なのは+『心のちから』   作:黒影翼

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記録十二・想いの見るもの

 

 

 

記録十二・想いの見るもの

 

 

 

Side~八神はやて

 

 

 

『…と、言う訳で移住調査地区の連中は我が送還術式を使って回収してやった。死なせたくなければ後は貴様らでなんとかしろ。』

 

住んでいた地から追い出される形で連れ出された結果不安げな人々の前でふんぞり返るディアーチェの映像が終わると、私はモニターを切って机に突っ伏した。

 

 

頭が痛い。

 

 

彼らを故郷に帰すのか、それとも一度狙われた地区に戻して警備でもつけるのか。

どっちにしても、無茶な救出の後始末を任されたわけで。

 

「死者が出んかったのは何よりやけどな。」

 

エクリプス関連の事件で『餌場』扱いされた地区は、大概ことごとく全滅するのが通例となりつつある。

私達のように感染者と戦えるような集団が、常にあちこちに…しかも辺境まで見張っている。なんて都合のいい事はないし、今回は襲撃事件の一例としては異例の結果や。

 

「ですが…彼女達も現時点で十二分に放置できない参考人です。」

「せや…な。」

 

報告に来てくれたティアナが厳しめに言葉を告げるのに同意する。

彼女の表情は言葉の割に暗い。私達にとっては幼馴染の仲である相手とあって、意図的に厳しく対応しつつも申し訳ない気持ちもあるんやろう。

 

けど、こうなるとこないだ会った堕天使とはまるで別行動中って事になる可能性も出てくる。

何処の連中にしても一人二人捕まえて情報欲しいところやな。

 

 

「ところで、模擬戦どうなった?」

 

 

空気を切り替えるつもりもあってわざわざ明るく問いを投げかけてみる。

すると、ティアナが苦笑いの表情で目を伏せた。

 

確か…フォート君と見習いトリオと組んで、隊長達四人と模擬戦するとか聞いてたけど…

 

「いや…その…皆頑張ったと思いますよ。」

 

すさまじくもったいぶった様相のティアナのおかげで余計興味が沸いたけど、むかし地獄の新兵訓練でボロボロになってたティアナが遠い目をしている為、聞くに聞けなかった。

とりあえず分かるのは、間違いなく皆思いっきり叩きのめされたんやろう。

 

 

デスクも気疲れとかあるけど、外も外で大変やなぁ…

 

 

 

Side~トーマ=アヴェニール

 

 

 

隊長格のなのはさん、フェイトさん、シグナム一尉、ヴィータ二尉相手に、見習い3人組にフォートが加わっての4対4。

 

 

 

とは…名ばかりのいじめだった。

 

 

 

いやまぁ、スゥちゃん達もこんな状況を繰り返して強くなったと聞いてるし、いじめってのは言いすぎ…と言うかその…俺たちが弱いのが悪いんだけど…

 

必死におきては戦ったものの、俺とリリィは真っ先にやられ、アイシスも次いで落とされた。

そして、一人でシグナム一尉と戦っていたフォートが次から次へと繰り出される連撃に落とされた。

 

…さっすが特務、普通の人間の要るところじゃないな。

素直にそう思いつつ、俺はこれからも頑張ろうと思った。

 

 

 

 

 

 

「これでおしまいかな?」

 

 

頑張ろうと思った、この日の模擬戦はこれで終わったんだ。

だから、俺はこの先なんて知らない、覚えてない。

 

 

 

「っ…だれ…がっ!」

 

 

 

知らない…フォートが立ち上がる姿も、笑顔でそれを見ていたなのはさんも…

 

 

 

 

 

 

「舐めんじゃねぇぞクソババァーッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

激昂と共に飛び立ったフォートが、無表情の女性達に叩き伏せられ、地面に頭から突き刺さって動かなくなった姿なんか…

 

 

俺は見ていない…ッ!見てないんだ…ッ!!

 

 

 

 

 

 

模擬戦が終わって、俺たち見習い組みは直立不動で整列する。

それをみながら、なのはさんは淡々と今回の模擬戦の総評をしていく。

最後に、咳払い一つして笑顔で俺を見た。

 

 

 

「後…トーマは、女の子相手には色々気を使おうね?」

「りょ…了解ですっ…」

 

 

 

いつも通りの笑顔で言われたけれど、俺は心臓が凍った気がした。

 

 

 

この人達には逆らうまい。

心の底からそう思った。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

「くそ…」

 

地獄の模擬戦が終わって食堂に来たあたしは、毒づいているフォートの所に顔を出した。

 

「大変だったとは思うけど、アレは自業自得だよ?女性相手に失礼な…」

 

あんな事を言われれば誰だって怒る。

特に、こう言っちゃ悪いけど、あたしやリリィみたいな年代の子供が丁度いるときにあんな台詞、色々気になり始める年代の人にとっては逆鱗をヤスリで擦るようなものだ。

 

「…そりゃ同感。」

 

フォートは、意外にも素直に頷いた。

反省しているっぽい様子を見ると、毒づいてた理由は4対1の公開処刑が原因じゃなかったらしい。

 

もしかして…手も足も出ずに負けて問題だとか思ってるんだろうか?

あの4人相手じゃ無理もないどころか抵抗するほうが無理だと思うんだけど。

 

「鍛えてくれた奴が、怒りを煽るような挑発ばっかしてくる奴だったからな…倒れてる俺たち相手に楽しそうなあの人達見てたらつい…な。」

 

ようは…クセと、売り言葉に買い言葉って奴だったらしい。

フォートの戦い様を見ている限り、追い詰めても追い詰めても抵抗するのはきっとその訓練のおかげなんだろうけど、口汚いのも含めて身体に染み付いてたのか。

 

そこで、少し気になってた事を思い出す。

 

 

「鍛えてくれてたのって、家族の誰か?」

 

 

具体例を出して聞いてみる。

 

あたしが実家の事もあってそうだったって言うのが一つ。

もう一つが…捜索願いを出されていた事を知って、呪詛のような声を漏らしていたフォートの姿。

 

でも、やっぱりあの憎んでるような声は嘘じゃなかったみたいで、一瞬でその表情が翳った。

 

「家の親は見事に挫折したからな、俺を鍛えるなんて無理な話だ。」

「挫折って…」

「大した才能なかったんだと。挙句魔法学についてけずに一般企業に就職、持ち家の返済に精を出してる立派なサラリーマンだ。」

 

さっぱりと言うフォート。

正直、魔法ほど才能がものを言う世界もない。

適性がなかったらまず夢すら見れず、勝負すらできないんだから。

それに、ちょっとの夢を見れば、上に上に先に先にと問題が山ほど。

初めから何も出来ないと宣告されるよりも、ある意味で辛いかもしれない経歴だ。

 

でも…

 

「立派だ、なんて思ってるんじゃん。」

「立ち直って仕事やってるからな、真面目に。ただ…」

 

そこで言いよどむフォート。

無理に聞き出すものではないんだろうけれど、気になっていたし、催促はしなくても話してくれそうだったから、続きを待った。

 

「俺もそうなると思ってるのか、フェアレが襲撃された後、『忘れろ』って…な。」

「あ…」

 

なんとなく分かった。

何年もたってるのに一人でエクリプス相手にして探すほど大切な人を、『忘れろ』なんて…聞ける筈がない。

 

 

 

Side~高町なのは

 

 

 

私は、先の模擬戦の映像を、睨むような表情で眺めていた。

 

「どーしたよ、気にしてっと余計に老けるぞ。」

 

と、ニヤニヤしながらヴィータちゃんが顔を出す。

時間切れ以来フォートをぶっ飛ばすって決めてたみたいだから少しは溜飲が下がってるんだろう。年に関してはヴィータちゃん関係ないし。

 

「気にしてないし、余計も何も老けてないから!」

「へいへい。それじゃ何が気になるんだ?」

 

少しむくれて返すと、本題に入るヴィータちゃん。さすがに、何かを真面目に気にしてる事は察してくれてたんだろう。

 

「…このまま、彼を戦わせてていいのかな…って。」

 

異常な研鑽を重ねて鍛えた、普通の力。

4人がかりで追い詰めても一切迷わず反応する彼。

全部が正しい対応ってわけじゃないけれど、思考に裂いて硬直する一瞬の方が危ないと考えているのか、あたりをつけてくるから、たまに尋常じゃない行動をする。

 

でも…そこまでやっても、普通の力なんだ。

 

いちかばちかの賭けは成功すればこの間私と戦った時のフォートのように、差を埋める材料にはなる。

なのに、普通の人が普段やらないのは…

 

 

賭けに失敗したら死ぬから。

 

 

訓練段階からそんな賭けを連発しなければならないほど地力が弱いんじゃ…

 

「フェアレとフォートの御両親、親友同士だったんだって。」

「…親友亡くしてその娘が行方不明の時に息子に家出されてりゃ、あの有様も過保護とは言えねぇな。」

 

苦い表情を見せるヴィータちゃん。

フォートの御両親とは、通信ではあるけれど、局に捜索願を出していた身として何度かはやてちゃん含め面識がある。

その時の様子がすがるような…厳しい人から見ると、ちょっと情けないような取り乱し方だった。

待つ側の強さ。私は、一切戦いに関わってないままでみんなを笑顔で送り出して、重傷で返ってきたお父さんにも手厚くついていたお母さんの姿でそれを知っているけれど…

 

普通はあれくらい乱れるものなんだと思うと、なんだかとても凄い事なんだって改めて尊敬する。

私だって平気でいようとしたってヴィヴィオが担架で運ばれるような事があったときには相応に肝を冷やしたから。

 

だから…

 

「フォート本人ってか、親御さんの心配って訳か?」

「うん…」

「そりゃ分からんでもねーけどな…」

 

呆れたように息を吐いたヴィータちゃん。

戦ってない身で過保護な御両親に好印象がないのかと思って…

 

「オメーが言っても説得力はねーな。」

 

全っ然別の、ぐうの音の一つも出ない話を持ち出されて硬直した。

 

9歳から戦闘、異界へ飛び立ち未だ凶悪事件担当。

あぁ…つくづく人の事言えない身なんだな私。

 

「でもやっぱり、家族には無事でいて欲しいよね。」

 

呟くように漏らしてしまった本音。

ヴィータちゃんは、静かに頷いてくれた。

 

「ディアーチェの奴があんなもの送ってくるくれーだ、きっとそろそろ尻尾掴めるさ。」

「…うん。」

 

映像と、『救われた人々』。

王様でありたいだけのはずのディアーチェにとって、速人お兄ちゃんの元を離れたなら、それは不要な事。だったら、まだ無事な筈。

 

証拠はないまま、根拠になりそうな事実を集めて、私は祈るような気分で頷いた。

 

 

 

Side~アイシス=イーグレット

 

 

 

「あいつ等、俺の心配なんかしてないんだよ。」

「さすがに言いすぎじゃ…」

「いや、むしろ過保護なくらいなんだけどな。」

 

話に聞く限り、過保護って言葉の方があっている。

にもかかわらず、心配していないなんて言うフォートの物言いをとがめようとしたけれど、そこは分かっているようだった。

 

矛盾してる発言だけど…

 

「心配してるのは身体、命。…約束を破って、フェアレを見捨てる事を選択した自分なんてものを生涯見続けなきゃならない俺の方を心配してないんだ。」

 

フォートは、そう言って自分の胸を指差した。

 

「『俺』は、生肉と骨じゃなくてコッチだ。身体が確実に生きながらえたとしても、アレコレ捨ててたら、結局俺は死ぬんだよ。」

 

強がりでも、駄々でもない。

ただ純粋に、本気でそう思ってる。

真っ直ぐに目を見て語るフォートにそれを感じた。

 

 

なんとなく、ストンと胸に落ちるものがあった。

 

イーグレットセキュリティサービス。

要人警護、現場警備のサービスを提供する、あたしの実家。

 

おかげで訓練やらなんやら、凶悪犯相手に戦闘要員が勤まっちゃうレベルだった訳で。

幼い頃から皆やってる家業の訓練をやらされて、実際の現場なんかでは『仕事』を優先するため、ほっとかれた事もあった。

怖かったし、頼りたかったけど…仕事なんだからしょうがないと『理解る』。

 

けど…それでも本当は…

 

何も間違ってない正解なんかより、『想って』欲しかったんだ。

 

 

 

『助けられる命を一つでも多く救う為に頑張るから、身内優先とかそういうのはないって。』

 

トーマが誇らしげに話していたスゥちゃんさんの話も、あたしは素直には納得できなかった。

 

分かってる、それが正しいんだってことは。でも…

 

フォートは正解で止まらない。

きっと自分であの幼馴染を助けるまで止まらない。

 

「だから…って、おい?どうかしたか?」

「へっ!?いや、なんでもないよ!うん!」

 

…不覚にも物思いが過ぎて、呆けていたらしい。

コッチをみて不思議そうな表情をするフォート相手に慌てて平静を装う。

 

「…長話が過ぎたな。とりあえず美人のお姉様方に詫びに回ってくる。」

「あ、うん。それじゃ。」

 

皮肉げに言いのこして席を立つフォートを見送って、あたしは胸に手をあてた。

 

…大丈夫大丈夫。気のせい気のせい。

 

今そんな時じゃないしね、うん。

 

 

 

SIDE OUT

 

 

 

 

 




同じ物事に関して話してても起こるズレは、その物事や関連事項の重要度が本人同士で違うって事がある気がします。
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