物が組み込まれていたようだ。
こんな現実の中、よくもヒーローになろうなどと口走れたものだ、速人もレヴィも。
「いずれにせよ、全ての世界を見張ると言うわけにも行かない以上、急がなければ。」
「うむ。」
シュテルの指摘に答えつつ、レヴィの処置を終えた我は場を離れ、結界にしまってある者達の元へ足を向ける。
「あ、あの…」
「そう怯えるな。管理局に任せる故、身の振り方は各自で考えておけ。」
町の代表らしい男が我の元に恐る恐るといった様子で顔を出すのに淡白に答える。
いきなり町の近辺でオーバーS級の乱闘を繰り広げられた挙句辺境に丸ごと呼ばれては無理もない反応だ。
「その為の映像をとる。一応人数や状況を把握させる為全員を集めて来い。」
「あ、は、はい。」
とりあえず法機関に任せると言う事で安心したのか、慌てた様子で動き出す代表。
その背を見ながら、栄養補給もかねてジュースを煽る。
エクリプス…か、次から次へと。いい加減に終わらせてくれる。
満身創痍のレヴィの姿と、どうにか護れた、集まって震えている女子供の姿を頭と目で同時に見据えながら、湧き出る怒りを以って手にしていた缶を握りつぶした。
SIDE OUT
壊死した部分は『人間』治らないらしいですが…そんなところで不死身近いメンバーの多いこと。純人間の方々、よくこんな所で戦えてますね(汗)。